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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第3章

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小さな希望

 さて、本日二度目の拷問…ごほん!もとい、質問タイムを終了したところ分かったことは『面倒なことになった』ということだった。

 結論から言うと奇襲部隊は全員『赤い流星』の構成員だった。こいつらは特攻隊と名付けられた団に取って必要ない雑魚共を餌に近隣の討伐部隊を村に集めた後に隠密行動の得意な遊撃隊で夜襲を掛けて部隊を混乱、もしくは殲滅するのが仕事だったらしい。

 こうすることで追っ手の足を止め、あわよくば追跡自体を諦めさせると共に団の方針に不満を持つ迷惑な子分達を生き餌として消費していたらしい。

 

 これの何が面倒かというとこういった策を使える人材を『赤い流星』が所持していることが面倒なのである。盗賊団と言えばドズルのような馬鹿だけを想定していたのに、暴れるだけでなくその後のことまで考えた策を実行し団の質を維持するために不要な部品を最大限活用して捨てることが出来る頭脳があるというのは戦う上で面倒なことこの上ない。

 この方式を考えて実行できるまでにしたのはドズルからも聞いていたパジオンという参謀らしい。もし『赤い流星』とコトを構えるのであればこいつを最優先に始末しておきたいものである。

 

 唯一幸いだったのは奴らの隠密部隊である遊撃隊を今回一網打尽に出来たことだろう。こいつらを放置しておけば今後も要所要所で邪魔になったのは間違いない。本当に今回は桜ちゃん様々である。


「さすがにもう襲撃はないだろう。こいつらから聞き出した情報的にもあと自由に動けるのは各幹部の直属の兵以外では新入りだけらしいからな」

「と、言ってももう朝なんだよね…」


 既にうっすらと白み始めた空を見て思わず大きな欠伸が漏れる。今からここで休息を取るのもなんとなく違う気がする。


「仕方ない。今寝るのは諦めて討伐隊が来たら家に帰ってそれから休もう」

「はい、ご主人様」

「うん、じゃあシスティナは集会所の方で村の人達の様子を見てきて貰えるかな。今日領主の軍が到着することも伝えて貰って構わないからなるべく元気が出るように励ましてあげて」


 システィナは疲れを感じさせない笑顔ではいと頷くと集会所へ向かう。


「蛍さん、途中に繋ぎっぱなしになってる馬たちを回収してきて貰えるかな?出来れば討伐隊が到着したら早めに帰りたいし」

「ふむ、確かに一理あるな。いいだろう任せておけ」

「あ!ちょっと待って」


 蛍さんが馬を回収しに動き出す寸前に桜から待ったがかかる。


「それって桜が行ってもいい?」

「え?別に構わないけど…桜は馬に乗れないはずだけどいいの?」

「うん!来る途中で大体覚えたし、最悪併走して走ればいいしね」


 なにそのチート。騎乗技術を僅か数時間一緒に乗ってただけで覚えたのもそうだけど走る馬と一緒に併走するとか発想からおかしいでしょ。


「まあ、いいけどね…じゃあ桜よろしく頼む。あっ!と一応手紙を書くから…ミラさんが眠っている辺りの杭にでも結んでおいてくれるかな」

「うん…そうだね」


 桜を少しだけ待たせ、調達してきた紙とペンでミラのこと、盗賊団の情報、村の現状を簡単に書いて渡すと桜は大事そうに懐にしまう。


「じゃあ、行ってくるね。ソウ様は蛍ねぇに膝枕でもしてもらってゆっくりしてて」

「それいいな。是非にとお願いしてみるよ。桜も気をつけてな」


 はーいと元気に返事をした桜が姿を消すのを見届けてからまたこみ上げてきた欠伸を噛み殺す。


「ソウジロウ。なんなら本当に膝枕してやるぞ」

「ははっ、是非その誘惑に乗りたいところなんだけどなぁ…皆を働かせておいてそうもいかないよ。それにちょっと思いついたんだけど家の中に生き残りがいないかどうかの確認をしようと思うんだ。

 もし誰も見つからなくても家の中に遺体があれば、その運び出しもしようと思う。蛍さんも出来ればついてきて貰って気配察知で家のどっかに誰かが隠れてないか確認してくれると助かる」

「なるほど確かに賊が前提だったからな。小さな気配を探ればもしかしたら隠れ通した者がいるかもしれん」

「うん、小さい子とかを母親がむりやりどっかに押し込めて…とかありそうだからね。あと探索範囲に地下方向も加えておいて」


 地下の食料保存庫とかありがちな場所だから一応注意しておくにこしたことはない。

 



 結局重くなる瞼を意志の力で持ち上げながら焼け落ちた家も含めて十数件の家屋を全て見て回ったところやはりところどころに子供が隠れていた。何処の世界も我が子だけは助けたいという想いは同じなのだろう。

 見つかったのは女の子3名と男の子2名のいずれも3歳から5歳くらいまでの幼い子供だった。隠れていたのは丸一日くらいのはずだが光も差さないような場所に水も食料もないまま閉じ込められていた子供達は例外なく疲れ果てていた。 声を出すなとときつく言われていたのだろう涙の後があるにも関わらず助け出されたことを理解するまで一言も声を漏らさなかった。


 5人に簡単に事情を説明し集会所に連れて行くと生気のなかった女性陣の中から2人ほどが狂ったように飛び出してきて子供に抱きついてきた。泣きながら抱き合う二組の親子と生き残った女性陣の中に自分の母親を捜す3人の子供達の姿に無性にやるせない想いだけが溢れていたたまれなかった。

 だが、その様子を見ていた他の女性達が親を失った子供達を見て1人、また1人と生気を取り戻していったのである。

 その女性達は親を見つけられずに泣き出そうとする子供達を優しく皆で抱きしめていた。所詮は傷ついた者同士の傷の嘗め合いだという人もいるかもしれないが、俺はその光景を見てちょっと嬉しくなりとうとう少し涙をこぼしてしまった。


 そしてシスティナは子供達を見つけてきた俺達に何故か泣きながら感謝を述べていた。聞いてみると自分の力では身体の傷は治せても心が傷ついた女性達を立ち直らせることが出来なかったことが不甲斐なかったらしい。


「そんなことない。システィナは魔力が枯渇する寸前まで回復術を使って、少しでも元気が出るようにとなるべくおいしい料理を作って、時間の許す限り全員に話しかけていたよ」


 俺はそれだけ告げるとシスティナを自分の胸に抱き寄せた。


「そんなシスティナを悪く言う奴がいるならそいつらは悪人だ。例え助けたばかりの女性だって構うもんか。俺が斬り捨ててやる」


 そんな物騒な俺の言葉が聞こえた訳ではないだろうが、集会所にいた村人達がゆっくりとシスティナに近寄って来て一斉に頭を下げた。


「侍祭様……昨晩からの数々の行為に深くお礼を申し上げます。盗賊からの救出、傷の治療、食事の準備…そして話し相手まで。私たち一同我が身の不幸に希望を無くし、満足なお礼も言えず大変失礼いたしました。

 盗賊達に汚されてしまった私達ですが……ここにはまだこの子達がいます。

 侍祭様達が助けて下さった小さな未来です。私たちはこれから全員でこの子達を育てていこうと思います。本当にありがとうございました」

「っ!……わ、わたしは…」


 村人達に何かを言おうとするも感極まって言葉が出ないシスティナをよしよしと撫でてあげるとシスティナの代わりに俺が前に出る。


「こちらの侍祭の契約者のソウジロウと言います。この度はフレスベルクの領主より先行偵察の依頼を受け冒険者ギルドから派遣されてきました。

 出来る限り早くこちらに来たつもりですが皆さんだけを助けるのが精一杯でした。力不足を謝罪します。申し訳ありませんでした」


 そう言って小さく頭を下げる。これはおそらくシスティナが言いたかったであろうことを主として代弁してあげただけだ。

 俺としては今回の一件、最善いや最上の行動をしたと思っている。この依頼を受けたのが俺達でなければここにいる人達のほとんどが助かっていなかったと断言できる。

 だが、それでもシスティナは自分を責めてしまうだろうから、せめて気持ちだけは吐き出させてあげたかった。それが主としての責任というものだろう。


「とんでもありません!あなた達の命がけの行動でこれだけの者が助かったと…今ならきちんと理解できます。本当にありがとうございました」

「そうですか。そう思って頂けるなら私の侍祭も肩の荷を下ろすことができます。もう後数時間もすればフレスベルクから救助が来ます。さすがにしばらくはこの村を離れることになると思いますのでもし、元気があれば今のうちに準備をしておくといいかもしれません。

 持って行きたいものなどもそれぞれあると思いますから…」


 このまま討伐隊が来てしまうとおそらく何も持ち出せぬままフレスベルクへと連れて行かれるような気がする。多分手元の財産や着替え、家族や知り合いの形見などどうしても持って行きたい物もあるはず。それなら今のうちに準備しておいた方がいいだろう。


「…はい。確かにそうですね…この村は全員が家族のようなものでした。たくさんは持って行けないでしょうがこの子たちの為にも必要な物を少しでも持ち出そうと思います」


 そういうと女達は皆で話し合いを始め、三々五々にまだ無事な家屋へ向かっていく。目ぼしい財産などは既に盗賊達に持ち去られた後だろうが、金銭的価値がなくても大事な物はたくさんある。それらがこれからの彼女たちの支えになってくれるといい。


「ソウジロウ、見事だったぞ」

「はい。ご主人様は凄いです」


 そんな様子を眺めていた俺を2人がベタ褒めしてくれた。うん、それだけで頑張ってシリアスした甲斐があった。


「ソウ様~!ただいま~!」

「お、桜も戻って来たようじゃな」


 見事に馬を乗りこなしながら広場に入ってくる桜。くそ!本当に馬に乗れているじゃないか。これで馬に乗れないのは俺一人か。いや待てまだ1人可能性が。


「葵は馬に乗れる?」

『当り前ですわ!これでも武家の刀ですから!』


 くっ!マジで騎乗の練習しよう。そう心に決めた。


「ソウ様行って来たよ。手紙もちゃんと分かるように置いて来た」

「ありがとう桜。今回は本当に桜がいてくれてよかった。今回のお礼に1つなんでも言うこと聞くから何か考えておいて。欲しい物があれば多少高くても買ってあげるよ」

「え?ホント!ありがとうソウ様!じゃあなんか考えておくね。なんにしようかな~楽しみ」






 討伐隊が到着したのはそれから3時間後だった。

 隊長に事の次第を報告しギルドの依頼書にサインを貰う。隊長は偵察だけの予定だった俺達が倒した盗賊の数に驚きの声を上げ、生き残った村人がこれだけの数いることに喜んでいた。やはり村人の生存は絶望視されていたのか。


「冒険者ギルドというのは侮れないものなのだと理解したよ。セイラ様が支援したのは間違いじゃなかったということだな。

 これからも何かあればギルドに依頼をだすかもしれん。その時はまたよろしく頼む」

「はい。私達で良ければ手の空いている時は必ず受けさせてもらいますよ。どうしても私達をご希望の時は『指名依頼』という形態もありますので是非活用してください」


 さりげなく冒険者ギルドを売り込みつつ討伐達の隊長と握手を交わす。


「私達はパーティ名『新撰組』と言います。以後お見知りおきを」


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