奇襲
結局、従順になったドズルから聞き出した情報はこんな感じだった。
・盗賊団の名前は『赤い流星』である。
・頭目はシャアズ。
・副頭目にはメイザ、シャドゥラ、ディアゴの3人がいる。
・この4人はメイザが女だが実の兄弟。
・あとは参謀としてパジオンという男がいる。
・総数はよくは分からないが頭目が50名それぞれの幹部が20名程度を直属で使っている。
・後はこの特攻隊が20名、遊撃隊が20名、後は未所属の新兵が何十人かいる。
・本隊は東周りで北上する予定。
俺の脅しが良く効いたらしくぺらぺらとよく喋ってくれたが喋ってくれた内容はとんでもない内容だった
そのドズルは喋らせた後に足だけを治療し、システィナが肋骨を何本か持って行く一撃を加えたため泡を吹いて意識を失っている。これで半日は目を覚まさないだろう。討伐隊が来るまでおとなしくしていてくれるはずだ。
「ちょっと想定外だったね。どう思う?」
「もうこれは盗賊団とは言えないな。小さいながらもちゃんとした軍隊と言えるな」
「でも…どうやって200名近い部下を…」
システィナが首をかしげる。
「分からぬか?システィナ。その答えは嫌というほど目にしたはずだが?」
「え!………………………まさか!」
「そうだ。奴らはその軍隊のように組織だてた盗賊共を使ってここのように小規模な村や街を丸ごと獲物として各地を回っているんだろうよ」
蛍さんの推測はおそらく正しい。これだけの規模の盗賊の情報がフレスベルクにはほとんど届いていなかった。唯一それらしい情報は南からの物資がなかなか入ってこないというものだ。
つまりここより南に点在しているはずの小さい村や街は根こそぎ『赤い流星』の餌食になっていると考えられる。生き残りもいない程に徹底して奪い殺し尽くしたためにこれだけのことをしでかしているにも関わらず盗賊団の情報の伝達速度が異常に遅いのだろう。
「つまりこいつらは決まったアジトを持たずに常に移動しながら村を襲い、村の持っている物を根こそぎ奪い取っているってことか」
「だろうな。さすがにフレスベルクを襲うとは思えぬが…情報は流しておいてやる方がよいだろうな」
「うん。分かった。後続が来たら伝えておくよ。でもそうすると本隊はどこに…」
「東周りか…もしかするとパクリット山かもしれぬな」
「はい。確かにあそこは山が深いです。あそこなら200人近い人員が居てもしばらく潜めるかもしれません」
マジか!俺達の屋敷はパクリット山の麓にあるんだぞ。なんとかしないとゆっくりとくつろげない。いつ襲われるかとびくびくしてたら俺のマイサンもしおしおしかねない。
「くっそ…結局とことん巻き込まれるのか」
「仕方あるまいな…こいつらが近くにいる限り儂らは常に襲撃を警戒し続けなければならないからな」
「フレスベルクの自警団がなんとかしてくれないでしょうか?」
「山にこもられてしまうと厳しいだろうな。そもそも領主の私兵も全部集めても数百というところだろう。それだけの数では山狩りも難しい。下手に山に入れば100%返り討ちに合うだろうな」
「でも、フレスベルクを襲えない以上は長くこの辺りにとどまり続ければ団を維持できないんじゃない?」
フレスベルクの周りにはコロニ村の他には目ぼしい村はない。次に近いのはザチルの塔のずっと北に行くかフレスベルク西にある港町ということになる。
「いずれは北に抜けていくだろうな。だが、フレスベルクが安全だと言い切るのも難しいかもしれんぞ。あそこは人口が多すぎる上に防壁となるような物が一切ない。200名で総攻撃を掛けられれば混乱をきたして組織だった反攻は難しいだろうな」
蛍さんが示した可能性はあり得る話だった。確かにあそこは混迷都市の名に恥じずごちゃごちゃし過ぎている。
例えば50名ずつくらい4か所から同時に攻められれば逃げ惑う人々で自警団は盗賊団と対峙することも難しい気がする。その間に外周部の家や店はいいように荒らされてしまうだろう。
「相手が多すぎて私達では対応しきれないですね。フレスベルクに戻ったら報告をして対策を練ってもらうしかないと思います」
「そうだね。とにかく今日は疲れたよ」
朝早く起きてから塔を5階層まで突破した後にすぐ依頼を受け夜通し馬で走ってここまで来てから盗賊退治。さすがにハードすぎるだろう。
「お前たちは休むといい。後のことは儂と桜に任せておけ」
「…わかった。お言葉に甘えるよ、システィナ行こう」
「はい。蛍さん、すいませんがよろしくお願いいたします。周囲の確認に出ている桜さんにも戻られたらよろしく伝えて下さい」
「儂らは同じパーティの仲間だ。気を使う必要などない」
システィナは笑って頷くと俺の後ろを追いかけてくる。システィナも蛍さんの言っていることは十分理解している。それでも性格的なものでどうしても丁寧な対応をしてしまうだけだ。蛍さんもそれは分かっているのだがやはりもう少し砕けた感じで接したいと思っているようで似たようなやりとりはもう何度も繰り返されている。
「集会所の隣にあまり荒らされていない家があるって言ってたからそこを借りよう」
おそらく既に持ち主のいなくなった家を勝手に使うのは多少気が進まない部分はあるがそれは仕方ない。今は身体を休めておくことが大事だ。かと言って寝室のベッドを使って寝るようなことはしない。
一階の居間的な場所で床に毛布を敷いてシスティナと一緒にもう一枚の毛布にくるまって寝るだけだ。蛍さんや桜がいるとは言え何かあった時にすぐ外に出られるようにしておくくらいの警戒は必要だろう。
「今日はお疲れ様システィナ」
「はい、ご主人様もお疲れ様でした」
システィナと軽く唇を合わせるとシスティナを抱き寄せながら目を閉じる。やはり疲れていたのだろう。システィナは既に眠りに落ちていた。そして俺もシスティナの温もりを感じつつ転げ落ちるように眠りへと落ちた。
「……て、起きてソウ様」
俺を起こす桜の声が聞こえたのはおそらく俺達が眠りに落ちてから1時間もしないうちだったろう。随分早く起こされたが裏を返せばそれだけの緊急事態ということだ。
俺はすぐさま身体を起こすとすぐそばに置いていた閃斬と葵を手に起き上がる。僅かに遅れてシスティナも魔断を持って続く。
「どうした?」
「うん、どうももう少ししたら囲まれそうなんだ。別に油断してたわけじゃないんだけど…正直襲撃があるとは思ってなかったから索敵の範囲を絞ってはいたんだけど、その内側に大分侵入されるまで気づけなくて」
「蛍さんや桜さんの気配察知を潜り抜けられるほどの手練れということでしょうか?」
「う~ん、そんな感じじゃないんだよね。どっちかっていうと桜に近いかな。多分、偵察や暗殺系の技能を持っている人たちの集団だと思う」
このタイミングで気配を消して近づいてくる相手は敵か味方か…
盗賊団自体は少なくともここにいた奴らは全滅させている。ここが奪回されたことは『赤い流星』の本隊には知られていないはずだ。
かと言ってフレスベルク領主軍の先行部隊という説も薄い気がする。それが出来ないからこそ俺達に依頼を出したはずだからな。
「どこで待つ?」
「取りあえず室内よりは外の方が不意打ちの危険が減るから広場に戻って迎え撃とうソウ様。こっちが気が付いてることを相手に知られるけど狭い所で乱戦になるよりはいいと思う」
「了解。じゃあ行こう。ちなみにあとどのくらいの猶予がある?」
3人で玄関に向かいながら桜に聞いてみる。
「向こうの包囲が完了するまでだいたい後2分かな…」
「蛍さんはなんて言ってた?」
「蛍ねぇはいつも通りだよ。来た敵を斬る。ってね」
蛍さんらしい。なら俺達も自分たちに出来ることをやるだけだ。
「じゃあ、桜は行くね」
「同業者に負けない様にしっかりね」
「ちょっと隠密行動が出来るくらいで本当の忍びは止められないよソウ様」
桜は不敵な笑みを残して消えた。同業者相手にかなり気合が入っているらしい。
もし俺達を包囲してきたのが敵だとしたら本当にご愁傷様としか言いようがない。俺達は家屋を出て蛍さんの待つ広場の中央へと向かう。
「おう。来たなソウジロウ。まだ眠ったばかりですまぬな」
「こんな状況なんだから当たり前だよ。どう?」
「うむ。丁度今相手の配置が終わったところだな」
「敵…でしょうか」
「間違いないだろうな。我らは広場にいて周囲からは丸見えだ。そして我らの周りには盗賊達の死体がある。この状況でも殺気を放っているような相手が味方であるはずがない」
なるほど蛍さんの言う通りだろう。この状況下で蛍さんの殺気感知に引っかかるなら相手は敵で間違いない。
「桜が始めたな。気配が消えていく。ソウジロウ、システィナ間もなく敵が炙り出されてくるぞ油断するな」
「了解」
「はい」
俺達の返事と同時に黒装束に身を固めた者が5人ほど姿を見せる。その登場の仕方には統一感が感じられず、常に周囲を気にするように視線が定まっていない。
蛍さんの言う通りまさに隠れ場所から炙り出されてきたのだろう。と、そんなことを考えている間にも一人の首筋にクナイが突き刺さる。
「ひぃ!」
もはや完全に戦意を喪失しているようだが、かと言って見逃すわけにもいかない。きっちりととどめをささせて貰おう。
「蛍さん、リーダーっぽいのは1人殺さないで」
「任せておけ」
「システィナ行くよ」
「はい」
結局俺達は広場で戦意を失った黒装束をさほど苦労もせず撃退することに成功した。
マジで桜無双が凄すぎる。結局広場に姿を見せなかった奴らは15人程いたらしいが全て桜が暗殺していた。おかげで場合に寄っては熾烈な戦いをすることになった可能性が高いこの奇襲が『ちょっと身体を動かした』程度で済んだ。帰ったらご褒美にたっぷり可愛がってあげよう。
…さて、後は再び質問タイムだな。




