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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第2章

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読解と訓練

「だあ!厳しいぃ!。おまえの師匠は鬼だな」


 汗まみれになりながら地面に大の字になったトォルの息は絶え絶えである。


「まあそれでも師匠としては間違いないからね。やればやるだけ結果が付いてくるなら耐えられるでしょ」

「むぅ…そのバカ重い輪っかを4つもつけて俺より多い量をこなしてるソウジにそう言われたら愚痴るに愚痴れないじゃねぇか」

「よし,充分休んだな。次行くぞ,まずはソウジロウからだ。小僧は最低限身体をおこせ。我らの立ち回りをしっかり見取り稽古しておけ」

「く…まだ30秒くらいしか休んでねぇし。それにソウジより俺のが年上だっての!」


 ぷるぷると生まれたての子鹿のように身体を起こすトォルを見て思わず吹き出しそうになるのをなんとか堪えると俺は葵を抜いて蛍さんへと斬りかかる。


 

 何故俺とトォルが蛍さんに指導を受けているか。それはあの後の話し合いで俺がこれから7日間ほどを訓練に費やすという話をしたら是非一緒にやらせて欲しいと頼み込まれたからである。

 同じようにアーリはシスティナに回復魔法と護身術を教えて貰っているし,フレイは桜に機動力を活かしながら闘う近接格闘を仕込まれている。


 正直そこまで面倒を見る気はなかったんだけど,自分で組ませたパーティがあっさり全滅されたりしてもなんか後味が悪い。それにまあ,一度だけとはいえ身体を重ねた相手をはい,さようならと放り出すのは男として格好悪い気がする。

 せめて裏切らないような仲間と最低限死なないだけの実力を身につけられるように協力してあげるくらいはしてあげたい。

 それにこの前の俺の発案でウィルさんがやろうとしていることに協力してくれる探索者も何人か欲しかった。しかも軌道に乗るまではあんまりガラの悪い探索者じゃない方がありがたい。

 その点では実力的には不安があっても善良であるだろうこのメンバーは都合がいい。


 更に新たに発覚した事実が1つ。どうやら俺が簡易鑑定で見ている職業が普通の人が『窓』で確認する職業と違うということだった。

 これに気付いたのは一緒に訓練をすることが決まって訓練初日の日だった。





「おう!来たぜソウジ。よろしく頼む」


 フル装備で屋敷を訪れたトォルが軽く手を上げる。

 昨日の別れ際に口調が堅い!とトォルに文句を言われた俺はじゃあお互いに砕けた感じで行きましょうと提案。それならば俺はソウジと呼ばせてもらうと勝手に決められた。

 まあ実際は俺より年上だし構わないんだが。俺としては名家の育ちなので丁寧語で話し続けることになんの苦もないしうっかり失礼を働くよりは対外的な対応としては楽だったのだが,アーリやフレイにまで言われてしまっては仕方がないと心持ち口調を改めている。


「早いですね。そんなに張り切って大丈夫ですか」

「俺達は今までちゃんとした指導者に教わったことがないんだ。田舎の出だしな。だから全部自己流でやってきたんだが…

 そのツケが出ちまったのがあの塔での悲劇だと思ってる。バクゥの死を無駄にしないためにも強くなれる可能性があるなら躊躇していられねぇよ」


 その心構えは立派だが…


「どうしてそんなに重装備なんですか?」


 トォル達には一応フル装備で来るように言ってあったが今日訪れたトォルは金属製のブレストプレートに金属製の籠手,長剣,小型の盾,金属製の腰当,金属製の脚甲,更には金属製の兜まで小脇に抱えていた。

 俺が見る限りどれもそんなに良い物ではなさそうだ。だがそれよりも何よりも見た感じが『重そう』なのである。

 それなりに鍛えてはいるようなので装備に着られているような感じはしないが明らかに簡易鑑定で見た『軽装剣士』にはそぐわない装備だろう。


「フル装備って話だったし,この前の教訓もあって装備は重要だと分かったからな。有り金ぶっこんで1層突破したら買おうと思ってた装備を買って来た」


 塔での悲劇を経て,装備に妥協しないという俺と同じ考えに至ったことはいい。むしろ感心した。なのになぜ自分の職業に見合った装備を揃えないのかと言いたい。


「ちょっと待ってトォル。

 トォルって職業なんでしたっけ?」

「ああ,訓練するにあたって技能とか全部分かった方がいいか?ソウジは命の恩人だしな窓を全部晒しても構わないぜ『顕出』。ほら」


 トォルが呼び出した窓をタップして俺に向けてくる。


『トォル 業 –2

年齢:22

種族:人族 

職 :軽装剣士

技能:

剣術(微)

敏捷補正(微)

子守+』


 やっぱり間違いない。窓で確認してみてもトォルの職は『軽装剣士』だった。字面やスキルから推測すれば疑いようもない。トォルの職は身軽な装備で素早さを活かした戦い方をすることが求められる職のはずだ。

 ……子守スキルが+なのは敢えて触れないことにしよう。


「なんでこの職でそんな重装備をしてるんですか?」

「なんで?普通剣士って言ったらこんなもんだろ」


 いや,普通に剣士と言えば確かにそうだが,あんたは軽装剣士でしょうが!そう突っ込もうとして違和感に気がつく。いくらトォルでも書いてある文字の意味が分からない訳ではないだろう。

 それなのに話が通じないのはおかしい。と


「システィナ!ちょっと来て。トォルの窓を確認してくれる?」


 少し離れたところでフレイ達とガールズトーク(かどうかはわからないが)をしていたシスティナに声を掛けて呼ぶ。


「トォルの職の欄はなんて表示されているか読んでみてくれる?」

「はい。えっと『剣士』と表示されています」

「やっぱりか…システィナちょっとこっち来て。あ,トォルはとりあえずあっちで準備運動しててください」

「ん?お,おぅ。わかった」


 とりあえずトォルを追い払って会話を聞かれない状態を確保する。


「俺の目にはトォルの職が『軽装剣士』に見えるんだけど,どう思う?」

「…そうですね。私には剣士と読めるのにご主人様が異なった文字に見えるということはスキル『読解』の効果がかかわっているのではないでしょうか」

「それしかないか…ちょっと試してみるか。システィナ,アーリとフレイの職を確認してきてくれ」

「はい。少々お待ち下さい」



 結果としてフレイは俺の見たものと同じで獣闘剣士だったが,アーリは舞闘巫女ではなく舞女だった。『舞女』というのはこちらの世界では珍しくない職だそうで基本的には踊り子のようなものらしい。

 領主や豪族,大商人など裕福な家の子女あたりはたしなみの一部として幼少から教わるので職として変化することも多いらしい。舞自体の文化も広く知られているためそこそこ大きな街では舞を見せて酒食を供する店もちらほらと見られるようでそこで働く女性は先輩の舞女に舞の指導を受けたりもするそうだ。

 ただこの舞女という職は舞の中に武器を持って舞う形のものも多いようでその流れで戦闘系のスキルに目覚める舞女も多いらしい。現にアーリにも短剣術と細剣術があった。


「ていうことはどういうことになるんだ」

「おそらくですが…ご主人様の読解スキルは文字そのものを読める文字に変換するのではなく,その文字に含まれた意味をご主人様の読める文字に変換しているのではないでしょうか」

「…というと?」


 システィナはそうですねと呟くと地面に落ちていた小枝を拾って地面に文字を書き始めた。


「この2つの文字を読んでみて下さい」

「『システィナ』と『ソウジロウ様』だね」

「やはりそうですね。

ご主人様,実はここには両方とも『システィナ』という同じ文字が書かれています」


 え!どう見たってシスティナとソウジロウ様にしか見えないのに?

 …あぁなるほどシスティナがさっき言っていたのはそういう意味だったのか。


「つまりどんな落書きでも意味を込めて書けばその意味が俺には読み取れるってことなのか」

「はい。間違いないと思います」


 う~ん,新たに発覚した読解の力の効果だけど使い方としては微妙だな。場合によっては困ることも多いかもな。

 まあこの世界ではあんまり文字のやりとりとかなさそうだし大丈夫だと思うが,文章だと俺には裏の意味しか読み取れない可能性が高い。

 そうなると大事な手紙とか文書は必ず誰かに表の文章を読んで貰わなきゃいけないことになる。

 そうそう書いた文字に違う意味を込めることなんてないと思うけど,例えば好きな人に手紙を書いて告白する勇気はないから差し障りのないことを書いて送ったのに俺にはそれがラブレターにしか見えないみたいな?うん,それは困らないか。

 まあラブレターなんか貰ったことはない訳ですが。


「まあ読解についてはそういうもんだってことで行くしかないか。俺がなんか読むときは誰かに文章確認してもらわないとだめってことだけ覚えておこう」

「はい」

「で,訓練の内容だけど…」





 という訳で,無駄に重い装備を身につけていたトォルの装備を没収して無理矢理売却。軽めの革系統の装備を身につけさせるとそれだけでスキルの効果が(微)から(弱)を超えて普通の段階のスキルに跳ね上がった。

 どうも金属製の防具を着けているだけでスキル効果が下がるらしい。マジで意味がわからん。おまえは金属アレルギーかと突っ込みたい。


 ただ,金属系の防具が身につけられないということは防御力に難があるということなので,それからは蛍さんに徹底的に歩法と回避の技術を叩き込まれている。

 アーリは舞女の裏に闘う巫女さんが隠れていたので巫女と言えば回復魔法でしょってんでシスティナから回復魔法の手ほどきを受けている。同時に護身術としての近接格闘も同時並行で教えている。

 アーリの物覚えはめざましいものがあるらしく訓練3日目にして既に簡単な回復魔法を覚えたらしい。窓で確認すると確かに回復魔法(微)スキルが増えていた。

 後は繰り返し魔法を使っていくことで回復効果も回復できる傷の種類も増えていくだろう。

 そしてフレイに関してはメインの戦闘スキルが獣闘剣術という亜人特有のスキルだったために教えられる人がいなかったのだが,戦いの系統としては短剣と棘のある手甲を使ったトリッキーな近接格闘ということなのでちょっと方向性は違うが近接格闘が売りのくノ一桜が『フーちゃんは私が見てあげるよ』と言ってくれたので任せている。

 フレイも父母が他界した後は戦い方を教えてくれる人に恵まれなかったらしく昔教わった基礎だけでここまでやって来たらしい。おそらく亜人の生まれ持った高い身体能力があったからこそそれでもやってこれたのだろう。

 

 結果としてこの3日間だけでも三人の動きは見違えるように良くなっている。おそらく普通の状態のレイトークなら1階層どころか2,3階層まで突破できるのではないだろうか。

 これで7日間訓練をやり切って更に上達が見られるならば,アーリの回復魔法が実用レベルになっていることが最低条件だが3人でも5階層辺りで安定した戦いが出来そうな気がする。

 とは言っても1階層しか行ったことのない俺が言ってもなんの重みもないけどね。



 さて,そしてもう一人違う訓練にいそしんでいる人がいる。フレイの弟であるアルことアルリックである。

 もともとフレイの両親が商家を営んでいたせいか裏方商人という職を持っていたアルはスキルも『計算』や『相場鑑定』など商人としては垂涎のスキルを持っていたのでこれを活かさない手はないとアルをウィルさんの下に見習いとして放り込んでみた。

 アルに仕事を与えるというのがもちろん理由だがウィルさんが今取り組んでいる事業の助けに少しでもなってくれればという期待も込めている。

 だがその期待はいい意味で裏切られアルを手元に置いてからのウィルさんの作業効率は倍増したらしく準備は物凄い速さで進んでいるらしい。

 アルを売り込んだ俺に対してもウィルさんから感謝しきりだったのでアルの給金をちょっと優遇してもらいつつ訓練で稼ぎが無い3人組の宿と生活費を立て替えてもらうよう交渉して二つ返事で引き受けてもらった。

 うちに泊めてあげても良かったのだが,落ち着いて夜の営みが出来ないので丁重にお断りしたのでちょうど良かった。

 アルも自分の力が人の為になっていることがかなり新鮮で嬉しかったらしく,精力的に仕事をしているらしい。そして精神が前向きになれば身体もそれに引きずられるみたいで体調の方もみるみる回復していると往診に出かけたシスティナが言っていた。

 

 そんな感じで各自がみっちりと鍛えなおした地獄の7日間は順調すぎるほど順調に過ぎていった。

 

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