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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第2章

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34/203

フレイ

「思った以上に期待出来そうで良かったよ」

「ふふふ,リュスティラさんとディランさんは半泣きでしたけど」

「なぁに。職人というものは愚痴をこぼしながらも創り出したら楽しくて仕方のない人種だ。問題あるまいよ」

「リュティの仕事がはかどるように今度差し入れ持って行こうね。ソウ様」

『う…羨ましいですわ!わたくしも自分の装備が欲しいですわ!』


 俺たちはそんな話をわいわいとしながらフレスベルクの雑踏を歩いていた。お金を受け取って貰った後もいろいろあって全員が若干ぐったりしながらもこれから出来上がってくるだろう新装備への期待もあり皆がちょっと浮かれている状況だ。

 疲れている理由としてはあの後,リュスティラさん達に全員のあらゆる箇所のボディサイズを綿密に調査されたからである。

 頭囲,肩幅,胸囲,腹囲,尻回り,腿回り,ふくらはぎ回り,足首回り,腕の太さ各種,指の長さ,手の平の長さ,手首から肘までの長さ,肘から肩までの長さ,足のサイズ,足首から膝までの長さ,膝から股関節までの長さ等々…それはもう微に入り細に入りとことんデータを取られた。

 女性陣に至っては胸のサイズや形まで測られたらしい。おそらくそのデータがあれば本人とまったくおなじ体型のマネキンを作れるのではないかというほどだった。

 そこまでしっかりとしたデータを元に作られた装備はもう本人専用と言っても良いくらいのオーダーメイドになりそうである。

それだけに技師の腕前が問われることになるだろうが…あの2人はなんだか大丈夫な気がする。

 全部が完成するのはいつになるか分からないとのことだったが,とりあえず7日後には一度様子を見に行くということになっている。



「さあて,これからどうしようか。ちょっと遅くなっちゃったしいつもシスティナにばっかり料理を任せちゃうのもあれだし,たまにはどっかで食べてから帰ろうか」

「ソウジロウ様。私は好きでやってますのでお気になさらず」


 うん,システィナならそう言うだろうし本心からそう思ってるのは分かってる。下手な店で食べるよりシスティナが作ってくれた料理の方がうまいのも承知の上。

 まあそれでもたまにはシスティナを食べることに専念させてあげたいと思う。俺が料理をするという手もあるが生まれてこの方,家庭科の授業以外で料理らしいことをした覚えがない俺にはハードルが高い。しかもここが異世界で食材も見たことの無いような物ばかりとなればもはやハードルどころか壁である。


「まあまあ,たまにはいいよ。

 正直言えばシスティナの料理の方がおいしいと思うけど,今日はいろいろ疲れただろうし楽しようよ。ということでどっか良い店ある?ちょっとくらい高くてもいいよ」


 システィナも俺が言いたいことは分かっているのだろう。微笑みながらわかりましたと素直に頷くとフレスベルクの中に数多存在する飲食店の中から場所や評判などの情報から良さそうな店を脳内検索で探してくれているようだ。


「そうですね…もう少し行くと見栄えは悪いけど安くておいしい臓物料理を出すお店があるそうです。私の手持ちの料理にはないものですので,出来れば一度行ってみたいです」

「へぇ…臓物料理か。モツ煮みたいな料理なのかもね。いいんじゃない。

 お酒にも合いそうだしさ。ね,蛍さん」

「む!酒に合うとなれば私には拒否できようはずもないな」


 もはや飲んべぇと化しつつある蛍さんにうまい酒のつまみの誘惑に抵抗することは出来ないらしい。


「う~ん,桜はちょっと趣味じゃなさそうだなぁ」

「大丈夫ですよ桜さん。焼き肉も豪快でおいしいそうです」

「豪快なお肉?もしかして憧れの漫画肉?よし!早く行こうシス!」


 桜は小柄な身体の割に意外とよく食べる。そして肉が好きでしばしばその素早さを活かして俺の分まで持って行く。

 元が刀だからかいくら食べても太らないらしく人の身体の味覚をたっぷりと堪能している。システィナなんかは太ってしまったら恥ずかしくてその身体を俺には見せられないと思い込んでいるらしく一日の活動量に見合った量しか食べないように気をつけているらしい。

 そもそもシスティナがぽっちゃりしていたことなど一度も無いし,この世界の食生活環境ではそもそもそんなに過食にもなりえないし運動量も多いため太っている人なんてほとんどいない。

 おそらく純粋な肥満体系の人なんて地球で言う貴族階級的な人達の中のごく一部じゃないだろうか。

 俺自身は仮にシスティナが多少ぽっちゃりしてても全然ウェルカムなのだがその辺は乙女心というものということみたいなので好きにさせている。いずれまた塔探索が再開するようになれば日々の食事分はくらいはすぐに消費されるはずなので制限なんて考える必要もなくなるだろうしね。



 結果としてシスティナが案内してくれた店は非常に美味しかった。臓物は生臭いのではないかと密かに心配していたがうまく処理がされているのか調理法なのか分からないが全く臭みもなく程よい噛みごたえでなんか懐かしい感じのする味だった。

 蛍さんも気に入ったらしくお酒をくぴくぴしながら珍しく結構つまんでいたし,桜も出てきたシュラスコみたいな塊の肉を楽しんで食べていた。

 家でシスティナの手料理を食べるのも良いが,たまにはこうして珍しい料理を出す店にみんなでくるのも良い。せっかくこの世界に来たのだから地球では食べたことのない料理をいろいろ食べてみたい。


「やっと見つけた!フジノミヤ殿!」


 そんなまったりと楽しいひと時を台無しにしたのはどこかで聞いたことのある女の声だった。

 俺の後ろにある店の入口から中を覗いて俺達を見つけたのだろう。どたどたどたと床を踏みしめる音が近づいてくる。


「フジノミヤ殿!私は!私はまだあなたに直接謝っていない!」


 う~ん,めんどくさい。別に今更謝罪なんか求めていないし,そういうしがらみが面倒でフレスベルクに拠点を移したんだから空気を読んで欲しい。

 そもそもへんなこと口走られてベッケル家の長男の不審死とかの話を広められたら困る。ベッケル家の長男バルトを事故死に見せかけて殺したのは俺のお願いを聞いてくれた桜なんだから。


「すいませんがここは公共の場なので声を抑えて貰えませんか?フレイさん」

「あ…す,すまない。やっと見つけたと思って少し興奮してしまった」


 そう言って整えられていない短い赤髪を下げたのはフレイ・ハウだった。

 レイトークの塔で俺から桜を盗み,逃げた先で結果として階層主を俺たちになすりつけたある意味因縁の相手だった。

 本来なら俺判定で確殺くらいのことをしているが,最終的に俺達が誰も死なずに済んだこと。そうせざるを得なかった本人の事情に多少同情してしまったこともあるので別に今は恨むようなこともないしわだかまりも全くない。

 かといってことさら仲良くしたいとは思わない。せっかくの良い気分だったのに邪魔をして欲しく無かった。


「なぜ探していたのかは知りませんが謝罪はシスティナが代表して受けてますし,俺達は別にあなたと話さなければならないことは何もないんです。お引き取り願います」


 迷惑だから関わらないで欲しい。それがはっきりと伝わるようになるべく冷たく平坦な声を心がける。


「い,いや!だがしかし…私は!あなたに…あなたが私をバル…!ひっ」

「悪いけど,桜はあんたのことすっごい嫌いなんだよね。ソウ様が『もういい』って言うから見逃してあげてるだけ。

 でもこんなところで訳の分からないことを言い出してソウ様を困らせるつもりなら…わかるよね」


 気がつくと桜がフレイの背後から首筋に刀をあてていた。喉元に感じる冷たい殺気にフレイは息を飲み言葉を失っている。

 桜はあの時俺から引き離されたことを表には出さないがかなり腹に据えかねていた。それなのに俺は報復を禁止した上にフレイを助けるようなお願いをした。

 桜は俺の頼みならと快く全てを受け入れてくれたが怒りが治まっている訳ではない。それなのにこんなところに出てきて俺達に不利益になりそうなことを考えなしに叫ぼうとする…桜がプチ切れするのも無理はない。


 おそらくフレイはバルトの死とその後過去の悪行が世間に知れ渡ったことが人為的なものだと疑っている。そしてそのタイミングが自分の実情をシスティナに吐露した直後だったことで俺達が助けてくれたのではないかと思ったのかもしれない。

 しかも,桜はバルトを殺害したついでにフレイの弟に使われていた毒の解毒剤も入手していて弟が軟禁されていた場所に届けている。

 ここまで自分に都合良く全ての物事が運んだら確かに偶然では済まされないだろう。だが,そこは『どっかの誰かさんありがとう!』と星にでもお礼を言って終わりにして欲しかったところである。

 いずれにしても店内で刀を出してしまったため騒ぎが大きくなりつつあるので話を聞くにしても追い返すにしても場所を変える必要があるだろう。


「桜,やめるんだ。こんなところで刀を出したら騒ぎになる。システィナ,迷惑料込みで精算を頼む。蛍さん,桜を宥めてフレイさんを外へ」


 その際に蛍さん達にはフレイを連れてこの場を離れて貰うようにお願いしておく。とりあえず家方面へと向かって移動しておいてもらうように頼んでおく。

 それぞれに指示を出すと自分自身はシスティナと共に精算に行く。騒ぎを聞きつけ厨房から出てきた髭の親父に謝罪のため頭を下げるとシスティナが代金より少し多めの支払いを済ませると既に店内を出た蛍さんたちを追って店の出口へと向かう。


「まさかこんなところまで追ってくるとは意外でしたね」

「まあ,もともと律儀な性格なのは分かってたけど…まさか都市をまたぐかね」

「私たちがなんらかの形で関わっていると思っているんでしょうか?」

「多分ね,正直頭は良くなさそうだったから気づかれる可能性は全く考慮してなかったよ。ぶっちゃけ今日会うまで存在すら忘れてたからね」

「どうしますか?」

「見た感じお金とか持ってなさそうなんだよね…」


 今日久しぶりに見たフレイは前に会った時よりもかなり薄汚れていて少し頬もこけていた。前はバルトの情婦的なこともさせられていたからか身なりはちゃんと整っていたし最低限の食事は与えられていたのだろうが,バルトの拘束から解放され自由になったと同時に保護してくれる相手もいなくなってしまったのだろう。

 もともとバルトに毒を盛られていた弟の治療費で全財産を失っていたフレイ1人では塔探索をしても低階層しか行けずに大した稼ぎにはならなかったはずだ。病み上がりの弟をなんとか養えれば御の字だろう。

 そんな状況の中,わざわざ転送陣を使用するためにお金を使ったりすれば,物価がやや高めのこの街では宿に泊まることも食事を摂ることも出来ないのではないだろうか。

 となるとここで放り出すと場合に寄ってはその辺で野宿とかしかねない可能性もある。だが,ここフレスベルクは混迷都市と言われる程たくさんの人が集まってきているため治安は必ずしも良いとは言えないのが実情。

 そうするとここでフレイを見放すことは悪人達に餌を与えるようなもので俺の嫌いな悪人を増やしてしまうことにもなりかねないということだ。


「…仕方ない今晩だけ家へ連れて帰ろう」


 システィナにそう説明して俺は溜息と共にフレイを家へ同行することを告げた。


「ふふふ,ソウジロウ様は優しいですね」

「ちょ,ちょっと!俺の説明聞いてた?」

「はい。聞いてましたよ」

「じゃあ!」

「だから…ですよ」


 笑顔で腕を組んでくるシスティナにもう何を言っても無駄だと理解した俺は説得を諦めて腕への柔らかい感触を堪能しながら家へと向かうのだった。



◇ ◇ ◇



「す,すまないフジノミヤ殿。私は謝罪に来たのにまたこうして迷惑をかけてしまっている」


 艶を取り戻した髪と汚れが落ちて取り戻した白い肌,こざっぱりとしたシスティナの服を着て口の周りにソースをつけたフレイが深々と頭を下げる。

 あの後,屋敷まで同行(連行?)したフレイを温泉に入れ,その間にシスティナに頼んで簡単な食事作ってもらった。せっかく今日はシスティナを料理から解放する予定だったのに台無しになってしまったがシスティナは喜んで料理してくれた。

 そしてフレイは大きな屋敷に驚き,未知の温泉に驚き,恐縮しつつもシスティナの料理をがっつりと完食。

 そこでようやく正気に戻ったようで先ほどの台詞である。


「もういいですよ。とにかく俺はもうあなたを怒っても恨んでもいません。塔からあなたたちを助けたことも半分以上自分たちのためなので気にしないで下さい。

 それでも謝りたいというあなたの気持ちも分かりました。今日は一晩泊まっていって構いませんから明日起きたら帰ってください。システィナ,フレイさんを客室へ案内して」

「ま,待ってくれ!」


 言いたいことだけを言って席を立とうとした俺をフレイが呼び止める。やっぱり勢いで押し切るのは無理だったか…とりあえず諦めてもう一度腰を下ろす。1人だとしんどいので一応システィナにも隣に座っていてもらう。

 蛍さん達には席を外して貰っている。暴走しそうな桜を蛍さんに見ていて貰うためである。


「まだ何か?」

「まずはちゃんと謝罪させて欲しい。

 レイトークでは本当に済まなかった!私の事情はシスティナ殿に伝えた通りだがそんなことは関係ない。命がけで助けに来てくれた恩人に私は攻撃を加え盗みを働いてしまった。それだけでは飽きたらず後先考えずに逃げ回った結果,階層主に…

 私はそこで見捨てられても文句が言えるような立場じゃなかった。それなのにフジノミヤ殿はそこでも私を助けてくれた!

 本当に申し訳なかった!そして助けてくれてありがとう」


 ゴン! とテーブルに頭を打ち付けつつ頭を下げるフレイに俺は視線をシスティナへと向ける。

 システィナは笑いを堪えるように口元を手で隠しながら『思うがままにどうぞ』と言っている気がする。

 それを見て完全に毒気を抜かれた俺はもういいやと諦めて大きく息を吐くと頭を下げたままのフレイに声をかける。


「わかりましたからもう頭を上げて下さい。

 正直に言えば少しは思うところがなかった訳じゃないですけど,都市をまたいでまで俺達を追いかけてきてくれたことに免じてその辺は水に流しましょう」


 本当は心底どうでもいいと思っていたがそれでは納得しそうもないのでこういう形にしてみる。


「本当か!…ありがとう。本当にすまなかった。

 …せめてもの罪滅ぼしに今後は2度とあんなことはしないと私はフジノミヤ殿に誓おう」


 そんなものは全くいらないが,金銭等の謝礼を渡そうにも俺達は既にお金には困ってないし,また支払うべきフレイもそんなお金は持っていないだろう。


「それにしてもよく俺達をみつけられましたね」


 その辺は下手に話を広げると律儀なフレイがいろいろ面倒なことを思いつきそうなのでさらっと流して話を変える。むしろどうやって俺達を見つけたのかは正直ちょっと気になる。


「ああ,フジノミヤ殿が目を覚ます頃を見計らってレイトークの宿に行ったのだが,宿の主人にもういないと言われ行き先も聞いてないとのことだったからどうして良いのか分からなくなってしまって,フジノミヤ殿が来るのではないかと塔のロビーで数日間待っていたのだが…」


 そうだよな。俺が感じたフレイの印象ではその辺りまでが限界だと思ってたから俺の見る目は間違ってなかったってことになる。


「結局フジノミヤ殿は現れなかったのだが,毎日同じ場所で立っていた私に声を掛けてくれた人がいたんだ。その人達があの事件の後フジノミヤ殿をベイス商会の人が背負って行ったのを見た人がいるというのを教えてくれたんだ」

「誰ですか?それ」

「フジノミヤ殿も知っている人達だ。トォルとアーリだよ」

「ああ…って誰だっけそれ?」

「え?覚えてないんですかソウジロウ様。最後に助けて一緒に脱出しようとしていた2人組ですよ」

「ああ!バクゥと一緒のパーティだった人達か」

「…どうして一言も会話したことのないお亡くなりになった方は覚えているのにお二人は覚えてないんですか?」

「あはは…いや,俺の中で探索者としてのバクゥはかなり評価が高いんだよね。だから覚えてたんだけど,でもアーリだって『怪我しておっぱい見えてた人』って言ってくれればすぐに分かったと思うよ」

「…ソウジロウ様!」

「あいたたたたた!ちょっと腿つねらないで!マジで痛いから!」


 俺の冗談に頬を膨らませたシスティナが太もものちょっと内側の柔らかい部分をつねってくる。侍祭契約の加護を受けたシスティナのちねりはマジで激痛レベルである。


「仲が良いのだな…」


 そんな俺達のじゃれあいを眺めていたフレイがぼそりと呟いた言葉を俺は聞こえない振りをする。

 バルトに昼夜問わずいいようにこき使われ弄ばれてきたフレイには仲間を作れる環境になかったはずで仲間に恵まれている俺がかけてあげられるような言葉はない。

 だから俺はシスティナの攻撃をなんとかはねのけると話を本筋に軌道修正していく。


「それでフレイさんはどうしたんですか?」

「え?あ,あぁ!そうだったな。それで私はベイス商会の方に聞きに行ったんだ。そうしたら確かにフジノミヤ殿やシスティナ殿らしき人が訪れたというので行く先を訪ねたら『詳しくは知らないが転送陣を使って移動する』と言っていたということがわかったんだ」


 そういう情報をあっさりと漏らしちゃうっていうのはどうなんだろう。日本の常識だと客の情報をあっさり漏らすとかあり得ないんだが。犯人はあの笑顔秘書の誰かだろうか。


「そこまで分かればレイトークが繋いでる転送陣はミカレアとフレスベルクだけだ」

「だけって言ったって,移動した先でも街中から俺達を捜すのはちょっと厳しいんじゃないの?」


 ミカレアだって外町を併せればかなりの広さと人口があるし,フレスベルクに至っては考えたくないほどの人混みだ。普通に考えれば見つけるのは至難の技だろう。


「幸いミカレアの方はトォルとアーリが受け持ってくれたし,平耳族は嗅覚が亜人の中でもまあまあ良い方だからな。うまく臭いを拾えれば見つけられるかなと思ってな」


 それにしたって随分杜撰な計画だ。ミカレア組は普通の人間だから普通に足と目で探すしかないし,フレスベルク担当のフレイだって土地勘もなければお金もない。鼻が利くとはいえ人が多くてもの凄く雑多な臭いに溢れているこの街ではさほど有利な条件ではない。

 俺を捜すにあたってフレイが強運だったのは,今日俺達が食事をしていたあの店が転送陣の館から近いところにあったということだろう。それにしても…


「トォルとアーリまでが俺達を捜す手伝いをしているのはなんでなんだ?」

「は?…何を言っておるのだフジノミヤ殿。そんなのフジノミヤ殿達にお礼を言うために決まっているじゃないか」

「そうなのか?」

「聞けば脱出する途中で全員どこかへ離れていってしまったため,脱出後は顔を合わせていないそうじゃないか。あちらもあちらでアーリの傷が深かったため脱出後はすぐに治療院へ運ばれてしまったというのもあるみたいだが…

 だから2人もきちんとお礼を言いたかったらしくてな。協力することにしたんだ。明日一度レイトークで情報を摺り合わせる予定なんだが2人も連れてきてよいだろうか?」


 街からはほんの少し離れた所に居を構えたが別に隠れ住むつもりはない。フレイに2人を連れてくることを了承する。


「そうか!ありがとう。2人もきっと喜ぶだろう」


 ここまでの俺の対応が冷たかったことから了承が得られるかどうか不安だったのだろう。俺が了承したことで安堵したらしく再会してから初めてまともな笑顔を見せた。

 と同時に緊張の糸が切れたのか小さな欠伸をしてしまい羞恥に顔を赤くする。


「システィナ,今度こそ部屋に案内してあげて。あと,ついでに蛍さん達に事情の説明と…今日はお客さんがいるからお休みだってことを伝えといてくれるかな?俺も今日はこのまま部屋に戻って寝るから」


 さすがに近くにフレイが寝ているのにいつものパーリナイをするのは憚られる。悔しいが今日のところは自主的にお預けである。

 システィナはそんな俺の心情を見通してか小さく笑いをこぼすと頷く。


「ではフレイさん。お部屋に案内します」


 そう言ってフレイを食堂から連れ出すがシスティナは思いついたように立ち止まると扉の所にフレイを待たせて戻ってくると俺の耳元で囁く。


「…え?まさかそんなことはないよ」

「なければないでいいんです。でももしもの時はお願いします。同じ女としてのお願いです。蛍さんと桜さんには私の方から説明しておきますから」

「…わかった。もしもの時は言うとおりにするよ」

「はい。ありがとうございます。ご主人様」


 システィナは嬉しそうに小さくお礼を言うと去り際に啄むようなキスをして食堂を出て行った。

 俺はシスティナのお願いをもう一度頭の中で反芻する。


「…まさかね」


 軽く頭を振って浮かんだものを振り払うと自分の部屋へと戻る。今日はいつものキングサイズのベッドのある寝室ではなく俺個人の部屋である。ここにも一応シングルサイズのベッドが置いてある。  

 いつもは昼寝の時くらいしか使っていないが今日は仕方がない。

 なんだかんだで疲れた一日だった…ていうか地味に両手足のリングがしんどい。寝てる間に関節とか痛めなきゃいいけど…今度寝る時は外してもいいか蛍さんに聞いておこう。

 こみ上げてくる欠伸を噛み殺しながら部屋に入ってベッドに身を投げ出した。

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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ 小説1巻~3巻 モーニングスターブックスより発売中 コミックガンマ+ にてコミカライズ版も公開中
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