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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第2章

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32/203

技師の夫婦

「ここですね」


 システィナに案内されて辿り着いたのはフレスベルクの繁華街と言えるような場所からやや外れ,入り組んだ場所に建てられている一軒の店である。

 正面から見た店構えはやや小さく見えるがその分奥行きがあるらしく,敷地としてはそこそこの広さがあるみたいだ。おそらく1階が店舗兼工房で2階が居住スペースなんだろう。

 店の扉には剣と盾を意匠した看板と指輪を意匠した看板2つが並んで掛けられている。

 フレスベルクでは売っている物に合わせて決められた意匠の看板を出すことが定められている。そうしないとこの混迷都市ではどこが何を売っているかが全く分からなくなってしまうらしい。

 剣と盾は武器防具を扱う店,指輪は魔道具を扱う店である。


 店の名前を示す看板はどこにも見あたらないがウィルさんから貰ったメモにも店名は書いていないので、もしかするとまだ名前が決まっていないのかもしれない。


「じゃあ行こうか」

「オーダーメイドするなんて初めてなのでなんだか緊張しますね。ソウジロウ様」

「なぁに,金を払う以上は客じゃ。堂々と意見を言って良い物を作って貰えばよい」

「桜も忍者グッズいっぱいお願いしよ~っと」

『……』

「ははは…お手柔らかに頼む」

「それにしてもシスティナはどんどん地球の言葉を覚えていくのう。たった一晩でたいしたものだ」

「いえ…覚えたと言ってもほんの少しです。最初はソウジロウ様が……ばかりだったので」

「うんうん,あれは桜も無いと思うなソウ様。地球のエッチな言葉ばかりをシスティナに解説させるなんて趣味悪いと思う」

『……』

「ぐは!でもシスティナみたいな可愛くて純粋な子がこう頬を赤らめながら卑猥な言葉を言うのって興奮しない?」

「う~ん。確かにあの時のシスは可愛かったかも」

「まあ良いではないかそのお陰で昨晩も皆たっぷり可愛がって貰えたのだからな。システィナには感謝してもよいくらいじゃ」

「ちょ,ちょっと皆さん!…もう!知りません」

『……』

『………』

『…………うっきぃぃいぃぃぃぃぃ!!

 もう我慢なりませんわ!昨日からわたくしのことをほったらかしにして!いつ気づいてくれるのかとちょっと黙っていたら全く気づかずに放置したままで,そのまま4人であんな楽しそ…じゃなくてうらやまし…でもなくて,そう!破廉恥な行為を!

 昨日はわたくしが主殿のもとに来た最初の記念すべき日でしたのに!こんな扱い酷いですわ!酷いですわ!』


 あ,とうとうキレた。

 確かに昨日途中から葵が全く喋らなくなったのは気づいていたんだけど…蛍さんがニヤニヤしながら俺だけに共感で放っておけというもんだから敢えて放っておいたんだけど意外と長く保ったな。さすが何百年も飾られていただけあって忍耐力はあるということかな。


「ごめんごめん葵。

 蛍さんとちょっと巫山戯て放っといてみようってことでちょっとからかったんだよ」

『く!またあの山猿の陰謀ですわね!前は互いに刀同士五分の戦いだったのに…このままじゃ文字通り手も足も出ないですわ!主殿!早く私を育てて下さいませ!』

「うん,そうしてあげたいのはやまやまなんだけどね。装備が整うまでは塔には行くつもりはないし訓練だけじゃ魔石は手に入らないからね…」

『そんな…わたくしはいつまであの山猿に』

「それに俺的にも葵にはもう少し刀でいて欲しいんだ。

 やっぱり俺は自分で戦うときにはあの蔵の刀を1本は使っていたいからね。蛍さんや桜を刀に戻して使うのもありだけど…2人ともパーティ内での役割が特化しちゃってて外せない状態なんだ」


 現在の俺のパーティでは壁役がシスティナで,蛍さんはメインアタッカーと遊撃を同時にこなす近接の高火力。そして桜は平時においては情報収集,戦闘においては偵察から暗殺までこなせるという裏の役割を担ってくれている。

 ぶっちゃけ俺の存在が無くても充分やっていけるパーティ構成だ。そこに無理矢理俺の存在意義を付け足すとサブアタッカー兼遊撃という形になる。あとは後方支援の高火力魔法使いでもいれば完璧である。


「俺のことを一番近くで葵に守って欲しいんだけど…駄目かな?」

『へ?…いえ!そんな駄目だなんてことありませんわ!

 このわ・た・く・しが主殿を一番近くでお守りいたしますわ!』


 昨晩の内に葵のあしらい方はなんとなく理解していたので,さくっと葵を説き伏せると名無しの店舗の扉を開けて中へと入る。ぶっちゃけちょろい。


 店内に入ると3畳程のスペースがあり,カウンターで奥のスペースと区切られている。カウンターの後ろは僅かなスペースですぐ壁になっていて壁の真ん中に扉がある。

 よく見ればカウンターは後から置かれたものらしい。もともとは奥の部屋と手前の部屋という感じでしきられていたのだろう。

 手前の部屋には武器防具,魔道具など何一つ置いていない。店舗に並べる売り物がないのか,並べ売り自体をしないのかは分からないが。

 

「誰もいませんね…」


 システィナが店内を見回して呟く。まぁ,見回す程の広さもないのだが…


「カウンターにベルがあるから鳴らせばいいんじゃない?」


 桜はそう言った時には既にハンドベルを振り鳴らしていた。

 ガランガランガラン!! と結構耳障りな音が響く。本来は軽く振ってカランコロンと鳴らすものなのだろう。

 そうと気づいた俺はすぐに桜を止めようと動き出すがそれよりも前に奥の部屋からドタドタドタと大きな足音が響いて来る。


 バタン!!


「誰だい!うるさいったらありゃしない!一度鳴らせば聞こえるってんだよ!」

「!…エルフ?」


 扉を全開にして叩きつけ仁王立ちしている相手を見て俺が思わずこぼした言葉である。

 淡く緑がかったショートヘアの中から長く尖った耳がぴくぴくと動き切れ長の目と整った容姿。白く長い腕を短衣チュニック袖口から肩から出して腰にあて,薄い胸を張っている。細い腰とショートパンツそして細く長い脚を惜しげもなく晒した長身の女性。それが魔工技師リュスティラだった。





「いやあ!そうだった!そうだった!確かに今日ベイス商会から紹介を受けた探索者が来るって言ってたよ。

 自分たちでもぎ取った客なのにうっかり忘れてた」


 華奢な身体からは想像もつかないほどに豪快に笑うリュスティラを一応鑑定してみたところ


リュスティラ 業 -15

年齢:28  

種族:長耳族 

職 :魔工技師

 

 やはりエルフでは無かった。特徴的には間違いなくエルフっぽいのに残念。もういっそ俺の中では長耳族=エルフでも良いんじゃないかと思っている。

 そう言えばフレイが平耳族だったっけ。種族名には身体的特徴とかを使っていることが多いのかもしれない。


「リュスティラさんは魔道具技師なのですか?」


 システィナが問いかける。ああ,うん。確かにそう思うよね。彼女みたいな繊細な指先を持つ人が細かな作業が多い魔道具作成をするんじゃないかって。


「ん~にゃ!あたしは魔工技師さ。トンテンカンテンやるのが仕事。ちまちまやるのはあたしの旦那の方さ」


 リュスティラさんはそう言うと背後の扉を開ける。


「おーい!あんた!ベイス商会からの紹介の客達が来たよ!打ち合わせるからあんたも来な!」


 扉の奥からのそりと現れた男を見て俺がこぼした言葉は


「!…ドワーフ?」 だった。


 黒みがかった茶色の剛毛をぼさぼさに伸ばし,同じように伸びきった顎髭と連結。ぎょろりとした大きな目と樽のような身体。タンクトップのようなシャツ一枚だけを来たその上半身は筋肉に覆われていて不思議なほどに身体には毛が生えていない。下半身は長ズボンをはいているため詳細は不明だが見た目からはそう長くはない脚をしている。俺の胸くらいまでの身長の男性。それが魔道具技師ディランという男だった。


ディラン 業 -20

年齢:25  

種族:低身族 

職 :魔道具技師


 どっからどうみてもドワーフなんだけど…この世界では背が高くならないから低身族なのだろうか…しかも鍛冶屋的な職なのがエルフっぽいリュスティラさんで細かい細工とか魔力的な作業が多そうな職がドワーフっぽいディランさんなのか。

 ちょっと不安になってきたな。信用して任せて大丈夫なんだろうか。


「よし!じゃあ希望を聞こうじゃないか。なんでも特に腕の良い探索者だって聞いてるからね。こっちも宣伝になるし出来る限り協力させてもらうよ」


 リュスティラさんがうっすい胸をドンと叩く。


「分かりました。ですが本格的な交渉に入る前に1ついいですか?」

 

 威勢だけは良いが腕はたいしたことがない。なんてことはないと思うが高額の買い物になりそうでもあるし一応どんな仕事をするのか確認しておきたい。


「へぇ…若いのに慎重だね。

 仲間内にはそう言う態度を小賢しいって言って嫌うやつもいるけどあたしは嫌いじゃないよ。やっぱり商売に信用は大事だからね。言ってみな」


 俺は背中に背負っていた袋の中から階層主との戦いで折れてしまったバスターソードを取り出してカウンターに置いた。


「へえ…あんたがこれを使ってたのかい?」

「ええ。戦いの中で折れてしまったんですが,直せるのなら直して欲しいと思いまして」


 リュスティラさんは折れた剣身と柄を手に持ちながら鼻歌交じりにチェックしている。


「あんたこれいくらで買った?」

「1万マールで投げ売りされてましたね」

「へぇ…知ってて買ったのかい?」

「…何をですか?」

「いや,愚問だね。知ってたんじゃなけりゃあわざわざ1万マールで買った剣を直しになんか出しゃしない。

 こいつは技能持ちだった剣だね」


 薄い笑いを浮かべながらずばりと言われた言葉にとぼけることも出来ずに思わず頷く。


「どうやって見極めたのか知らないが大した鑑定眼だよ」

「同じ言葉をお返しします。どうしてそれが分かったんですか?」

「こちとら魔材を使って技能や魔法が使える武器を打つ専門家だよ。それぐらい分からなきゃ商売にならないさ。

 ま,もっともこのぐらいの微少な力だと分からない奴のが多いかもしれないけどね」


 武器鑑定も使わずに武器の技能を有無を見極められるなんて…実は凄い人なのかもしれない。


「ま,その辺の見極めはうちの旦那のが詳しいんだけどね」


 そう言うとリュスティラさんはバスターソードを隣のディランさんに渡す。そういやこの人出てきてから一言も喋ってないな。


「…重さの変化と斬れ味の上昇だな」


 おおおおおおお!凄い!技能の内容まで当てた。この人選当たりかもしれない。一流と呼ばれる技師ならみんな分かるのかもしれないけど少なくとも腕が悪くないのは間違いない。


「直せますか?」

「武器としては無理だね。一旦溶かして打ち直すことは可能だけど,それをしたら技能は残らないし全く別の剣になっちまうよ。

 この子の個性を活かしたままにしたいならうちの旦那に相談した方がいいね」

「…重さの変化だけなら残したまま加工できる」

「本当ですか!是非お願いします。こいつのおかげで命を救われたようなもんなんです。なんとか残してやってください」


 このバスターソードがなければあの探索行を生き残ることは出来なかった。俺の不注意で負担を掛けすぎて折れてしまったこの剣に仮に武器としてではなくてもまだ生きていて欲しい。


「…ふん。こいつもお前が好きらしい。任せとけ」


 ディランさんは僅かに口髭を揺らすとバスターソードを持って扉の奥に消えた。


「へぇ,あの人が笑うなんて珍しいこともあるもんだ。こりゃ良いもんが出来そうだね。あの様子じゃ完成も早いね。

 正式な契約は完成してからでいいよ。その間にもし良ければどんなものが欲しいのか聞かせて貰えると時間の無駄がないね」


 その口調は自信たっぷりでディランさんの仕事が俺達に気に入られることを微塵も疑っていないのが分かる。

 そして,同じように俺もあの無口で無骨なドワーフっぽい人が良い仕事をしてくれることを確信していた。

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