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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第2章

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28/203

我が家は温泉郷

「それにしても驚きました。こんな大きな魔石は初めて見ました」

 

 売買の合意が確約されたアノークさんは子供の頭程もある水晶玉のような真球の魔石を手に取り恍惚とした表情を浮かべる。


『魔石(無) ランク:S』


 これこそ俺たちが命がけの探索行の末に手にした物だった。階落ちで変異種だったと思われるドラゴマンティスがドロップした魔石である。無属性ではあるが属性は『付与術士』に頼めば後付けも出来るためこれほどのサイズになるのならばむしろ用途を考えてから加工できる無属性の方が価値があるらしい。

 逆に小さい魔石だと属性を付与させるのに割が合わなくなるため無属性の価値が下がる。レイトークの買取屋がまとまった数があると助かると言っていたのは一個ずつ付与術士に依頼をするよりも,まとめて属性付与を依頼した方が格段に安くあがるためである。


「どうもかなり上層から落とされてきた主だった上におそらく変異種だったこともあり、相当なイレギュラーなドロップだろうとウィルさんから教えて頂きました」

「そうですか…これはウィルマークの功績を認めない訳にはいきませんな。

 よくやったウィルマーク。これを以ておまえの行商人修行を修了としよう」

「ち,父上!ありがとうございます!」

「落ち着いたらどこかの支店を任せることになると思うが,まずはこのままフジノミヤ様の依頼を滞りなく助けて差し上げろ。今後,ベイス商会はフジノミヤ様一行を後押ししていく。失礼のないようにな」

「さすが父上です!お任せください」


 おーい。2人で勝手に盛り上がらんでくれ~

 この親にしてこの子あり か。まあとりあえずは一生懸命やってくれるならありがたいからいいか。気持ち的にはいざというときにはちょっとだけ頼れる場所くらいでいればいいだろう。


「ところでフジノミヤ様」

「はい」

「商人として誠に恥ずかしい限りなのですが,こちらの代金の方がつい後先考えずに即決してしまったこともあり手持ちが少々足りないのです。

 もしよろしければ手付けを打たせて頂き支払いは後日でもよろしいでしょうか?」


 アノークさんの言い分はもっともだ。交渉術でここまでなら買っても良いと思う最高額で即決させてしまったのだから手持ちがないのに買ってしまったのはアノークさんの落ち度ではない。


「私たちは構いません。ただ精算についてはこれから私たちの方でいくつかお願い事がありますのでそれらの代金を差し引いた額でお願いします」

「なるほど…確かこの街で住居の購入をお考えということでしたな」


 アノークさんは納得したように頷くと応接卓に置いてあった呼び鈴を鳴らす。


「お呼びでしょうか?」

「例の物をこちらへ」

「かしこまりました」


 笑顔秘書が笑顔で頷き一旦部屋を出るとすぐに戻ってきてアノークさんに紙束と丸めた大きな紙を持ってくる。

 アノークさんはウィルさんに紙束を渡すと応接卓に丸めた紙を伸ばしていく。


「これは…」

「はい,フレスベルクとその周辺の地図です。

 フレスベルクは店などの移り変わりや住居などの増減が多く数百日単位で更新されるため正確な物は作れませんが,主要施設や主要道路などは基本的に変わりませんのでこれからご案内する住居の立地を確認するのに少しは役立つと思います」


 広げられた地図にはフレスベルクを俯瞰で見た絵が詳細に描かれていて,転送陣施設や領主館,ベイス商会,宿屋,鍛冶屋など調べられる限りの主要施設や店舗が書き込まれていた。

 これをざっと見るだけでもこの街はかなり道が入り組んでいる。しかも人も多いため今後この街で暮らすとなると街に買い物に来たはいいけど迷子になるなんてこともあるかもしれない。

 だがこの地図で日頃から街全体のイメージを掴んでおけば迷子になる可能性を減らせるかもしれない。欲しいなこの地図。


「充分な地図です。この地図も後ほど一枚お譲り頂けますか?」

「すいませんがこれは一点ものなのでお譲りできません。ですがこれに更新する前に使っていた地図でよければお近づきの印にさしあげましょう」


 なるほどこれだけの地図を手書きで書いているとなれば印刷技術のないこの世界では複製品を作るのも難しいだろう。

 街の概要を確認するだけなら多少古いバージョンでも構うまい。


「是非お願いします」




「次はこの位置にある戸建てですね。間取りはこれになります。中心街からはやや外れますが商業区域にも近く2階建てで狭いながらも庭がついていますし値段も300万程度でご提供できます」

「この間取りだと私たちには少し狭いと思います。それに台所もちょっと小さい気がします。仲間はまだ増えるかもしれませんしもう少し広い方が…」

「そうじゃなぁ。この庭では訓練もしづらいし技術の漏洩も怖いな」

「桜も広いお庭が欲しい~」

「なるほど。ではこちら…いやこちらならいかがですか」

「ほう,2階建てだが屋上があるのか…確かにこれなら人目にはつかぬが強度に不安があるのう」

「屋上型の家屋は水漏れもあると聞いています」

「ていうか桜,屋根裏部屋とか欲しい!」



 家選びが始まるといつのまにか女性陣と俺の立ち位置が変わっていた。

 ベイス親子と嫁3人が喧々諤諤と家を選んでいる。まあお金はあるし,皆が納得できるところがあれば俺はそれで良い。決してお味噌扱いされている訳じゃない。

 ん?応接卓の隅に10枚綴りくらいの赤い表紙の束が置きっぱなしになってる。

 なんでこの束だけ検討対象から外れているんだ?どうせ皆から取り残されてるし暇だからちょっと拝借。

 ぺらぺらとめくって見ると…なるほど。ウィルさん達が検討対象から外す訳だ。これはいわゆる訳あり物件であり問題物件の数々だった。

 例えばこれ。

『フレスベルク北東部,2階建,部屋数6,台所,トイレ2つ付き,庭付き。200万』

 もの凄く条件が良いのに安い。ただし特記事項として『強盗殺人事件あり,後の入居者から幽霊が出るとの苦情が相次ぐ。※ 要注意』と書かれている。

 魔物は慣れてきたけど幽霊は勘弁して欲しい。刀で斬れない物は基本的にはNGだ。

 後は娼館の横とか酒場の横とかの環境面での問題物件。中にはこのベイス商会の隣というのもあった。どうも陽当たりが最悪らしい。さすがに5階建ては伊達じゃないな。日照権とか保護されてないこの世界じゃ泣き寝入りするしかない。

 次は…おお!この物件すっげぇ大きい!街からはちょっと離れるけど敷地も広い。値段は大きいだけに475万するけど街中の小ぶりの2階建ての戸建が300万とかなことを考えれば屋敷と言える程の物件がこの値段なのは破格の値段だと思う。

 これは何がそんなに問題で安くなってるんだろう?特記事項は…


「蛍さん!これ」

「ん?どうしたソウジロウ」

「これ見て。もしかしてこれって…」


 俺は家選びに夢中になっている面々の中から蛍さんの袖を引いて問題の物件を見せる。


「………」


 問題の物件を隅々まで見た蛍さんは顔を上げると俺に向かって会心の笑顔を見せる。


「ウィルさんこの物件に案内してください!」



◇ ◇ ◇



「この物件は元々フレスベルク領主が別荘として所有していたお屋敷なのです。

東のパクリット山の裾野に建てられていましてすぐ傍に山から流れる川も流れており近場の避暑地として使用されていました。

 ところがある時,裏庭に新たに植樹をしようと庭を掘っていた庭師が突然庭から噴き出した熱湯で全身に火傷を負ってしまいました。

 幸いなんとか治療師が間に合い命はとりとめましたが庭から噴き出る熱湯は止まらず,異様な臭いを放ち続けています。

 これを受け,領主は屋敷を手放すことを決めました」


 街を出て10分程歩いたところにある屋敷に向かう途中にウィルさんから受けた説明である。

 実際に見てみないと分からないがこれらの情報を聞いて俺と蛍さんが思ったのは…


『それって温泉じゃね?』


 ということだった。

 この世界はお湯に入る習慣がない。だから温泉も当然知らない。知らないならばただ熱湯が出てくるだけの危険な場所。しかも硫黄の臭いとかしてたら毒泉かと勘違いしてもおかしくない。

 これが本当に温泉なら蛍さんとしたお風呂を入れるようにするという約束を最高の形で果たせることになる。


「ではこちらになります」

「でかっ!」


 ウィルさんが示した屋敷は思わずそう漏らしてしまうほど立派な屋敷だった。

 敷地は2メートルほどの壁で囲まれていて門扉は金属製両開きの格子扉である。前庭も小学校の運動場ばりに広い。長らく放置されていたようで草木はまさにぼうぼうだが手入れをすればかなり見栄えのいい庭になるだろう。

 そして屋敷内も気になるところだが,これだけ大きな屋敷なら特に問題ない。多少傷んでいるところはリフォームすればいいだけだ。

 後の問題は…屋敷の裏庭。

 一度屋敷の正門を開けロビーを抜けて台所から裏口を使って裏庭に出る。台所を通った時にシスティナが歓喜の声をあげていたから設備や広さの面で合格点がついたはずだ。

 桜は屋敷内に入るなり歓声を上げて姿を消した。きっと隅々まで探検に行ったのだろう。


「うわ…これは」

「ソウジロウ様!これは危険です!吸い込まない方が」


 裏口を開けて外に出ると裏庭の壁際の方が湯気で煙っていた。足元は水分を多く含み過ぎてべちゃべちゃの状態でやはり硫黄の臭いが微かに漂っている。

 これは確かに知らない人が見ればちょっとひいてしまう光景だろう。


「これは決まりかな」

「うむ。間違いないな。せっかくだから源泉まで行くぞソウジロウ」

「了解」


 蛍さんと2人で裏庭に歩き出すとウィルさんとシスティナがひきとめてくるが俺達は危険が無いことを知っているため問題ないのでそこで待っててと伝えておく。

 べちゃべちゃと生ぬるい水たまりの上を歩きながら源泉と思われるところまで歩く。


「もう噴き出すという段階ではなさそうだな」

「うん。源泉周りを石壁とかで囲ってお湯を溜めて臭い対策にさらに周りを高い壁で覆う?」

「いや,そこまでするなら小屋を建ててしまえばいいだろう。蒸気や臭いは煙突などで屋敷に向かわぬように多少は誘導できるだろう」

「なるほどね…じゃあそっから水路を引いて裏庭に1つ露天風呂を作ろう!」

「おお!それは良いな。分かっておるなソウジロウ」

「で,室内風呂も欲しいから1階の一部屋を浴室に改装しよう。壁に入湯用と出湯用の穴を2つ開けて温泉を引き込めるようにするんだ。

 排水は…どうしようか」

「良いぞ良いぞ確かに露天だけというのも味気ない。室内があって露天があるからこその温泉じゃな。

 排水に関しては近くに川があるそうだからそこまで水路を伸ばせば問題なかろう」

「ま,その辺は実際の作業次第かな。後はこの地面か…いっそ裏庭には石畳を敷き詰めようか」

「そうじゃな、少なくとも室内風呂から露天までの間はその方が良いかもしれんな」

「よし!大分いい感じになりそうだね。リフォームの大工さんはウィルさんとこのお抱えにお願いできないか聞いてみるよ。

 どうせ頼むならもう一括で家具とか屋敷内のリフォームとかまとめてお願いしちゃおう。

 後は…これから皆で住む家なんだから最初はケチらずお金をかけていこう。これだけ広いと家事とかをしてくれるメイドさんを何人か雇った方がいいかな」

「その辺はひとまず私にお任せください。最初だけは大変ですが1回整えてしまえば維持だけなら私だけで十分です」

「うわ!びっくりした。システィナ来てたの?」


 てっきり裏口で待ってると思っていたシスティナが急に会話に混ざって来た。ていうかいつからいたんだ?


「最初からいました。ご主人様が危険かもしれないのに侍祭である私が安全なところにいるわけにはいきません。

 もっとも…蛍さんとお話に夢中で私のことなんて全く眼中になかったようですが」


 あちゃぁ最初からいたらしい。温泉の話に夢中で全く気が付かなかった。


「ごめんごめん。

 で,システィナ。この屋敷買うことにしたから。今日中に屋敷内はもちろん敷地内に関するまで必要な物や業者に修理を依頼しなきゃいけない物を全部把握して書き出しておいてくれないかな。

 全部一括してベイス商会にお願いしちゃおうと思うんだ」

「確かにこの裏庭以外は文句のつけようのないお屋敷ですね。でもご主人様と蛍さんにとってはこの裏庭こそが購入の決め手だった。そういうことなんですね」

「そういうこと。まあ楽しみにしてて。よしウィルさんのところに戻ろう」


 俺は意気揚々と裏口にとって返しウィルさんにこの屋敷を購入する旨を告げる。


「本当によろしいのですね?」

「うん。ここでなきゃダメだ」

「分かりました。では契約関係を今日中に詰めておきます」


 書類をまとめて帰ろうとするウィルさんを引き止める。


「建物の補修や裏庭の改造にベイス商会の大工さんたちを雇いたいんだけど可能かな?

 今日中にやってほしいことをまとめておいて明日渡すから出来れば明後日から」

「今の時期なら何人かは融通できると思います。では明日はそれに関してもご報告します」

「あぁごめん。まだあるんだ。この際ベイス商会でいろいろ全部お願いしちゃおうと思ってて」

「それは!ありがとうございます。なんでもお申し付けください」

「あ,助かります。ちゃんとお金は払いますんで。まず1つ目はこの屋敷でこれから使うものを今日中にまとめますのでベイス商会の方で一括で集めて貰いたいんです」

「お安い御用です。2つ目は?」

「人を紹介して欲しいんです」

「人?ですか…どなたでしょうか?」

「いえ,特定の個人ではなく…えっと繁盛してなくても構いません、とにかく腕のいい『魔工技師』と『魔道具技師』を紹介して欲しいんです」


 それは,今後の塔探索で必要になってくるであろう魔材や魔石を使った装備を作ることが出来る人達だった。



◇ ◇ ◇


 それからしばらくは目の回るような忙しさの日々だった。


 あの後,ウィルさんから契約は確定なので今日から屋敷を使っていいかを尋ね了解を得ることが出来たので、今日は街へ戻るというウィルさんに俺と桜が同行し、街で掃除道具や草刈り鎌などのお屋敷整備グッズと料理に使うための調理道具一式。さらにある程度の食材を買い込んで屋敷に戻る。

 そのまま屋敷内の掃除や家具などの確認を女性陣に任せて俺は庭の草むしりに1日を費やした。

 食事はシスティナが作ってくれたが,まだ台所が完全に復旧していないので簡単な料理しか作れず不満そうだった。それでも充分美味だった。

 食事の後はリビングに集まり,蛍さんの魔法で明かりをつけて貰って遅くまで屋敷の改装や修理,足りない家具などの確認に時間を費やした。

 箪笥やテーブル,椅子などは残されていて使える物が多かったのは良かったが、ソファーのような高級品は引き上げられていたらしく無かったため,思い切って新しい物を買うことにする。

 他にも細々としたものや,各自の部屋と定めた場所で個人的に欲しい物なども多々ありそれらも今回は引っ越し記念で無制限に購入許可をだした。

 後はこの屋敷が領主の別荘だったということもあり,屋敷内は魔石を使った設備が多かった。もちろん魔石は抜き取られているためそれらを補充するのに結構な額がかかることが想定された。

 最低限必要なものだけでも台所で使うコンロ代わりに火魔石が3つ,水魔石が1つ。トイレ2カ所で使うために水魔石が2つ。各部屋や台所リビング,食堂などで使うための光魔石が多数。だが光魔石は光魔法自体が貴重なため高額になることが多いので当面は最低限にする予定。どっちにしろ俺は魔力を外に出せないので魔石製品のオンオフが1人で出来ないという欠点も抱えているので、ランタン等の通常の道具も必要になる。

 就寝時はベッド自体は残されていたがマットレスや布団はなかったため,血を吐く思いで夜のお楽しみをお休みし野営用の毛布にシスティナと2人でくるまって寝た。

 蛍さんと桜はベッドが硬いのでその日は刀に戻って寝ていた。


 次の日の朝,ウィルさんがお抱えの大工を2人連れてきてくれたので屋敷のリフォームと裏庭の改造などの希望を伝える。幸い大工さん達はいい人達ですぐに1人がお弟子さん達を呼びに行ってくれてさっそく工事に入ってくれた。

 ウィルさんには必要な物のリストを渡し品質や値段などは全てお任せした。

 ただし,何をさしおいても今日中に大型のベッド1つとそれに合わせた最高のマットレスと布団を準備して欲しいと念を押しておいた。

 俺の一日の集大成とも言える癒しタイムをこれ以上逃す訳にはいかない。


 その後は前日に引き続き屋敷の掃除と草むしりである。草むしりは蛍さんが訓練の一部にするというので、つま先立ちプラス完全に腰を落とさない状態で作業をしているためしんどさが半端無い。

 夕方になりウィルさんがお待ちかねのベッド一式を届けてくれたので、一番大きい2階の一部屋を寝室と決め大型ベッドを設置した。

 その夜は筋肉痛でまともに動けなかったので3人それぞれに上で頑張って貰った。下から見上げる揺れる名峰達は実に素晴らしかった。余裕のある大型ベッドの使用感も最高だった。今後もたまにお願いしようと思う。


 翌日は大工さん達に指示を出したり,届いた荷物を搬入したりしつつ空き時間に草刈り。夕方頃まで頑張り大分ゴールが見えたころに桜に焼いて貰えば良かったんじゃないのかと気がついた。

 その後、桜の『火遁:地走り』で僅か20秒で残りの草は駆逐された…


 そしてその日,台所関係の設備が完全に蘇ったのでシスティナが張り切って買い出しに行き、侍祭の家事スペックをフルに活かした料理を作ってくれた。

 前菜,スープ,煮込み料理,肉料理,魚料理,デザート等々…

 この世界で地球のフルコースを超える料理を食べられるとは思わなかった。味はもちろんのこと盛り付けの見栄えまで考えられた文句のつけどころが無いほどに見事な料理だったので心から絶賛しておいた。

 システィナはそれを凄く喜んでくれていたが,さすがにいつもは無理ですよと可愛く釘を刺された。

 

 4日目に入ると屋敷内の清掃は一段落ついてシスティナと桜も交えて裏庭の手入れに取りかかる。

 システィナは裏庭の空いている部分にちょっとした畑や花壇などを作りたいらしく温泉施設の邪魔にならない場所を選んで土を掘り起こしたりしていたので俺と桜も手伝う。雑草と一緒に掘り起こしてしまえば雑草も枯れて肥料になるので一石二鳥だ。

 たまに大工の皆さんと休憩を取ったりしながら作業を進める。作業をしてくれている大工さん達に冷たい水を出したりシスティナ手製のリンプルチップスを出したりして労をねぎらうことも忘れない。職人さんたちのモチベーションを高く保つのはいい仕事をしてもらうためには必須事項である。

 意外にも桜が大工さん達と一番仲良くなっていたのが印象的だった。


 蛍さんは最近は1人で訓練をしていることが多い。余程先日の敗戦が悔しかったのだろう。魔法についても光魔法の可能性を探ってみると言っていたのでなんらかの成果をいずれ見せてくれるだろうと期待している。

 畑と花壇については3日程でそれっぽい物が出来上がった。種もウィルさん経由で入手しており後はうまく育ってくれることを祈るだけである。


 そして7日目,どうやらうちの3美人とシスティナの作る賄い飯目当てに無理やり都合をつけた大工さん達が日に日に作業に加わり作業ペースが異常な程早くなったので、当初予定していた日数の半分であるこの日,とうとう屋敷内のリフォームおよび温泉関係の工事が全て終了したのである。




「皆さんどうもお疲れ様でした!皆さんの頑張りのおかげで予定よりも随分早く素晴らしい物が出来ました。今日は乾杯だけですが,明日の夕方から感謝の意を込めてささやかな夕食会を開きたいと思います。

 その際に皆さんに作って頂いたものがどういうものなのかというのも体験して頂こうと思っていますので是非お越しください。では,完成を祝して乾杯!」


『乾杯!!!』


 今日作業に来ていた大工さん達が一斉に声を上げ杯をあおる。大工さん達も達成感があるのか俺達が用意したちょっといい酒をあおりながら楽しそうにしている。

 システィナ達がお酌をして回っているのも大きな理由だろうが。

 だが,実際大工さんたちはよくやってくれたと思う。源泉部分は切り出した石を丁寧に積み上げて囲い、湧き出す温泉を溜めておけるようになった。そしてそこは小さな小屋の中に格納されたので、また何かの拍子にお湯が吹きあげても周りへの被害は抑えられるし、臭いも高く作った煙突から排出される。

 源泉部分からは水路を掘ってその水路内を蓋も含めて石で補強し、屋敷の近くまで引っ張ってくるとそこから露天風呂に繋がる。

 露天風呂はどうしようか迷ったのだが日本みたいにコンクリートが無いため天然石をあしらった感じの露天風呂は諦めた。広めに掘った穴に香の良い檜っぽい木で作った大型のたらいをはめ込んだ。その周りに趣のある天然石を並べて雰囲気だけを後付したのだが、まあまあいい感じに仕上がった。

 ここに源泉からお湯を注げるようにしてある。そして反対側から屋敷に向かって更に水路を伸ばしてあるので一階の一部屋を改造して設置した室内風呂にも温泉を引き込んでいる。要所要所には取り外しの出来る仕切りを設置してあり、掃除の時などはお湯を抜くことも出来る。

 一番苦労したのはお湯を流すための高低差をうまく調整することだったのだが,ベイス商会のお抱え大工達はさすがの技術で最終的に川まで流すための水路を完璧に作ってくれた。

 更に室内風呂の部屋には壁をぶち抜き扉も後付けしたので、室内風呂から露天風呂まで移動も簡単である。

 後は露天風呂の周囲と屋敷までの道に石畳を敷いて通路には屋根を設置。ついでに覗きとかはないと思うが露天風呂の周囲にちょっと間隔を空けて板塀を何枚か立てて貰った。


 金に糸目をつけないで要望を完璧に取り入れた自慢の風呂になったと思う。その感謝の気持ちを明日の夕食会で伝える予定なのだが,明日にしたのは今日は身内だけの完成祝いを風呂でたっぷりとする予定だからだ。


 だから大工達よさっさと飲んで帰りやがれ!明日目一杯もてなしてやるから一刻も早く立ち去れ!!


 という俺の気持ちが通じたのか通じなかったのか大工共は体感で1時間近くも飲んだくれてから帰って行った。


「よし!やっと帰った!さあ皆完成したお風呂に皆で入ろう!」

「もうご主人様ってば…大工さんたちに失礼ですよ。ずっと不機嫌な顔して」

「まあ良いではないかシスティナ。私も初めての風呂を早く堪能したくてうずうずしていたからの、ソウジロウの気持ちも分からぬではない」

「桜もお風呂初めてだから楽しみ~。ソウ様洗いっこしようね」


 桜はええ娘やな~。ご褒美にたっぷりと洗ってあげよう。システィナは空気を読まない悪い子なのでお仕置き代わりにやっぱりたっぷり洗ってあげよう。蛍さんは…洗わせて貰えるなら洗ってあげよう。




「お湯に入るなんて初めてですが…大丈夫ですか?」

「大丈夫。大丈夫!一度入れば絶対病みつきになるから」


 室内風呂の手前に作られた脱衣室でお湯に入る習慣のない世界で育ったシスティナの不安を笑顔で笑い飛ばすとさっさと全裸になりタオル1本で室内風呂に移動する。


「ねぇ蛍さん!一応両方お湯張ってあるんだけど最初はどっちにする?」


 後ろを振り返ると同じように全裸でタオルを肩に掛けただけの蛍さんが堂々と脱衣室から出てくる。当然丸見えだ。


「ここはやはり露天風呂でいくべきだろうな」

「だよね!じゃあ行こう。背中流してあげるよ」

「あ~ちょっと待ってソウ様!桜も!」


 続いて飛び跳ねるように桜が脱衣室から出てくる。一応タオルで前を隠しているがお風呂に入るということで髪を降ろしていていつもと違う雰囲気が可愛い。


「わ,私も行きますから!ちょっと待ってください」


 1人脱衣室に取り残されたシスティナがちょっと不安になったのか慌てて出てくる。システィナは1人大きめのタオルを胸元から巻いて全身を隠してきた。

 うん,蛍さんの大胆さも,桜の無邪気さも,システィナの恥じらいもそれぞれに良い!


「よし行こう」


 室内風呂から外に出る扉を開けて通路に出る。露天風呂までは10歩ほどの距離である。


「温泉に入る際の注意ごとね。

 まず湯船に入る前に必ず身体を流すこと。タオルは絶対湯船には入れないこと。

 守らなきゃいけないのはそれだけだから後はのんびりくつろげばいい。

 本当なら身体を洗ってからの方がいいんだけど、今日は先に身体だけ流してみんなでお湯に入ろう。ここのところ忙しかったからゆっくりと疲れを取ろう」


 風呂桶を作ってもらう際に作って貰った木の手桶と桶,木の椅子を使って全員がお湯をかけていく。システィナがかなりおっかなびっくりだがすぐに慣れるだろう。


「じゃあ入ろう」


 足からゆっくりと湯船に入りじんわりとした温かさを堪能しながら肩までつかる。


「くはぁ~!……これだよこれ。日本人はこうでなくちゃ…」


 あまりの気持ちよさに完全に骨抜きにされているとちゃぷっと小さな水音と共に蛍さんが隣に潜り込んでくる。


「む…これはたまらんのぅ」


 蛍さんも幸せそうだ。っっぱっぁぁぁぁん!!


「こら!桜!飛びこむな!」


 桜が跳びこんだ衝撃で起こった波を頭からかぶった俺はタオルで顔を拭いながら気持よさそうに湯船に浮く桜をしかる。


「ごめんねソウ様…あぁこれ癖になりそう」

「っとにもう…」

「あの!失礼します…」


 全く応えた様子のない桜に苦笑しているとシスティナが恐る恐る湯船に足先を付けている。まあ初めてだしここはゆっくりと待ってあげるべきだろう。


「…あつ!…んっ…あっ…くぅん!…」


 なんちゅう声を…俺のマイサンが目を覚ましてしまうじゃないか。


「…くはぁ…」


 隣に入って肩までつかったシスティナは既に蕩けた顔をしている。もう温泉の魅力に囚われた顔だ。ちょろい女である。


 結局俺達は十分温泉を堪能したあと,洗いっこをして野外で存分に楽しんだ。


お湯に慣れてないシスティナがのぼせて倒れたのはいい思い出である。




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