ランクアップの秘密
「たっだいま~!」
元気一杯の桜ちゃんが帰ってきたのは深夜にかかろうかという時間だった。
「お帰り桜ちゃん。お疲れ様」
「ぜ~んぜん疲れなかったよソウ様。あれ?蛍ねえとシスは?」
俺に抱きついてきた桜ちゃんは部屋の中が妙に静かなのに気がつき首をかしげる。
「あ~その,なんていうか今日は桜ちゃん1人って約束だから…蛍さんは刀に戻ればいいけどシスティナはね…」
「あ~そっか。ちょっと悪いことしたかな?」
ちょっと申し訳なさそうな顔をする桜ちゃんに俺は笑って首を振る。
「そんなこと誰も思ってないよ。
それに蛍さんがそれなら良い機会だから女同士語り合おうってシスティナを引っ張って飲みに行ったからね。きっと楽しく飲んでるよ」
「あ!それもちょっと楽しそうかも。今度は桜も誘ってもらおうっと」
「うん,それはいいかもね。みんなが仲良くしてくれてないと俺が困るしね」
今の所蛍さんもシスティナも桜ちゃんも俺を取り合ったり嫉妬したりするようなこともなく仲が良い。人間と元刀という特殊な間柄だがそれぞれで認め合う部分あるようだ。
「桜達はソウ様のことを本当に大事に思ってくれてる人なら仲良く出来るよ。もともとあそこの蔵にはたくさん仲間がいたし」
「ありがとう桜ちゃん」
桜ちゃんを軽く抱き返して優しく唇を重ねる。
「んっ…ねぇソウ様」
「なに?」
「桜のことはいつも戦ってる時みたいに呼んで欲しい…」
「そっか…分かったよ,桜」
桜に体重をかけてベッドに押し倒しながら再び唇を重ねる。
「ソウ様…大好きだよ。あの…ごめんね。あの時ソウ様を殺しちゃって」
涙ぐむ桜の頭を優しく撫でながら首を振る。あれは桜を使ったあいつが悪い。あいつのせいで桜がこんなにもまだ傷ついている。叶うことならもう一度息の根を止めてやりたい。
「桜。あれは桜のせいじゃないよ。桜は悪くない。俺は桜とこっちにこれてこうやって触れあえて良かった。俺も桜が大好きだよ」
「…うん。ありがとうソウ様」
「そんなことより桜」
俺の問いかけに桜が目線で「なあに?」と返す。
「俺ってば3日も寝たきりだったからちょっと溜まってるみたいなんだよね。優しくしてあげられなかったらごめんね」
「ぷっ…あははは!…やっぱりソウ様はすっごいエッチだね」
くすくすと笑いながら目元をぬぐった桜は自分から唇を重ねてきた。
「いいよ。桜も蛍ねえみたいに全部受け止めてあげる。桜をたくさん可愛がって,ソウ様」
その時俺は『ずっきゅ~ん!』という音を初めて生音で聞いた。
「ソウ様…桜どうだった?」
「え,それ聞くの?さっきまでの獣っぷりを思い出して貰えば分かるでしょ」
えへへ と可愛らしく笑いながらくっついてくる桜を優しく抱き返してあげる。
「ソウ様…一応結果聞いておく?」
「ん~…別にいいかな。ありがとう桜。変なこと頼んでごめんね」
「ううん。一杯ご褒美貰ったし全然問題ないよ。これからもそういうお仕事あったらどんどん桜に言ってねソウ様」
「そう言えば桜は忍者が好きなの?」
桜はハイドベアーの戦いの時の興奮状態といい,選んだ衣装といい,火魔法の命名といい一貫して忍者テイストだった。
「うん!残念ながら桜が産まれた時には忍者はもういなかったんだけど,蔵の中には忍者全盛の頃の子もいて,中には本当の忍者を所有者に持ってた子もいるんだよね。
その子たちから話を聞いていつもカッコイイなって…そしたら消える熊さんが出てきたでしょ。もう最高に興奮しちゃって桜もああなりたい!って」
そうだったのか。じゃあ忍者っぽい能力に目覚めてよかったね…ってそうじゃない!
たまたま忍者が好きな桜がたまたま忍者に最適なスキルを身に付けるとかそんな偶然ある訳ない!…いやなくはないだろうけど。
ということは1つの仮説が浮かぶ。それは
『魔剣達はランクアップ時に自分の望む方向性に能力を伸ばすことが出来るのではないか』
ということ。だから桜は忍者にとって重要な敏捷性が上がり,隠形なんてスキルを覚えたんじゃないだろうか。逆に蛍さんは奇をてらわず全体的な総合力の上昇を目指す傾向がありそうだから既存のスキルの中でも戦闘系の技能が軒並み+に上がった…
なんか説明が付く気がする。蛍さんは今後なかなかランクアップは難しいだろうけど桜はまだまだランクアップの余地がある。
今後はランクアップが近くなったらその辺を2人に意識してもらうようにした方がいいかもしれない。
『桜
ランク: B 錬成値 31 吸精値 7
技能 : 共感 意思疎通 擬人化 気配察知 隠形
敏捷補正+ 命中補正 魔力補正 火魔法』
Bランクにもなると吸精値の上りも鈍いか…でもSランクの蛍さんの時はもうちょい上がってたような…1回目のはきっと童貞卒業ボーナス…は冗談だとして多分産まれてから今まで溜めてたモノを吐き出したからだとして,それでも2回目の時は…
魔精変換か!魔力を精力に変換してからの方が魔剣の育成には効率がいいってことか。
今後はシスティナ以外は魔精変換をしてからにした方がよさそうかな。
ランクアップ時の特性について桜にも説明しておく。
「そうなんだぁ。なんか納得。確かにそんなに都合よくなりたい自分になれる訳ないもんね。じゃあ今後はなるべく自分に必要だと思う能力を思い描いておいた方がいいよね」
「多分ね」
「うん。そしたらもっとソウ様の役に立てるようになるね。
あ!そうだ。そろそろ蛍ねえ達に戻ってきてもいいよって伝えてあげてソウ様」
「え,いいの?」
「うん!十分ソウ様を独り占めしたしね。流石に徹夜で蛍ねえに付きあわせるのはシスにはきついんじゃないかなぁ」
へへ と笑う桜の言葉に俺はなるほどと納得する。酒場だって夜通しやってる訳じゃないしどっかで追い出されたらまだ回復したてのシスティナには負担だろう。
「分かった。届くかどうか分からないけど戻っていいよって送っておくよ」
「うん,そしたら皆で一緒に寝よう!ちょっと憧れてたんだ。そういうの」
桜の頭を優しく撫でながら俺は微笑む。刀だった桜は当然人肌を感じて眠るなんとことは知らないから興味があるのだろう。そしてそれが想像以上に素晴らしいことだと今日初めて知ることになる。
間もなくして戻って来た蛍さんとシスティナを布団に招き入れ4人で眠った。とてもいい気分で朝まで爆睡したことは言うまでもない。




