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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第1章

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23/203

決着

…嘘だ。あの蛍さんが?そんな馬鹿なことある訳…ない。


『蛍ねえ!…もう絶対あいつは許さない!ソウ様や蛍ねえを傷つける奴は桜が殺す!』


 桜ちゃんの怒りが伝わってくる。


『ソウ様!桜に…桜に魔石をください!お願いします!もう見ているだけは嫌です。桜もソウ様や蛍ねえと一緒に戦いたい!』

「…」


 桜の縋り付くような願いに俺は即答出来なかった。高額で売れる魔石が惜しい訳ではない。桜のためなら全ての魔石を錬成してあげても構わない。でも…


「…今ある魔石を錬成してもランクアップするかどうか分からないし,せっかくランクが上がっても『擬人化』のスキルを覚えないかもしれない。それでもいいの?」

『うん!今度は桜がソウ様を守るから!

 …もうソウ様を傷つけたり,ソウ様の血を浴びるのは嫌だよ』


 桜は一度は俺の命を奪ってしまったことを深く後悔している。自分の意志ではないとはいえ大量の俺の血を浴びて強くなったことに負い目も感じている。

 だからこそ俺達が窮地のこの時に自分の力で皆を守りたいのだろう。その桜の強い意志に俺は迷いを捨てた。迷いの理由は桜に問いかけた事ではない。本当の理由は添加錬成をしたことで俺の魔力が尽きて意識を失ってしまったら仮に桜が擬人化しても俺達は全員助からないだろうということだった。


「だがこのままでいても同じことだ」


 俺は桜を床に置くと自由になる右手でポーチから火魔石を取り出す。やるなら最大の効果を狙う。無属性のHで2は上がったんだサイズから考えても火属性のBなら50くらい上がったっておかしくない。

 錬成の消費魔力の計算が魔石の個数に大きく左右される設定であってくれれば俺の魔力も枯渇するまで消耗しないかもしれない。

 

『添加錬成』

 

 体内の魔力がぐわっと減っていくのが分かるが魔力枯渇したときほどではない気がする。そのまま減るに任せているとやがて手の中の火魔石が淡く光を放つ。その火魔石をゆっくりと桜の上に重ねていく。固いはずの火魔石はなんの抵抗もなく桜の中に吸い込まれていく。

 そして吸い込んだと同時に桜全体が淡い光を放ち…徐々に消えていく。

 魔力は大分減ったが気を失う程ではない。

『武具鑑定』


『桜  

 ランク: B  錬成値 31  吸精値  1

 技能 : 共感  意思疎通 擬人化  気配察知  隠形   

 敏捷補正+  命中補正  魔力補正  火魔法』


「っしゃ!やった…桜。やったぞ!」

『ソウ様!じゃあ!』

「うん,でもこんな状況じゃいきなり頼っちゃうことになるけど…」

『いいんだよソウ様。桜はソウ様が大好きなんだから。ソウ様のために頑張らせて』

「ありがとう…桜」

『じゃあソウ様。いくよ…『擬人化』』


 桜の暖かい想いを感じながら桜を見守っていると一瞬の輝きの後そこには桜が立っていた。もちろん裸である。

 艶のある長い黒髪をポニーテールにまとめ,身長は150㎝程度でやや低めな感じがするが出るところはそこそこ出ているしウエストも引き締まっていて充分女らしい。口調や雰囲気から蛍さんの時以上に心配はしていなかったが女の子で良かった。

 桜は初めて目で見る光が眩しいのかゆっくりと目を開ける。そしてその焦点が俺の顔に合うと極上の笑顔を見せた。めちゃくちゃ可愛い。


「ソウ様!」

「っが!」

「やっと…やっと会えた。やっとソウ様に触れる」


 感極まった桜が俺に抱きついてくる。桜も裸で,俺も上半身裸な訳でとても魅力的な状況だが折れた左腕が痛くて楽しむ余裕はない。

 なによりも片足を失った蛍さんの動きがほとんど見られないのが怖い。蛍さんが死んでしまうなんて絶対に認めるわけにはいかない。


「桜…嬉しいけど今は我慢して」

「うん,そうだね。今度からはいつでも抱き合えるもんね。今は…」

 

 桜はそう言って名残惜しそうに俺を離すと突き刺さるような殺気を放ち始める。


「今はソウ様や蛍ねえを傷つけたアイツを…」

「ああ…いい加減俺もはらわた煮えくりかえってるんだ」


 俺は腰に差した桜の鞘を渡しながら立ち上がる。 

 桜は黙って鞘を受け取ると一瞬で着衣へと変換する。その姿が完全に女忍者だったことには今は触れまい。


「桜,火魔法が使えるようになってるけど使い方は分かる?」

「大丈夫だよ。桜たちはずっと考えることしか出来なかったからね。イメージ力重視なら任せておいて」 

 

 なるほど…蛍さんの魔法への親和性が高かったのはそういうことか。


「ならやることは分かるな」

「うん,任せて。陽動,攪乱しつつ接近戦は避けて魔法でボコボコにすればいいんだよね」

 

 100点満点の回答に優しく頭を撫でてやると桜は気持ちよさそうに目を細め,そして目の前から消えた。


 はや!全然見えなかった…本当に忍者みたいだ。敏捷補正+は伊達じゃないな。


『火遁:爆』


 爆音と共に階層主の背中が爆発する。


 グギィエェェェェ!!


 早速桜の猛攻が始まったらしい。目まぐるしく動く桜を遠目からでもほとんど捉えられないのは『隠形』スキルも影響しているのだろう。桜経由で俺が使うよりも桜が自分自身に使う方がハイド率が高いらしい。


『火遁:矢雨やさめ


 更に桜の魔法攻撃が続く。今度は虚空に現れた無数の炎の矢が階層主にへと降り注いでいる。自己申告通り初めて火魔法を使っているとは思えない熟練度だ。

 システィナも巻き込まれない様にさっきよりは間合いを広めにして戦っているようだ。


 その間に俺は蛍さんの下へと急ぐ。走ると左腕が揺れて痛みが突き抜けるが近づくにつれて見えてくる蛍さんの姿に痛みなど感じている余裕がなくなる。

 蛍さんの姿はかつてないほどに弱々しい。左足は腿から下が無く,腰回りの着物も破れヤツの牙が喰い込んだ跡から血が流れていた。

 蛍さんがあんなヤツに騙されるほどに焦っていたのは俺を庇った傷が思ったよりも深かったこと,そして俺を殺されかけたことに対する危機感のせいだろう。早く仕留めなければまた俺が怪我する。場合によっては死ぬかもしれない。そう考えたのだろう。

 蛍さんの怪我は全て俺の弱さが原因だ。


 早く駆け寄って無性に謝りたい。


『何を言っている…お前は強い。まだまだ修練が足りないのは確かだが,まだこちらの世界に来てから1週間だぞ。普通ならここまで戦えるものか。

 お前には才能がある…私が保証するぞ』

「蛍さん…」


 俺の気持ちを感じたのか蛍さんが苦笑交じりに伝えてくる。


『火遁:槍』


 グッギギギギィィィ!!


 桜の炎の魔法が止まらない。今度は太い炎の槍がドラゴマンティスの左の鎌の付け根辺りに貫いた。炎の槍は刺さった場所を内部から焼いたらしく左の鎌がだらりと垂れさがる。

 神経系が焼き切られたのだろう。


 凄い…この階層主と桜の相性はかなりいい。だが…人化に成功して魔法を始めて使い始めたばかりなのにあんなに大技っぽいのを連発してたら魔力だってそんなに長く持たないんじゃないか?

 そう考えれば一方的に見えてもやっぱり際どい戦いをしていることになる。


『まずいぞソウジロウ!なにかするつもりだぞ!』


 蛍さんに促されるまでもなく確かに階層主の様子が変わっていた。

 今まではとにかくやみ雲に攻撃を繰り返し,目の前のシスティナと見えない桜を狙っていたのに鎌が1つ使えなくってからは身体を丸めるようにうずくまって防御に専念しているように見える。


「何をするつもりだ…防御に専念するだけじゃ桜の的になるだけなのに」


 何かをするつもりだとして警戒はしてもせっかく動きが止まっているのを見過ごす訳にはいかないのだろう。

 システィナも桜もこれ幸いとばかりにハンマーを叩き付け刀で斬りつける。

 防御に専念しているせいかどちらの攻撃も十分に効いているとは言い難いがダメージ自体は通っている。このままなら遠からず主の体力を削り切れるはずだ。

 まさか…本当にこれで終わるのか? 


 その時,俺の中にかすかな違和感がよぎった。

 ちょっと待て…今あいつ膨らんだ?なんだ,やばい気がする!


「桜!システィナ!離れろ!」

「「え?」」


 グギィィイィィィィィィィィ!!


「きゃあああぁぁぁぁ!」


 ビシィ! ビシィ!

 

 呆然と眼を見開き立ち尽くす俺の身体のあちこちから血しぶきが舞う。

 だがもはや俺の傷はどうでもいい。

 視線の先で血まみれになって倒れているシスティナと桜の姿が,俺の背後で起き上がることさえ出来ない蛍さんの姿が痛い。


 ふざけるなよ…俺の最高の女達を傷つけるような極悪人を俺がこれ以上のさばらせておくと思うな。

 俺の頭の中の何かがかつてない以上に冷え切るのがわかる。

 俺は静かに右手を背後に伸ばすと告げる。


「蛍,来い!」

『承知した。我が主』


 次の瞬間俺の右手に頼もしい感触と共に蛍丸が握られた。


 ゴトリ ゴトリ


 同時に振り下ろされた一撃で足首についていた重りが床へと落ちる。更に逆手に握りなおした刀で胴体についていた重りも外す。

 そして一回り小さくなった階層主へ歩み寄る。刀に戻った蛍丸は刀身の先が欠け,一部刃毀れもしている。あいつの防御力を考えれば折れてしまうのを覚悟しつつ振れて1度が限界だったろう。

 だが,あいつはシスティナと桜の猛攻に自らを守っていた鱗を武器として放出してしまった。あの鱗がなくなった状態のやつならば蛍さんにそこまでの負担をかけずに済むだろう。だが,傷ついた蛍さんにもしものことがあったらマズい。突くにしろ斬るにしろ一撃に勝負をかける!


 俺はそう覚悟を決めて一気に走り出した。


「ソウ…ジロウ様…後はお願い…す」

 

 血に濡れた顔で俺を信じ笑顔でエールを送るシスティナ。


「ソウ様ごめん…失敗…しちゃった…」


 おそらく魔力枯渇寸前の上に両足に多数の鱗を受け立ち上がれなくなって泣きそうな顔を向ける桜。

 そして…


『私のことは気にするな。思い切って行け!』


 全てを預けてくれる蛍。

 

 俺がこの世界で生きる理由とも言うべき3人の信頼を受けて走る。かつて無いほどに冷え切った思考は傷ついたシスティナ達を見ても乱されることはない。


 だから右の鎌の振り下ろしを躱す。


 噛みつきを躱す。


 尾での打ち払いを躱す。


 鎌での横薙ぎの一撃を躱す。


 体重を乗せた踏みつぶしも躱す。


 躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す。躱す!


 妙に引き延ばされた時間の中で鱗が無くなったせいかなめらかかつ速度の上がった攻撃を間断なく繰り出す階層主。

 その攻撃は激しいがどこか焦りを感じさせる。おそらく最後のとっておきだった攻撃手段であり,身を守る盾でもあった鱗を失いそれでも倒しきれず立ち向かってくる敵にいよいよ身の危険を感じてきたとしても不思議はない。

 だがこちらも満身創痍。重りを全て外した上に,スーパー光圀モード(自称)状態での全力駆動で身体を騙しているようなものだ。

 後はドラゴマンティスが決定的な隙を見せるのが早いか,俺が力尽きるのが早いかの勝負だがこちらからは降りるつもりはない。左腕が悲鳴を上げようと出血過多で全身を倦怠感が襲おうと極度の集中状態で脳神経が焼き切れそうな錯覚に陥ったとしても!


「うおおおおおおおおおおおお!」


 …グ,グギギギィェェェアアア


 どれだけ攻撃しても攻撃をが当たらない俺の突然の咆哮に初めてドラゴマンティスの目に怯えの色が浮かぶ。そしてその怯えを振り払うかのように咆哮を返し,突き動かされるようにその開いた口を俺の頭上にかぶせてくる。

 俺はその腔内の牙が迫るのをスローモーションのように見つめながらギリギリでバックステップを踏む。その時確かに目の前を通り過ぎていくドラゴマンティスと目があった。

 そこには紛れもない恐怖が張り付いていたが俺には関係ない。

 

 俺は腰だめに構えた蛍をドラゴマンティスのその目に深々と突き立てた。


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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ 小説1巻~3巻 モーニングスターブックスより発売中 コミックガンマ+ にてコミカライズ版も公開中
― 新着の感想 ―
[一言] 重りをつけていたのを、今まで忘れてたの? あまりにおかしな展開なので修正したほうが良いと思います。
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