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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第1章

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22/203

反攻

 いってぇ……?って痛い?

 ある種の諦念と共に吹っ飛ばされた俺は確実に全身バッキバキの即死を覚悟していたのだが,まだ身体の痛みを感じるってことは生きてるということだ。

 確かに衝撃を受け吹き飛ばされたのに固い床ではなく柔らかくて気持ちがいいものに包まれているような…やっぱり死んで天国に来たのだろうか。


「寝ぼけている暇はないぞソウジロウ。早く起きろ」


 あぁ…もう聞けないかもと思っていた蛍さんの声だ。俺はこんな状況にもかかわらずおもわず感じてしまった安堵に吐息を漏らす。


「早かったね蛍さん…」


 目を開けるとそこには蛍さんの大きなクッションが二つ俺の顔を挟んでいた。


「事情説明は私とシスティナが交代した後システィナから治療を受けつつ聞け」


 そっか。まだまだ戦闘中だった…でもさっきの一撃はどうしたんだ。どう考えても避けられるタイミングじゃ…!!


「蛍さん!もしかしてさっきの攻撃!」

「よい。私しか間に合わなかったし,私は頑丈だからな」


 俺と階層主の尾の間に割り込んだのか…なんて無茶を。


「ソウジロウ。そのことは後だと言っただろう。こうしている間にもシスティナは1人で主の相手をしているのだぞ」


 蛍さんの言葉にはっとして振り向くとそこでは戦斧を縦横無尽に振り回して主を牽制し続けるシスティナがいた。

 …こうしちゃいられない。

 俺は悲鳴を上げる身体を動かして下敷きにしていた蛍さんを解放する。


「よし。私はシスティナと交代してあいつを引きつける。その間に回復しておけ」


 蛍さんは微笑みながらそう言うと右手を蛍丸に変化させて主へと向かって行く。本来ならその細いながらも頼もしい背中を見て安堵するのだが今日は…


「あの背中…くそ!」


 身を挺して俺をかばってくれた蛍さんの背中は着物が擦り切れて丸見えになっている。そして本来なら白くなめらかなはずの蛍さんの背中は血にまみれていた。

 刀としては丈夫で擬人化してもその特性をある程度引き継ぐとは言ってもあれだけ『人』に寄ってるんだから負傷もすれば流血もする。そんなことはちょっと考えれば分かるのに俺はよく分かってなかった。

 くそ!あの傷は俺が弱かったせいだ!


「ソウジロウ様!良かった!ご無事で」

「ぐほっ!」


 俺の負の思考を文字通り体当たりで止めたのはもちろんシスティナである。


「本当に死んでしまうかと思いました…」

「…ごめん」

「蛍さんがいなければ間に合いませんでした…」

「うん…あの傷は俺のせいだ」

「…傷を見せてください。治療します」

「うん…ありがとう」


 無意識に傷口を押さえていた手を離すとその傷を見たシスティナの表情が強ばってかなり慌てたように回復魔法を施していく。

 結構重傷だったらしい。システィナの勧めに従って傷薬を購入してなかったら間違いなく命は無かっただろう。

 

「システィナ。どうしてこんなに早くここまで?」

「はい,トォルさん達を連れて帰る途中に高階層探索者のパーティに出会えたので事情を話して2人を預けて私たちは蛍さんの気配察知と…」

 

 システィナの視線が腕のパーティリングを見る。


「パーティリングのおかげでぎりぎり間に合いました」

「そっか…」


 レイトーク側が雇うと言っていた高階層を探索できるパーティが来たのか。それにすっかり忘れてたけどこのリング…借金してでも買った甲斐があったってことか。無理矢理売りつけてくれたウィルには感謝しないとな。

 まぁもっとも…この場を凌げたらの話だが。今現在も視線の先では蛍さんが階層主を1人で引きつけながら激しい戦いを繰り広げている。

 リーチの差があるうえに回復中の俺達が狙われないように注意を引き続けなければいけない状況下である。それなのに蛍さんは主の攻撃をかわし,受け流し,隙を見て斬りつけている。さすがに1人で倒せるという感じではないが危なげない立ち回りは流石である。

 だが,本来の蛍さんの動きのキレがない気がしてしまうのは俺の気のせいなのか,それともやはり背中に受けたダメージが大きいせいなのか…

 いずれにしてもいつまでも蛍さん1人に任せておく訳にはいかない。


「システィナ。さっき階層主と戦ってみてどうだった?」

「…強いです。なんとか護身術などの技能を駆使すれば自分の身を守ることは出来そうですがこちらからの攻撃はあまり…」


 そうか…システィナの戦斧もランク的には俺の大剣と変わらない。あのクラスの変異種相手では威力が足りないんだ。そうするとまともに攻撃が通るのは蛍丸と桜の斬撃だけ…圧倒的に火力が足りない。

 物理が駄目なら…後は魔法か。でも俺たちの中で攻撃出来そうな魔法を持っているのは蛍さんだけ。しかも実際に攻撃出来るかどうか試したこともない。


「システィナ。光魔法って攻撃できる種類の魔法はあるのかな?」

「…すいません。ちょっとわかりません。先日は言いませんでしたが光魔法は珍しい魔法なんです。全くいないという訳ではないのですが情報が広く流布されるほどではありません」


俺のラノベ脳で考えれば光の刃とかレーザー的なものとか光熱的なもので攻撃出来そうな気がするけど光という性質上ぶっつけ本番であてにするは怖いか。


「じゃあ,ここにある火魔石を使うのはどう?」

「…本来魔石というのは攻撃に使うものじゃないんです。この火魔石も普通に魔力を通しただけでは炎が出るだけです。大きさが関係してくるのはその現象をどの程度の期間安定して供給出来るかということです。

 バクゥという方がやったのは過度な魔力を一気に注ぎ込んで暴発させるという自爆技です。この大きさの火魔石で同じことをしようと思ったら莫大な魔力量が必要な上に暴発させた人は無事ではいられないと思います」


 あっぶね!俺が魔力使えてたらリアルメガ○テ状態だったってことか。そうするとうちのパーティじゃ魔法での攻撃も難しい。やっぱり倒すのは諦めるしかない…か。

 蛍さんとシスティナがいればなんとか倒せるかもと思ったんだけどな…やられっぱなしで逃げるしかないのか。

 この階層主自体は高階層探索者がトォル達を送り届けた後に倒しにくるはずだから無理して俺達が倒す必要は多分ない。ないけど…やっぱり正直悔しい。

 でも俺の下らない意地のために蛍さんとシスティナを勝ち目の薄い戦いに巻き込む訳にはいかない。


「システィナ。俺の回復はあとどれくらい?とりあえず走れるだけ回復できたら皆で逃げよう」

「…走れる程度の最低限の回復ならもう大丈夫だと思います。傷ついていた臓器もなんとか問題ない程度には治癒できました。

 ただ,完全に治すためにはしばらく定期的に経過観察と治療を受けて頂いた方がいいと思います」

「うわ…マジでやばかったんだね。了解。ここから出たらちゃんとシスティナの指示に従って治療にあたるよ」

「はい。

 …それをお約束頂けるのであれば」

「ん?」


 俺の殊勝な言葉に笑顔で頷いたシスティナは一瞬迷うような素振りを見せた後,真剣な顔で言葉を続ける。


「もう少し無理をなされても侍祭システィナの名に賭けて必ず治してみせます」

「システィナ…」

「私は…今回ソウジロウ様が私のためにしてくれた事をそのままソウジロウ様にお返しします」


 …まいったな。システィナにはお見通しだったのか。俺が階層主を倒したいと思いつつもシスティナ達の安全を言い訳にして勝てそうもない敵から逃げようとしていることを。

 そして逃げればきっと俺が後悔をするということも…

 そういう後悔をシスティナにさせないために俺達は今日無謀な塔探索に臨んだ。同じ気持ちでシスティナは俺の背中を押してくれている。


「システィナ…」

「はい」

「なんだか照れくさいけど嬉しいもんだね」

「はい!」


 よし!やってやる。この世界で生きていくんだ。この程度の魔物ぐらい倒せないでどうする。俺達ならやれる!

 システィナに抱きかかえられるようにして治療を受けていた俺はゆっくりと立ち上がるとシスティナへと手を伸ばす。


「絶対にやつを倒す」

「はい」


 俺の手を掴んで立ち上がったシスティナが戦斧を構える。


「現状あいつに一番有効打を与えられるのは蛍さんだ」

「はい」


 俺も桜ちゃんを右手に握りなおして構える。


「なら俺達は蛍さんが攻撃しやすいように動く」

「はい」

「システィナは正面を頼む。俺は桜と一緒に陽動する。もし正面が支えきれないようなら俺も正面に回るから絶対無理はしないこと」

「はい!」

「桜ちゃんはまたスキルよろしく」

『了解だよ。ソウ様』

「よし行こう!」  


 走り出して気が付く。痛みが無い…あれほど身体中を苛んでいた痛みがすっかり消えていた。やっぱりシスティナは凄い!大量の失血をしたことによるだるさは依然としてある。だがこれなら痛みに集中を乱されることはない。

 長くは動き回れないだろうがそれまでに決めてやる。


 システィナが階層主の正面に陣取り注意を引いたところで作戦を伝えるべく蛍さんに接触する。


「来たかソウジロウ。やると決めたのだな」

「うん,どうしてもこいつを倒したい」

「いいのう。武人の顔ぞ」

「ちゃかさない。俺たちが注意をひいて蛍さんがとどめ。よろしく」

「任せておけ」


 蛍さんはそういうと階層主の間合いから少し離れた位置まで下がった。

 必殺のタイミングを見計らい最高の一撃を叩き込むために集中するのだろう。

 俺達がするのは集中力を高めるための時間を稼ぎつつ最後の一撃のための隙を作ることだ。

 

 システィナが防御に専念しつつドラゴマンティスの二つの鎌を巧みにさばく。ウエイトが違いすぎるため受け止めると身体が浮いてしまうので細心の注意でうまく力の向きを変えながらさばいているらしい。

 俺はシスティナにムキになっている主のサイドに回り込み桜で斬りつける。

そんなに深くは斬れないがシスティナに注意を向けている状態での死角からの攻撃のため桜のスキルが有効に働き俺を視認できないので反撃はこない。


それならシスティナの負担を減らすためにも削れるだけ削る!


 狙いは…左足!あれだけの巨体を二本の足で支えてるんだちくちくやられたらしんどいだろうが!


 グギァァァアァァ!!


 よし!効いてる!

 俺は決して足を止めない様に位置取りを調整しながら何度も何度もドラゴマンティスの左足を斬りつけていく。

 視界の端に映るシスティナの動きが疲労のためか鈍くなってきているのが気になるが今は攻撃を続けることがシスティナの助けになると信じて桜を振るい続ける。

 

 そしてとうとうその時が来る。俺の執拗なまでの攻撃が階層主の体重を支えていた左足の限界に到達した。


 ギゥオオオォォォォ!!


 今までとは違う苦悶の声を上げながら主の腰が落ちる。それこそが待ち望んでいた隙。


「蛍さん!」


 俺は叫ぶ。蛍さんなら当然既に飛び出していることを確信しつつもエールを込めての絶叫だ。


 そしてその声が領域に響くとほぼ同時に俺の目には階層主の顔付近に向かって跳躍している蛍さんが映っていた。

 このまま蛍さんがこいつの首を斬り落とせば俺たちの勝ちだ!


その瞬間俺は確かに見てしまった…勝利を確信した俺の視界の中のドラゴマンティスがニマリと笑うのを。そしてその口を大きく開き空中で身動きの取れない蛍さんの下半身に噛みつく光景を。


「え?」


 馬鹿な!まさかこっちが嵌められた?蛍さん!助けなきゃ!

蛍さんを助けるべく一歩踏み出そうとした俺はドラゴマンティスが見えない俺を薙ぎ払うためだけに振り回した尾に気づくのが一瞬遅れる。かろうじて左腕を盾にすることには成功したがまたしても弾き飛ばされた俺は初めて自分の骨が折れる音を聞いた。


「ぐ…ぁぁぁぁ」

『ソウ様!ソウ様!』


 桜の悲愴な呼びかけに応える余裕も無いほどの痛みが左腕を襲っている。目を固く閉じて歯を食いしばってようやくなんとか耐えられる。

くそ!魔物に騙されるなんて!そんな駆け引きが出来る程の知恵がある奴もいるのか。

 

「あぁ!蛍さん!」


 怒りと後悔で脳内を埋め尽くし痛みを誤魔化しているとシスティナの切羽詰まった叫び声が響く。

 くそ!くそっ!俺はなにしてるんだ!こんなところで寝っ転がってる場合じゃない!


 痛みなんかくそ喰らえだ!無理矢理痛みを押しやると現状を確認するために目を開けて上体を起こす。


「そ,そんな…ば…ば」


 そんな俺の目に飛び込んで来たのは信じられない光景だった。

 片足を階層主に食いちぎられた蛍さんが宙を舞っていた。


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