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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
おまけSS

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202/203

トォルの決断(後編)


 飛竜を倒すと決めたのは確かに俺のくだらねぇプライドによる部分が大きいが、それとは別にしてもここで飛竜を倒しておくことには意味がある。このまま森の魔物が外へと逃げ出し続ければ、周囲の村々に被害が出る。そして、飛竜も周りに獲物がいなくなれば餌を求めて動き出すだろう。その際に村が見つかればやばい。

 ギルドに報告しても討伐の準備ができるまでには時間がかかる。ここで倒せるなら倒してしまったほうがいい。


「あにぃは自己評価が低いっすけど『剣聖の弟子』はAランクパーティ。この評価に間違いはないっす。人数の少ないパーティなのが、やや欠点っすけど竜殺し程度は十分やれるだけの実力はあるっす」


 俺たちはときおり森から出てくる魔物たちを討伐しながら、飛竜を倒すための作戦を立てていた。今回飛竜を倒したいっていうのは完全に俺のわがままだ。かといってひとりで戦うには過ぎた相手、アーリたちの手を借りるしかない。だから間違ってもパーティメンバーに被害が出ないようにしっかりとした作戦が必要だった。


「ん! いま飛竜が一匹獲物を狩って食事中のようだな。ヤシチの言う通りなら腹が膨れれば眠りだすだろう」

「思ったよりも早く狩りをしてくれて助かったっす。フーねぇはそのまま奴が眠りそうになるまで音を拾って欲しいっす」

「雑作もない。まかせておけ」


 平耳をぱたぱたと動かしながらフレイが胸を張る。俺たちがここまで有名になれたのもフレイの聴力があったお陰だ。本当にすげぇ奴なのに昔はいろいろあって不幸だったみたいだが、ソウジと出会ってからのフレイは幸せそうだ。アーリがたまにそれを羨ましそうに見ているのを俺は知っている。俺でその寂しさを埋められるかどうかはわからねぇ。わからねぇが、俺が駄目ならそろそろアーリを自由にしてやりたい。一緒に生きていくに足りる男を自分で探せるようにな。


「続きをいいっすか? おいらたちに竜殺しをするだけの実力はあるっすけど、戦ううえで圧倒的に足りないものがあるっす。なにかわかるっすか?」

「……火力、ですね」

「さすがアーねぇっすね、正解っす。うちのパーティには攻撃魔法の使い手もいないですし、大型武器の使い手もいないっすよ。竜種の鱗を突破するための火力が足りないっす」


 竜種の鱗は高い物理耐性を持っている。それは亜竜である飛竜も同じだ。だが空を飛ぶ飛竜なら。


「たぶん、あにぃがいま考えたことも正解っす。飛竜は竜種の中では格段に物理耐性が低いっす。それは自重を軽くするために鱗を少しずつ薄くしていったからと言われているっすよ。でも、それでも火力不足は変わらないのが悲しいところっすね。おいらの見立てでは、一番火力のあるフーねぇでも同じ場所に全力攻撃を何度か当てる必要があるっす」


 確かに俺たちのパーティは、俺自身が軽装剣士で重装備ができないうえに、アーリはレイピアなんかの刺突武器で、フレイは小剣二本と手甲による近接格闘、そして斥候職であるヤシチはいわずもがな。ソウジたちが使っているようなすっげぇ斬れ味の刀でもあればまた話は違うんだろうが、一撃あたりの攻撃力は俺よりもフレイのほうが高い。


「ですが、今回の相手は手負いっす。負傷している左の翼側の胴体にも傷があって、そこにはまだ鱗がないままっす」


 なるほどな、手負いゆえの怖さはあるが、弱っているうえに弱点付き。俺たちにも勝算はそれなりにあるってわけだな。


「それを踏まえて、アーねぇと考えた作戦を伝えるっす」



◇ ◇ ◇



「よし、間違いなく眠っている」


 全員で作戦を共有し、詳細を詰めているうちにフレイから飛竜が眠りだしたという報告を受け森へと入った俺たちは、思っていた以上に森の浅い部分で眠っている飛竜を発見した。この位置だと、次の狩りのときには森を出ていた可能性が高い。飛竜を見つけた段階で依頼主の村には避難を呼びかけているが、目に見える危険として認識していない村人たち……どんなに素直に避難を始めていたとしても出発は明日以降だろう。


「じゃあ、やるっすよ。フーねぇは耳を気を付けてくださいっす」

「ああ、わかっている」


 フレイは湿らせた布を平耳の下に挟み、さらに上から手で押さえる。それを確認したヤシチは気配を消しつつ、寝ている飛竜のところへと近づいていく。その様子は緊張感があるものの、動き自体は大胆だ。変に縮こまって動くほうがかえってミスをしやすいらしい。

 ヤシチは躊躇う素振りすら見せずに飛竜の足もとや、翼のあたりで作業を行うと大急ぎで飛竜から離れた。


「木の陰に隠れろ!」


 俺の言葉と動作に近くにいたアーリとフレイは、しっかりと耳を押さえて木の根元にしゃがみ込む。当然俺も一度飛竜から視線を切って、木の陰に身を潜める。と同時に背中の樹木と足の裏の地面越しに鈍い振動が伝わってくる。


「あにぃ!」

「おう! フレイ! アーリ! いくぞ」

「うむ!」

「はい!」


 武器を構え背後の木を回り込むと、いまだに納まらぬ砂煙が視界を塞ぐ。そしてその中からは怒りに震える飛竜の咆哮。


「作戦通りいくぞ」


 砂煙の中でもその大きな体と、咆哮で飛竜の位置はわかる。俺たちは近づきすぎないように各自の持ち場へと移動する。そのころにようやく視界が晴れてくる。


「あにぃ! 第一作戦は成功っす。奴の右足と左翼は潰しました!」

「よくやった!」


 どこかから聞こえてくるヤシチの声に惜しみない称賛を返す。晴れた視界の中では左翼を失い、右足を血に染めた飛竜が咆哮を上げつつのたうっている。俺たちが最初にやったのは飛竜の移動手段を封じることだ。そのためにヤシチの虎の子である火薬玉を使った。

 桜師匠から作り方を習ったというその不思議な玉は、導火線というのに火をつけると一定時間後に爆発するという道具だ。

 材料がなかなか揃わないうえに作成も難しく、長く保存しておくと品質が落ちるらしく大量生産ができないという難物。だが、攻撃魔法が使えない俺たちのパーティにとってはときに切り札にもなるもの。それを全部使用しての先制攻撃。

 本当なら寝ている間に一気にとどめがさせればそれにこしたことはなかったんだが、俺たちの攻撃力じゃ仕留めきれない可能性が高い。その際に怒りくるった飛竜を倒しきれずに取り逃がすよりは、火薬玉を全部使ってでも奴の機動力を奪う。そうしておけば、仮に俺たちがしくじったとしても周囲への危険度は下がるという読みだ。

 それに、うまくいけば狩りが出来なくなっての衰弱死すら期待できる。まあ、いつもなら、そんな確実な戦法もありだっただろうが、今日だけは違う! 


「いくぞぉ!」




 俺の声に応える仲間たち。爆発での負傷のパニックから回復した飛竜も、どうやら俺たちが敵だと認識したらしく、俺たちに怒りの眼を向けている。俺の役目は、あいつの注意を引きつけること。


「おら! こっち向けや!」


 俺は飛竜の顔の前を素早く動き回りながら、飛竜の顔や首を斬りつけていく。案の定、速さを重視した俺の攻撃では飛竜の皮膚を一撃で肉まで斬り裂くには僅かに力不足だが、傷がつけられない訳じゃない。それに同じ場所を狙い続ければ深い傷も与えられるはずだ。その機会が来るまでは、ひたすら敵の攻撃をかわしつつ、こちらの攻撃を当て続けていくしかない。

 幸いヤシチによれば、この種の飛竜にブレス攻撃はないらしい。だから噛みつき攻撃と尻尾の薙ぎ払い、あとはのしかかりや体当たりなどの体格差を使った攻撃にだけ気を付ければいい。


「へっ、温いな! あんときの奴は素早いうえに爪鎌や蹴りまであったぜ」


 レイトークで遭遇したドラゴマンティスに比べれば、傷ついたこの飛竜はまったく怖くない。落ち着いて戦えば俺が被弾することはない……もっとも一回でもまともに攻撃を受けちまったときの命の保障はねえけどな。


「おっと」


 ちょこまかと動き回って顔付近や首を斬りつける俺がうっとおしいらしく、頭を振っての攻撃と噛みつきを頻繁に繰り出してくる飛竜。へへっ、だが俺ばかりに構ってていいのかよ。


『――――――!!』


 俺に噛みつこうとした飛竜が、その途中で苦悶の叫びを上げてのけ反る。傷で鱗がない弱点をフレイが攻撃したのだろう。その痛みに飛竜は攻撃対象を変えようと身を捻ろうとするが……


「させるかよ!」


 無防備に晒された飛竜の首に全力の踏み込みで全体重を乗せた渾身の突きを放つ。その一撃は飛竜の鱗を貫き剣身の半分ほどを首へと沈めた。だが、この巨体相手ではそれだけじゃ足りない。


『――――!』


 再び俺へと攻撃対象を戻した飛竜が俺を弾き飛ばそうと首を振る。慌てて避けようと剣を引く。


「やべ! 抜けねぇ!」

「あにぃ!」

「くっ! ぐぁ!」


 くっそ、しくじった。ぎりぎりで剣を放して回避に入ったが、左腕を引っ掛けられちまった。それでもかなり吹っ飛ばされたうえに、左腕は牙がかすったのか出血で真っ赤に染まっていて力が入らねぇ。


「あにぃ! 大丈夫っすか!」

「トォル! いま治療に」

「来るな! 治療もいらねぇ!」


 いまあいつらが動けば均衡が崩れちまう。ようは俺がすぐに戻ればいいだけだ。すぐさま立ち上がった俺は、右手をアイテムボックスに突っ込みスペアの武器を取り出す。手に取ったのは昔、ソウジたちから貰った『風剣』。冒険者制度が始まったばかりのころ、俺を長きにわたり助けてくれた長剣だ。資金に余裕ができてからは、リュスティラさんに依頼をして何度か長剣を更新してきたが……こいつだけは手放せなかった。こいつの【軽量】の効果は俺の軽装剣士にはよく合っていたしな。


「よし、動ける」


 いまだって、こいつを持てば片腕が動かなくたって十分戦える。


「フーねぇ!」

「わかった! 準備にはいる」

「あにぃ! 次で決めるっす! やると言ったからにはしっかり決めるっすよ!」

「……く、わかってらぁ」


 再び正面を取って戦い始めるが、俺の運動量が低下してきているように飛竜の動きも鈍くなってきている。元々あった傷に加えて、俺たちが追加したダメージでほどよく弱ってきたらしい。予定よりちっと早いが大詰めってやつだ。


 しつこく俺が頭の注意を引きつけている間に、ヤシチは飛竜の傷ついた足と尻尾にちょっかいをかけて、尻尾を引きつけている。そしてフレイは目を閉じて自然体で立っている。あれはフレイが修めた【獣闘剣術】の技を放つための準備だ。冒険者ギルドで知り合った【獣闘剣術】の使い手に手ほどきを受けてフレイが習っている技だが、いまのフレイではそれなりの溜め時間が必要な上に持続時間も短い未完成の技。だが、決まれば手負いの飛竜を倒す(・・)くらいの威力はある。


「いくぞ! 『獣気拳』」


 フレイの両の拳が淡い光を帯び、その拳を目の前にある飛竜の胴体へ連続して叩きつける。


『―――ッ!!』


 フレイの拳を受けた飛竜は、ドゥンという地響きと苦痛の咆哮を上げながら横倒しに倒れる。この技は体内を巡る魔力と獣気と呼ばれる獣人特有の力を練り合わせて体に纏う技……らしい。人族の俺にはよくわからない感覚だが、威力のほうは目の前の状況が示す通りなかなかのもので、その特性は物理による防御をある程度無視できる内部破壊の技だ。


「固定するっす!」


 いつの間にか飛竜の胴体を駆け上がったヤシチが高く跳躍し、特製の紐で繋げた二本のクナイを飛竜の首を挟むようにして地面に打ち込んだ。

 これで飛竜はすぐに頭を動かすができない。


「やれ! トォル!」


 アーリに支えられて飛竜から離れていくフレイが叫ぶ声が聞こえる。隣のアーリが俺を見る目はなにかを訴えかけるようだと思うのはうぬぼれだろうか。


「決めるぜ!」


 飛竜の頭を正面に見据えつつ、フレイの攻撃に合わせて十分に距離を取った俺は右手の風剣を腰だめに構える。これは俺が軽装剣士の身軽さを活かすために考えた技……つってもただ『加速して突く』だけなんだがな。


 俺は姿勢を低くしつつ走り速度を上げる。そして、飛竜の顔の前で最高速度に達した俺はその勢いをすべて右手の風剣に乗せ、飛竜の眉間を突いた。


◇ ◇ ◇ 


「アーリ、ずっと前からお前が好きだった。これからも俺と……ずっと一緒にいてくれ」


 地面に横たわった俺の左手を抱え、魔法で傷を癒しながらアーリは冷たい視線を向けてくる。く……やっぱり駄目か。


「もしかして、それを言いたいがために飛竜退治を決めたんですか?」

「……巻き込んで悪かった。だけどよ……俺はあいつをっ痛てぇ! ちょっと待てアーリ! まだ傷塞がってないから! しかも右手も折れてるから!」


 俺の傷付いた左腕をぐりぐりと揉みしだいたアーリは、ほんの少し涙ぐみながら大きなため息をついた。


「……あなたって人は、本当に馬鹿で、臆病者で、意気地なしで、早とちりで……馬鹿なんですね」


 ちょ、ひど! 馬鹿って二回言っているし。あぁ、てことは……結局駄目だったか。『剣聖の弟子』も解散するしかないか。


「こんな無茶なことしなくても、男らしく言えばよかったんです」

「え? ……アーリ、それって」

「私を、あの鳥籠から連れ出したのはあなたじゃないですか。最後まで責任を取らないつもりだったんですか?」


 へ? いや、だって、お前は……


「だって、お前はバクゥを……」

「勿論好きでしたよ。頼れる兄のような人として」

「あ、あに? いや! だってお前、俺よりバクゥを頼りにしてたよな」

「当たり前じゃないですか! あなたと来たら勢いだけで、行き当たりばったり、知識も経験もないのに、後先も考えない。お嬢様だった私があなたを助けるためにはバクゥにいろいろ教えてもらう必要があったんです」

「……じゃ、じゃあ。俺はなんで何年も悩んで」


 何年も我慢して悩んでいた俺の葛藤はなんだったんだ……ぽかんとした顔していただろう俺を見ながらアーリがくすりと微笑む。


「いいと思いますよ」

「え?」

「あなたが精一杯悩んで、努力したから、いまのあなたがいる。いまのあなたはとても格好いいですよ。私をこんな殺伐とした世界に連れ出した責任をちゃんと! 最後まで! とってくださいね」

「お……おう。おう! 任せておけ」



「ようやくっすね、あにぃたち」

「うむ、周りで見ている者にはなぜ未だにくっついていないのか不思議でしょうがなかったんだがな」


 フレイとヤシチがそんなことを話していたらしいが、舞い上がった俺は気が付かなかった。


 そしてこのあと、俺たちはこの飛竜退治が認められSランク冒険者になった。

 


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