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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
おまけSS

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201/203

 トォルの決断(前編)


「あにぃ! 準備できました!」

「おう! いまいく」


 階下から俺を呼ぶヤシチに返事をすると、中身を確認していたアイテムボックスのポーチを腰に装着して部屋を出る。

 ヤシチは数年前に俺たちが引き取ることになった少年だ。スリやひったくりで糊口をしのいでいたスラムの孤児で、財布を盗んだ相手に捕まって報復で死にかけていたところを拾った。


 ヤシチの傷はアーリの【回復魔法】でも治しきれないほど重症で、仕方なくソウジのところへ連れていった。事情を話してシスティナ師匠に治療をしてもらったときに、ソウジが「ベタなテンプレだな」とか言っていたが、とにかく元気になったヤシチの処遇をどうするかで悩んだ。

 結局ソウジが「拾った奴が最後まで面倒見ろ、うちに男はいらん」と宣言。だが、俺たちもそのときは三人で必死に冒険者として名を上げている最中だったからな。システィナ師匠に泣きついたら、桜師匠が「じゃあ、しばらくうちで預かって鍛えてもいい?」ときたもんだ。当時はヤシチも栄養不足でガリガリだったし、冒険者にするなんて俺たちは考えもしなかったんだが、桜師匠は「むしろそんな体でひったくりをして、しかも逃走を成功させていたんだから見込みはあるよ」と不敵に笑っていたっけ。

 結局、悪事をしない契約を結んだヤシチは桜師匠の地獄の猛特訓をやり遂げ、一年も経たないうちに立派な斥候(スカウト)に成長した。

 それからヤシチは俺たちの『剣聖の弟子』に正式加入してパーティを組むようになった。今じゃ、情報収集から家事までこなす欠かせない人材だ。うちのパーティは情報収集や索敵をフレイの耳に頼りきりだったから、彼女の負担を減らす意味でも助かった。

 結局は桜師匠の見立てが確かだったってことだな。「忍者と言えば弥七でしょ!」とか言って名前のなかったあいつにヤシチという名前を付けたのはよくわからなかったけどな。


 一階に降りるとすでに玄関先にパーティメンバーがそろっていた。郷里から一緒に飛び出してきたアーリ、バクゥを失った後に出会って仲間になったフレイ。そしてヤシチだ。


「すまねぇ、待たせたか?」

「それを言うなら私は、いまさっき着いたところだぞ」


 フレイは『剣聖の弟子』のなかでは唯一、この家ではなくフレスベルクにあるソウジの屋敷に住んでいる。だからパーティで動くときは目的地によって、どこかで待ち合わせるか、ここで合流するかになる。今日の目的地は、この家があるルミナルタから数日ほどの場所にあるためフレイとはここで合流した。フレイが使っていた部屋はいまはヤシチの部屋だ。


「じゃあ、いきましょう。ヤシチ、案内をよろしくね」

「任せるっす、アーねぇ。ギルドからいいラーマを借りてきてあるし、いまから出れば明日中には着けるっすから」


 桜師匠から贈られたという黒い忍び装束という装備を身に付けたヤシチに案内され、三頭のラーマで目的地に向かう。ヤシチは基本はラーマと並走し、疲れたら俺の後ろに乗る。本当ならもう一頭ラーマを借りたっていいし、普通に相乗りでもいいんだが……いろんなところに忍び込むことも多い斥候は、身軽であることが必須。ラーマを連れていたら隠れることもままならなくなり、それだけで目立つ。だから自分たちは常に身ひとつで動けるように鍛えておくのだそうだ。


 実際ヤシチは、俺たちのラーマとほぼ同じ速度で走りきり、走行中に俺の後ろで休んだのもごくわずかの時間だけだった。戦闘ならまだまだ負ける気はしないが、持久力と速度はもう俺たちを越えたかもな。



 俺たちが目的の村に到着したのは、ヤシチの計画通り翌日の夕方だった。今回の依頼は、最近村の近くの森周辺をうろつくようになった魔物の討伐と、森の調査だ。依頼票では、獣系の魔物が多く見られたと書いてあった。

 いままでは、この付近の森が豊かなこともあり、たとえ魔物であろうとむやみに人里に近づいてくるようなことはなかったらしい。だから、付近に寄ってきた魔物を討伐しつつ、魔物たちが人里付近までくるようになった理由がもしあるのなら、それも調べて解決してほしいというのが依頼だ。


「あにぃ、おいらたち泊まる民宿の場所がわかりましたので案内するっす。今日は到着したばかりでほこりっぽいですし、今日は水でも浴びてゆっくり休みましょう。村長には明日挨拶にいくということで話がついてるっす」

「なにからなにまで悪いなヤシチ。最近はお前に負担をかけすぎだ。もう少し俺らに仕事をさせろよ」

「いえ、とんでもないっす。あにぃたちがおいらを拾ってくれなかったら、おいらはあそこでゴミのように死んでました。あにぃたちがおいらをソウジあにぃや、シーねぇに会わせてくれたから健康で強い体になりましたし、桜隊長に鍛えてもらうことで人の役に立てるだけの力を身に付けることができたっす。おいらはいま、生きることが楽しくて仕方がないっす。いつ死んでもいいと思っていたあの日々にすら感謝できるくらいに」


 ヤシチは目を輝かせながら一気に言葉を吐きだすと、はっとしたように言葉を止め、へへへっと鼻の下をこする。照れているときのヤシチの癖だ。


「お前は見違えるように成長したな……俺とは大違いだ」

「え? ……あにぃ?」

「いや、なんでもない。よし、ヤシチ。宿に案内してくれ、明日に備えようぜ」

「はい!」


 俺たちのラーマの手綱を引きながら、生き生きと俺たちを先導するヤシチが俺には眩しく見える。

 俺は……確かにあのころよりも強くなった。師匠たちに鍛えられ、アーリやフレイたちと協力して助け合い、冒険者ギルドでもまだ少数のAランク冒険者にもなった。だが……俺はまだ、バクゥを越えられた自信がない。だから、俺はまだ……


「どうしたの、トォル。早くいきましょう」


 振り向きながら俺へと声をかけてくる青い髪の幼馴染、アーリ。俺の一番大事な女。だがアーリはバクゥが好きで、バクゥと一緒にいたいから親に決められた結婚話を袖にして俺たちと街を出た。それなのにバクゥは俺のせいで死んじまった。だから俺はバクゥを越えるまでアーリに想いを伝えるなんてできねぇんだ。


「あぁ、いまいく」


 だが、いつになったら俺はあいつを越えられたと自信を持って言えるんだろうな。



◇ ◇ ◇



「ヤシチ! あいつを後ろに通すな! フレイ! 壁を代わる、いったん下がって回復! アーリはフレイの回復を」

「はい! あにぃ!」

「すまん! 油断した」

「準備はできています」


 翌日、村長から話を聞いて森へと調査に出かけた俺たちは早々に魔物の群れと出くわした。最初は魔鼠あたりの少数の群れから始まり、だんだんと魔狼、魔猿、と大きめの魔物が増え、いまは魔熊まで出てきている。ま、簡単にくくっちゃいるが、おなじ魔鼠でも全部同じ種類じゃねぇ。ただ、いちいち調べるのも面倒だからな。


 フレイが戦っていた魔熊の相手を代わると、俺は近接格闘のフレイとはまた違った戦い方で魔熊と戦い始める。ソウジはひっとあんどうぇい(・・・・・・・・・)とか言ってたな。

 軽装剣士である俺は、速さと手数が身上(しんじょう)だ。だが、昔の俺は自分にあった戦い方を模索もせず, ただ格好いいからというだけで重い装備を身に付け、バクゥやアーリの足を引っ張っていた。

 だが、いまは違う!


 俺は、素早く動き回り魔熊の後ろ脚をずたずたに斬り裂いて動きを止めると、地面でもがくだけになったマグマの眉間に魔鋼製、斬・突補正付の長剣を突き刺してとどめをさした。


「ヤシチ!」

「大丈夫っす、後ろに抜けようとしていた魔物は片付いたっす」

「アーリ、フレイは?」

「こっちも大丈夫、傷は深くないしもう治ったわ」

「よし、魔物をアイテムボックスに収納したら少し休憩しよう」

「回収はおいらがやっておくっす!」


 なにも言わなくても動き出したヤシチに俺たちは苦笑しつつも、本人が喜んでやっているのがわかるため、見守ることにする。魔物回収用のアイテムボックスを預けてあるのもヤシチだしな。

 結局十数匹の魔物を俺たちは倒したが……確かに魔物の数が多すぎる。それに……


「不自然だな」

「トォルもそう思うか?」


 思わず漏れた俺の小さな呟きに耳のいいフレイが反応してくれる。


「こういう動きをする魔物や動物に遭遇するのは初めてじゃないでしょう」


 アーリがわかっているくせにと、呆れたように苦笑する。


「だぁ! やっぱりかぁ……となると問題は」

「ふふふ、そうだな。奴らがなにから逃げてきたか(・・・・・・)、だな」

「すまないフレイ。ヤシチが戻ったらふたりで偵察を頼む。相手によっては一度戻ってギルドに報告する必要がある。俺たちでなんとかなるようなら討伐してしまいたい」

「まかせておけ」



◇ ◇ ◇


「嘘だろ! なんでこんなところに!」


 偵察から戻ってきたフレイとヤシチの報告を聞いた後の俺の第一声だった。


「私も目を疑ったがな、確かに飛竜だった」

「あにぃ、あれは間違いないっす。おそらく別の場所で縄張り争いに負けて追い出されたんだと思うっす。そのときの傷だと思いますが、翼を怪我していましたんでこの森までしか飛べなかったんだと思うっすよ」

「ということは……傷を癒すためにこの周囲の獣や魔物を狩っているのか」

「飛べなくても竜っすからね、このあたりの森にいるような魔物じゃ太刀打ちできないっすよ」

「……ヤシチ、俺たちで倒せるか?」


 ヤシチは桜師匠との修行中に、いろんな魔物との戦いを見学させられている。その中にはもちろん竜種との戦いもある。これは斥候として味方と敵の実力差を見誤らないようにするための修行らしい。

 残念ながらというか幸いにというべきか『剣聖の弟子』は竜種との戦いは経験がない。竜というのは人間にとっては忌避するべきものだ。たとえ亜竜と規定された魔物であってもその強さは桁外れだからな。

 今回の飛竜も分類的には亜竜と呼ばれる一種。本来ならすぐにでも冒険者ギルドに報告に走るべき相手だ。だが……俺は。


「そうっすね……斥候として(・・・・・)言わせてもらうならパーティの安全を考えて『無理』と答えるっす」

「……そうか、そうだな」

「あにぃ、勘違いしてほしくないっす。今のはあくまでも斥候としてならの話っす」

「は? どういうことだ」


 思わず落としていた視線をヤシチの顔に戻すと、そこには楽しそう……いや嬉しそうな顔ををしたヤシチがいる。


「最近どこか覇気のなかったあにぃの目に力が戻ったっす。あにぃ、奴を倒したいんですよね? あっ、理由とかなんでもいいっす。でも、あにぃがその目をしているなら、弟分として(・・・・・)のおいらは『倒せる』と答えるっすよ」

「ヤシチ……」

「ふん、ザチル攻略戦以降くすぶっていたものに、ようやく火が着いたな」

「フレイ」

「トォル、いまはあなたがこの『剣聖の弟子』のリーダーよ」

「アーリ……そうか、そうだったな」


 ちっ、俺としたことが……ヤシチにまで心配かけていたとはな。よし、やってやる! たとえ手負いの亜竜だって竜は竜だ。そいつを俺たちで倒し、『竜殺し』を成し遂げる。それならあの日、あのドラゴマンティスとひとりでやりあっていたお前に……勝てないまでも並んだと言えるよな? そしたらそのときこそアーリは俺がもらうぜ! それで文句はねぇよな! バクゥ!


「よしやろう。俺たちで飛竜を倒す!」



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