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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
エピローグ

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198/203

魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ

 あれから俺たちは、フレスベルクで大量の料理と酒を買い込んで屋敷へと帰り、まずは仲間内だけで祝杯をあげた。


 最初は庭で、二次会は温泉で大騒ぎだった。あんなにうまい酒を飲んだのは、初めて蛍とふたりで酒を酌み交わしたとき以来だったな。結局その日は朝まで騒いで、俺たち人間組はそのまま夕方までノックアウトだった。同じくらいがっつり飲んでいたはずの侍祭ふたりは元気に働いていたらしいけど…………解せぬ。

 中途半端な時間に目覚めてしまったその日は、それならばと皆と入れかわり立ちかわりで、くんずほぐれつしてまったりと楽しむ。


 だが、二百階層突破で浮かれていたのはその日まで、翌日からは日課の訓練を再開。また、今回依頼を出していた冒険者たち全員を招いた宴会をするための準備に忙殺された。


 そりゃそうだ、冒険者だけで六百人近い。全員を飲んで食わせるには膨大な量の酒と食糧が必要だし、料理をするシスティナたちの手もさすがに足りない。

 というわけで、冒険者たちには五日ほど猶予をもらい、俺たちはまずアイテムボックスを持って街へと買い出し。かといってフレスベルクの物資を買い占めてしまうわけにもいかないので、ウィルさんのコネでの仕入れに加えて、転送陣を使って各街へと直接赴いた。金に糸目を付けなかったせいで結構な額の出費になったが、俺たちの資産的には微々たるもの。

 人手に関しては【料理】系のスキルを持つ人を臨時で募集。システィナ、メリスティア、霞、陽の下に三名ずつを配置して、料理を指導しつつとにかく量を準備してもらった。


 場所についても庭では入るはずもない。ということで屋敷の前のスペースの草原でやることにした。その際にどうせならいっそということで、屋敷の周囲と前面の百メートル四方くらいをフレスベルク領主のセイラから買い取った。もともと所有権なんてあってなき世界だし、うちの周囲は人も住んでいないただの草原。勝手に所有を主張してもよかったのだが、あとで問題になるのも面倒だから領主に金を払っておいた。


 境界線にはひとまず簡単な柵だけを立てておいて、その内側にベイス商会の大工さんたちに突貫で作ってもらったテーブルをがんがん置く。どうせ邪魔になるから椅子はなし。

 料理はビュッフェタイプにしようかと思ったが、冒険者たちで争いになる光景が容易に想像できたのでやめた。手間はかかるが、テーブルごとに山盛りの料理を準備することにした。

 酒に関しては、安酒……と言っても場末の酒場では飲めないランクのものだが、そのレベルの酒はもう各テーブルに甕ごと置いておく、いい酒は勿体ないので取りに来た人にだけ一杯ずつ渡す方式にした。じゃないと、最後のほうは酒の味もわからなくなった状態で無駄に消費される。酔いたいだけなら安酒で十分。味を楽しみたい奴はこちらへどうぞって感じだ。


 そんな準備を全員でひいこらと続け……そして、いま目の前に広がっている阿鼻叫喚の図。


「ぎゃははははは! ほら! もっと呑め! あんときは助けられたんだ! 俺の奢りだ!」

「おぉ! ワリィな! そんなこと言ったらそのあと俺も助けられたぜ! こいつは俺の奢りだ、呑め!」


 いや、全部俺たちの奢りだし。


「いやあ、うめぇ! こんなうめぇ料理は初めてだ! お、もうこの卓はねぇな、次行くぞ次!」

「「「おおおお!」」」


 いや、他の卓の分まで喰うなし。


「あの、壱番隊に配属されていた人ですよね。私は零番隊だったんですけど、とっても格好良かったです。お酌させてください!」

「え? あ、おう! 喜んで! 俺たちも零番の回復がなきゃ、あっという間に死んでたぜ。ありがとうな」

「いえ、そんな(ぽっ)」


 け! よそでやれし。


「なんだとぉ! お前より俺のが強いぞ。Aランク冒険者なめんな!」

「馬鹿野郎! あの戦いじゃ、俺のほうが活躍した! Bランクだって俺のほうが強い!」

「喧嘩をやるなら特設ステージへどうぞ。武器、魔法は禁止で素手のみでお願いします」

「は~い、まだ始めちゃだめだよ。怪我した場合はこっちで回復薬は準備したけど、お金は取るからね」


 はい、一組様ご案な~い。霞ちゃん、陽ちゃん、あとはよろしくってね。

 どうせ喧嘩も起こると思って専用のスペースを設けたのは正解だったな。当事者以外にもいい見世物になってるみたいだし。いつの間にか賭けも盛り上がってるらしい……ていうか、賭けはやめろし。


「よぉおおし! 飲み比べだ! 壱番隊隊長蛍さんに勝ったやつは頬チューのご褒美だってよ!」

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」」」」」」」

「ふん、私に勝てると思うなよ! まとめてかかってこい!」


 おお! (ブルータス)お前もか。っていうか、蛍に勝ったやつは殺す。


「ご主人様」


 混沌とした会場を眺めながら、ちびちびと飲んでいた俺の手に白く細い手が絡まってくる。なんど押し付けられても最高の感触を与えてくれる双子山は今日も健在だ。


「システィナか、準備大変だったね。お疲れ様」

「いえ、楽しかったです」


 俺の肩に寄りかかるように顔を寄せながら、会場の様子を見て微笑んでいる。きっと本当に楽しかったんだろうな。


「それならよかった」

「はい」


 なんかそれだけで満ち足りた気持ちになってしまい、しばらく俺たちは会場の喧騒を楽しむ。


「あらあら、こんなところでどうしたんですの? 主殿」

「そうだよ、ソウ様。もっと楽しめばいいのに」

「十分楽しんでるよ。葵と桜も楽しんでるか?」


 喧騒のなかから並んで向かってきたふたりは顔を見合わせると笑顔で頷く。


「桜は喧嘩の審判をしてたよ。みんなボコボコになってて面白い顔になってたね」

「おいおい……」

「八割くらいは雪ねぇがやったんだけどね」

「ちょ! なにやってんのあの子は! ちゃんと手加減はしてるんだよな」

「あははは、大丈夫だって、雪ねぇが参戦し始めた頃から念のためメリメリが見てくれているから」


雪め、メリスティアにいらぬ面倒を……


「葵は?」

「わたくしは従魔持ちの冒険者たちにいろいろと講義をしてあげてましたわ」

『あれは講義というよりは……調教でした。我が主』

「おう、お疲れ一狼。周囲の見回りは大丈夫だった?」

『はい、問題ありません。そもそも、いまこの場に顔を出すような間抜けな魔物はまずいません』


 一狼の言葉にそりゃそうだと妙に納得しつつ、いつの間にか俺の足下に寝そべっていた一狼を優しく撫でる。実は一狼は、あの二百階層の戦いのなかで魔物に押されて崩壊しそうな戦線を立て直すために、必要にせまられ進化することを選択していた。

 その結果、白騎士狼(ホワイトナイトウルフ)だった一狼は、聖騎士狼(パラディンウルフ)へと進化し更なる白い毛並みと大きな体、そして【回復魔法】を手に入れていた。


「他の皆は?」

「グリィンとマゼンダは蛍ねぇのところで一緒に飲み比べしてたかな?」

「澪と雫は?」

「さあ、わかりませんわ。あのふたりはあんまり人の多いところは好みませんし、屋敷に戻っているかも知れませんわ」


 なるほど……ん、確かに屋敷のほうから反応がある。人込みは得意じゃないけど、ああ見えてふたりは意外と寂しがりだし、ちょっと休憩したら俺のところへ来るかもな。


「フレイは?」

「弟子の皆さんと盛り上がってましたわ」


 うん、なんだかんだで皆楽しそうでよかった。


「それよりもソウ様! ばたばたしてて確認できなかったけど、神様になるの断っちゃってこれからどうするの?」

「うん? あぁ、そっか。皆にはまだ説明してなかったっけ【顕出】。ほら」


 心配そうな顔で問い詰めてくる桜に向かって、呼び出した『窓』をタップして反転させる。


「え? 急に『窓』なんか出してどうしたの、ソウ様。なんか面白いスキルでも覚えた?」


無造作に出した俺の『窓』を上から順に眺めていた桜の動きが固まる。ついでとばかりに脇から覗きこんでいた葵も同様だ。


「……な、なんで? いつの間にこんなスキルを覚えたのソウ様!」

「ふ、ふふふ……さすがですわ主殿。ですが理由は説明してくださるのでしょう?」

「ま、皆に隠すようなことじゃないし、勿論構わないよ。ばたばたしてて言うの忘れてただけだし」


かといって身内以外に見られるのはさすがに問題だ。さっさと消しておこう。手元に引き戻した『窓』を割る前に自分でも確認する。


『富士宮 総司狼  業:-31 年齢:20 職:特級魔剣師 

技能:言語/読解/簡易鑑定/武具鑑定/手入れ(極)/夜目/友誼+/添加錬成(極)

   精気錬成(極)/敏感+/刀匠/魔剣召喚(-)

特殊技能:魔精変換(極)/不老』


 そこにはエクストラスキルに追加された【不老】スキルがくっきりと表示されていた。


「これはシスティナのお陰だよ」


 自分の『窓』を割ってから、俺に寄り添っているシスティナの顔を見ると、システィナは謙遜するように小さく首を振って、恥ずかしそうに目を伏せた。


「システィナさんがこんなスキルを付与したのですか?」

「付与したのは俺と蛍とシスティナ、メリスティアの共同作業ってことになるのかな?」

「え? …………もう! さっぱりわからないよソウ様! ズパッと言って!」


 もったいぶるような俺の言い回しが気に入らなかったらしい桜がプチ切れている。もうちょい引っ張ってみたい気もするけど……まあいいか。


「答えはシスティナのエクストラスキルだよ」

「え? シスのエクストラスキルって、確か【叡智の書庫】だよね」

「はい」

「え~、それがどうして、そのスキルになるの?」


 桜の問いかけに笑顔で頷くシスティナ。だが、桜はそれだけではわからないらしい。


「……主殿。システィナさんは二百階層の上で、神と名乗る存在に会った(・・・)んですわね?」


 お、葵は気が付いたか? 俺は葵の問いに黙って頷く。


「なるほど、もしかしてその神との邂逅は夢の中みたいなふんわりとした感じではなく、それなりに現実感のあるものだったのですね」

「そうだね」


 一応人の形をしていたし、会話もスムーズだったし、突如作られた金髪グラマーがあんあん言ってたしね。


「どういうこと? 葵ねぇ」

「……素晴らしいですわ、主殿は最初からそのつもりだったのですわね! わたくし惚れ直しましたわ!」

「ちょっと! 桜にも教えてってば!」

「つまりこういうことですわ! システィナさんを神に出会わせ、神がいること、神の世界があることを理解させる。異世界だろうが、なんだろうがシスティナさんが『ある』ということを理解すれば【叡智の書庫】の蔵書が一冊増えるのですわ!」

「…………えっと、つまり。シスはあの場面を経て、神様の世界があることを信じた。信じたから【叡智の書庫】に……神様の世界の知識……が、増えた?」

「正解」


 そう、俺は塔を上りきれば俺を神にしたいと思っている現在の神様が現れるのではないかと思っていた。地球の神様だって出てきたんだから、この世界の神様だって出てくる可能性は高い。

 そこにシスティナを連れていけば、システィナが神という存在が実在することを信じるようになる見込みも十分あった。実際システィナが、神の世界があるのかという俺の問いに、きっぱりとあると答えた神を見たことで【叡智の書庫】はアップデートされた。

 

 そこからはシスティナは、俺が無駄話をして時間稼ぎをしているうちに、ひたすら神の世界の知識を検索し続け【不老】に至る道を探してくれた。そして、システィナが『いける』と判断したからこそ俺は、神の誘いをきっぱりと断ったんだ。


「ということは、これからは神のような奇跡をどんどん起こせるということなのですか?」

「さすがにそんなにうまくはいかないかな。神の技は俺たちが使うにはコストが高すぎてほいほい使えるようなもんじゃないんだ。そもそも四人がかりでやっとスキルひとつだからね」


 俺の膨大な魔力をタンクにしても足りない分の魔力を高ランク魔石で補い、蛍の【神力】で魔力を神力に変換。メリスティアの【魂鳴り】【魂響き】で変換した神力と、システィナの知識を共有して力を発動。手元にあったCランクからAランクまでの高ランク魔石を数十個と、四人の魔力を根こそぎ持っていかれてなんとか成功した。


 システィナ曰く、現段階で成功したのはメリスティアのエクストラスキルがあってこそだったということらしい。もし、メリスティアがいなければ【神力】持ちの人が術を覚えて単独で使うしかなかった。そうすると蛍ひとりでは絶対的な力が足りないから、膨大な量の魔石を集めつつ、他の刀娘たちを神刀ランクまで上げて並列処理を出来る様にしていくしかなかった。

 だけど、最初からSランクだった蛍ですら三年かかった作業を、他の刀娘たちもとなれば、必要な人数が揃うまであと何年かかったかわからない。


「でも、このスキルに関してはコツも掴んだから、次は魔石さえ集めればなんとかなる」

「はい、次は私に授けてもらう予定です」


 従魔や刀娘たちには必要のないスキルだけど、寿命のある俺たちには必須のスキル。これを覚えるかどうかは本人の意思に任せるつもりだったけど、システィナは迷いなく希望してくれたし、メリスティアもすでに予約済みだ。


まだ話してないけど、霞や陽、フレイとかは不老を必要とするだろうか。たぶんリュスティラさんたちは拒否するだろうな……きっとリューラとともに歳をとっていくことを選ぶような気がする。

 でも、そんな生き方もきっと幸せんだろうなというのはわかる。地球では家族関係に恵まれなかった俺だが、こっちにきてからは家族の大切さがわかるようになったからな。


「じゃあ、これからもずっと、ずぅぅぅっっっっと! ソウ様と一緒にいられるの?」

「ああ、俺が桜たちに捨てられない限りね」

「やったぁ! ソウ様、だ~いすき!」


 俺の首に抱きついてくる桜を片手で抱き返す。


「お~い、ソウジロウ! お前も飲みに来い」


 蛍がジョッキを掲げて俺を呼ぶ声がする。どうやら第一陣は完敗を喫したらしい。


「よし、じゃあ蛍の頬チューをゲットしにいきますか!」

「はい、【回復術】の応用で酒精分解もできますから、必要なら言ってください」

「桜も応援するね、ソウ様」

「山猿になんか負けないでくださいませ、主殿。あ、でも頬チューならわたくしが」

『もしかして、私も【人化】を覚えられたりするのでしょうか、我が主』



 おそらくこれから時間が経てば経つほど、歳を取らない俺たちは世間から取り残されていくんだと思う。でも、条件さえ整えば神の知識で、屋敷を結界で覆って世界から隠れて生きることもできるし、認識改変のような術式をかけることで不老の俺たちの違和感を周りに感じさせなくすることもできるようになるらしい。

 それだけじゃなく、刀娘たちの【擬人化】スキルの【擬】を取ることもできる。【人化】なら俺たちの子供すら作れる可能性もあるし、神刀ランクの刀娘が増えれば更なる異世界への転移すらできるそうだ。いつかは皆で新しい冒険に出るのもいい。



 でも、そんなのはそのときになってから考えればいい。


俺はこれからもずっと、自分らしく自由に生きる。


これからも魔剣師として魔剣である刀娘たちと協力しながら、刀娘たちと一緒に楽しく……そう。



魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフを。



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