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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
最終章

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191/203

突入前演説

 結局、ウィルさんの予測は的中して最終的には六百名近い応募があった。参加者の身辺調査に関しても桜だけでは手が回らず、霞、陽も駆り出された。さらに桜が独自にメンバーを厳選して鍛え、作り上げた有事のときのみ集まって隊として活動する新撰組『影番隊』も動員することになった。


 その審査を潜り抜けた約五百名ほどを、各自が持っているスキルなどに合わせてうちのメンバーが隊長を務めることになる部隊に振り分けた。七日間の応募を締め切ってから、この作業に三日ほどを費やしてしまったが、ようやく形になった。


「いよいよ明日か……」

「はい、がんばりましょうね。ご主人様」


 皆で夕食を終えて、各々が寛いでいるときに思わずこぼれた言葉に、システィナが緑茶を淹れながら頷いてくれる。今日は俺のリクエストで割烹着姿だ。それにしても、露出が激減しているのになぜかそそるのはなぜだろう。


「ソウジロウ、別に明日ですべてが終わるわけでもあるまい?」

「そうだよ、ソウ様。そんなしみじみするようなことじゃないよ」


 日本酒をおちょこでくいっとあおりながら蛍がからかうような視線を向けてくると、それに同調した桜が俺の首に抱きついてくる。


「そうなんだよな……でも、なんとなくひとつの区切りになりそうな気はするんだ」

「お気持ちはわかりますわ、主殿。きっとわたくしたちにとっても大きな転機になると思いますわ」

「ん……でも、変わらない。そのまま」


 なんとなく落ち着かない気持ちは葵も感じているらしい。でも雪が言う通り、なにがあっても俺たちは変わらない。いままで通りに自由に楽しく生きればいい。


「ずっとこのままでいられたら……それは素敵ですね、旦那様」

「うん! 霞ちゃんと、陽と兄様と姉様たち、しーちゃん、くーちゃん、ほかの従魔の皆とも、ずっと一緒にいたい」

「そうだね、俺もそう思うよ。誰ひとり欠けずに勝たないとね」


 ぴょこぴょことケモミミを動かしながら可愛らしいことを言ってくれるふたり。うん、とても癒される。妹分的な女の子から、女へと脱皮したふたりだけど……そのポジションは不動だ。


「システィナ様と私が、絶対に皆さんを死なせませんから安心してください」

「あちしも補助いたしますえ、お館様」

「敵の妨害はあちしがいますえ、お館」


 この三年で侍祭として一皮剥けたメリスティアは【交渉術】を修得していないため聖侍祭にはなっていないが、【回復術】【護身術】【護衛術】【杖術】などは軒並み「+」になり、難があった魔力量も俺の魔力を流用して使っているうちに自分の魔力も増えていたらしく、自信もついたようだ。それに、システィナにいたっては【回復術】はとうとう「極」になり、そのほかのスキルもほとんど「++」だ。誰も死なせはしないというメリスティアの言葉にも説得力がある。さらに雫と澪もいるしね。


「へ! いつも通り魔物をぶった斬ればいいんだろ。いつもと一緒だって」

「ああ、そうだね。俺たちはいつだっていつも通りやればいい。きっとそれが一番強い」


 最後に締めてくれたマゼンダの言葉がすべてだった。なにも特別なことはない、いままで通り戦ってかえってくるだけ。まだ二百階層が最後ともわからないのにセンチメンタルになるなんて俺らしくもなかったな。


「よし! 今日は皆で風呂に入って、全員で一緒に寝よう! 無理強いはしないけどできれば澪と雫もね」


 緑茶を飲み干し立ち上がって宣言する俺に皆が楽しそうに頷く。ただ、かたくなに他のメンバーとの同衾を断っていた澪と雫だけは渋い顔だ。


「……やれやれでありんすね……わかりましたえ。ご一緒いたします、お館様」

姉様(あねさま)がいいなら、あちしも構いませんえ、お館」


 よし。思わずガッツポーズをした俺は、皆の背中を押すようにして露天風呂へといく。メンバーが増えてきたことで露天風呂の大きさは倍ほどに改築されているので、この人数でも問題ない。今日は楽しい夜になりそうだ


◇ ◇ ◇


 翌日、最高の一晩を過ごし真っ白に燃えつきた俺とは対照的に、つやっつやな嫁たちとゆっくりと朝風呂に入る。正直、集合を午後からにしておいてよかった。


 しっかりと食事をとり、各自で装備を確認。今日ばかりは、リュスティラさんとディランさんも屋敷にきて点検を手伝ってくれた。


「あたしらの作った装備のせいで負けたなんて言われたくないからね」

「……それは、ありえん」


 リュスティラさんと、ディランさんがそんなことを言いながらしっかりと点検をしてくれる。俺たちの装備は、刀と刀娘たちの衣装と、ドロップ品以外は防具は勿論、肌着やアクセサリにいたるまで、すべてがリュスティラさんたちの工房によるものだ。

 いまや世界最高ブランドとなったR&D工房製の装備を、これだけふんだんに身に纏っているのは俺たちだけだろう。


「いつもありがとうございます」

「なに言ってんだい、礼を言うのはこっちだっていつも言ってんだろ。あんたたちのお陰で技師として最高の人生を現在進行形で歩かせてもらってるよ。あ、ついでに母としてもね」


 リュスティラさんが、三狼の背に固定された網籠のなかで眠るリューラを優しいまなざしで見つめている。リューラの出産でペタンコだった胸が膨らんだ時に狂喜乱舞していた人と同一人物には見えないほど慈愛に満ちている。


「ぐほっ!」


 俺の鳩尾に拳を入れているディランさんの嫁愛も相変わらずで、リュスティラに対する邪な考えや、揶揄するような思考はなぜか察知されてしまう。絶対になんか変なスキルがあるような気がするんだけど、『窓』を見せてくれるようにお願いしても拒否されてしまうため、未確認だ。


「ふん、お前たちがいなければ安心して仕事に打ち込むことはできなかった」

「……ぐふ、それ、はお互い、さまです」


 確かに、金銭面についての不安がなくなったことに加えて、屋敷内に引っ越してきて防犯関係が充実したというのはあるだろうし、三狼の意外な才能のお陰で、仕事中の子守についても任せられる、というのもあるだろう。だけど、リュスティラさんたちの名前が売れすぎたのも半分くらいは俺たちが原因のような気もするし、俺たちもいい装備を無料で作ってもらっているんだからウィンウィンだろう。


「なにやってんだい、あんたたちは。装備のほうは問題ないよ、あとは使う奴の責任だ」

「わかりました。帰ってきたらまた宴会を計画しますので、また参加してください」

「勿論、美味い料理を期待してるよ」

「……美味い酒もな」

「わかりました、じゃあ行ってきます。従魔たちも半分ぐらいは連れて行っちゃいますけど、十分な戦力はありますので心配はしないでくださいね」


 三狼を除く初期の狼たちと彼らが選んだ精鋭の狼、ガクシャ率いる飛行系魔物で塔内で飛び回れる種族、その中でも能力の高い魔物を連れていくことにしている。ただし、警備の要として黒王と赤兎は残留組に配置した。この三年でさらに二回りほど成長したあの夫婦を連れていくには、今回の戦場はちょっと条件が悪い。


「心配してないさ、あたしらのことは気にせず偉業を達成しておいで」

「はい」



◇ ◇ ◇



 屋敷の外まで俺たちを見送ってくれた技師夫妻に手を振ると俺たちはザチルの塔へと向かった。


(おい、来たぞ。あれが『新撰組』だ)

(おお! 俺、初めて見たけど……すげぇなマジで全員が美女揃いじゃねぇか)

(……変な気は起こすなよ。新撰組は全員がSランク冒険者で、すげぇ強いうえにメンバーにちょっかい出そうとした奴らには、容赦がないからな)

(あのフジノミヤってのは強いのか?)

(ああ、三年前の段階であの『赤い流星』のトップだったシャアズを一騎打ちで倒したらしい。それからも聖戦士シャフナーを倒したり、副塔を討伐したり、主塔都市連合の再編にかかわったりもしているからな)

(マジか……)

(なんだ、あの魔物の数。あれ、全部あいつらの従魔かよ)

(従魔なだけなら可愛いもんだが、あの中には冒険者資格を取ってSランクになっている魔物もいるって話らしいぞ)

(嘘だろ、俺なんかやっとCランクになったばかりだってぇのに?)


 俺たちがザチルの塔に着いたとき、集まっていた冒険者たちは思い思いの格好で寛いでいた。ロビーの近くにはウィルさんによる特設テントが置かれ、参加者たちの受付と振り分けられた部隊の集合場所への誘導が行われている。その様子を眺めながら、人込みを抜けてロビーの入口までいくと、俺たちに気が付いた冒険者たちがにわかにざわつく。だが、直接話しかけてくるような者はなく、遠巻きに俺たちを窺っているだけだ。


「有名人は目立つな、ソウジ」

「なんだ、トォルか」

「うぉい! って、相変わらずだな、お前。そろそろこのやりとりも飽きてこねぇか?」


 冒険者たちが遠巻きに見つめるなか、無遠慮に話しかけてきた奴がいると思ったらトォルだった。結局、今日まで『剣聖の弟子』とは合流できなかったので、トォルと会うのも久しぶりだ。この三年でAランクまで成長したトォルたちはあの頃のようなみすぼらしい装備ではなく、R&D工房製の装備を身に着けている。

 と言ってもトォルの見た目は、普段着のようなラフな格好。だがこれは軽装剣士であるトォルには革鎧すら邪魔になってしまうためで、いま着ているのは俺の学ランの理論をもとにディランさんが開発した『魔纏衣』シリーズである。これは見た目は普通の服なのに魔石を動力として魔力を通わせることで軽鎧並みの防御力を発揮できる。だからトォルには欠かせない装備だ。ただ魔纏衣は動力として魔石を使用しているので、メンテナンスには金のかかる装備なので、ある程度は収入が安定していないと装備としては使いにくいのだがいまの『剣聖の弟子』には問題じゃない。


「フジノミヤさん、ご無沙汰しています」

「わ、私も、あ、会いたかったぞ」


 トォルに続いて近づいてきたアーリとフレイも、いまや立派な冒険者の風格を漂わせている。装備しているのもすべて魔材を使った装備に変わっているし、なにより積み上げてきた経験がふたりを歴戦の冒険者へと変えていた。


「ちょうど入れ違いでしたね。ウィルさんからの指名依頼だったみたいですけど、無事に終わったんですか?」

「はい、目的地は転送陣を出て一日くらいの場所だったんですけど、現地で意外と時間を取られてしまって戻ったのは昨日だったんです。こちらの準備が長引いてなかったら、間に合わないところでした」

「うむ、トォルには反省してもらわないとな」


 どうやら、依頼先でまた、トォルの馬鹿がいろいろやらかしたらしい。こいつは実力的には成長しても精神面が育たないので、いまだに後先考えずに感情で突っ走ることがままある。


「またですか……やっぱりリーダーをアーリに戻したほうがいいんじゃないですか?」

「ふふふ……それでも昔に比べればましになったんですよ。バクゥにはまだまだ及びませんけど、昔のような危うさはなくなりましたから」


 出会った頃はバクゥの死の直後だったこともあり、どこか表情に乏しい感じがあったアーリだが、『剣聖の弟子』としてトォルやフレイと充実した日々を過ごし、いろいろ整理がついたのだろう。徐々に本来の明るさを取り戻し、よく笑うようになった。

 最近はリーダーの座をトォルに譲り、肩の荷が下りたのかますます魅力的になってきている。


「まぁ、トォルに関してはアーリがいれば問題ないさ。それよりも、いよいよだな。……あの、それでなんだが、こ、これが無事終わったら、弟子の活動もしばらく休みの予定だし……また……泊まりにいってもいいだろうか?」

「勿論いいに決まっている。フレイはもう俺のもので家族なんだから、いつでも来ればいいよ」

「う、うむ。そうか、ありがとう」


 フレイにはいつでも自由に来ていいと何度も言っているんだけど、どうしても聞いてからじゃないと思いきれないらしい。いつまでも初心で可愛らしいのは、それはそれでいいものなんだけどね。俺の気持ちが伝わっていないわけじゃないみたいだから、フレイがそうしたいなら好きにさせようと思っている。


「あの、皆さん。事前に連絡が取れなかったので、これを……」


 簡単な挨拶が終わったところで、システィナが新撰組が使っているパーティリングと同期させた重魔石を使った指輪を三人に渡す。これは、ディランさんと葵が改良を加えたもので、パーティリング同士のようにパーティメンバーのいる場所はわからないが、塔の到達階層だけは共有できるというもの。

 これを使えば『剣聖の弟子』のパーティリングを装着したままでも、俺たちが到達した階層すべてに入ることができるという優れものだ。

 ただ、面白半分で高階層に突撃されても困るので、そのあたりはちゃんとシスティナから注意しておいてもらう。


「ソウジロウ、そろそろ頃合いのようだぞ」

「了解。葵、拡声頼む」

「お任せくださいですわ」


 受付が完了したウィルさんからの報告を受けた蛍の呼びかけに短く答えると、俺は葵に風術で声を全員に届くようにしてもらう。こんなざわついた場所で大声張り上げるとか、戦う前に疲れるようなことはしたくない。


『今日依頼を受けてくれた冒険者の皆さん。聞こえますか? いま、魔法を使って私の声を皆さんに届けています』


 突然耳元で聞こえたであろう俺の声で、さらにざわつきが大きくなるが魔法の説明をすると今度は俺の声に耳を傾けてくれるらしく、場が静まっていく。

 

『まずは、俺たち新撰組の依頼を受けてくれたことに感謝します。今回は前人未到の二百階層攻略を達成するために皆さんの力をお借りすることになりました。詳細は事前に説明を受けていると思いますが、戦闘は魔物の軍団との正面からのぶつかり合いになると思います。そして、魔物自体の強さも皆さんが日頃戦っている魔物よりは強い可能性が高いです』


 冒険者たちが身じろぎをして、装備がガチャガチャと音を立てる。それは敵が強いことによる動揺なのか、やる気の表れなのかはここからはわからない。だが、依頼の内容は包み隠さず伝えてある。ここにいる冒険者たちは覚悟のうえでここにいるはずだ。


『ですが、私たち新撰組はこの攻略にあたり設定した目標に、犠牲者ゼロを掲げています。受付から受け取った回復薬は新撰組からの支給品ですので、惜しまず使ってください。怪我をしても即死以外は新撰組の侍祭が治します。戦闘についても魔法でサポートをしますし、各隊の隊長に従っていただければ、皆さんの実力があれば十分勝てるはずです』


 ここに集まっている冒険者たちは、初心者を卒業して中級者を折り返したくらいの者たちだ。ランクでいえばD以上、危険の見極めは十分にできるランクだ。


『報酬は弾みます! 倒した魔物の魔石もすべて参加者で山分けして構いませんし、活躍が認められた冒険者には特別報酬としてR&D工房製のアイテムボックスや装備を支払う用意があります』


 俺の太っ腹な発言に冒険者たちが歓声を上げる。世界一の工房が作った魔導具や装備は持っているだけで立派なステータスになる。同額の金銭をもらうよりも冒険者たちにとっては魅力的だろう。あまり張り切りすぎて無謀に突っ込まれるのも困るが、手っ取り早く士気を上げるためには有効だ。


『それでは出発します。二百階層では全員が入った後に、陣形を組むくらいの時間はあります。焦らず各隊の隊長の指示に従って移動をお願いします』


 思い思いに応諾の声をあげる冒険者たちに手を上げて応えると、葵に術の停止を指示して大きく息を吐く。


「お疲れ様でした。いいご挨拶でしたね」


 メリスティアが汗ばんだ額をハンカチで拭ってくれる。いままでも冒険者たちに依頼をしたことがないわけではないが、さすがにこの数は緊張する。


「ありがとうメリスティア。よし、じゃあ一番隊から順番にいくよ。皆、向こうに行ってからの陣形は大丈夫?」


 隊長を任せる予定のメンバーがしっかりと頷く。


「よし、新撰組。出陣だ」



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