表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/203

裏切り

「どうして戻って来たんですか」

「どうしてとは見くびられたものだな。他の者達を全員無事に脱出させることが出来たのだから恩人を手伝いに来てもおかしくはないだろう?

 これでも私は4階層探索者だからな。足手まといにはならんと思うぞ」


 フレイさんはそう言って笑いながらハーフプレートアーマーに覆われた胸を叩く。

 怪我人を抱えた一行だから正直戦える人が1人増えてくれるのは有難い。俺の印象では雇用者はともかくフレイさん自身に悪い印象はない。


「恩人と言えばこっちだって同じなんだから気にしなくていいですよ」

「…なるほど。じゃあ後は私の気持ち次第って訳だ。手伝うよ」

「ソウジロウ。のんびりしている暇はないぞ」


 どっちにしろここまで戻ってきてしまった以上,一緒に脱出するしかないんだけどね。


「分かった。じゃあフレイさん脱出するまでよろしく」


 前は私だけで構わん。という蛍さんに俺とフレイさんは一緒に後列へと下がる。

 2人で後方を警戒しつつ歩く。蛍さんの見立てでは脱出するまでに一度は戦闘する必要がありそうだってことなんで共闘する以上はフレイさんの戦い方を確認しておいた方がいいか。

 使う武器や魔法によって位置取りや戦い方は変わってくる。逆に俺達の戦い方をある程度フレイさんも知っておかないと双方の動きを邪魔しあう可能性がありそうだ。

 歩きながらその辺を説明していくとフレイさんも当然のことだと理解をしてくれたので先にうちの戦い方を軽く説明していく。


「基本的にうちはシスティナが防御関係の技能を持っているから正面で壁役を務めてくれる。1番戦闘能力が高い蛍さんがアタッカーかな」

「フレイムファングの時の戦いを少しだけ見ていたが確かに蛍殿はタワーファング2体を相手に危なげない戦いぶりだったな」


 その時の光景を思い出しているのか恍惚とした目をしている。蛍さんの戦いは本当に洗練されていて速く強いので見ている人を魅了する。フレイさんが心奪われるのも無理もない。


「で,俺がサブアタッカーかな。武器を2本持って振り回すから位置取りは気を付けて欲しい」

「なるほど,それで武器を両腰に1本ずつ下げているのか」

「そういうこと。ちなみに言っておくと俺は戦闘系の技能が全く無いからあんまり攻撃力は高くないのでそのつもりでいてください」

「ん?ちょっと待ってくれ。戦闘系の技能がない?そんな訳ないだろう,あれだけの動きが出来てバスターソードを片手で振り回せるような人間が戦闘系の技能が無いなんてことある訳が…」


 フレイさんが驚愕の表情をしているがそんなに驚くことだったのか?だったら迂闊に公開したのは失敗だったかもしれない。

 とは言っても無い物は無いし,異世界から来たってことは何をどう調べたって証拠も出ないし証明も出来ないんだから問題になるようなことはないと思うけど。

 技能は無くても身体は鍛えられる訳で鍛えれば動けるようになるんだから説明は出来るはず。

 むしろ蛍さんが本当は刀だってことの方が知られたらヤバいはずだからそっちは絶対にばれない様に気を付けないとな。


「大分蛍さんに鍛えて貰ってるからね」


 鍛えて貰ってるっていってもこの世界に来てからの1週間くらいだけど。それは言わない方が良いことくらいは俺でも分かる。


「そ,そうか。戦闘系の技能を覚えた時が凄そうだ」


 引き攣った笑顔を浮かべるフレイさん。その視線が不自然に下がる。


「俺の股間が気になる?」

「な!…ば,馬鹿なことを言うな!そんなところを見る訳がない!」


 おーおー焦ってる焦ってる赤毛に加えて顔まで真っ赤になってる。意外とそっち方面はうとそうだ。


「わ,私はフジノミヤ殿の武器が珍しいとお,思っただけだ」


 桜ちゃんが?あぁそうかこの世界には刀自体が無いかもしれなかったんだっけか。この世界における武器は身分証明を兼ねるほど人々の生活の中に密着してる。良い武器や珍しい武器を欲しがる好事家は俺が考えている以上に多いはずだ。

 変なトラブルに巻き込まれないようにあんまり人前で使わないようにした方がいいかもしれない。さすがに命の危険もある塔内で出し惜しみするのはあり得ないので仕方ない。


「そういえばフレイさんは武器は何を使ってるんですか」

「ん?私か?私はこれだ」


 そう言って取り出したのは肘位までの長さの小剣が2本だった。


「小剣が2本。双剣使いということですか?」

「ふふん,半分正解だな。私はこの2本の小剣をこうして持って…」


 フレイさんが手に1本ずつ持った小剣をくるくると宙に放り投げると目の前に落ちてきた小剣をスチャッと逆手に握る。


「あ!爪が…」


 思わず声が漏れる。小剣を逆手でキャッチしたと同時にフレイさんが身に付けていた手甲から鋭い爪が飛び出したのだ。長さはさほどでもないせいぜい2センチほどだが4本の爪が拳から出ている。

 つまりフレイさんの『獣闘剣士』というのは…


「剣と格闘を合わせた超近接型の職業ってことか」

「さすがに分かるか。私の職業は獣形の亜人しかなれない獣闘剣士というものなんだ」


 しまった。俺が簡易鑑定を使って職業を知っていたということは知られない方がいい。プライバシーの侵害を訴えられたら困る。

 

「さあ,フジノミヤ殿。私の職も武器も明かしたのだからフジノミヤ殿のも教えてくれないか?」


 随分喰いついてくるな。別に職は俺が聞いた訳じゃなくて勝手にフレイさんがばらしただけなんだけど…どうせ知ってたし。それに教えるって言っても俺の職も武器も簡単にオープン出来るようなもんじゃない。どうしたものか。


「俺の職は武器生産系ですね。この武器は『刀』と言ってとんでもない田舎にあるうちの実家の蔵に眠っていた物なんで詳しくは分からないんですよ。

 うちは両親も武器生産系でしたから何かで手に入れたのかもしれないですね。

 両親に聞くにも既に死別してますし,実家も引き払って何も残ってないんで今となっては何も分からないですね」

「そ,そうか…フジノミヤ殿もいろいろ苦労されているのだな」


 少なくとも大きな嘘はついてない。実家の職については適当だが自分の職についてはまるっきし嘘ではない。実家の蔵にあったのも本当だし両親にもう会えないのも実家に戻れないのも掛け値なしの事実である。


「『も』ってことはフレイさんも苦労してきたんですか?」

「ん?…まあな。不幸自慢をするつもりはないから詳しくはあれだがうちも早くに両親が他界してな。幼く身体が弱い弟と2人でそれなりの苦労はしてきた。

 と言ってもまだまだたくさんの魔物や盗賊が跋扈する世の中だから私程度の苦労をしてきた人などたくさんいるだろうな」


 フレイさんもいろいろ大変らしい。あんなやつの護衛につかなきゃならないのも弟さんのためなのかもと考えると切なくもある。


『いかんな…ようやく半ばまで来たというのにこんなタイミングで嫌なところに湧きおる。

ソウジロウ!ここは1本道だ。このままだと前後から挟まれる。怪我人が居る以上私たちも手を分けるしかない』


 あわよくばこのまま脱出と思っていたけどさすがに俺達が掃討してからこれだけ時間が経っていると全く敵に会わずにいるのは難しいか。

 俺は蛍さんに共感で了承の意思を送ると桜ちゃんと大剣を抜く。


「おぉ!いきなりどうしたのだフジノミヤ殿」

「システィナ!前後から魔物が来る!後ろは俺達が止めるから前からの敵を蛍さんと片付けてから援護頼む」

「分かりました!すぐ行きますので気をつけてください!トォルさんたちはここで動かないでください」

「わ,分かった」


 慌ただしく動き出した俺達についていけずおろおろしているフレイさんに後ろから魔物が近づいているということを説明してトォルとアーリの2人から距離をとるべく来た道を後ろへと戻る。

 少し戻るとギチギチと嫌な音がいくつも聞こえてくる。あぁこの音はあいつらか…

『蟻人(4階層) ランク:F』

『タワーアント(3階層) ランク:G』×3


「蟻人が1体とタワーアントが3体来る。前からの敵は蛍さんとシスティナがなんとかするからこいつらをなんとか倒しましょう」

「…あぁ,だがまずいな」

「確かに4体を2人はきついですけどやるしかない。時間さえ稼げば前を片付けてから援護が来ると思います」

「そうじゃないんだ」


 数が多いことで慎重になっているのかと思った俺の士気を上げるための言葉にフレイさんが首を振る。


「蟻人というのはタワーアントの上位種なんだ」


 まあどっちも蟻だし六本足で歩くか2本足で歩くかの違いしかないんだから同種というのは理解できる。それの何がまずいのだろうか?


「蟻人はタワーアントを統率する力を持っているんだ。タワーアントを3体も引き連れてるとなると4階層探索者でも逃亡を前提に戦略を検討する」


 確かにそれは厄介そうだ。となればどうする?将から潰すか,兵から潰すか。

 一番困るのは俺達2人が足止めされてここを突破されることだ。ここまで苦労して連れ来た生存者を失うのはかなり悔しい。ここまで来たら絶対にあの2人は生きて脱出させたい。

 

 となると…やっぱり蟻人から潰すしかないか。頭を潰せば残りはわざわざ目の前の敵をスルーするようなことはしないはず。


「フレイさん。あのアント3体を俺が引きつけたら蟻人を速攻で倒せますか?」

「な!本気で言っているのか?フジノミヤ殿」

「時間が無いんです。出来るか出来ないか即答してください」

「く…済まないが私には無理だ。あの固い甲殻は私の攻撃では…」

「わかりました。じゃあ俺が行きます。フレイさんは倒さなくてもいいのでアント3体を絶対に後ろに行かせないでください」

「わ,わかった。全力を尽くす」


 俺だって正直しんどい。だが蟻人は一度倒してる。桜ちゃんなら甲殻の隙間を斬れることは確実だ。

 後は前回みたいに蛍さんの援護がない中でどうやってあいつの4本の足鎌の攻撃防御を抑えて斬撃を通すか。もう悩んでても仕方がない。あいつらはここを抜ければトォルとアーリを殺す。蛍さんとシスティナの背後を襲う。あいつらは間違いなく俺にとっての悪。

 俺に蛍さんが言うような光圀モードがあるなら今こそ発動する時。


 そう決心すると自然と脳内がスッと冷える。

 目線を魔物に向け,重心を僅かに落とす。 


「フ,フジノミヤ殿?」


 構えた俺を見て怯えたようなフレイさんの声が聞こえるが返事をする余裕はない。

 蟻仁は後方からギチギチと顎剣を鳴らしてタワーアントの後方から向かってくる。おそらくあの音がタワーアント共への指示になっているのではないだろうか。

 タワーアントは通路を塞ぐように絶妙の間隔を保って近寄ってくる。フレイさんの言うとおり蟻人によって統率されているようだ。


 だが下手に知恵を回したおかげで通路の端を行けば邪魔されるのは1体だけ。残りをフレイさんが押さえてくれれば蟻人まで行ける。

 統率出来ると言っても頭が良い訳ではないのだろう。


「俺は左から行きます。先に正面に当たってください」

「わ,わかった」


 俺の声に押し出されるようにフレイさんが真ん中のタワーアントに向かって走る。そのすぐ後ろに隠れるように俺も走りだす。

 すぐにフレイさんは真ん中の蟻と接敵する。蟻の顔面に先制の右フックを叩き込んで勢いを止めその右手を90度捻ると握ったままの小剣の刃先が下に向きそれを蟻の複眼に突き刺す。


 ギッギィー!


 蟻が耳障りな音を立てる。小剣は完全に目を潰す程ではないようだが小さくない傷を付けたようだ。

 なかなか面白い戦い方だ。格闘と小剣を融合させた獣闘剣士の戦い方か。蟻相手では有効な攻撃手段が無さそうだが足止めだけならなんとかなりそうか。

 そして彼女の先制攻撃がうまくはまったことで両端の蟻の注意が真ん中に向き進路を変えようとする。

 その一瞬をついて俺は進路を左に変え左の蟻の脇を抜ける。抜けるついでにフレイさんの援護として蟻の腹部の若干柔らかい部位に大剣を叩きつけておく。

 グシャという気持ち悪い感触が伝わってくるが悪人認定されたモノがどうなろうと知ったこっちゃない。

 腹部を潰されたぐらいで虫は死なないので引き続きフレイさんへ向かって行っているがあの傷では動きも鈍るだろうし場合によってはいずれ力尽きるだろう。


 後はこいつだ。


 ギチギチギチギチ


 悪いが害虫ごときと遊んでる暇はないんだよ!

 俺は走り込んだ勢いのまま大剣をこれ見よがしに大きく振りかぶる。

 蟻人はそれを見て大上段からの振り下ろしを想定したのか後ろ足を踏ん張り4本の足鎌で頭部を守ろうとする。普通の蟻は後ろ向きには歩かない。

 この世界の蟻がどうだか知らないし,それがこいつに通用するかも分からなかったし,たまたま下がらなかっただけかも知れないがそんなことはどうでもいい。

 

 俺は歩法を駆使して最後の踏み込みを右斜め前方へシフト。振り下ろすべき大剣の角度を斜めに変えると力一杯振りぬく。

 

 ギッギィー!


 俺の一撃をもろに受けた蟻人が体勢を崩した隙を見逃さずに左手の桜を頭部と胸部の境目に向けて一閃。

 蟻人の頭部がゴトリと地面に落ちる。やったと思った瞬間身体に痛みが走る。


「うくっ!」


 しくった!こいつら虫は頭をちぎられてもしばらく動けるんだった。

 

 よろよろと後ろに下がると胸から腹にかけて刻まれてしまった傷跡に舌打ちした気持ちになる。

 せっかくうまく立ち回ったのに最後に油断したせいで台無しだ。


 大上段の振り下ろしで頭部への攻撃を警戒させつつ歩法とフェイントで狙ったのは蟻人の足。身体の大きさに比べて異常に細い足を結構な重量武器である大剣で斜め上から叩き付けた。

 思惑通り砕けた足で体勢を崩した蟻人に更に一歩踏み込み桜ちゃんでとどめをさした。

 だが小太刀である桜ちゃんでの攻撃は間合いが近づきすぎるという欠点がある。しっかりととどめをさしたら不測の事態を避けるためにもすぐに離れなきゃいけなかった。それが遅れたせいで蟻人の最後の足掻きだった足鎌の一振りを受けてしまった。防具を駄目にしてたのも運が悪かったがそんなのは言い訳だろう。

 

 くそ!反省は後だ!幸い傷はそんなに深いところまでは達してないと思う。


「フジノミヤ殿!」


 切羽詰まった声に振り向くと統率するべき頭を失ったことで本来の凶暴さを取り戻した3体のタワーアントにフレイさんが囲まれていた。


「く!今行く!」


 抜けそうになる力を無理やり込めなおし走る。まずは俺が腹を潰していた蟻の後ろから近づき頭を大剣で潰す。蟻人は同じようにしても頭は潰れなかったのでやはり蟻人の方が上位種なのだろう。


「あと2体」


 俺に気が付いた1体が攻撃目標をこっちに変更したらしいので対峙する。1対1ならフレイさんもそうそう不覚は取らないだろう。ならば俺のすることは目の前の1体を確実に屠ることだ。






「ふう…なんとかなったね」

「ああ,一瞬助けに来たことを後悔したぞ私は」


 それから数分後なんとか2体のタワーアントを倒すことが出来た。前の方からも音が収まりつつあるので間もなく決着が付きそうだ。

 後は脱出するだけだ。


「その前に魔石を拾っとかないとね」 


 その場に落ちている魔石を3つ回収する。タワーアントの分だ。


「フレイさん。この3つはフレイさんに差し上げます」

「え?…何故?ほとんどフジノミヤ殿が倒したのだ私は受け取れん」

「いいから!フレイさんが足止めしてくれなきゃいろいろヤバかったんだ。ありがとうフレイさん。助かったよ」

「あ…あぁ。分かった。では有難く貰うことにする」


 無理やり押し付けたられた魔石を見つめたまま固まるフレイさん。その表情には戸惑いのが見える。

 そんなに気にすることないのに。本当に律儀な子だ。


 蟻人の魔石は俺がもらって行こう。完全にソロで倒したし問題ないっしょ。


 蟻人を倒した辺りに来て床を探すとさっきの魔石より一回り大きいのがすぐに見つかる。

よし!こいつを回収したら蛍さんと合流しよう。


 ゴン!!


 魔石を拾うため床へと手を伸ばした俺は次の瞬間強い衝撃と共に意識を失っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ 小説1巻~3巻 モーニングスターブックスより発売中 コミックガンマ+ にてコミカライズ版も公開中
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ