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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第7章

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解体結果

「これは……驚きました。ほんとうに塔の魔物なんですよね?」


 冒険者ギルドに到着していつものようにウィルさんを呼び出し、今日は個室ではなく解体部屋のほうへとお願いした。その際に口の堅い解体士の同行もお願いしたので、ベイス商会お抱えでウィルさんの直属になっている低身族のラグワントさんも同室している。

 時刻は夕方になってきていたので、うちのメンバーからは霞と陽を屋敷に戻すことにして桜を一緒に同行させたので、いま俺の隣にはメリスティアと葵だけがいる。


 いつもと違う展開にまた俺たちがなにかをしでかしたと察したウィルさんが、キラキラした目で俺たちを見ている状態の解体部屋。そこの大きな台の上にメタルスコーピオとタワーグリズリー二体をアイテムボックスから引きずり出したところで、魔物には驚きつつも普通の解体依頼ですか? と怪訝な顔をしたウィルさんに事情を説明したあとのウィルさんの第一声である。


「はい、魔物の素材を集める依頼を受けたので、なんとか塔の魔物から素材を入手できないかと考えていたら、うちの陽がいい閃きをくれたのでちょっと試してみたら……このとおりでした」

「なるほど……アイテムボックスの中は塔の外と同じ扱いになるのですね」


 さすがはウィルさんだ。これだけでその結論にいきつくとは。


「たぶんそういうことだと思います。狩った魔物を吸収される前にアイテムボックスにしまうのはちょっとコツがいりそうですけど、比較的小柄な(ウルフ)種や(エイプ)種、ゴーレム種とかでも砕いた欠片なら簡単に収納して持ち出すことができると思います」


 それでも毛皮や牙、種類によっては肉も素材として持ち帰れる。ゴーレムは野良で外にいることは稀で、ほぼ塔内にしかいないらしいけど、その体の構成素材は千差万別でレアなやつだと魔材で構成されたものもいるらしく、その体の一部分だけでも持ち帰れればかなりの収入になる。


「それは凄いですね……今までゴーレムの素材は戦闘中に偶然砕けた欠片を、探索者が拾って逃げるしかありませんでした。倒してから消えるまでに腕の一本も回収できれば、その日の探索としては大成功になります」

「あとは実際に外の魔物とどう違うのかを調べる必要があるので、解体をお願いしようかと思って今日は持ち込んだ次第です」

「はい、事情はわかりました。この情報も迂闊にもれると大変なことになりますね……」


 荷物が多く持てるだけでも有利なのに、さらにこんな付加価値がついたらアイテムボックスは羨望の的になる。それだけですむのなら別に構わないが、アイテムボックス欲しさに持ち主から盗んだり奪ったりする事件も想定される。それは憂慮すべき事態だが、どうせアイテムボックスが表に出ればいつまでも隠しておけることではないし、どこかのタイミングでは公開せざる得ない。だったら俺たちが悩むよりも領主会議にこの情報も投げてしまって、世間に公開するかどうかは領主たちに会議で決めてもらえばいい。


「その辺は領主会議でお偉いさんに考えてもらえばいいことだと思いますよ。冒険者ギルドとしてはギルドに対する功績が多大で高ランクに上がった冒険者先着何名にプレゼント、とかやったら冒険者たちのやる気が上がるかも知れませんね」

「なるほど……それは面白いですね。高ランク冒険者ならアイテムボックスをやすやすと奪われることもないでしょうし。そういう企画もギルドに登録した冒険者の特権として開催するのはいいかも知れませんね。賞品はアイテムボックスじゃなくて、賞金やレアなアイテムとかでも十分でしょう」

「おい、こっちは勝手にやらせてもらったぞ」


 俺とウィルさんが話に興じている間にしびれを切らしたらしいラグワントさんが、解体を始めていたようで、すでにメタルスコーピオは綺麗に解体されていた。


「ああ、すみません。もちろん解体は構いませんが、なにか違うところはありましたか?」

「かなり違うな」

「どういうことですか?」


 ウィルさんの問いかけに低身族特有なのかディランさんのような見事な顎髭をしごきながらラグワントさんが答える。


「内臓がねぇ」

「は?」

「消化器系の臓器がねぇんだよ。いまグリズリーのほうも腹だけ掻っ捌いたが、こっちも同じだ。心臓と脳と循環器系はあるみてぇだが消化吸収に関係するものがねぇ、当然排泄もできねぇ。空いたスペースはもっぱら肉だな」

「すみません、ということは塔の中の魔物は食べて栄養を得ることをしないということですか?」

「だろうな。そして、こいつらには魔石がある」


 ラグドワントさんがメタルスコーピオから取り出したらしい魔石をごろんと台の上に転がす。


「フジノミヤ様、塔の魔物は塔外に出ると魔石の力を使って自らの体を変質させるのではないかという説があります」

「……メリスティア、いま気が付いたんだけど」

「はい、なんでしょうか?」

「俺への呼び方を変えない?」

「え?」


 真面目な話の最中にいきなり切り出された俺の的外れな会話にキョトンとした顔をするメリスティア。


「だって、よく考えたらウィルさんが俺を呼ぶときと同じなんだよね。なんか身内から呼ばれるにはちょっとよそよそしいかなって」

「あの……でしたらどう呼べば?」

「システィナと同じでもいいけど……せめて名前で呼んでもらえないかな」

「ソ、ソウジ……さん? ……様?」

「あ、ソウジさんは新しいかも。それでいこう」


 たぶん、恥ずかしくて「ロウ」がかすれたんだろうけど、響きが新しかったので採用にする。


「は、はい! わかりました。ソウジさん」


 ちょっと頬を赤くしながらも、自分だけの呼び方ができてなんだか嬉しそうなメリスティア。その後ろでウィルさんが「でしたら私もなにか……」とか言い出したが、それは丁重かつ厳重にお断りしておいた。



 盛大に話が脱線したが、結局メリスティアの言う通り魔物は塔の外へ出ると魔石の力を使って体を作り替えるのだろう。塔の中にいる限り活動するエネルギーは塔から供給される。だから、塔内にいる限り外部からエネルギーを取り込む必要がない。その分は筋肉などの戦いに必要なもので埋め尽くして魔物の強さを底上げしているということか。

そして、外に出ればその塔からのエネルギー供給が断たれるため、自らの肉体を改造するのだろう。


 結論としては、塔の魔物は魔石が残り、素材も取れる。しかも一部の臓器がないため、食用にもなる魔物の場合は可食部位が増える。いいこと尽くめだった。

 

 今回の素材は研究のために冒険者ギルドに寄付することとして、なにかわかれば教えて欲しいとお願いしておいた。でも、メリスティアに聞いたら調理できるということだったので、エビっぽい身のサソリ肉と、熊肉の一部を少しだけもらった。


「一応、今回のようなアイテムボックスの使い方については弟子の皆さんにもお伝えしておいたほうがいいと思いますわ」

「あ、そうだね。情報が公開されるまでは独占的に稼げるし、公開後はさらにアイテムボックスの危険度があがるから注意してもらわなきゃならないか」


 屋敷への帰り道で葵からの指摘を受けて納得する。今現在アイテムボックスを持って歩いているのは俺たちか弟子の三人組くらいで、弟子たちも使い方には気を付けて周囲にばれないように使用している。弟子たちはすでに蛍からの階層制限も解かれ自由に探索しているし、フレイの音響索敵があれば人目を避けての素材回収も可能だろう。


「明日にでもギルド経由で伝えてもらうか……でも漏えいが怖いな。ここは確実に桜に走ってもらうのが確実かな」

「それがいいと思いますわ。あ、それとわたくしはまた明日からディランさんのところへ通うことになりそうですわ」

「へぇ、またなんか面白いものができそうなの?」

「面白いというほどのものではありませんわ。新選組のエンブレムとパーティリングをひとつにするという案がでてるんですわ」


 いつも通り俺の腕を抱え込んで柔らかな胸を押し付けつつ葵がディランさんとの計画を教えてくれる。どうやら例の狼と刀のエンブレムを刻んだ腕輪に何らかの付与をしつつ、そこに葵が作った重魔石をはめ込むことでパーティリング化もしてしまおうということらしい。


「あれ? でもパーティリング用の重魔石ってひとつのものを割って使うんじゃなかったっけ」

「普通はそうですわ。でも、わたくしなら【魔力操作】を使って寸分たがわず同じ魔力でいくつでも魔石に属性を付与することができますわ。そうすればいくらでも同じパーティリングを作成することができます」

「それは凄い! ということは霞や陽だけじゃなくて、狼たちやグリィンたちにもパーティリングとして渡せるってことだよね」


 驚く俺を見て満足したのか嬉しそうに微笑む葵。俺より全然お姉さんなのにこうして甘えてくれるのは意外と嬉しいものだ。蛍さんは基本的にベッド以外ではあんまりべたべたしてこないし、桜はくっついてくるけど明るくさっぱりしているので仲のいい友達みたいな感じにも思えてしまう。雪もふたりきりとかならまだしも人前ではあんまり甘えてこない。

 葵みたいに女を意識させつつ甘えてくるのは実は貴重で嬉しかったりする。


「ただ、全員に配ってしまうと、皆さんがばらばらに動いているときに識別が難しくなって誰がどこにいるのかはさっぱりわからなくなるのが問題ですわ」


 なるほど……いまは俺と刀娘たちとシスティナだけでリングは反応しているけど、これを従魔たちのぶんまで広げると確かにわかりづらい。いまだって屋敷のほうに反応が集中していて何人いるのかは判別できない。ただ、他に反応がないので、蛍、桜、雪、システィナ、四つ分の反応なんだろうなと推測できるだけだ。これが霞や陽、狼や馬たちまでになるといまの屋敷だけで十八? の反応が集中することになる。


「まあ、それでも誰かになにか問題があったときのことを考えると全員に持っていてほしいかな。攫われるようなことがあっても居場所がわかるしね」

「ふふふ、主殿ならそういうと思ってましたわ。お任せくださいませ、しっかりと全員分仕上げておきますわ。もちろんメリスティアさんの分も」

「ありがとうございます、葵様。私も皆さんと同じようにソウジさんたちを感じたいと思っていたので嬉しいです」


 喜ぶメリスティア。さすがにパーティリングも七つ以上に分かれるものは少ないらしく、現状六つに分けたパーティリングを使っている俺たちでもこれ以上はお金の問題以前に、物理的に難しいと思っていたらしく、自分も欲しいとは言い出せなかったらしい。


「じゃあ、パーティリングは葵とディランさんに期待することにして、俺たちは素材集めを頑張らないとね」

「はい!」


 じゃあ、領主会議までは訓練、素材集め、夜の錬成の流れでまったりしようか。


 まあ、訓練と魔物との戦闘がまったりの範疇に入ってきている時点でだいぶん認識がおかしくなってきている自覚はあるが、無理をしているわけではない。別に訓練も探索も好きでやっていることだし、休もうと思えば休める。


 そして夜は楽しい愛の錬成作業、うん。これこそ俺が求めていた自分らしく生きる自由な生活だと自信を持って言える。


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