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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第7章

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巨神の大槍

「おお! よく来たなフジノミヤ!」


 翌日、システィナと蛍を連れた俺が訪れたのはレイトーク領主イザクのところだった。昨日はあのあと、残りのラグナとイナリスにも訪れて石碑を確認してきたが、記載されている内容はほとんど同じで違いはなかった。となれば神域を目指すためには巨神シリーズか、副塔装備が必要になる。そしてあとふたつあるであろう巨神シリーズのうちのひとつの在りかを俺たちは知っていた。


「先日はお疲れ様でした。その後は問題ありませんか」

「うむ、やつらの残した施設というのが業腹だが、実に使い勝手がいい村でな。付近の木こりや狩人の集落をあそこに集め、レイトークとの街道を整備するつもりだ。それに改めて調べてみると、あのあたりは実に植生が豊かで獣影も濃い。レイトークの魚介類と共にいい食糧庫になりそうだ」


 おそらく副塔を討伐したことで、その周囲に主塔と討伐したときのような恵みの力が放出されたのかも知れない。突発的な副塔を速攻で倒して、その恩恵だけ受けられるとなれば結構美味しい。がはははと豪快に笑う領主イザクも戦争前の不機嫌さとは打って変わってご機嫌だ。これなら交渉もしやすいか。


「なんでも(くだん)の報酬は直接渡したいとのことでしたが?」


 副塔討伐依頼の報酬と、邪教の村からレイトークまでの領主の護衛依頼の報酬だ。


「おお! そうだ。それなんだが……教団との戦いに加えて、村の整備、木こりたちの移民、そして街道整備で金がない。どうしたもんだろうな」


 どうしたもんだろうって、それを俺に聞くのか? パン! 


「なにして言ってやがりますか。自分で頼んでおいて報酬も払えないとかふざけてやがりますか! さっさと私への金貨十枚も払って下さい!」


 うん、ミモザさんにすっかり遠慮がなくなってるね。普通にスリッパで領主の後頭部どついてるから。


「がははは! すまん! もうちょい待ってくれい。なんなら分割してくれると助かる。二十日ごとに金貨一枚の十一回払いでどうだ?」

「……金貨一枚分の利息ですか。初回のみ二枚で、残り十回払いなら受けてやるです」

「がははは! 利息に金貨二枚か、相変わらずがめいつなミモザ」

「三枚に増やしやがりますよ」

「すまん! では、さっきの案で頼む。と、いうことで金がないのだが、フジノミヤ。金以外で欲しいものはないか?」

「金以外……ですか」


 おおお! なんと好都合な展開。こんなに自然に話を持っていけるとは思わなかった。いざとなれば後ろで控えているシスティナに【交渉術】スキルを使ってもらうつもりだったんだけど、なんとかなるか?


「うむ、爵位や称号、なんだったら新しい村の領主でもよいぞ」

「いや、そんなのはいりませんけど、ひとつ欲しいものがあるんです。よろしいですか?」

「なんでも申してみよ」

「副塔討伐依頼と護衛依頼、ふたつの報酬を合わせてで構いません。イザク様が使用している大槍、あれを頂けないでしょうか」


 巨神の大槍をくれ、という俺の希望に笑顔だったイザクの表情が消える。さすがに愛用の武器をくれと言われるのは想定外だったか……武器との絆が深いこの世界においては愛用の武器は半身みたいなものだ。やすやすと誰かに渡せるものではない。


「……それは、正直想定外だったな。当然だが、武人に対して愛用の武器を寄こせということが、どういうことなのかをわかってのことなのだろうな」

「はい、伊達や酔狂で欲しいとお願いしているわけではありません。理解はされないかもしれませんが、私たちの今後に関わる大事な案件に必要なのです。無理に奪うつもりは勿論ありません。ですが、いただけなかった場合はレイトークの塔を討伐することも視野に入れています」

「なるほどな……お前たちなら本当に塔を討伐してしまうかも知れぬな。勿論、それを止める権利は私にとてない。建前上は『塔は討伐するもの』だからな」


 イザクは短く刈りそろえた髭をごしごしとしごいたイザクはやがて、白い歯を剥き出しにして笑った。


「いいだろう! 持っていけ。あれは何代か前の領主が手に入れたものだが、使いやすいから使っていただけで先祖伝来というほどのものではない。そしてお前たちの功績に報いるためになら惜しくはない!」

「……自分で頼んでおいてあれですが、本当によろしいのですか?」

「ふん! 必要なのだろう? ならば持っていけ。もしいらなくなれば返しにくればいい、その時には金貨五百枚で買い戻してやる!」


 金には困ってないし、大槍はグリィンが馬上(?)から使うのに適した武器だから返しにくることはまずないと思うけど……金貨五百枚か。それが今回の俺たちの働きに対する領主の評価ってことかな。それならありがたく受けておこう。


◇ ◇ ◇


「ほウ、これはいいナ。 剣よりも遥かに攻撃しやすイ」


 俺がイザクから巨神の大槍をせしめて帰ってきたところで、遠駆けから戻ってきたグリィンに巨神の大槍を渡してみた。馬上のグリィンほどに長大な大槍を、グリィンは苦もなく軽々と振り回し、かなりご満悦だった。


『巨神の大槍(封印状態) ランク:C 錬成値:MAX 吸精値 :44

 技能 :頑丈(極)/豪力/突補正/所有者:グリィンスメルダニア』


「大剣と同じで頑丈さは折り紙付きだから力一杯振り回しても大丈夫だから」

「わかっタ、明日も塔に行くなラ、私も連れていってくレ。実戦で使ってみたイ」

「グリィンを連れていくと目立つんだけど……まあ、いいか。じゃあ明日も昼頃に出るからそれまでには屋敷にいるようによろしく」

「わかっタ。蛍、済まんが手合わせを頼めるカ?」


 俺の隣でグリィンの槍捌きを見ていた蛍に向けてグリィンが不敵な笑みを浮かべる。


「いいだろう、私もそう思っていたところだ」


 蛍もグリィンの動きを見てうずうずしていたのか、即座に申し出を受ける。本当に訓練なのかと疑うほどに剣呑な空気が漂い始めたその場所から逃げ出すべくシスティナに声をかけると、そそくさと退散した。


「巻き込まれる前に逃げるよ、システィナ」

「ふふふ、はい。ご主人様」



 屋敷の中に入る頃には背後から強烈な剣戟の音が聞こえてきていたが、あえて視線を向けずに扉を閉めた。



「あ! ソウ様、おかえり! どうだった?」

「うん、意外とすんなりと貰えたよ。そのかわり報奨金はゼロだけどね」

「そっかぁ、でもお金はウィルえもんがいればなんとかなるもんね。それよりもこれで武器、揃うんじゃない?」


 桜の言いぐさはウィルさんに対してかなり失礼だとは思うが、ウィルえもんという言葉を教えたのが俺なので注意もできない。せめて本人の前ではいわないで欲しい、説明とかできないし。


「だね、あとは巨神シリーズをひとつか副塔装備がひとつあれば条件を満たすからね」

「副塔の位置を調べますか?」

「いや、いいよ。どっちにしろ最後はザチルをのぼるしかないんだから、急ぐ必要はない。それにザチルをのぼれば神域の前にザチルのボスがいるはずだから、そこで揃うんじゃないかと思うんだ」


 ザチルのボスが神ということもないだろうから、見込みとしては悪くないはずだ。問題はまだ百階層すら突破されず、最上階がどこまであるのか想像もつかないザチルをのぼりきれるのかどうか。全体的に敵の強さは上がっていくんだろうし、どこまで上がれるかは正直わからない。


「副塔の情報は冒険者ギルドに入ってくる情報くらいでいい。俺たちはしばらくザチルの攻略をメインに動く。それに普通のギルドの依頼も受けたいしね」

「たしかに普通の依頼は受けたことがありませんね」


 システィナが改めて気が付いたのか口元を隠して笑う。


「桜は結構受けてるよ」

「え? いつの間に!」


 桜はへへへと笑いながらギルドカードを提示してくる……げ、ランクが『C』になっとる。ていうことは現在この世界のナンバーワンランカーは桜ってこと?


「そうか……情報収集でいろいろ飛び回ってたし、結構ギルドとも連携していたから、そのついでに依頼を受けていたってことか」

「うん、正解」


 うん。なら、仕方ない。桜は本当に頑張ってくれていたからな。俺たちが面倒ごとに巻き込まれるたびに走り回ってくれていたんだから、当然の結果だ……。まあ、依頼達成で貰っていたであろう報酬をなにに使っているのかは、なんとなく怖いから聞かないが。


「あの……旦那様」

「ん? どうしたの霞」


 エッヘンと胸を張る桜の頭をなでなでしてあげていると、後ろから侍女服姿の霞と陽が俺に声をかける。


「あのね、兄様。リュスティラさんから明日工房に来てほしいって伝言があったんだけど……行っても大丈夫?」

「え……さすがだな。もう完成したのか…………うん、それなら明日は俺と一緒にいこう」

「え! 本当ですか。旦那様がご一緒してくれるのですか」

「やった! 兄様と一緒だ!」


 ふたりは基本的に屋敷の仕事をしているか、桜と一緒に飛び回っていることが多い。それでも女性陣とはたまに買い物にいったりしているみたいなんだけど、俺と一緒にどこかに出掛ける機会は意外と少ない。もの珍しいというのもあるのかも知れないけど、それだけ喜んでもらえるなら俺としても嬉しい。


「あとは……申し訳ないけど屋敷はシスティナに任せることにして、メリスティアに一緒に来てもらおうかな?」

「はい、それがいいと思います。それではメリスティアには私から伝えておきますね」


 システィナは笑って一礼すると台所へと向かっていった。


「あ、待ってくださいシスティナ様、私たちも。それでは旦那様、明日はよろしくお願いします」

「じゃあねぇ、兄様。明日忘れないでね、あと今日の晩御飯は陽がメインシェフだから楽しみにしててね!」

「了解、最近は皆、料理の腕があがったから毎日なにを食べても美味しくて、食べ過ぎて困ってるからほどほどに頼むよ」

「ダメダメ! 兄様には美味しいものをたっくさん食べてもらうんだから!」


 陽が文字通り太陽のような笑顔で手を振って台所へと走っていく。いや、だから侍女が走るなと……まあ元気でいいけど。


「主殿、明日リュスティラさんのところへ行くのですか?」


 陽たちと入れ替わるようにして、葵と雪がリビングに入ってくる。


「うん、霞と陽の武器が完成したらしいからね。俺も立ち会わなきゃ」

「そうでしたか……主殿、わたくしもご一緒してよろしいですか?」

「ほかに用事とかがないなら勿論、構わないけど?」

「いえ、実はわたくしもディランさんに呼ばれているのですわ。時間は指定されていませんし、明日と言われているわけではないのですけど、せっかくなら主殿と御一緒にと」


 葵は今でもちょいちょいディランさんに呼び出されていろいろ作業を手伝っている。葵の【魔力操作】とそれに付随する魔石への属性付与はディランさんの作業に大きく貢献しているし、魔力に対する葵の話はディランさんのインスピレーションを強く刺激するらしい。


「そういうことか、うん。なら一緒にいこうか。いつもの午前の訓練が終わってからになるからその予定でよろしく」

「はい、わかりましたわ」

「あっ、忘れるところだった。桜、明日は桜も一緒に来てもらおうかな。桜が依頼していた布みたいな防具の目処が立ったらしいんだ」


 本当は霞たちがリュスティラさんのところに行った日に一緒にいってもらう予定だったんだけど、桜はピクニックの準備でいけなかったから、そのまま有耶無耶になってたんだった。


「あ、凄い! さすがリュティたちだね。了解、明日は桜もいくね」

「よろしく。……あ、そういえば雪。いま庭で蛍が巨神の大槍装備のグリィンと模擬戦をしてるよ、いってみたら?」

「……ん、それは見たい。というか参加したい。ありがとソウジロ」


 うきうきとリビングを出ていく雪を見送っていると桜もうずうずとし始める。


「それなら桜も見にいこうかな? ソウ様はいいの?」

「いい、いい。しばらく怪我はしたくない、システィナにも怒られるしね」

「あははは! シスは目の届かないところで怪我するのは嫌がるけど、目の前で怪我するぶんには文句は言わないと思うけど?」


 ち、さすがは桜だ。システィナのことをよくわかっている。桜のいう通り、システィナは自分の目の届く範囲で、怪我をするなら心配はしても怒ることはない。


「さぁって、風呂でもいこうかなぁ」

「あ、逃げた」

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