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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第7章

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妖刀

「魔剣の召喚だト? それはいったイ。この世界には不思議な力を持つ剣ヲ、魔剣と呼ぶこともあるガ……」

「そうだね、この世界で一般に魔剣というと、そういう剣のことを指す。つまり技能付きのランクの高い剣はだいたいは魔剣ということになると思う。だけど俺がいう魔剣はちょっと意味が違うんだ」

「なるほド! 蛍たちのような武器のことをいうのだナ」


 俺が答えを発表する前にパンと手を打ったグリィンが答えを叫ぶ。まあ、話の流れからいけばすぐにわかることなんだけど、どうせなら俺に言わせろよ。


「蛍たちのような剣の形はこの世界ではあまり見ないけど、片刃で反りのあるようなこういう武器を俺たちがいた世界では『カタナ』って呼ぶんだ。その刀たちをこの世界に召喚する技能が俺の【魔剣召喚】ってわけ」

「それでは、蛍様たちのようなカタナ? の人がこれからも増えていくのですか? フジノミヤ様」


 メリスティアの質問に俺は「もちろん!」と答えたいところなのだが、そう簡単にはいかないのがこのスキルの悩ましいところだ。


「できればそうしたいとは思っているんだけど、この技能は使用回数に制限があるんだ。一度、ゼロになると次に回数が増えるのはいつになるのかがわからない。ただ、今までの経験からいくと、俺たちがなにか大きなことを成し遂げたときに増える、ような気がする」

「旦那様、例えばどのようなときだったのでしょうか?」


 うつらうつらとしている九狼を撫でながら、葵に撫でられている霞の問いかけを予想していた俺はすぐに口を開く。


「一度目はレイトークで階落ちの変種だった階層主を倒したとき」

「わたくしが呼んでもらえたときのものですわ」

「そうだね、葵はこのときに覚えた【魔剣召喚】で召喚したんだ。そして、使用回数がゼロになったこの技能の回数が増えたのは『赤い流星』を壊滅させたときだった」

「……このとき、私が呼ばれた」

「でも、雪姉様は私たちがきたときもお屋敷にはいなかったよ?」


 雪に抱きかかえられながら首をかしげる陽に俺は頷きを返す。


「うん、そのへんは魔剣となった刀たちと、俺の『魔剣師』という職に関わる話なんだ、また今度説明するよ」


 錬成に関しては突っ込んで説明するとエロい話に繋がるから、とりあえず今はパス。


「そして、三度目が」

「え! ソウ様、もしかして?」

「あ! だからリュスティラさんに新しい武器を発注しなかったのですね」


 桜が好奇心を剥き出しにした笑顔を浮かべ、システィナはひとつの謎が解けて納得している。


「そう、聖塔教壊滅と副塔討伐のあとに【魔剣召喚】の使用回数が増えたんだ」

『なるほど……確かに大きなことを成し遂げたあとですね、我が主』


 一狼の念話に小さく頷く。


「ここでやるんだな、ソウジロウ」

「うん、使用回数が今回増えたのはここにいる全員が頑張って戦ってくれたからだ。だから皆が揃っているこの場こそが相応しいと思う」


 蛍は俺の言葉に僅かに微笑みを浮かべると、酒を満たした杯を掲げた。


「じゃあ、やるよ」


【魔剣召喚】を使うのは久しぶりだ。しかも今回は誰にも伝えていないけど、使用回数が二回。これを俺はまとめて使うつもりだ。魔力量がどんどん増えているいまの俺なら、二本同時に召喚しても倒れるようなことはないはずだ。


【魔剣召喚】


 俺がスキルを発動すると、前につかったときと同じように不思議な白い光が目の前に広がる。そしてその光はすぐに鞘に納まったふた振りの刀の形へと収束していく。その光を浴びた月華蝶が触発されたのか、愛の乱舞を激しく舞う。そして集まり切ったその光が弾けたとき、見事な拵えの黒い鞘に納まったふた振りの刀が俺の前に浮いていた。

 刀はどちらもよく似た鞘に納まっている。見た目で区別が付くのは太刀緒と呼ばれる鞘に結ばれた紐の色がひと振りは紫、もうひと振りは赤紫だということくらいか。


「おオ……本当に剣が出たナ」

「はい、なんだか凄い力を感じます」


 初めて【魔剣召喚】をみたグリィンとメリスティアが感嘆の声を漏らす。召喚は結構神々しい感じがあるせいか、侍女組は声も出ないようだ。


 俺は両手を伸ばしひと振りずつ刀を掴む。同時に不思議な力は失われ、俺の手には刀の重さがダイレクトに伝わってくる。この重みは何度味わっても堪らない愉悦だ。

 手元に引き寄せたふた振りの刀をゆっくりと卓に置くと心を落ち着けてから【武具鑑定】を発動する。まずは紫の太刀緒のほうだ。


『村正(初代) ランク:C+ 錬成値:0 吸精値:28

 技能:共感/意思疎通/魔力感知+/魔力増幅/魔法適性/魔法耐性+/祝詞(のりと) 特殊技能:連結魔法』


 うおおっ! 凄い! ま、まさかの村正! しかも初代? 待て待て待て! ていうことはよく似たこっちの刀は? 【武具鑑定】。


『村正(三代) ランク:B+ 錬成値:0 吸精値:11

 技能:共感/意思疎通/擬人化/魔力感知/魔力増幅+/魔法適性+/魔法耐性/呪言(じゅごん) 特殊技能:連結魔法』


「うおお! 村正がセットできた! グッジョォォォォヴ! 爺さん、ありがとぉぉぉ!」


 きたよ! きたよ! 村正だよ。ムラマサブレード! しかも初代村正と三代村正がまとめてくるとか、神懸ってるよ。たしか村正って三代目が一番評価が高いんだっけ? だから初代より三代のほうがランクも高いのか? ていうか、三代のほうは【擬人化】覚えてるじゃん! 蛍のとき以来だな。しかもうちのパーティに一番足りなかった後衛火力、魔法職! スキルに関してはほかにもいろいろ突っ込みたいものがあるけど、その辺はあとでいいか。


「ふたりとも聞こえる?」

『『……』』


 うん、返事はないけど【共感】のおかげで意思があるのはわかる。俺の声は聞こえているみたいだ。


「知っているかも知れないけど、俺の名前は富士宮 総司狼だ。よろしく頼む」

『……知っています、いつもあちしたちを見ていた子供です』

『ええ、いつも姉様(あねさま)をいやらしい目でみていた子です』

「え?」


 いやいや! こっちの世界にきてからならまだしも、日本にいたころは刀に欲情するような性癖はなかったぞ……まあ、違う意味で興奮はしてたけど。


『あちしたちの新しい主、お館様』

『姉様が認めるのなら、仕方なしです。お館』

「う……うん、とにかくよろしく。えっと、まずは君たちに名前をつけてあげたいんだけど……いいかな?」


 あまり感情のこもらない平坦な言葉で答えてくる初代はまあいいんだけど、三代のほうは……どういうことだろう? シスコン? 俺、嫌われてるの? 【呪言】とか持っている人に嫌われたくないんだけど。


『あちしたちに名前? 感謝します。お館様』

『姉様がつけてもらうなら、あちしにも付けるです。お館』

「わかった。じゃあ付けさせてもらうね……ふたりは姉妹みたいなものなんだよね。だったら姉妹らしい名前がいいよね……」


 初代と三代、気持ちの大小はあれど、どちらも名前に期待している気持ちが伝わってくる。なんとか気に入ってもらえる名前を考えなきゃな……村正か、妖刀伝説があるんだっけか? たしか徳川に仇なす妖刀とか……あれ? そうしたら葵と仲が悪かったりする?


『そんなことありませんわ! そんな伝説は人間の間だけのものです。あの蔵にいた刀たちにそんなわだかまりはありませんわ』


 そっか、それはよかった。ただでさえ蛍と葵のじゃれあいが周りに被害及ぼし気味なのに、また不安要素が増えるかと思った。っと、それよりも名前、名前。

 うんうんと唸りながら名前を考える俺の目の前を月華蝶が飛んでいく……月華蝶、月、華、蝶、川、川原……水、水か。


「よし、決めた。初代、君は初代村正あらため、(みお)。そして三代、君は三代村正あらため、(しずく)だ! ……どうかな?」

『澪……雫、あちしたちの名前。よき名です、お館様』

『姉様が澪、「流水」。あちしは雫、「落水」……思ったよりまともです。お館』

 

 いまひとつわかりづらいけど、気に入ってもらえたってことかな?


「じゃあこれからは澪と雫でいいかな?」

『『あい』』


 ふたりの返事を聞いた俺は澪を右、雫を左腰に装備すると皆から少し離れて抜刀する。抜き放たれた村正は妖しい気配を纏っているかのように鈍く月光を反射している。


「ふ!」


 その雰囲気に思わず飲まれかけながらも澪と雫でいくつかの型をなぞる。重さも長さも葵や雪とそう変わらない。武器として使用する際にもさほど違和感はなさそうだ。ただ、ふたりのスキルは魔法に偏っているため魔法が使えない俺にはスキルの恩恵はほぼないのが残念といえば残念か。でも空気を斬り裂くたびに冷気が漂うような気がしてぞくぞくする。斬れ味を試したくてついつい魔物を探してしまいそうな……


 ゴン!


「ったぁぁぁ! なに? なんでいま俺は蛍クラッシュを受けたの? いま、エロいこと考えてなかったよ! たぶん」

「たわけ! なにを呑まれている、しっかりしろ。雫、お前も戯れはやめろ」

『この程度の精神汚染にも耐えられないのでは不甲斐ないのです』


 へ? 精神汚染? それって所持者が血に飢えた獣になる的な妖刀伝説のこと?


「違う! そもそも前提が成り立っていない。ソウジロウは我ら刀娘のことを心底信じている、疑うことなど欠片もない。我らがなにをしようとも全部受け入れてしまう。そんなソウジロウだからこそ、我らを持つことで私たちのスキルの恩恵を受けることができる。そして我らもソウジロウがいるからこそ、その性能のすべてを発揮することができるのだ。こやつは意識していないだろうが、もしソウジロウが我らに信をおけなくなるような日がきたとしたら……おそらく我らは刀としても刀娘としても十全の力を発揮することはできなくなり、ただのちょっとよく斬れるだけの武器になりさがるだろう」

『雫、しっかりとお館様を感じなさい。蛍様のお言葉が嘘ではないのがわかるでありましょう』

『あい、姉様…………そんな……嘘でありましょう? あちしたちが妖刀だと知って、いまも操られようとしていたのに……お館には疑心も恐怖も恨みもまったくありません…………ただ、あちしたちを想うお館の、なにか温かいものがあちしの中に……』


 えっと……なんだか蛍が大げさなことを言ってるけど、そもそも俺がみんなを疑うとか信用しないとか絶対に有り得ない。仮定の話として、もしそうなったからって刀娘たちが力を失うなんてことはないと思うけどね……だって俺は刀娘たちにたくさんいろんなものをもらっているけど、俺からはなにも返せていないからね。どう考えても蛍の考えすぎじゃないかなぁ。ね? 桜、葵、雪。

『……へへ、うん! ソウ様はそれでいい。今までどおりが一番いい!』

『そうですわ、それでこそわたくしの愛する主殿ですわ』

『……いまさらソウジロの気持ちを疑うわけない』


 う、なんか笑われている気がする。まあ、いいけど。


「澪、雫。俺はお前たちを大事にするよ。俺たちはみんな自分らしく生きるためにここにいるんだ。だから嫌なことには従わなくたって構わないし、戦いたくなければ家にいてくれたって構わない。俺が君たちにお願いしたいのはたったひとつだけなんだ」

『『……』』


 黙って俺の言葉を聞いてくれている澪と雫。皆が見ている前でちょっと恥ずかしいがこれは澪と雫だけに向ける言葉じゃない。ここにいる皆に聞いてほしい俺の偽らざる本心だ。だから俺は全員の顔を見回してから口を開く。


「……いつまでも俺と一緒にいて欲しい。たとえ一時、離れることがあってもいい。でも最後は俺と一緒にいて欲しいんだ。これは本当に俺のわがままで、自由に生きることを目標にしているくせに皆の自由を束縛するような横暴な望みなのかも知れないけど……駄目かな?」

『あちしはお館様とともにありんす』

『姉様がよいのならあちしも……』

「本当? よかったぁ。澪と雫、皆も! あらためてよろしく」

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