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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第7章

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月華蝶

 小さくつぶやいた桜が指さしたのは水面(みなも)


「なんて……美しいのでしょう」


 その光景に目を奪われていた俺たちの中で最初に声を漏らしたのは葵だった。いま、俺たちの目の前の水面にはうっすらと光るものがゆらゆらと舞っている。最初はひとつだったその光は、やがてひとつ増え、ふたつ増え……いまや水面を埋め尽くさんばかりだった。

 月明りを緩やかな波頭で跳ね返していた水面は、それだけで綺麗だったがそれに加えて淡い光源を無数に得た水面はあらゆる角度からの光を乱反射させ光の海を彷彿とさせた。


「……本物の蛍? いや……もっと大きい」

「月華蝶です。満月の夜に羽化した月華蝶は、その羽で月光を受けて光り輝き、その光で一夜の恋をします。そしてその命を燃やす恋で結ばれた蝶たちは力を合わせて明け方に卵を産み、そして一緒に力尽きるそうです。そのあまりに短い一生はそれゆえに儚くも美しい……とても珍しい蝶です。それが……こんなに」


 俺のつぶやきに、すぐ後ろの椅子に座っていたシスティナが正体を教えてくれた。凄いな……一夜一生一度の最初で最後の恋をして、燃えつきるまで愛し合って子を残し共に死ぬ。あの光には覚悟がある。自らのすべてを懸けた光なんだ……だからこれほどまでに心を打つ。


「ここら辺にあった羽化前の蛹を片っ端から集めて水辺に移し替えたんだ。うまくいってくれてよかった。絶対にソウ様と一緒に見たかったんだよね」


 俺に寄りかかりながら桜がうっとりと蝶たちを眺める。そうか、ここのところの準備って……これを集めるためにひとりで野山を駆け回っていたのか。システィナが珍しいというくらいの月華蝶をこれだけ集めるのは大変だったろうに。


「ありがとう、桜。最高のピクニックだよ」

「ソウ様! でしょ? あっ! へへぇ……」


 嬉しそうな桜の肩に手を回すと少し強めに抱き寄せる。いまは無性にそうしたかった。


「確かにこれは見事なものだな。せっかくだこれを肴に乾杯でもしよう。システィナたちが作ってくれた料理もたくさんあるしな」

「それはいイ。でハ」

「ちょっと待ったグリィン! まだみんなの準備ができてないから」

「おオ、そうかそれはすまないナ」


 慌ててみんなにコップと飲み物を配る。乾杯の発声は誰がと思って見回すと全員の視線が俺に集中していたので、仕方なく立ち上がる。


「桜の発案で、桜の演出。桜に頼りっぱなしの今回のピクニックだけど、今日皆と一緒にここにこれてよかった。これからも皆と一緒にいたいと素直に思うことができるから。だからこれからも俺たちは一緒に生きていこう! 今日のこの奇跡を準備してくれた桜と、俺たちの未来に!」


「「「「「「「「「「『乾杯!』」」」」」」」」」」


 そのあとは本当に楽しい宴だった。暗い中歩いて帰るのも嫌だし、このメンバーなら刀娘たちは睡眠をとらなくてもいいし、俺たちが寝てしまっても問題ない。もし魔物や物盗りが出ても、そいつらが出てきたことを後悔するだけだ。だから、帰るのは夜が明けてからにして今晩はここで過ごすことにする。

 システィナたちが作ってくれたお弁当は美味しいし、月華蝶は綺麗だし、なにより美人に囲まれている。しばらくいい気分で飲み食いし、雑談に興じているとふと思い出した。


「なあ、グリィン?」

「ン? なんだご主人」


 蛍とずっと飲み続けているグリィンは顔こそ赤いが、それほど酔っているようには見えない。魔物は酒に酔いにくいとかあるんだろうか?


「聖塔教の村で塔のことについていろいろ知ってそうだったよな」

「ほウ、気になるのカ?」

「う~ん、気になるといえばなる……かな」


 別に事情がなければ塔を攻略するつもりもないけど、副塔の出現条件が戦争だったりするような知っておいたほうがいいような情報もあるかも知れない。うっかり変なフラグ立ててまた変なことに巻き込まれるのは御免だ。


「といっても私モ、それほど知っているわけではなイ。昔、最北の塔メギドが討伐されたときに噂を聞いただけダ」

「メギドの討伐ですか! もう何万日も前の話ではないですか」


 何万日? 相変わらず年の単位がないからわかりづらいな……。


「あ、すみませんご主人様。年に直すと大体五、六十年というところかと」

「うん、ありがとうシスティナ。それにしても半世紀以上前……か。主塔討伐っていうのはやっぱりそのくらい大変なことなんだな」

「もともト、主塔を討伐するというのハ、人間たちの間でも賛否がわかれるところだからナ」


 魔物を倒せる人材がいれば安定的に魔石を供給してくれる油田みたいなものだからな……氾濫や階落ちみたいな危険もあるけど潰してしまうのは躊躇われる、そういうものだ。主塔を討伐するとその周囲は魔物も出ないし、豊かな土地になるらしいけど……。


「それで、どんな噂を聞いたの?」

「そうだナ『主塔を討伐せしものいずれ神へと至る』というような噂だっタ」


 神へと至る? 主塔を討伐するくらいだから強い探索者だったんだろうけど……主塔を討伐したくらいで神になれるか?


「それってなんかしら根拠のある話?」

「さあナ、主塔を討伐した男が主塔の最上階、そこでなにを見テ、なにを聞いたかなど私はわからんヨ。たダ、その男は不思議なことを言っていたナ」

「不思議なこと?」

「あア、主塔を討伐したあとに残ル、不思議な模様の大岩。そこに神へと至る方法が記されているト。それを聞いた学者どもがこぞって岩を調べつくしたガ、ついぞ意味のある言葉に解読はできズ、男の妄言だったと結論づけられたらしいがナ」

「あ! 確かに記念碑があったよ、ソウ様。主塔討伐されたあとの街、みっつとも全部」


 なるほど……その岩、変な模様か。たぶん塔の中に刻まれている数字を表すものと同じ文字が刻まれている可能性が高いな。そうだとすると俺の【読解】を使えば読める。


「神か……別になりたいとも思えないけどな」

「桜はちょっとソウ様になってほしいかも?」

「え? どうして?」

「…………」


 なに気なく呟いた言葉だったんだけど、なぜか桜は俺に神様になってほしいらしい。なんでだ?


「ふん、それくらいは察してやるのがいい男だぞ、ソウジロウ」

「え?」

「わたくしたち刀娘なら皆が思うことですわ……」

「……(こくこく)」


 え、蛍や葵や、雪まで?


「それだけはシスたちが羨ましいと思うんだよ、ソウ様」

「私がですか?」

「そうですわ…………システィナさんたちは主殿とともに老いて死んでいけるのですわ」


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