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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第1章

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探索行

 今日も満ち足りた気分で目が覚める。今日は両隣りにまだ柔らかい感触があるので寝過したというような時間じゃないのだろう。

 朝起きて2人が隣にいてくれる方が気分よく起きれるようなので明日からもなるべく早く起きて2人の余韻が楽しめる様にしよう。


「おはようございますご主人様」

「おはようシスティナ。昨日は大丈夫だった?」


 システィナが可愛い過ぎてついお仕置きとお礼に力が入ってしまった。


「ふふふ,大丈夫ですよ。むしろ嬉しかったですから」


 システィナはちょっとくらい激しくても大丈夫っと。心のメモ帳にしっかりメモしておこう。


「ソウジロウ。システィナに負担がかかるようなことは私が許さんぞ」


 そうでした。蛍さんは俺よりシスティナを大事にしているような気がする。まぁでも俺の大事な2人が仲がいいのはありがたい。

 2人で揉めてぎすぎすするようじゃハーレムとしては失敗だろう。

 どうせなら目指すのはいちゃラブなハーレムである。

 

「そろそろ夜明けですね。今日はレイトークに拠点を移したり1階層を突破して2階層を目指す予定ですから準備を始めましょうか」


 宿を引き払うなら日用品とかも持って移動する必要があるから動き出しは早い方がいいだろう。

 名残惜しいがシスティナと蛍さんに軽くキスをしてから動き出す。


 まずは衣服を身に付ける。今日は宿を引き払うので二日ぶりに短ラン・ボンタンを着ようと思ったのだがその上から鎖帷子を身に付けたら想像以上に短ランがごわごわしてかなり着心地が悪かったので諦める。

 ボンタンだけをはきこちらの世界のシャツの上に鎖帷子を着て籠手と脚絆を付けてから革のコートを羽織ってからパーティリングを嵌める。昨日買ったポーチをベルトに装着しリュックを背負ったら最後に桜ちゃんとバスターソードを佩刀すれば俺の準備は完了である。


 

 後はシスティナがまとめてくれた日用雑貨の入ったリュックをシスティナから俺がとりあげたら出発準備は完了である。

 うちのパーティは荷物が少ないので準備も早い。なんだかんだで転送陣での移動が多くなりそうなので結果として馬車とかを処分していたのは正解だったかもしれない。


 一階に降りて軽く食事を摂ってから宿のおばちゃんに部屋を引き払うことを告げて鍵を返すと真っ直ぐに転送陣へと向かう。

 入街税の分のノルマは昨日の魔石売却で果たしているのでミカレアの街を引き払っても問題はない。

 転送施設の職員のお姉さんに戻らない予定だと告げ預託金ではなく使用料として大銀貨3枚を支払い転送陣を使用してレイトークに移動した。


「フレスベルクへの転送陣は街の中心辺りで,宿が多いのは島への入り口付近と塔への入り口付近です。

 ちょっと調べたところではこの街にはミカレアのような魔石を使った沐浴場はないようですね」

「え?じゃあみんなどうしてる訳」

「ここは湖上都市ですから湖で水浴びをしてしまうそうです」

「確かにここの水は綺麗だから分からなくもないけど女の人とかもそれでいいの?」

「気にしない方は平気で水に入っていくようですね。ですが慣れてない方や人目に触れたくない方用に仕切りだけがあるスペースを貸し出しているところがあるみたいです」


 なるほど…確かに男なんかは見られたって構わない訳でお金を払って沐浴場に行かなくても綺麗な湖でひと泳ぎすれば事足りる。

 住民の半分が利用しないなら確かに沐浴場の経営は苦しいだろう。


「じゃあ,塔と転送陣と湖の施設があるところ。この3つが使いやすそうな場所の宿がいいかな。

 転送陣は今のところそう何度も使う物じゃないから優先順位は低くてもいい」

「わかりました。では移動しながら何軒か回ってみましょう」


 そう言って歩き出すシスティナを見て一体いつそんなところまで調べたのだろうと思ってしまう。ほとんど一緒に行動してるんだから情報収集とかしている暇なんかなかったはずなんだが。

 前にも一度聞いてみたが『秘密です♡』と言われてしまいそれ以上問い詰められなかった。多分ユニークスキルをうまく使ったり,侍祭としての特別なネットワーク的な物があるんだろうなぁと想像している。


 結局システィナの案内に従って3軒程を回った結果,転送陣からは離れてしまったが湖の施設と塔からはほど近い位置の宿を確保することが出来た。

 お金に余裕のない探索者達のベッドタウンを目指しているミカレアよりはやはり高く一泊一部屋730マールだったが部屋の作りも内装も綺麗だったので質は悪くない。

 取りあえず今日1泊分の宿泊料を支払い,明日以降は3日間の継続契約を結ぶ。


 部屋に日用品のリュックを置くと一旦宿に鍵を返して塔へと向かう。


「1階層の主ってどんな相手なのかってわかる?」

「決まっていはいないそうです。大体はその層に出てきた敵の中の上位種が主の座についていることが多いそうです。

 その層での魔物間の勢力が関係しているという説もありますがごく稀にその層にはいない上層の魔物が主になっていることもあるようですので説としては信憑性は薄いかもしれません」

「そうすると可能性が高いのは昨日戦った狼,蝙蝠,石人形の上位種ということだな」

「はい。上位種と言ってもさほど変わる訳ではないようです。全体的に能力が高かったり,身体が大きかったりするようですが1階層の主ぐらいでは特殊能力が増えたりすることもないようです」


 じゃあなんとかなるか。せっかくステータスが見れてもレベルや能力値の表示がないから自分たちの強さが今一つ分からないのが困る。

 たくさん戦ったからと言って強くなったと証明できるものがない。それを判断するのは自分の感覚だけである。そして平和な日本で育った俺にはその辺の判断が全くつかないため不安を解消することができない。

 蛍さんの判断はかなりの信頼性があると思うがその経験も基本的に対人戦に基づくものだろうからこの世界での魔物との戦闘に関しての判断は絶対とは言えない可能性がある。


「ソウジロウ様。塔がちょっと騒がしいようです」


 そんな不安が的中したのか胸騒ぎがする。とりあえず情報収集だ。


「何があったんですか?」


 昨日の倍以上の探索者達がざわつく塔の大広間に入り近くにいた探索者の一人に声をかける。


「ああ?よくわからねぇが今1階層の探索が禁止されてるらしいぜ」


 どういうことだ?1階層は初心者の大事な狩場で最も危険が少ない場所のはずなのに探索が禁止されるなんて。


「フジノミヤ様!」


 戸惑う俺たちに人ごみを掻き分けて近寄ってきたのは昨日パーティリングを売ってくれた行商人のウィルだった。まだレイトークで行商していたらしい。


「ウィル殿。これはどうしたことですか。事情を知っていたらお教えください」

 

 近づいてきたウィルにシスティナが前に出て話しかける。


「はい。実は…」


 ウィルの話は昨日の夜まで遡る。

 

 塔の探索は塔内が暗くならないということもあり夜間も自由。むしろ昼間の混雑を避けてあえて夜から朝の時間にかけて探索にいく探索者も多いらしい。

 昨晩も例に漏れず夜間専門の探索者達が多数塔に入って行ったのだがその日は1階層に入って行った探索者が次々に2階層へと到達した。

 戻ってきた探索者達はほとんど他の魔物に遭わなかったため余力を残したまま主に挑めたため主を倒して2階層に到達することが出来たと喜んでいたらしい。

 これを聞いた初心者探索者達は自分たちも2階層への権利を得るチャンスだと次から次へと1階層へ入り主を倒した。

 

「それって…」

「間違いなく我らが1階層の敵を一掃したせいだろうな」

「魔物の湧出ポップが追いつかなくなるほどに狩りつくしてしまったってことか」

「さすがにそこまではいかぬだろうが1階層の広さに魔物が現れる数が追いつかなくなったのは間違いないだろうな。その結果,主までの道が容易になってしまったのだろうよ」


 俺達が狩った魔物に加えてほかの探索者達の狩った魔物の総数がいわば1階層の魔物の在庫を全て吐き出させてしまった。新たに出す魔物では1階層全てをケアしきれずに主エリアまでの道程にほとんど魔物がいなくなったということか。


「そこまでは良かったのですが問題はその後でした」


 ウィルが言うには深夜を過ぎ明け方が近くなったころ1階層に入った探索者達が全く戻ってこなくなったらしい。

 それまでは皆30分から1時間程度で主を倒し2階層の窓から一度帰ってきていたはずなのに数組戻らないとなればおかしい。

 一応念のため5階層レベルの探索者パーティに調査のため入ってもらうとそのパーティが壊滅寸前で逃げ帰ってきた。


 いわく,『あり得ない!今の主は10階層の主クラスだ』と。


「そんな!1階層の主に10階層クラスがついているというのですか!」

「しかもその他の魔物も2階層から8階層クラスの魔物が少しずつ混在して増えてきているようです。強い魔物はまだ中心付近にしかまだ湧いていないようですが,それがかえってまずいことになっていてもともと1階層の主を倒そうと中心部に向かった探索者達が脱出出来なくなっている可能性があるそうです。

 今は探索者の救出と強い魔物の排除を依頼するために10階層以上を戦える探索者を待っている状態です」

「ウィルさん。まだ中には初心者の探索者達が生き残っているんですか?」

「わかりません。だが戻ってないパーティは10を超えるそうです」


 この状況はどういうことだ。1階層の魔物が枯渇して主を立て続けに倒された塔が1階層の魔物だけじゃ維持出来ないと判断して上層から魔物を呼び込んだ?

 そんなことあり得るのか?


「ソウジロウ様!」

「分かってる!でも…蛍さん!」

「10階層レベルか…私たち3人ではきついかも知れぬな」


 それはそうだ今日初めて1階層の主に挑もうとしていた俺達が10階層レベルの主に挑むなんて無謀にも程がある。自分たちの命を危険にさらしてまで誰かを助けることは出来ない。たとえこの事態の原因が俺達だったとしても。


「だが,主以外ならば我らならなんとか出来ると私は思う。主エリア周辺で立ち往生しているようなパーティなら救出出来るやもしれん」


 それでも『出来る』という断定ではない。いきなり8階層とかの魔物と戦うことのリスクは高すぎる。


「ソウジロウ様!」

「駄目だ!危険すぎる。俺にはこの世界の他の誰よりもシスティナと蛍さんの方が大事だ!」

「ソウジロウ様…蛍さんなんとか…」

「ここはソウジロウの言う通りだな。私にとってもソウジロウとシスティナに勝る命などこの世にない。ここは我らの主であるソウジロウに従うべきであろうよ」

 

 探索者の救出にいくことを蛍さんにも拒否され打ちひしがれたシスティナはしばし肩を落とした後,キッと真っ直ぐな眼を俺へと向けた。


「ではソウジロウ様。私は1人でも行きます」

「許可できない」

「…嫌です。あなたが私の契約書を書き換えてくれたのはこういう時のためのはずです。

 私『聖侍祭システィナが必要と認めた時のみ自身の正義と責任においてその力を行使することを認める』という一文を!」

「……」


 どうする?それでもここで拒否すればシスティナはもう抵抗できなくなる。だが…契約後初めて俺の為でなく自分の為に何かをしようとしているシスティナを契約の力で縛るのは本意じゃない。だがそれでも…


「駄目だ」

「ソウジロウ様!」

「言ったはずだ俺にとっては見知らぬ探索者よりシスティナの方が大事だと」

「ですが!」


 俺は一呼吸おいて覚悟を決めると泣きそうな顔のシスティナへと告げる。


「だから1人で行かせる訳には行かない」

「…え?」

「蛍さん,気配察知と殺気感知で魔物と探索者の識別は出来る?」

「可能だな。昨日も識別して魔物のところだけに誘導したからな」

「よし,じゃあなるべく戦闘は最小限にして救助優先で行く。ウィルさん塔の1階層に俺達が入ることは可能ですか」

「…え,は…はい!侍祭様の一行だと明かせば大丈夫だと思います」

「わかりました。すいませんが許可を取りたいので入塔を管理している方を呼んできて貰えますか?」

「はい!すぐにお呼びして参ります」


 駆け足で離れていくウィルさんを見送り急いで装備の点検をする。


「…ソウジロウ様」

「システィナもしっかり確認しておいて」

「ソウジロウ様!!」

「おわ!」


 勢いよく抱き付いてきたシスティナをかろうじて受け止める。


「…ありがとうございます」

「無理はしないぞ」

「はい」

 

 肩を震わせるシスティナを抱きしめて背中を撫でているとウィルが1人の男性を連れて戻ってきた。


「フジノミヤ様。連れてまいりました。事情も説明してあります」

「ありがとうございますウィルさん」


 抱き付いているシスティナを名残惜しいがそっと引き離し,ウィルが連れてきたレイトークの領主の下で塔管理している職員に正対する。


「それでは取り残された人の捜索に向かいます。強い魔物の掃討まではお約束できませんので当初の予定通り高階層に行ける探索者が来たらすぐに入ってもらってください。

 その際に本来の1階層の魔物を狩らないように注意をお願いします」


 1階層の魔物が減りすぎたことが今回のイレギュラーを引き起こしたと仮定するならばある程度1階層の魔物を増やせばイレギュラーな魔物は今以上には増えないかもしれない。


「わかりました。ではよろしくお願いいたします」


 職員の人も俺達が捜索に行ってくれることはありがたいらしい。危険な塔だと噂が流れ,探索者の数が減れば街の収益に打撃を受けてしまう。

 少しでも早く事態を鎮静化し犠牲者をなるべく少なくすることが管理者としての最優先事項であり、侍祭付のような探索者が協力してくれるならむしろお金を払ってもいいくらいだろう。


「じゃあ行こう」

「はい!」

「うむ」


 そして俺達は昨日とは全く違う場所になってしまっている1階層への扉を開けた。




「確かに昨日とは別の場所のようだな。立ちこめている雰囲気がまるで違う」


 扉を開け中に入った途端に蛍さんが物騒なことを呟く。俺には全く違いが分からないのだが気配察知と殺気感知が+の蛍さんには違ったものが感じ取れるのだろう。

 多分蛍さんを刀に戻して俺が持てば同じようなものを感じ取れる可能性は高いが、今の状況で最大の戦力を刀に戻してまでそんなことをする必要性はない。


「ソウジロウ。なるべく戦闘を避けるということだがある程度進路上の敵は掃討していかなければならないぞ」


 俺は頷く。俺たちの進路=救出した人達の退路だからそれは仕方ないだろう。場合によっては進路周辺の魔物も狩れるようなら狩らなければならないかもしれない。

 救出した人達を引き連れて行くというのも一つの手ではあるが、俺たちは素早く動き回る必要があるので大人数で歩き回るのは得策ではない。

 そもそも怪我でもしてればまともに動けず足手まといになりかねないし,その人達を気にして移動していたら助けられるはずの人達のところに間に合わなくなるという可能性もある。


「よし。行くぞ」


 蛍さんが歩き出す。俺も後に続く。ガリガリガリ

 蛍さんが曲がる。俺も警戒しながら曲がる。ガリガリガリ

 蛍さんが止まれと合図を出す。俺はその指示に従い止まる。ガリガリガ…


「システィナ?なにやってんのさっきから」

 

 俺の後ろでガリガリやっていたシスティナにとうとう我慢しきれなくなって問う。


「逃げ出す方達が迷わないように目印を。塔の壁や床に付けた傷は1日程度なら修復されずに残りますから」


 ほう。逆に言えば壁とかぶち抜いて近道を作っておいても1日程度で修復されて元に戻るということですか。塔すげぇな。

 

「もたもたするな。遅れた分だけ人が死ぬと思え」


 蛍さんの言葉に俺とシスティナの表情が引き締まる。ここからは僅かな油断も許されないと思って行く。

 了解と短く答え蛍さんの背中を追う。しばらくシスティナの壁を削る音だけが響く時間が続いたがやがて蛍さんが足を止めた。


「この角の先に1体いるな。最短距離にいる魔物だ、潰していくぞ」

「はい。私が敵を引き付けます」

「いいだろう。ソウジロウは右から行け。いくぞ」


 蛍さんの掛け声と同時にシスティナが飛び出す。その後に続いて蛍さんと俺も飛び出す。すぐさま俺は簡易鑑定を使用。


『蟻人(4階層) ランク:F』


 そのまま内容を伝えると1刀1剣を抜いて右に回り込んでいく。

 相手は直立した等身大の蟻で黒光りする身体がかなり嫌悪感を誘う。そして凶悪なまでに大きな顎牙と鎌のように変態した4本の足。この世界で初めてこいつに出会っていたら間違いなく速攻で逃げ出していただろう。


 俺が回り込んで行く間に蟻の正面を取ったシスティナは戦斧で蟻の胴体を薙ぐ。

 

 ギギィ


 動きはさほど素早くないらしくその一撃を片側の足2本で受け止める。だが恩恵を受けたシスティナの一撃でもその足を斬り飛ばせないどころか体勢すら乱せない。

 だが4階層の魔物でもその威力自体は無視できなかったらしく複眼を怒りで紅く染めながらシスティナへと4本の鎌足を連続で振り下ろしていく。システィナはそれをかろうじて受け止めているが長くは凌げないだろう。

 その時蛍さんが蟻の左側に滑り込むように現れた。ほとんど音も立てずまさに気が付いたらそこにいた状態である。

 蛍さんはめちゃくちゃに振り回されている足を全く恐れることもなく至近に踏み込むと下から刀を斬り上げる。


 ギーー!

 

 という蟻の悲鳴と共に蟻の右の鎌足2本が宙に舞う。至近から関節を狙って寸分の狂いもなく斬撃を打ち込んだのだろう。

 突然片側の足2本を失った蟻がバランスを崩したところで俺が大剣を蟻の頭頂部に振り下ろすが、ガンという固い音だけで叩き割るまではいかない。それでも蟻の動きを止めることは出来たので今度は頭部と胸部の間を狙って桜を振りぬく。


 ギッ…ギィ…


 その一撃は桜の斬れ味のおかげか綺麗に頭部を斬り離すことになった。

 瞬く間に塔に吸収されていく蟻人。


「次行くぞ」


 蛍さんに頷きを返すと追いかけざま魔石を拾いポーチに入れる。

 その後も蛍さん先導の下,退路を確保するための戦闘をしつつ中心へと向かっていく。


 戦ったのは『タワートレント(2階層) ランク:G』塔の床に根を這わせているくせに移動も出来る植物系の魔物の2体組。


 『タワーミドルスライム(5階層) ランク:H』という人の腰までありそうな巨大なスライム4匹組。こいつらは物理攻撃があまり効かなくてなかなか面倒だったがシスティナのハンマーでがんがん潰した。


 そして今戦っているのが『タワーフレイムファング(7階層) ランク:E』と取り巻きとして出てきていた『タワーファング(6階層) ランク:G』2体だった。


 ファング系はウルフ系よりも全体的にサイズアップしていてしかも牙が発達しているらしく大きすぎる犬歯が口からはみ出ている。

 中でもフレイムファングは毛並みが赤いライオン並の大きさがある魔物である。だがライオンほど鈍重なイメージはなくむしろ豹のようなしなやかさを感じる。


「蛍さん2体任せていい?」

「任せておけ。私が行くまでそれを抑えておけ」


 取り巻きファングが蛍さんに向かって行ったため2体を蛍さんに任せて俺とシスティナはフレイムファングと対峙する。

 正面がシスティナで60度ほどずれた位置が俺である。フレイムファングは微妙に離れている俺達2人を警戒して動こうとしない。  


「ソウジロウ様行きます!」


 システィナが宣言と共にフレイムファングへと突進する。

 それを見てフレイムファングの後方へと回り込むべく俺も移動を開始する。相手を格上だと考え数の優位を活かす。

 ここまでの戦いで自然と全員の間で共有された戦い方だった。

 システィナが相手の攻撃を防御している間にサイドやバックから相手の死角を突いて攻撃する。これまでで最も高階層の魔物だとしても戦術としては有効のはず。

 歩法を駆使して静かに素早く背後を取る。よし。


「え?」


 背後から斬りかかろうとした瞬間,フレイムファングは正面のシスティナを無視して振り返るとこっちへと向かって来た。


 ガルゥ!


「ソウジロウ様!」


 マジか!こいつこっちの戦い方を読んでシスティナじゃなくて俺に向かってきやがった。

 虚を突かれたせいもあり一気に間合いを詰められてしまったため回避が出来ない。

 熊のように二本足で立ち上がるように身体を起こしたフレイムファングが前足の爪を振り下ろしてくる。

 この爪で一撃を与え押し倒してから牙で喰いつくというのがこいつの狙いか!


「くっ!」


 かろうじて左の爪を桜で右の爪を大剣で受け止めるが体格の差はいかんともしがたい。重力環境のおかげで基礎能力が底上げされてなければ一瞬足りとも受け止めきれなかっただろう。

 受け止めたとしても長くは保たない。それにそれを待っていてくれる相手でもなかった。

 両の前足が止められたフレイムファングにはまだ武器がある。あの鋭く尖った牙を擁する噛みつき攻撃。ヤバい!

 攻撃を受け止めてしまったためフレイムファングの体重が上からかかっていて動けない。


「ご主人様から」


 フレイムファングの向こうから若干怒りと焦りを含んだシスティナの声。宿とか以外では呼ばないはずのご主人様呼称。


「離れろぉぉぉぉぉぉ!!」


 ガフゥ!


 途端に目の前が明るくなり圧力から解放された。システィナが追いつきフレイムファングを戦斧で横から殴ったのだろう。

 一瞬でおれを仕留めきれると考えたのであろうフレイムファングの失態だ。


「大丈夫ですか!怪我は?」

「助かった。ありがとうシスティナ。怪我はない」


 俺に駆け寄ってくるシスティナにお礼を言うと弾き飛ばされていたフレイムファングへと並んで向かい合う。

 どうやらシスティナは固い毛皮に刃が通らない可能性を考えハンマー部分で内部ダメージを狙ったらしい。フレイムファングが横腹を庇うように身体を捻ってもがいている。


「効いてるね。一気に行こう」

「はい」


 相手のダメージが回復するのを待ってやる必要はない。俺達は武器を構えて一気に決着を狙う。

 フレイムファングもすぐそれに気が付き怒りの唸りをあげている。歯ぎしりでもしているのか火花のようなものが口元から漏れる。

 火花?


「あ,危ないぞ!そいつは炎を吐くんだ!」


 ブレス!? ヤバい!システィナ!

 聞きなれない叫び声の出どころも信頼性も全く考えず武器を手放し横を走っていたシスティナに飛びつくと地面に押し倒すようにして転がる。


 その一瞬後に背中を高熱の何かが通り抜けていった。


「く!…ソウジロウ様!」


 衝撃で起き上がれない俺の下から這い出たシスティナが叫ぶ。


「システィナ!治療は後じゃ。先にあいつを仕留めるぞ」

「は,はい!…ソウジロウ様。すぐ戻ります」


 システィナはそう言うと離れていく。流石は蛍さんだ。もう取り巻きファング2匹仕留めたらしい。

 俺も…と起き上がろうとするが背中が引き攣って激痛が走る。いってぇ…くそ。さすが異世界。ブレスとかやばすぎるだろ。


「お,おい…大丈夫か?よくあのタイミングで避けられたな」


 さっきの叫び声と同じ声が近づいてきて俺を引き摺っていく。どうやら戦闘中の危険な場所から連れ出そうとしてくれているらしい。


「すぐそこに安地があるんだ。そこまで行けばひとまず安心だ」


 安地?…あぁ安全地帯かそう言えばシスティナが塔の中にはごく僅かだけど敵が入ってこないスペースがあるって言ってたっけ。


「窮屈ですまない。偶然見つけた安地でちょっと狭いんだ」


 そう言って連れ込まれたスペースは4畳半ほどの小部屋のようだ。スペースとしては狭いというようなものではなかったが問題はそこにいた人数だった。

 正直痛みで朦朧として視界は定かではないが10人余りの探索者が少しでも入り口から遠いところにいたいのか怯えた目で部屋の奥で震えていた。

 俺は入り口付近の空いたスペースに置かれたようだ。


「残念だが俺達は全員回復薬とか使い切ってしまって治療はしてあげられない」

「も…問題ない。ブレスを教えてくれて助かった」


 こいつが他のやつらのように部屋の奥で震えているだけの奴だったら俺達は死んでいたかもしれない。

 戦闘の気配を感じほんの少しでも様子を見にいくだけの勇気を持っていてくれたおかげで俺はシスティナを守ることが出来た。感謝してもしきれないくらいだ。


「ソウジロウ様!」


 そうしている間になんとかフレイムファングを倒したのだろうシスティナが駆け寄ってくる。

 投げ出してしまった桜ちゃんと大剣も持ってきてくれたようだ。ありがたい。


「今,治療します」

 

 武器を置くとすぐにシスティナが回復術で治療にかかってくれる。侍祭様最高!


「ソウジロウ。荷物だ」

「ありがとう蛍さん」


 高階層との魔物との戦いが続き,少しでも動きやすくするために戦闘前にリュックなどをその辺に置くようにしていたので荷物を失わずに済んだ。


「ソウジロウ様。一旦鎖帷子を脱がせますね」

「…いっ!…つぅ」


 俺の服を脱がせていたシスティナが鎖帷子を引っ張るとベリベリと皮が持って行かれた。瞬間的に熱せられた鎖帷子が背中の皮膚を焼いてくっ付いていたらしい。

 皮のコートやシャツを着ていなかったらダメージはもっと深かったかもしれない。目の前に置かれた皮のコートは既に背中部分が紛失しコートとしての体を成していなかった。 

 鎖帷子を脱がせたシスティナは俺の頭を膝の上に置くと双子山で押しつぶしてきた。


『しかし双子山は胸当てに覆われていた』


 くそ!胸甲さえなければ!

 

「私を庇ってこんな大怪我するなんて…ソウジロウ様は馬鹿です。本来ならこの傷は侍祭である私が負うべき傷です」

「…馬鹿だなシスティナ。システィナが元気だからこそ治療して貰えるんだろ」


 システィナが怪我をしても俺たちは回復魔法なんて使えない。だからこれで正解だ。


「…私が我儘言わなければ」

「システィナ!これは俺たちが決めたことだ」

「…はい」


 蛍さんから水筒を受け取って喉を潤すとシスティナに渡して背中にかけて貰う。あぁしみるけど気持ちいい。


「システィナのおかげでここにいる人達を見つけることが出来たんだ。それでいいんじゃないかな」


 システィナが泣き笑いを浮かべて頷く。そしてシスティナの手が淡い光に包まれて俺の背中に当てられる。

 うぅぅ…まさに癒されるとはこのことか 


「ソウジロウ。これがさっきの魔物の魔石だ。ちょっと見てみろ」


 蛍さんが手のひら大の赤みがかった魔石を俺の目の前に持ってくる。でか!これってもしかして凄い価値があるんじゃ。


『魔石(火) ランク:B』


 これは…凄い。火魔石だし,しかもランクB。7階層くらいの魔物でこんな物出てきていいのか?


「これは凄いね…さすがは変異種の魔石だ」


 声をかけてきたのは俺を引き摺って来た探索者のようだ。システィナの治療が効いてきてちょっと余裕が出てきたせいかやっと落ち着いて顔を見ることが出来た。


「女?変異種?」

「ええと,一応聞くけど私が女であることを変異種扱いしてないよな?」


 ちょっと目が怖い。赤いボリューム感のあるショートヘア,精悍だが整った顔立ち,ハーフプレートアーマーに覆われて断定は出来ないがなかなかの女性的なボディ。

 好みは分かれるかもしれないが俺なら美人の範疇に含めるレベルだ。

 だから俺は正直に言う。


「こんな可愛い子がこんなところにいるという意味では変異種と言えるかもね」

「可愛い?はは!そんなこと言われたのは6歳くらいの時が最後だった気がするな」


 俺の言葉を冗談か社交辞令と思っているのか肩をすくめて乾いた笑いを浮かべている。


「本当に?それは周りの目が腐ってるとしか言いようがないな」

 

 これだけの器量の子に誰も言い寄らないとはなんてけしからん世界だ。俺の声に本気の怒りが滲み出る。


「ほ,本気で言ってくれてたんだな。あ,ありがとう」

「ただ本当のことを言っただけなんだけどな…それより変異種について教えてくれないか」

「あ,ああ。確かに魔物の中にフレイムファングという魔物はいるんだ。本来ならこの塔でも7階層くらいから出てくる」


 簡易鑑定でも7階層って出てたからその情報に間違いはない。


「だが,フレイムファングはあそこまで強くない」

「どういうことだ?」

「まず大きさが違う。本来はファング系の魔物もウルフ系と大きさは変わらない」


 そう考えればあいつは2倍くらいでかいことになる。


「そして普通のフレイムファングはブレスを吐かない。せいぜい松明程度の炎を口から出す程度でとてもブレスとは呼べない」

「吐かないのか!」

「だいたいどこの塔でも魔法やブレスなどの遠隔攻撃を使ってくるのは10階層を超えてから,しかも最初はごく稀にというのが一般的な見解なんだ」

「…だから変異種か」

「ああ,そして変異種は例外なく高品質の魔石を残すんだ。もし倒せればひと財産になるんだが大体自分たちの適正階層よりも強いことが多いからな。普通は逃げるのに精一杯だ。

 私たちも一応は探索者の端くれだからな。これだけ数がいれば5階層くらいの魔物でもなんとか出来たんだが…あいつがあそこに居座っていたせいで動けなかったんだ」


 なるほど確かに数がいれば多少強い魔物が出てもなんとかなるか。


「ソウジロウ様。ひとまず治療は終わりました。

コートと服は駄目になってしまいましたが鎖帷子だけでも身に付けておきますか」

「取りあえずこのままでいいよ」


 名残惜しいがシスティナの膝から起き上がるとシスティナが持ってきてくれた武器を鞘に納める。素肌で鎖帷子を身に付けるのもかえって動きにくい気がするからひとまずは保留だ。


「システィナ。あっちの探索者達の中で歩けない人がいたら歩ける程度にまで治療を頼む」

「はい」


 システィナを送り出すと再び赤髪の探索者に視線を戻す。そう言えばまだ名前も聞いてない。


「えっと…君は…」

「ああ,すまない。まだ名乗ってなかったな。私はフレイだ。いつもは4階層辺りを探索しているんだが今回は護衛の依頼でな」



『フレイ・ハウ 業 13

年齢: 19  種族:平耳族 

  職 : 獣闘剣士』


 平耳族?亜人なのか…だけど4階層の実力があってこれだけしっかりしているってことはここの探索者をまとめてたのはフレイのはずだ。それなら


「じゃあフレイ,君に頼みがある。あそこのメンバーを全員連れて脱出してくれ。最短距離の道順は刻んであるし,近辺の魔物も出来る限り倒しておいたから」

「そうか…すまない。ではお言葉に甘えさせてもらう。このお礼は無事に戻れたらきっとする。名前を教えて貰えないだろうか」

「名前は富士宮総司狼。でもお礼はいらない。俺達が勝手にしたことだから」


 もともと俺らが原因みたいなもんだしね。身体でお礼してくれるなら有難く貰うところだがこんな状況でそんなこと言う訳にもいかないだろう。


「そうもいかんだろうがその辺は無事に塔外で再会してからでも遅くはないか」


「ソウジロウ様。あちらの方たちの治療は終わりました。歩けないほどの怪我をされてる方はいませんでしたので骨折等の応急処置くらいですが」

「わかった。じゃあフレイ頼む」

「ああ。任せておけ。本当に助かったありがとう」


 フレイが差し出してきた右手を握り返すとフレイは奥の探索者達の方へ向かって行った。


「ソウジロウ。魔石をしまっておけ。どうやらあまり見せびらかさん方がいいようだ」


 蛍さんが厳しい目で探索者達を見ながら変異種の魔石を渡してくる。俺はそれをポーチに押し込みながら探索者達へ視線を向ける。

 確かに何人かが物欲しそうな目で魔石を凝視している。こんな状況で馬鹿な真似はしないと思うが一応気にかけておく。


「それではフジノミヤ殿。私たちは先に行くがあなた達はどうするのだ」

「もう少し主エリアの周りを探索してから脱出する」

「そうか…どうか気を付けて欲しい。また塔外で会えることを楽しみにしているよ」


 フレイはどこまでも真面目に挨拶をすると探索者達を連れて安地を出て行った。


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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ 小説1巻~3巻 モーニングスターブックスより発売中 コミックガンマ+ にてコミカライズ版も公開中
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