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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第7章

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改修工事

「さて、やろうか。桜、扉はもらってきた?」

「うん、ゲントさんにもらってきたよ。えっとね……」

「いやいや、ここで出されても困るからちょっと待って」


 桜が自分のアイテムボックスに手を突っ込んでいるのを見て慌てて止める。いま出されても、その扉を使うのは地下なんだからまたしまわなきゃならなくなる。


「葵は?」

「はい、わたくしもディランさんからお預かりしてきましたわ。ドアノブの付け替えのやりかたも確認してきましたのでご安心くださいませ」

「今日は葵にたくさん頑張ってもらわなくちゃいけないけど、無理はしないようにね」

「主殿のためならば、いかほどのこともございませんわ」

「ありがとう葵。システィナ」


 微笑みつつ腕を絡めてくる葵の柔らかい胸の感触を楽しみつつ、システィナに声をかける。


「はい」

「出口の家はここから三軒隣の民家だっけ?」

「そうです。小さな家屋ですが、造りはまだしっかりしてます。なによりも地下に小さいながらも食糧の貯蔵庫があったので今回出口用に購入しました」


 『剣聖の弟子』にあげたこの家と、出口用の家、桜が持ってきたベイス商会大工さんたちの特製扉が二枚、そしてディランさんたちに作ってもらったドアノブの魔導具。いったいいくらするんだっていう話だが……実は、全部ベイス商会へのツケだったりする。

 グリィン、黒王、赤兎の代金もツケてあるから、たぶん四、五百万マール。日本円にして四、五千万は借金している。この家なんかはかなり強引に買い取ったから、合計はもっと一千万マールに近づくかも知れない。数千万円単位の借金背負っているとか、正直かなりガクブル状態だがウィルさんが商会でプールしている現金で賄えるなら、いくら使っても大丈夫と言っていたのでその言葉を信じるしかない。

 借金のカタにシスティナや刀娘たちをよこせとか言われたら、いくらウィルさんでも命の保証はない。まあ、そんなことはないだろうけど……。とにかくアノークさん、ウィルさん親子にそこまでしてもらえる、それほどまでにアイテムボックスの利益予想は破格らしい。


「うん、じゃあ雪と一緒に向かってもらって、掃除とかお願いできるかな?」

「はい、お任せください」

「……わかった」


 預かっていた出口の家の鍵をシスティナに渡す。掃除道具なんかはシスティナのアイテムボックスの中に完備されているらしいので、手ぶらでも大丈夫。あんまり使う家じゃないから、掃除とかは適当でもいいんだけど、これから地下を掘って通路を作るのに出口の家に誰かがいてくれると、パーティリングの効果で方向を間違えないで済む。


「蛍は地下の石壁を斬り抜いてくれる?」

「塔の壁を斬り取ることに比べれば、なんてことはない。任せておけ」


 地下室の石壁を斬り抜いたら、葵の【魔力操作】で魔力をショベルカーのような形の土にして、土を掘削していく予定。葵の【魔力操作】は発動したあとの事象が術者と繋がっていない魔法とは違って、葵が起こした事象は葵と魔力が繋がっている限りいくらでも変化させることができるのが強みだ。その代わり【魔力操作】を持続している間はずっと魔力を消費し続けるという弱点がある。


 葵が掘り出してくれた瓦礫や土は、それ用にもらってきたちょっと大きめのアイテムボックスに放り込んで回収する。通路の補強も葵の【魔力操作】頼みだ。


「ソウ様、桜はどうする?」

「桜は葵からドアノブをもらって、付け替えをよろしく。それが終わったら出口の家に罠の設置を頼む。通路が開通したら呼ぶから仕掛け扉を持ってきてくれ」


 罠といってもあんまり派手な罠を仕掛けて、何かあると思われてもつまらない。だから罠というよりは本当に隠したい場所に目が向かなくなる程度のカモフラージュみたいなものでいい。

 

「は~い。じゃあ、二重底ならぬ二重壁とかやろうかなぁ。『部屋の広さと外からの外観のサイズが合わない! 隠し部屋があるはずだ!』とか探偵が言えるようなやつ?」


 たしかにありそうだ。しかし、いったいどこからそんな知識を……。


「ほどほどにな」

「うん、じゃあ先にあっちから取り掛かるね。シス、雪ねぇ、行こう」

「はい、ではご主人様。またあとで」

「……いってくる、ソウジロ」


 桜に片手ずつ引っ張られながら部屋を出ていくシスティナと雪を見送って、俺も短ランとボンタンを脱いで麻っぽい生地で出来たシャツとズボンに着替え、皮の手袋をはめる。瓦礫や土砂を片付けないといけないから汚れてもいいように完全装備だ。本当はマスクも欲しかったんだが、粉塵は葵が後ろに来ないようになんとかしてくれるらしい。ぶっちゃけ瓦礫や土砂も大体は葵がやってくれるから俺は回収しやすいようにアイテムボックスを持つだけなんだが。でも、葵のスキルは細かい作業にはあんまり向いていないから俺の両手が役に立つこともあるはずだ。


「よし、はじめよう」

「うむ」

「はいですわ」



◇ ◇ ◇



 結局、さすがに半日で作業が終わることはなく、毎日午後からの作業だったせいもあり完成までにさらに三日を要した。


「みんな、本当にお疲れ様」


 システィナの手によっていつの間にか普通に居心地のいい感じの家に整えられた出口の家。そこのリビングに集まった俺たちは慰労会の真っただ中だ。

 外はすでに陽が沈みつつある。屋敷には戻りたいから本当に軽く祝杯を挙げるだけだ。


「桜が貰ってきてくれた仕掛け扉も完璧だった」

「へへぇ、回転扉は忍者屋敷の常識だもんね」



 ゲントさんが作ってくれた扉は真ん中を中心に回転する扉。しかも石壁に新たに貼り付けた板壁に完全に同化しているからそこに扉があることに普通は気がつけないだろう。

 しかもそれを回すためにはさらに、複数の板をずらすというちょっとした仕掛けをクリアしなくてはならない念の入れようだ。どっかのテンプレみたいに壁によりかかったらくるりと回転してしまったみたいなオチはない。


「葵も毎日魔力枯渇寸前まで頑張ってくれてありがとうな」

「構いませんわ、毎日主殿に背負われて帰れるうえに一番最初に愛してもらえるのですから、終わってしまって残念なくらいですわ」


 葵は通路を掘って、掘った通路の床、壁、天井すべてを自らが【魔力操作】で生みだしたがっちがちに固めた土でコーティングして補強、最後に元の通路を塞ぐという今回の計画の要所をひとりで担ってくれた。


「システィナと雪も。こんなにこの家が綺麗になるとは思わなかったよ。これなら普通に別荘みたいに使えそうだ。お疲れ様」

「いえ、霞と陽がしっかりとお屋敷をみてくれるのでこちらに集中できました。あとでふたりにも労いをお願いしますね」

「そうだね、結局ずっと留守番を任せちゃってるしね。それを言ったら一狼たちもそうだけど」

「……ソウジロ、私もがんばった」

「うん、ありがとう雪。システィナがとても助かりましたって言ってたよ」


 そう言って頭を撫でてあげると雪は嬉しそうに目を細める。ツンを脱却したら想像以上にデレた雪は幼い口調とも相まってなんだかとても可愛らしい。……まあ、訓練と錬成のときは厳しいんだが。


「蛍は………………うん、監督? ありがとう」

「うむ、わかっているではないか。私が後ろで目を光らせていたからこそ、この年増がしっかり働いたということを」

「なにを言ってますか山猿! あなたは最初に壁を斬ったあとはやることないからとずっとお酒を飲んでいただけではないですか!」

「心外だな、私は事故などが起きぬように現場監督をしていただけだ」


 ……はぁ、また始まった。確かに蛍には最初に石壁を斬りぬいてもらったあとはやってもらうことがなく(瓦礫拾いは拒否された)、それでもなにかやらせろという理不尽な要求に屈した俺が無理やり考えた現場監督の案。これがいたく気に入ったらしく優雅に酒を飲みながら俺たちの作業を監督という建前で見物していた。


「とりあえずいつものふたりは置いておいて。システィナ、御山のほうはどうなの?」

「はい、なんとか平静を取り戻しつつあるようです。メリスティアが明日にでも改めてご挨拶に伺いたいと」

「そうなんだ、それはよかったね。これでやっとシスティナの懸案もひとまずは解決したってことかな?」

「……本当にありがとうございました、ご主人様。侍祭でありながらご主人様を私事に巻き込むなんて」

「システィナ。そのへんの話はもう、蒸し返すのはやめよう。なんど同じようなことがあったって俺はシスティナを助ける。そのたびに同じやりとりをするのはもう面倒臭い」

「はい。ありがとうございます」


 俺の言葉に微笑むシスティナは、どうやら俺がそんなことを気にしていないことはわかっていたようだ。それでも侍祭としては言っておきたかったってことかな。


「ねえ、ソウ様。これでしばらくはのんびり出来そうかな?」


 桜が隣で杯を傾けつつ聞いてくる。確かにこの世界に来てから本当に慌ただしかった。しばらくはのんびりとするのもいいかな……無理しない程度に塔で日銭を稼ぎながら。お金には困ってないから稼ぐのは日銭じゃなくて魔石だけどね。


「だね、アイテムボックスの関係でいろいろやらなきゃならないことはあるだろうけど、それ以外はのんびりできるんじゃないかな? 閃斬がちょっと調子悪いし、領主会議の日程とかを確認がてらディランさんのところに顔は出さなきゃいけないけどね」

「やった! じゃあソウ様。桜とデートしようよ、デート! いいところを見つけたんだ……あぁ、でもあそこはみんなで行ったほうが楽しいかも」


 桜が喜びの声を上げ腕に抱き付いてくるが、すぐに手を放してひとりで考え込む。


「桜?」

「やっぱりあそこは皆で行ったほうがいいや。見ごろはもう何日か先だろうし……行くときにはシスにお弁当を作ってもらって……うん! それがいい」


 考え込んでいた桜がぱっと顔を輝かせると手を打つ。


「ソウ様、三日後。三日後にみんなでピクニックに行こう!」

「へ? あ、あぁ。別にいいけど?」

「移動はのんびり歩くのがピクニックの醍醐味だよね。じゃあ、午後から開けておいてね。シスも蛍ねぇも葵ねぇも雪ねぇもお願いね。あとは霞と陽と、一狼たちとグリィンたちにも声を掛けなきゃ。ソウと決まればソウ様、早く帰ろう!」

「ちょ、ちょっと桜。わかった、わかったから! システィナ、戸締りよろしく」

「ふふ……わかりました」


 桜に引っ張られながら、家を出てすっかり陽の沈んだ街を歩く。浮き浮きと俺を引っ張る桜に、きっと凄いところへ案内してくれるんだろうなと期待をしつつ空を見上げる。

 

 今日も星たちが綺麗だった。



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