後始末
雪とひとつになれたその夜、みんなも甘えたかっただろうにその日は雪とふたりの夜を過ごさせてくれた。まぁ、その代わり翌日は午前中の訓練すらお休みになり、まったりとした一日を送ってしまった。【魔精変換】が大活躍で魔力枯渇で気を失ったりもしたが、至福の一日だった。
その翌日は、通常営業に戻してみっちりと午前中は訓練に励んだ。日課の筋トレはいつも通りだったが、模擬戦には蛍だけでなく雪も加わることになったため体感的には密度が二倍な感じで、しんどさは四倍だった。
「ソウ様、大丈夫? あんまりきつかったらシスに回復してもらえば?」
「そうしたいのはやまやまなんだけど……」
「筋肉痛を【回復術】で治してしまうと、訓練の効果が半減する可能性が高いんです。私もご主人様が辛そうにしているのを見るのは心苦しいんですが……」
「ふん、人間は不便だな。だがわれらは鍛えても筋力という意味では成長しない。伸びしろという点では人間のほうがはるかに大きい。私にしてみれば羨ましい限りだ。それを喜べ、ソウジロウ」
「はは……うれしいなぁ」
「かわいそうな主殿。わたくしがお体をお揉みいたしますわ?」
「……ソウジロ、気合いが大事」
俺は午前の訓練を終えたあと、システィナと刀娘たちだけを連れてギルドに依頼していた案件の確認のためにフレスベルクの冒険者ギルドへと赴いた。そこで対応してくれたウィルさんが、俺たちの依頼の顛末とレイトーク領主イザクから依頼達成後の指名依頼があったことを教えてくれた。
どうやらイザクは報酬を金銭以外のもので支払うつもりのようで、『報酬については領主自ら支払うため、領主館まで来られたし』だそうだ。面倒くさいなぁと思わなくもないが、転送陣を使えばさほど手間でもないし、そのうちいけばいいやと思っていたら、イザクの依頼内容から俺たちが副塔を討伐したことを知ったウィルさんが興奮状態でちょっとウザかった……。
まあまあとなんとかなだめすかしたところ、今度はそんな事件にかかわっていることを知らせてもらえなかったことについて大層お怒りだった。
でも今回は侍祭のこと、御山のこと、転送陣のことなど秘密にしておきたいことが多かったため、仕方がなかった。説明できないのは心苦しいがそこは察して流してほしい。
結局、後日改めて副塔討伐の話を聞かせるということで解放してもらった。そして、副塔討伐の功績を以て俺たちは『D』ランク冒険者に昇格。ま、葵と雪はあとから登録したからまだ葵は『E』で雪は『F』ランクだけどね。
なんだか、みるみるランクが上がっていく気がするが、まだ立ち上げ当初ということもあり、ある程度魔物と戦えてギルドの依頼をこなしたり魔石を売却するなどの貢献をしてくれている冒険者のランクは上がりやすい。いまは昇格試験も実装されていないしな。
そして俺たちはギルドを出て、ルミナルタへと向かっている途中ってわけだ。
なぜかというと、俺たちが聖塔教の村を攻めるにあたって懸念していたことがそこにあったから。まあ引っ張る意味もないからちゃっちゃとぶっちゃけると、ルミナルタにある聖塔教の拠点には御山に繋がる転送陣があるってことだ。
せっかく俺たちが村を攻めても、その転送陣を放置しておけば聖塔教の残党が御山に逃げ込む可能性があった。それはシスティナの本意じゃない、だから俺たちも村にあるだろう転送陣から御山を経由して抑えに回るつもりだった。だけど、村に転送陣があるかどうかはわからなかったし、あったとしても見つけられるかどうかがわからなかった。そのためできればルミナルタの拠点も同時に抑える必要があったんだ。
そこで俺たちはルミナルタの拠点制圧を冒険者ギルドに依頼した。だが転送陣のことがあるから信用ができる人材に頼まなきゃいけない。……となると俺たちがそんな依頼を出せるのなんて『剣聖の弟子』くらいしかいない。
俺たちからの依頼をふたつ返事で引き受けてくれたアーリたちは、その依頼をしっかりとこなしてくれた。まあ、人数と武力的にちょっと不安があるからとかけておいた保険の効果もあったみたいだけどな。
その後、弟子たちにはその拠点に居座ってもらっている。まだ外に出ていた信者たちが転送陣を目当てに拠点にやってくる可能性があるから守ってもらうために。
「その後、拠点のほうはどうなんだろう?」
「はい、メリスティアを御山に送っていったときには怪しい人物が近づいてくるようなことはなさそうだと言っていました」
「そっか、じゃあ大丈夫そうかな?」
「もともと戦争を控えて戦える者は村に集結していた。拠点にいた奴らさえしっかり潰しておけば、この街にいる聖塔教は普通の信者たちで戦う力などない者ばかりだろうよ」
蛍の分析はたぶん正しい。それに、バーサと幹部たちを一夜にして失った聖塔教に信者たちを維持する力はもうないだろう。聖塔教は遠からず自然消滅すると思う。それならアーリたちへの報酬は決まりだ。さて、気に入ってもらえるだろうか。




