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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第6章

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暴走?

 霞たちを置いて俺たちが走り出した途端に化け物どもの表情が豹変する。恍惚とした表情でどこかに()っていたのに、俺たちが主の間に入ると表情が完全に抜け落ちた。いや、目だけは明確な殺意を俺たちに向けている。その強さは【殺気感知】を持っている蛍が動揺の気配を俺に漏らすほどだ。


「ほウ、塔主を守ろうとする意志はあるようだナ」


 先頭を走るグリィンの前にぞろぞろと立ちふさがろうとする化け物たちに、なにがそんなに面白いのかグリィンが楽しそうな声を漏らす。


「ソウジロウ、雪、いらぬ心配だと思うが躊躇はするなよ」

「わかってる。あんな形で生きるくらいなら死んだほうがマシだよ。ま、俺の主観だけどね」

「……ん、心配ない」


 わさわさと俺たちを囲もうとする化け物に最初に斬りかかったのはグリィン。巨神の大剣を蜘蛛型の化け物の背中に叩き付ける。


「ふひっ! ふひぇ!」

「なんだト?」


 だが、蜘蛛型の化け物は無表情のまま気味の悪い笑声を漏らしつつ横に跳ねた。蜘蛛の足と人間の手足をフルに使った強引な軌道修正。さらに人間の口が小さく突き出されると放射状に糸を吐き出す。


「グっ! なんダ、こいつラ」

「グリィン! いったんさがれ! 葵、メリスティア、グリィンを頼む!」

「わかりましたわ!」「はい!」


 糸に巻かれてもがくグリィンに他の化け物どもも群がってくるのを見て、俺は閃斬で化け物と繋がっていた糸を斬ると一狼とともに化け物たちの足止めに入る。


「すまなイ、ご主人。油断しタ」


 グリィンは悔しそうに謝罪すると後衛へと下がっていく。あとは葵とメリスティアが糸をなんとかしてくれるだろう。


「気をつけろ! あいつらは完全に融合してる。人の部分と魔物部分の差異はない! 合わせて一体の化け物だ」


 グリィンとの戦いを見ただけで分かった。あいつらは人と魔物が融合したにも関わらず完全に一体の化け物として完成している。だからこそ蜘蛛型の魔物と融合した人間が口から糸を吐くなんてことができる。これがもし、ブレスを吐くことができる魔物と融合していれば、人の顔でも魔物の顔でもブレスが吐けるだろう。

 そして、なによりも厄介なのは……。


「ソウジロウ! ぼやっとするな! 奴らはお前を狙っているぞ」


 蛍からの叱責に周囲を見回して思わず舌打ちする。これだ、奴らは人間の知能を得ている。だからリーダーであり、一番弱そうな俺を狙ってくる。だが、俺だって伊達に今まで訓練してきたわけじゃない。

 獣の四足で真っ直ぐ向かってきつつも、胴体から生えた人間の手足で時折不規則な横移動をしながら跳びかかってきた狼型の魔物を左手の獅子哮で弾き、右手の閃斬で斬りつける。だが、真っ二つコースだったにも関わらず狼型の魔物は人間の手を十字に構えて両手を犠牲にして間合いから離れていく。

 くそ、手強いな。


 俺を囲もうとしてきたゴリラ型の化け物は一狼が速さで翻弄している。一旦離れた蜘蛛型の魔物は雪が、トレント型の魔物は人間部分に剣と盾を持たせて、枝での攻撃と合わせて蛍と斬り結んでいる。下手に知恵がついたせいか我先にと襲い掛かってくることはないが、危なくなると下がって違う化け物と交代して襲い掛かってくるのはかなり厄介だ。

 これなら多少無理をしてでも一体ずつ仕留めていったほうがいい。俺は蛍と雪に【共感】で作戦のイメージを飛ばす。どうやらふたりも同じようなことを感じていたらしく、すぐに了承の意思が伝わってくる。


 よし、じゃあまず俺は近づいてきたこのゴーレム型の化け物だ。俺はゴーレム型の化け物が力任せに振り回してくる腕を捌きながら慎重に誘導していく。そしてある程度引きつけたところで、ゴーレムの大振りの右フックを屈んでかわし、胴体から生えている人間の生首を斬り落とす。ゴーレムのくせに痛みに仰け反る間に後ろに回りこむと膝の裏を力一杯蹴飛ばしゴーレムの動きを止める。おお、ここまで思ったよりうまくいった。このまま俺が止めをさすのもいいが……。


「ソウジロウ!」

「了解!」


 蛍の声と同時に俺の目の前に脚を二本斬りとばされた蜘蛛型が逃げていくので、それを後ろから俺が斬り殺す。俺が動きを止めていたゴーレムは蛍が一刀両断にしている。そのまま俺は一狼が相手をしているゴリラ型の化け物に横から攻撃を加えるために走り、同じように蛍も雪の戦闘に乱入しているはずだ。ようは1対1だととどめを刺しきれずに交代されてしまうなら、一時的に1対2の状況を作り出して一体ずつ仕留めていけばいい。

 俺と蛍が抜けた穴には……


「またせたナ、ご主人。ここは任せロ」


 糸から復帰したグリィンがその巨体で埋めてくれる。それでも裏を抜こうとするなら後衛から葵の術がフォローしてくれる。多少の怪我も戦っているうちにメリスティアの広範囲回復術で治る。俺は安心して動き回ればいい、俺を狙ってくれるならむしろ好都合で俺が動き回れば動き回るほど化け物たちの動きを乱すことができる。蛍に仕込まれた歩法と限定解除中の俺の身体能力なら、化け物相手でもやれる。



 グリィンが復帰してからの戦いはかなり安定している。やはりグリィンが大きな体で敵を引き受けてくれるのはありがたい。俺はとにかく動き回って、陰からこそこそ仲間と戦っている魔物を斬ればいい。

 おかげで三十あまりはいた信者と魔物が融合した化け物もあと十体ほどに減ってきている。このままいけばこいつらを掃討できるのも時間の問題だろう。


「「サがるぃナさイぃ」」


 バーサの声と疲れたおっさんのしゃがれた声が同時に喋っているような不気味な声に、俺たちと戦っていた化け物たちがぴたりと戦闘をやめ、後ろへと下がっていく。


「……雑魚じゃ俺たちには勝てないとみて、いよいよボスのお出ましか?」

「気をつけろよソウジロウ。なにをしてくるかわからん」


 蛍の声に黙って頷くと油断なく武器を構えて相手の動きを窺う。ゆっくりと山羊の魔物と融合したバーサが近づいてくると俺たちと十歩ほどの距離で止まった。

 その姿は誰がどうみても異様だが、バーサの表情は穏やかだ。山羊の魔物の意思がどうなっているのはわからないが今までの魔物みたいにいきなり襲い掛かってこないということは、かなりバーサの意思が反映されているのかも知れない。


「バーサ! あなたはどうしてそこまで塔にこだわるのです! そんな姿になってまでやりたいことがあったというのですか!」

「メリスティア?」


 さて、どうしたものかと考えていた俺の横に飛び出してきたのはメリスティアだった。脅迫されて強制されて仕方なくだったとはいえ、一度は契約をしていた相手だ。完全に他人だと割り切れないのだろう。


「「うフぅふふふ、めリすゥてぃあ。とーハ、セかいヲまモッていぃルのデすよ」」


 裸の胸を揺らしながら恍惚とした表情でバーサが笑う。


「だからといってこんな! 魔物を大量に発生させたり人と融合させたりさせるなんて」

「「とうシュはトうのケシん。とウしゅニなるというぅコとはぁ、とーになルトいうこと。ソしてセかいヲまモる、トウにナるぅとイうゴとはぁ、かミにナること」」

「バーサ!」

「もういいよ、メリスティア」

「フジノミヤ様……」


 気味の悪い声で意味のわからないことを喋るバーサをなおも詰問しようとするメリスティアの肩に手を乗せると、ゆっくりと後ろへと押し戻す。


「まともな答えが返ってくるとは思えない。ああなってしまった以上、殺してやるのが俺たちにできる唯一のことだと思う」


 正直いえば、もうこいつの声も話も聞きたくない。もしかしたらこいつと話をすることで、この世界の秘密のようなものに触れられる可能性もある。だが、別に俺たちはこの世界の秘密を解き明かしたいわけじゃない。ただ好き勝手、自由に生きたいだけだ。

 そして俺はこいつらが気に入らない。どんな理由があったにしろ、何人もの人を犠牲にして人造魔導士を作ったり、罪も無い子供たちを無慈悲な暗殺者に仕立てあげたり、街を乗っ取るために街の要人を暗殺したり……うん、完全に悪人だろう。


「フジノミヤ様……わかりました。お任せいたします」


 スイッチの入った俺を見て、僅かに顔を赤くしたメリスティアが大人しく下がっていく。さがったメリスティアと入れ替わるようにして前へと出てきたのは雪だ。


「……私がやる」


 清光を手にさらに前へ出ようとする雪。


「雪、ダメだ。ひとりでやる必要なんてないだろ。皆で戦うんだ」

「……ソウジロ、情けない。大減点」

「げ! また減点か。……でも、許可はできないよ。皆で連携して戦う」



 刀娘たちの闘争本能は強い。それはときには暴走としか思えないような行動を引き起こすくらいに。そして、それが原因で蛍と桜は危機に陥ったことがある。だからどれだけ減点されようと無謀な行動を取らせるわけにはいかない。


「…………失望。怖いなら見てればいい」

「ちょ、待て! 雪!」


 盛大な溜息とともに飛び出した雪がバーサに斬りかかっていく。慌てて手を伸ばすが雪は速い、俺の手が雪の服を掴むことはなかった。

 雪はあっという間にバーサに肉薄すると斬りかかっていくが、バーサが融合している山羊頭の魔物はその腕で雪の攻撃を弾き返している。なんだよそれ、この世界にきて魔剣になっている日本刀の一撃をどうして腕で受け止められるんだ。


「それだけでもヤバいのに、あいつがどんな攻撃をしてくるかもわからないんじゃ、やっぱりひとりでいかせるわけにいかない」

『お待ちください我が主! 下がった化け物どもが……』


 閃斬を握りなおし、すぐに援護にいこうとした俺を一狼が呼び止める。


「主殿、後ろの化け物たちの魔力が高まっていきますわ! 一斉に魔法がきます! 属性がまちまちで対抗する有効な防壁が張れませんわ!」


 な! くそ、あいつらは邪魔だから下げたんじゃなくてゆっくり呪文を詠唱させるために下げたのか!


「蛍! 葵! 一狼! 霞たちを守ってくれ!」

 

 蛍は光魔法を使った結界『勾玉』が使えるし、葵ならたとえ全属性がごちゃ混ぜになったような攻撃でも【魔力操作】でそれなりに防御力のある盾を作り出すだろう。


「それは構わないがお前はどうするんだソウジロウ!」

「多分なんとかなる! 頼んだよ!」

「ええい! くそ、いくぞ年増! 一狼! メリスティアを引きずっていけ!」

『承知』

「え? え……えぇぇ!」

「わたくしに指図しないでくだいまし山猿!」


 なんだか賑やかなうしろの様子に、あっちは大丈夫だと判断し俺はバーサと雪に向かって走る。既にバーサの背後にいる化け物どもの頭上には火球や水槍や石弾などが生みだされつつある。その他にも呪文の完成と同時に発動するようなものもあるのだろう。俺には魔力を感じ取ることはできないが、なんとなく危ない気配だけはわかる。

 あいつらもさすがにバーサに被害が及ぶような魔法の使い方はしないだろうう、だからむしろバーサの近くにいたほうが安全のはずだ。




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