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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第6章

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幻、影

 ちょ、ちょっと待て! 確かに魔物にも性別はある。一狼、四狼、九狼は雌だし、二狼たちは雄だ。グリィンは雌っていうか女だし、黒王は雄、赤兎は雌。しかも二頭は(つがい)にまでなっている。

 基本的に魔物が子を産むということは確認されていないみたいだけど、交尾をすることは確認されている。種を残せる訳じゃないのに行為に及ぶ意味はまだ解明されていないらしくて、単に快楽を求めるだけの行動だっていうのが通説だけど、とにかく性別はある。


「じゃあ、聖塔教の奴らはバーサが魅了した雄の魔物たちに守られて先に進んだってことか?」

『我が主、確かにさきほどから私たちの周囲にいるのは雌が多いようです。雄の魔物はほとんどいません』


 近づいてくる魔物を威嚇しながら一狼が教えてくれる。


「そうか……ということは黒王はバーサに近づかないように気をつけてくれ。赤兎もしっかり黒王を守るんだ」


 俺の言葉を理解しているらしい二頭は互いに視線をかわすと俺に向かって同時に馬首を下げる。


「私たちの仲間は黒王を除けば男性は主殿だけというのはある意味好都合でしたわ。主殿の煩悩がまさかこんなところで役にたつとは思いませんでしたわね」


 葵の言葉に引っかかるものはあるが、欠片も否定できない。それでも別に女の子をだけを集めたつもりはない。気が付いたら囲まれていただけだ、まあ嬉々として受け入れてきたのは俺だけどな。


「メリスティア、バーサの近くにいた時間が結構あったと思うんだけど、バーサがなにをしようとしているか、わかったりしない?」

「……いえ、屋敷でご覧になったと思いますが、あのとおりいつも茫洋(ぼうよう)とした人でしたので。ただ、塔を手に入れようとしていたことだけは間違いないと思います。レイトークを攻めようとしていたのも自分たちの街を手に入れるというよりは塔を支配下に収めたいというのが理由のようでした」


 まあ、聖塔教っていうくらいだからな、塔が好きなんだろうさ。ただ塔に入ったからって塔が手に入る訳じゃないし、塔を手に入れられたところで、それでなにをしたいんだっていう話だ。


「いったい塔になにがあるっていうんだろうな……」

「ソウジロウ! 主の間についたぞ」


 俺が思わずこぼした言葉は、先頭をすすんでいた蛍の言葉にかき消され誰の耳にも届かなかったらしい。


 そして、さすがに主の間までくると周囲に魔物の姿はほとんどない。追いついた蛍と雪のあいだから主の間を見ると主の間の中央に大きな毛むくじゃらの魔物が二体、そして上への階段が見える。


「さすがに一階層だけってのはむしがよすぎるか」


『ミュアームエイプ ライト(主) ランク:F』

『ミュアームエイプ レフト(主) ランク:F』


 【簡易鑑定】ではどうやら猿系で二体セット的な魔物らしい。ランクはFだし、このメンバーなら問題なさそうだな。さくっといくか。


「よし、こうしている間にも魔物は外に溢れているはずだ。さっさと倒して上にいこう」


 全員が頷くと一気に走り出し出す。メリスティアは失礼しますと囁いて俺の手を握ってきたので範囲回復を使うつもりなのだろう。っていうか手を繋ぐのは必須なのかどうか、聞くの忘れた。


「しーちゃん!」

「くーちゃん!」


 動き出した階層主を距離が縮まったところろで改めてよく見ると、どうやらゴリラのような魔物のようだ。ただ、違うのはミュアームエイプ ライトは右腕だけが、ミュアームエイプ レフトは左腕だけが異常に膨張していて凶悪なシルエットをしていることか。

 そのエイプたちに四狼と九狼が誰よりも早く突撃している。素早い動きで体重のバランスが悪そうなエイプたちを攪乱しつつ首や腹などの柔らかそうな部分に牙や爪を突き立てている。


「あいつらが言い付けを破って霞と陽から離れるなんて、どうしたんだ?」


 二頭の鬼気迫る戦いっぷりに気勢を削がれたうちのメンバーたちは思わず(けん)に回っている。エイプたちは二頭の動きに翻弄されつつも連携は取れているらしく、どちらかが噛みつかれると自分で無理に引きはがそうとせずに、もう一体の攻撃が届きやすいところに自然と位置を変える。そこをすかさずもう一体が攻撃を加えてくるので四狼たちはなかなか大きなダメージを与えらない。

 幸いエイプたちから受けたダメージはメリスティアの範囲回復が効いているらしく、二頭の動きに変化はないので互角の戦いをしている。


『我が主、やつらは……あのときのわたしと同じかも知れません』

「あのとき?」

『はい、二首の犬の魔物と戦ったときです』

「あ……ということはもしかして?」

『おそらくですが、彼女たちはここのところ急速に経験を積んでいましたから』


 確かに四狼、九狼は桜に連れられて霞、陽と一緒にたくさんの街で情報収集をしてきて、ここにきてからもかなりの戦闘をこなしている。有り得るかもな。


「ほう……それは楽しみだな。よし、あのときも私が手伝ってやったんだったな。少しくらい手を貸してやろう」


 蛍はそう宣言すると蛍丸を構える。【光刺突】の構えだ。蛍が自分で編み出した【光術】と【刀術】との複合技だが、威力、射程、攻撃速度、すべてに文句のつけようのない使い勝手のいい技になっている。


「はぁぁ! 【二連光刺突】!」


 蛍の放った突きからレーザーのように光が伸びる。その光は一瞬で二体のエイプの膨張した腕の付け根を貫いた。


『ウギィッィィィ!』


 神経を焼き斬られたか、はたまた関節を破壊されたのか、ボス猿たちの最大の武器であっただろう腕はだらんと垂れ下がり、もはや足手まとい以外のなにものでもない状態になっていた。


 となればただでさえ互角だった戦い、あとは四狼と九狼の独壇場である。動かない腕に邪魔されて精彩さを欠くボス猿を二頭が一方的に蹂躙し、ボス猿を血の海に沈めるのにそう時間はかからなかった。


 本来は、山狼というランクHの魔物だった四狼と九狼は桜の特訓と自らで積み重ねた経験でランクFの階層主を多少の手助けはあったとはいえ、単独撃破できるほどに力を付けていた。


 四狼と九狼はボス猿の死体が塔に吸収され、残されていたランクFの魔石をひとつずつ咥えて俺のところへと持って帰ってくる。咥えたまま俺を見上げるその姿はやはりあのときの一狼を思い出させる。きっとその魔石が欲しいのだろう。


「よくやった、四狼、九狼。その魔石はお前たちが自分たちの力で得たものだ好きにしていいぞ」

「「わふ!」」


 二頭は魔石を咥えながら器用に喜びの声を上げると、魔石を飲み込んだ。


「しーちゃん?」

「くーちゃん! そんなの飲んだら!」


 その姿に慌てて駆け寄ろうとする霞と陽の肩に俺は手を乗せる。


「大丈夫だから、よく見ててあげて。あの子たちは君たちのために強くなろうとしているんだから」

「「え?」」


 一狼の進化を知らないふたりには意味がわからなかっただろうが、きっとすぐにわかる。飲み込んだ魔石の力を吸収し体を作り変える四狼と九狼が淡く光り始めている。

 その光は徐々に輝きを増し、四狼たちの姿を包む。かろうじて見えるシルエットが、あのときのようにゆらゆらと揺らめき、そして光は徐々に消えていった。


「え…… え? えぇ!」

「わあ! くーちゃんかっこいい!」


 霞が困惑の声をあげ、陽が感動の声を漏らす。ひとまわりサイズアップした四狼と九狼を俺は【簡易鑑定】する。


『四狼(従魔) ランク:E 種族:幻狼(ファントムウルフ)


 四狼の姿は青みがかった黒? まるで夜空のような艶のある色のファントムウルフという種族に進化している。【幻術】をつかう霞の相棒として四狼が望んだ進化なのだろう。


『九狼(従魔) ランク:E 種族:影狼(シャドウウルフ)

 

 九狼のほうは四狼よりも黒に近い漆黒の毛並み、これは速さと隠密性で暗殺者(アサッシン)ような戦いかたをする陽の相棒として九狼が望んだ進化か。


 形としては葵の従魔なんだろうけど、いまやもうすっかり霞と陽、ふたりの相棒になったということだろう。

 

 いずれにしても、思いがけないところで戦力が強化された。このイレギュラーな状況の中でこれは嬉しい誤算だろう。

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