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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第6章

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チート

 ロビーに入るといつもは冒険者や探索者で溢れているはずのロビーは魔物で溢れていた。いったいどこから湧いている? ざっと視線を巡らせるとロビーの奥の壁に一階層へ続くと思われる扉……いや、扉が無い。ただの壁を斬りぬいた穴、そこから魔物が次々とロビーへなだれ込んでいる。

 さらに三メートルくらい上の壁に同じような穴がふたつほどありそこからも魔物が飛び降りてきている。


「こりゃ、殲滅は無理だな」


 とてもじゃないが、俺たちだけでどうにかできる数じゃない。ここにいるだけで増えないのならなんとかなるかも知れないが、どこまで増え続けるかわからないんじゃ戦いようがない。となると、早期に解決するには、やはり塔主を討伐して塔自体を消すしかない。


「あの奥の入口から突入するぞ!」


 俺たちの先頭で巨神の大剣を縦横無尽に振り回し、後ろ脚、前脚をも武器にしながら暴れまわるグリィンはまさにというか文字通り人馬一体。戦国時代なんかで騎乗して無双していた人たちはあんな感じだったのかもと思わせるような戦いぶりだ。あとに続く黒王、赤兎もその巨体を武器にして魔物たちを弾き飛ばしたり踏み潰したりしている。


 その周囲を蛍と雪がカバーしているから、入口付近にいる俺たちのところまではまだ魔物は近寄れない。だが、これからロビーの中へと踏み込めば今度は全周囲から攻撃を受ける。だから、少しでもはやく一階層に入る必要がある。

 いままでの塔の傾向を考えれば、中は通路上の迷路になっているはずでそこなら魔物が溢れていても前と後ろだけ気をつければいい。


「任せておケ!」


 俺の声を拾ってくれたらしいグリィンが、雄叫び(おたけび)? 雌叫び(めたけび)? をあげながらぐいぐいと前へと進んでいく。


「霞! 陽! 中央に寄って! 前と横は任せていい! メリスティアさんを守ってくれ。四狼、九狼もあまり前に出るな。他の魔物と間違われたら大変だ」

「「はい!」」「「ウォウ!」」


 蛍たちが撃ち漏らした魔物を素早い動きで仕留めていたふたりをメリスティアのいる中央へ呼ぶ。四狼、九狼は他のウルフ系やファング系の魔物と見た目があまり変わらない。うっかり間違われたら大変だ。それに、メリスティアは武器らしいものを持っていないから、交戦させる訳にはいかない。戦闘系のスキルを持っているかどうかもわからないしな。


「葵と一狼は俺と後ろを守るよ」

「かしこまりましたわ! 主殿」

『承知』


 一狼は明らかに他の狼より大きいし、綺麗な白狼だからその存在感は他の魔物と一線を画している。一狼なら乱戦になっても間違われることはない。

 周りを囲む魔物たちは、ただのゴブリンなどの低ランクのものから〇〇ゴブリンやゴブリン〇〇などの上位種が多くなり、オークっぽい獣顔の魔物や、ファング系、エイプ系など他の塔なら一階層では出てこないような魔物が増えてきている。このまま時間と共に魔物が強く多くなるなら、確かに戦争どころではなくなるな。

 ……ただ、戦争は止められるだろうけどその場にいた兵士たちには壊滅的な被害がでてもおかしくない。あぁ、そうか、そうすればその後の戦争行為も抑制できるのか……やりかたは犠牲が多いような気がしてなんとなく気に入らないが、戦争なんてするほうが悪いと言われればそれまでか。


 そんなことを考えつつも俺は後ろに回り込んで来ようとする魔物たちを閃斬で倒したり、牽制しながら前衛組が斬り開いた道を追いかけていく。

 魔物の数はそこそこ多いが、ロビーの広さはさほどでもない。なによりグリィンと陸馬たちの働きが大きい。巨体を活かして暴れまわるからさすがの魔物たちも近寄りにくいらしく、グリィンと陸馬たちの向かう先はスペースが空きやすい。ほどなくして俺たちは一階層への入口に駆け込むことに成功した。

 入口を抜けると、いつもの待機部屋はなく、三方向へと続く通路がある。その三方向から集まってきた魔物がこの入口からロビーへ出て行くという訳か。


「蛍! グリィンと先頭を変わって! 階層主まで寄り道無しで案内を頼む」

「わかったならばまずは中央に向かうこの道だな」


 蛍と雪が先頭に立ち、真ん中の道を進む。


「グリィンと黒王、赤兎は今度は後ろを頼む」

「確かにここでは私たちが暴れるには狭いカ……承知したゾ、ご主人」


 グリィンたちが後ろにいてくれれば後方からの奇襲は気にしなくていい。彼女たちが並んでいれば通路をほとんど塞いでしまう。

 ひと通り暴れてどこか満足そうなグリィンがカッポカッポとポジショニングを変えていく。巨神の大剣もなんだかもともとグリィンの武器なんじゃないかというくらいによくにあっている。


 真ん中の通路を歩きながら蛍と雪が倒した魔物の魔石を拾って歩く。魔物が三方向からきていたということはどこかひとつに入れば魔物が三分の一になるということ。さらに、通路で魔物が襲ってくる方向が限定されたことで俺たちの戦闘にも余裕ができた。蛍たちが倒した魔物の魔石をもったいないからと拾えるくらいには。

 ならば今のうちに。


「メリスティアさん、いまのうちに窓を確認させてください」

「わかりましたフジノミヤ様。それと私のことはメリスティア、もしくはメリスとお呼びください」

「そ、そう? じゃあメリス……ティア? でいいかな」

「ふふ……わかりました、いまはそれで。≪顕出≫」


 微笑みつつもどこか不満気なメリスティアが出してくれた窓を覗き込む。


『メリスティア 業:-4 年齢:17 職:侍祭(富士宮総司狼) 

 技能:家事/料理/契約/杖術/護身術/護衛術/回復術

 特殊技能:魂響(たまひび)き/魂鳴(たまな)り』


「すごい! 特殊技能がふたつもあるんですね。しかもこの技能構成だと高侍祭ですね」

「はい、高侍祭の資格を得たときに特殊技能をふたつも授かったことで私は御山のまとめ役をすることになりました」


 メリスティアから聞いた話によると、御山のまとめ役というのは旅に出る前の侍祭たちの中でもっとも優秀だと思われる者がなるらしい。そして驚くことにメリスティアがなる前は長い期間ではなかったようだが、システィナがその役目をしていたらしい。

 どおりでシスティナがメリスティアと御山のことを気にした訳だ。御山に対して責任ある立場にいたことがあり、しかもメリスティアは後継者だったってことだ。


 そして、メリスティアのユニークスキル。説明を受けたその効果は。


【魂響き】-発動するとスキル効果を広範囲型に出来る。


【魂鳴り】-指定した相手とスキルや魔力を共有することができる。ただし特殊なスキルは共有出来なかったり劣化したりする。


 うん、やっぱり侍祭の特殊技能はチートスキルだった。




 つまり、【魂響き】は【回復術】を使えばスキルの効果を複数の人に同時に使うこともできるし、回復エリアを作るようなこともできるスキルらしい。しかも対象は自分自身で選択可能とのこと。さっき屋敷のなかで滅私兵に使っていたのでその効果は俺たちも目にしている。


 【魂鳴り】。こっちはスキルとしてはちょっとトリッキーで、自分ひとりでは全く意味のないスキルらしい。相手の協力がないと発動しないらしいけど、指定した誰かと魔力やスキルを共有できるようになるスキルだ。

 とはいっても【鍛冶】などの技術系や【剣術】などの戦闘系、俺の魔剣師のスキルのように特殊なものは共有できないか、できてもほとんど役に立たないらしい。ただ、一般的なスキル、例えば俺でも取得できた【夜目】なんかは十分に共有できる。

 魔力に関しては、もともとメリスティア自身は魔力が多くないようで【魂響き】を用いた【回復術】を使ったりするとあっという間に魔力が尽きてしまうらしい。屋敷ではバーサの許可を得てバーサの魔力を間借りして使用していたようだ。


 ん? ということは、もしかしたらだけど。思いついた俺は周囲で戦っている仲間たちを見回してみる。

 先頭のふたりは……まあいいや。まだせいぜい5階層程度の魔物相手にダメージを受けるとは思えない。俺の護衛についている葵と一狼も戦闘機会が少ないから大丈夫。でも、周囲で蛍と雪が撃ち漏らした魔物と戦っている霞や陽、ふたりを援護している四狼、九狼。ロビーで暴れまくっていたグリィンと黒王、赤兎には細かい傷がある。どれも回復薬を使うまでもないような傷だけど、試すにはちょうどいいか。


「メリスティア、【魂鳴り】で俺の魔力を使って【魂響き】でみんなに【回復術】を使ってみてくれるかな?」

「はい、それはもちろん構いませんが……かなり負担をおかけすることになりますので、きつかったらすぐに止めてください」

「わかった。じゃあ、やってくれ」

「はい。では失礼いたしますね」


 微笑んだメリスティアがすっと白い手を伸ばして俺の手を握る。あれ? 屋敷ではバーサの手を握ってはいなかったような気が……。


「お? きた」


 俺のいうことはまったく聞かない俺の魔力が吸い出されていくのを感じる。……確かに減っていくけど、【添加錬成】や【魔剣召喚】に比べたら微々たるものかな?


「こんな、まさか……体からは全然魔力が出ていなかったのになぜこんなに」


 メリスティアがスキルを使用しながら俺の魔力に驚いている。最初に魔力の量は人より多いってシスティナに言われていたし、魔力は使えば少しずつ増える。

 俺は【魔剣召喚】や【添加錬成】でしょっちゅう魔力をカラにしていたから…………というかほぼ毎日最後は【魔精変換】で気絶寸前まで魔力を消費していたから、あれからさらに魔力量は増えているはずだ。

 しかも、魔力を使って魔力量を増やすという訓練の効果は、やり始めたころが一番効果が高く、何度も繰り返すうちに段々と効果が小さくなっていくらしい。地球で今まで魔力を増やすなんてことを考えもしなかった俺は、当然この世界にきてから魔力を使うようになったので、まだまだ伸びしろも大きい。自分ではまったく実感できないが、結構な魔力量に成長しているのかもな。


「あ、兄様! 僕の傷が治ってる」

「ほウ、私の傷も消えていくナ。これは心地よイ」


 陽とグリィンが自分の傷が癒えていくのを見て喜びの声をあげる。さっそく効果が出ているらしい。


「……はぁ……フジノミヤ様の熱い、大きなものが……体の……奥深くまで、はうぅん!」

「え! ……ちょっとメリスティア?」


 こんなところで聞きようによっては、というかどう聞いてもエロいことにしか聞こえない言葉と声を漏らしながら、顔を赤くしているメリスティアに思わず股間に血が集まりそうになってしまった俺は、さすがにこんな状況ではいかん! と思い直し、一度メリスティアの手を離すと陶然としているメリスティアの肩を掴んで揺する。


「メリスティア! 大丈夫?」

「……はぁ、はぁ……あ、フジノミヤ様、す、すいません! お恥ずかしい姿を……いつものつもりで魔力をお借りしようと思ったのですが、あまりにも大量の魔力が入ってしまって」


 俺の魔力って、精力にも変換できるくらいだから、吸収しちゃうとエロくなる効果があったりするんだろうか。


「大丈夫なのか?」

「は、はい。フジノミヤ様のおちからはわかりましたので、次からは大丈夫だと思います」

「それならよかった。使ってみてどう?」

「あの……フジノミヤ様はあれだけ魔力を使われてもなんともないのですか?」

「え? あぁ、あのくらいだったら全然。夜の錬成一回分にも満たないし」


 あのくらいだったら、夜の錬成一回分【魔精変換】したほうが疲れる。


「その、夜の錬成というのはよくわかりませんが……あれでまったく問題がないというのなら、多分ですが【魂響き】と【魂鳴り】で【回復術】を今の範囲に半日程度かけ続けても大丈夫ではないかと思います」


 どこか恍惚とした表情に見えるメリスティアは妙に色っぽく見える。いかんな、さっきのバーサの精神支配系のなにかの効果がまだ残っているのかも知れない。


「そ、そうか。じゃあ、みんなが苦戦するようになってきたらまたお願いするからよろしく頼む」

「はい」


 こんな話をしながらも蛍と雪の破壊の行進(デストロイマーチ)は続いている。魔物の数は分かれ道の度に減ってきているが、強さは少しずつ強くなっているみたいだ。いまのこの塔の中ではいつもの階層ごとの魔物分布システムは機能していないらしい。  


「これだけの魔物の中に入っていったら聖塔教の連中はもう全滅しているんじゃないか」


 これだけの数の魔物が湧き続けている塔の中、どこかにとどまるのは無謀だし俺たちのように上を目指すにしても余程の実力がなければまともに進めないと思うんだが。


「いえ、教祖バーサがいれば問題なく進めると思います」

「え? どういうこと」


 誰にともなくこぼした俺の言葉が聞こえていたのだろう。メリスティアが返事をしてくれる。


「フジノミヤ様も体験されたと思いますが……教祖バーサの特殊技能【強制魅了】は異性を強制的に虜にする恐ろしい技能です。むしろフジノミヤ様にどうしてかからなかったのかが不思議なくらい強力な効果を発揮します」

「ああ、あれか……確かに普通なら抵抗できないかもな。でも俺の中には比喩じゃなくみんながいるからね。だからなんとかなったって感じかな」


 俺に刀娘たちがいなくて【共感】と【意思疎通】のスキルがなかったら俺もフージや滅私兵たちのようにバーサ様至高主義になっていたかと思うと正直ぞっとする。


「あら、嫌ですわ主殿。いつもわたくしの中に入ってくるのは主殿ではありませんか」

 

 ちょ! 葵! こんなところでいきなり下ネタとかやめてくれ。


「ほほほ、なにを勘違いされていますの? わたくしの心の中は日々溢れる主殿への想いでいっぱいだということですのよ」


 絶対嘘だ! そうは思っても証拠はない。

 そんな俺を見て葵が笑いながら俺に腕を絡めてくる。そんなことをしながらも近寄る魔物を風で斬り裂いているのはさすがだ。


「でも、その技能があると大丈夫なのはどうして?」

「異性の対象が魔物にも及ぶからです」

「え!」 


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