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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第6章

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突入

「わかった。じゃあみんなでいこう。ただ、無理をするつもりはない。システィナもまだ戻らないし、薬ですぐに回復できないような怪我をするようなら即撤退するつもりでいてくれ。逆にいけるようなら副塔討伐まで挑戦してみよう」

「よいぞソウジロウ。楽しくなってきたではないか。いささか聖塔教とやらが手応えがなかったからな」

「これだから山猿は……戦いなんてほどほどで十分ですわ! そんなことに手間暇かけるなら主殿とまったりしたいですわ」

「ふん、年増らしい物言いだな。年増は腰を痛めぬように後ろからついてくればよい」

「言いましたわね、山猿!」


 ああ……もう、年長者ふたりのいつものじゃれ合いはとりあえず放っておくか。どうせ雪も含めて刀娘たちの参加は決定事項だからな。


「霞と陽もいいんだね。魔物と本格的に戦うのはほとんど初めてだけど大丈夫か?」

「はい! くーちゃんたちとも訓練してましたから四足の魔物でも戦えます」

「うん! 陽も大丈夫だよ兄様」


 ふたりとも怯えている様子もないし、気負っている様子もない。ふたりを可愛がっている蛍たちがいれば危険な目にあわせることもないか。


「わかった。ただし、ふたりはあくまで侍女なんだから無理はしないこと」

「「はい」」


「聞かれる前にいっておク。私もいくからナ、ご主人」


 腕を組んで豊かな胸を押し上げた格好のグリィンスメルダニアがふふんと鼻を鳴らす。思う存分走れるようになったら今度は闘争本能を満たしたくなったってことか? あの顔を見ていると止めても無駄なんだろうな。


「一緒にいくのはいいけど素手で戦うのか?」

「ふム……私の脚は十分に武器足りえるガ、手数が足りぬナ……脚だけニ(・・・・)

「…………」

「…………」

「……こんなところでそんなボケはいらないから。じゃあ、グリィンはこれを使ってくれ」


 グリィンのボケに思わず脱力してしまった俺は、なんとか体に力を入れなおすと巨神の大剣を抜き放ってグリィンに渡す。


「ほウ……どこで手に入れたのかは知らぬガ、巨神の武器を持っているとはナ。ますますご主人は面白イ。本当にご主人と【友誼】を結べたのは僥倖だっタ」

「巨神の武器のことも知っているのか……今回の件が終わったら、グリィンとは話し合わなきゃならないみたいだな。落ち着いたらいろいろ教えてくれ」

「ふふフ……もちろん構わぬゾ。なんといってもご主人はご主人なのだからナ」


 巨神の大剣を片手で軽々と振り回しながらグリィンが色っぽい視線を送ってくる。くそ! こんなに美人で色っぽいのに下半身が馬だなんて! これじゃいろいろできないじゃないか! なんて勿体ない!


「っと、そうだグリィン。黒王と赤兎も同行するってことでいいのか?」

「勿論ダ、奴らも陸馬の中でも破格の力の持ち主だからナ」

「……グリィンもそうだけど、なんでそんな強力な魔物が人間にテイムされて売られてるんだっての」


 呆れた声を漏らした俺を豪快に笑ったグリィンは巨神の大剣を振り回すのをやめると黒王たちを撫でる。


「こいつらは夫婦でナ。人間に追われる魔物のままだとのんびりできないだろウ?」

「なんだ、ただのリア充か……まあいいや。黒王と赤兎、頼りにしているけど、ここに来るときみたいにグリィンと三人で暴走しないように気をつけてくれよ。むしろグリィンを抑えてくれ」


 ブルルルゥ!


 二頭もグリィンの日頃の行動には思うところがあるのか素直に馬首を下げ頷いてくれた。よし、あとは……。俺は端っこで俺たちを見ていた最後のひとりに視線を向ける。


「メリスティアさんはどうしますか? ここで待っていればシスティナと桜がいずれ戻ってくると思いますけど」


 俺の言葉に一瞬だけ考える素振りを見せたメリスティアだったが、胸元でぎゅっと拳を握りしめると真っ直ぐに俺を見た。


「…………私もいきます。望まぬ契約で、解除もされましたがそれでもバーサは私の契約者でしたから。これ以上、人の命を弄ぶようなことはやめさせたいんです」


 なんとも侍祭らしい回答だった。契約者のために死力を尽くすのが侍祭の本分、意に沿わない経緯で結ばれた契約で、それが解除されたとしても放ってはおけないらしい。


「……それはわかりました。ですけど侍祭は自衛以外では能力の行使は禁止されていたはずです。一緒に行っても……その、申し訳ないんですが」

「はい、足手まといにしかならないでしょうね……」


 メリスティアが少し頬のこけた顔で俯く。その姿は初めて会ったときのシスティナを思い出させる。侍祭としての制約で自分がやりたいこと、しなければならないことができない。そのもどかしさに苦悩する未契約侍祭の顔だ。そして、システィナを知っている俺はそんな顔を見てしまったらなんとかしてあげたいと思ってしまう。……決してメリスティアが美人だからというだけの理由じゃない。


「メリスティアさん。望まぬ契約を強いられ、やっと解放されたばかりのあなたにこんなことを言うのはちょっと心苦しいのですが……」

「なんでしょうか」

「今回の件が片付いたら契約を破棄することをお約束します。信用できなければ【契約】の技能を使っても構いません。だから俺と『従属契約』を結んでくれませんか?」


 俺の申し出にメリスティアは顔をあげ、驚愕の表情を浮かべる。


「……お気持ちはとても嬉しいです。あなたはシスティナ様が契約されたほどの方です。そんな方からなら本来なら私から契約をお願いしたいくらいです。ましてや申し出を私がお断りすることはありません」

「そ、そうなんだ。それは嬉しい。それなら」

「もしそうして頂けるなら私も戦えます……ですが侍祭の複数契約は認められません。侍祭契約書に明記されているんです」

「あ、その辺は問題ないから。もし、その気があるなら時間が勿体無いから、まずはバーサの件が終わったら従属契約を解除するという契約を結ぼう」

「え? 問題ない? いえいえそんなはずは……」


 きょとんとした顔をしながら手を振るメリスティアはどことなくコミカルで笑える。いじりがいがありそうで、ちょっといたずらしたい気もするが後ろではレイトーク兵が魔物と戦いを続けている。あんまり時間はない。


「取りあえずやってみればわかるよ。まずは普通の契約書出して!」

「は、はい! いえ、でも契約前は……」

「あ、そっか。契約しないと【契約】も使えないのか……でも、今回はある意味不当な契約をしないための措置だから『自衛』に含まれるんじゃないかな? 試しにやってみてもらえますか?」

「あ、はい……あ、出ました」


 俺の勢いに押されるように【契約】スキルを使ったらしいメリスティアの前に契約書が現れる。簡単に中身を確認すると、確かに『双方がバーサの件が解決したと判断したら侍祭契約を解除すること』というようなことが記載されている。


「問題なさそうですね。じゃあ署名しますね」

「え? あの読めるんですか?」


 その辺の説明もあとでいいや。どうせ侍祭契約時にまた驚くことになるだろうし。


 俺がその半透明の契約書に署名をすると、契約書は光となって消えた。これでメリスティアと侍祭契約をしても聖塔教の事件が片付いたら契約を解除することになる。


 そのままなし崩しに契約を……って訳にはいかなくなったのは残念だけど、今日会ったばかりの人と侍祭契約を結ばせなきゃいけないんだから、このくらいはしてあげないと決断しにくいかなと。思ったよりも好感触ですんなりと話が進んだのは、やはり聖侍祭であるシスティナのおかげなんだろうけど。


「じゃあ、従属契約書を出してください。あ、どうせ契約するなら恩恵が強いほうがいいと思って従属契約を勧めてますけど、不安だったら主従でも雇用でも構いません。とにかく今は時間が惜しいのでメリスティアさんが決断できる契約を提示してください」

「あ、はい。いえ! 大丈夫です。そんなことまでシスティナ様は伝えてらっしゃるのですね。そこまで契約者と信頼関係があるなんて……さすがシスティナ様です。あ、すいません。時間がないんでしたね」


 驚きから立ち直ったメリスティアは再び俺の前に契約書を提示する。薄く赤みがかった半透明の契約書間違いなく『従属契約書』だ。


「細かい所は考えている時間がないから、基本はシスティナと一緒でいいか」


 『主の命に絶対に服従するすること』に『ただし、一の機会による一つの命に対し一度のみ拒否権を持つ』を書き加えて、『侍祭としての力はその主の為にのみ行使する。違反せし時はその力を失う』を『侍祭としての力は原則その主の為にのみ行使するが、メリスティアが必要と認めた時のみ自身の正義と責任においてその力を行使することを認める』に書き換えて、罰則と複数契約の項を削除。

 で、署名っと。


「はい、これでお願い。内容はシスティナのと同じだから問題ないとは思うけど?」

「………………」


 契約書を反転させて、メリスティアに契約の完了を促すがぽかんと口を半開きにしたままのメリスティアは固まっている。どっかでみた光景だと懐かしく思いながら目の前で右手をひらひらと振ってみる。

 

「ななな、なんで勝手に契約書を書き換えているんですか! そんなことできる訳ありません!」


 おお! 目の前にあった俺の手をがっしと掴んだメリスティアがずずいと顔を近づけてくる。顔が近くてちょっと照れる。あ、このやりとりも懐かしいなぁ、そんなに昔の話じゃないんだけどな。って懐かしんでいる場合じゃなかった。


「詳しい説明はあとでしますから、いまは手続きを進めませんか?」


 右手を掴むメリスティアの手をさらに左手で掴んで下ろすと、懐かしさに緩んでいた顔を引き締める。それでメリスティアも現状を思い出し、取り乱したことを恥じたのかやや顔を赤くしながら頷く。


「フジノミヤ ソウジロウ様とおっしゃるのですね。では契約を執り行います。侍祭メリスティアはフジノミヤ ソウジロウを主と認める! 【契約】」


 メリスティアの宣言と共に契約書は輝きを増したあと砕け散った。前回は予期せぬ光に思わず焦ったものだが、今回は慣れたもので、目を手で庇いつつも散りゆく契約書を見届けることができた。

 

「終わりましたフジノミヤ様。これからはあなたの侍祭として仕えさせていただきます」

「うん、短い間かも知れないけどよろしく頼む。で、さっそくで申し訳ないんだけど窓を確認させてもらえるかな」


 システィナがいないから回復役をお願いするかも知れないし、それならさっきの範囲回復の情報は知っておきたい。


「はい、もちろんです」

「ちょっと待て、ソウジロウ。このメンバーならそれは歩きながらでもいいだろう。これ以上あいつらに負担をかけると死者が出るぞ」


 メリスティアが頷いて窓を出すためのワードを唱えようとするのを蛍が止める。……確かにちょっとやばいか。塔から出てくるペースはあんまり変わらないけど、魔物のランクが少しずつ上がってきてる。

 レイトーク軍は増えることはないからどんどん疲れていくのに、魔物は増え続けてしかも強くなるんだからジリ貧だ。


「了解。メリスティアさん、あとで余裕があるときに窓はお願いします」

「はい、いつでも」

「じゃあ、みんな準備はいいか。塔に入るよ」


 俺とメリスティアが話している間に各自の準備は既に完了していたらしく、全員が気合いの入った顔で頷いてくれる。その顔を見ているとこんな状況なのになんだかわくわくしてきてしまう。不謹慎かもと思いつつも僅かに上がってしまった口角を隠しもせず閃斬を抜き放つ。


「グリィン! 黒王! 赤兎! 先頭で突っ込んで道を切り開け」

「承知しタ」「「ブルゥ!!」」


 巨神の大剣を振り回しつつ突進するグリィンと、その後ろに続く巨馬二頭。とてもゴブリンやウルフなどの低ランクの魔物に止められるものじゃない。


「蛍、雪! 霞、陽を援護しつつあとに続け!」

「うむ!」「ん……」「「はい!」」「「ガウ!」」


 グリィンたちが蹴散らした道をさらに切り開きながら蛍たちが走る。行きがけの駄賃とばかりに魔物を斬り裂いていくのは、倒せばその分だけレイトーク軍の負担が減るからだろう。戦いに酔っている訳ではない……と思う。


「一狼は俺と一緒に! メリスティアさんも俺と一緒にいきましょう。葵! 殿(しんがり)を頼む。それとレイトーク軍のために塔の入口付近に土壁の構築を!」

「はい、お供します」「了解ですわ、主殿」『わかりました、我が主』


 一狼をやや先行させ、メリスティアと葵を連れて蛍たちを追いかける。そして、俺たちが通り過ぎたあとに塔の入口を囲うように土の壁がせりあがっていく。魔物が拡散するのを防ぎ、レイトーク軍が戦う場所を減らすことで部隊の耐久力を上げるためだ。

 一方向から、狭い範囲でだけ魔物が来るのなら、さっきまでのように戦力を薄く広く展開する必要がなくなり交替しながら戦うことができるはずだ。俺のあれだけの指示でそれを理解して最適な形に土壁を構築してくれた葵。蛍にはいつも戦いは駄目だとからかわれているが、そのへんの戦闘センスはやはり刀娘だ。


「イザクさん、あとは頼みます」

「助かった! なにからなにまですまんな。こちらこそ頼む、無理はするな」


 巨神の大槍でゴブリン数体をへし折りながら叫ぶイザクに閃斬を軽く上げて応えた俺は塔のロビーへと走り込んでいった。


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