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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第6章

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開戦

 桜がひとり村へと潜入してからどれだけ時間が経っただろう。暗闇の中で身を潜める時間はとても長く感じる。はぁ、はぁと耳障りな呼吸音がいやに耳に付き、誰の息遣いだと思ったら俺だった。


「落ち着け、ソウジロウ。桜は大丈夫だし、戦争だとはいっても盗賊退治と変わらん」


 蛍が俺の肩を叩く。


「そうですよ、ご主人様。しかも今回は最初からレイトーク軍も一緒です」


 システィナが身体を寄せて、そっと手に重ねてくる。


「仲間も増えていますし、心配することはありませんわ」


 葵が妖艶な笑みを浮かべながら腕を絡めてくる。


「ん……問題ない」


 雪は一歩離れたところで屋敷を眺めながらも力強く頷いてくれる。

 霞や陽、一狼、グリィンたちも微笑みながら見守ってくれていた。

 ……まいったな、霞や陽までこんなにしっかりしているのに、ここまで緊張しているのは俺だけか。システィナの言う通り状況的には盗賊たちと戦ったときとは雲泥の差がある。まあ、逆にあのときほどに追い込まれていないせいで覚悟が足りないのかも知れない。

 でも、みんなのおかげで早くなっていた心拍もちょっと落ち着いてきた。俺には頼れる仲間たちがいる。粛々と悪人どもを斬り捨てればいいだけだ。


「うん、落ち着いた。ありがとうみんな。もう大丈夫」

「よし、その顔なら大丈夫だな。始まったようだぞ」


 蛍が俺の肩に置いた手に僅かに力を込める。同時にその場にいる全員にピリッとした緊張感が走る。その頃には耳を澄まさなくても戦いの音が聞こえ始めていた。

 たくさんの人の怒鳴り声、剣戟の音、無数の矢が空を裂く風切り音…………まだ目に見える変化はないが音だけでわかる。これが戦争……でも、これは俺がやると決めて俺が始めたものだ。ここまできて怖気づく訳にはいかない。

 

「いくよ、葵は橋の準備を頼む」

「わかりましたわ」


 葵が俺の腕から離れ、【魔力操作】をするために集中に入る。


「グリィンと黒王、赤兎はこの場で待機。橋はそのままにしておくし、回復薬も預けておくから、もしも誰かが撤退してきたら対応を頼む。場合によっては避難して構わない」

「わかっタ、任されよウ」


 俺はアイテムボックスから回復薬の入った布袋を取り出すとグリィンに渡す。


「霞、陽は四狼、九狼と一緒に必ず動け。やりたいことがあれば動いていい、ただし必ず俺たちに言ってから動け。一狼は霞と陽から絶対に離れるな。ふたりを守りつつ、ふたりがやりたいと思ったことを助けてあげてくれ」

「「はい!」」

『承知いたしました。我が主』


 霞と陽が歯切れのよい返事を返し、一狼が小さくウォフと吼える。


「主殿、いきますわ」


 葵の宣言と共に伸ばされる腕。同時に堀の上に土の橋が形成されていく。その橋は幅は3メートルほど、厚みは数十センチに及び、しっかりと湾曲して強度まで計算された見事なものだった。


「よし! いこう。葵、もう一仕事頼む。流れ矢が怖いから建物の中に入るまで風で防御を頼む」

「承知ですわ」


 味方の矢で怪我でもしたら馬鹿らしい。葵に任せておけば流れ矢の危険は考えなくていい。

 橋が完成し、葵が張った風の壁が周囲の喧騒を遠ざけたのを確認してから、全員の顔を見て頷くと走り出す。手すりがないためちょっと恐怖感があるが、揺れなどはなく不安定感はない。


 一気に五メートルを駆け抜け、三メートルの木の柵、目の高さに左手に持った閃斬を横薙ぎにする。さらに返す刀で足下の柵に刀を横薙ぎにすると太腿に装着した巨神の大剣の鞘から巨神の大剣を右手で抜き放ち木の柵の中央へと叩き付け、上下を閃斬ですでに斬られていた木の柵の中央部分を奥へと吹き飛ばす。


「先にいくぞ」

「…………お見事、加点」


 俺が突破口を開くことを確信していたかのように、ごく自然に穴を抜けていく蛍。さりげなく加点してくれつつあとに続く雪。

 柵の向こうに消えていく黒と白の長い髪を頼もしく眺めつつ、二本の剣を鞘に納めるとふたりのあとに続く。俺の後ろにシスティナ、葵と続き、霞と陽と狼たちが最後に抜けてくる。


『ソウジロウ、一階の窓が高い。正面にまわるぞ』


 蛍からの【共感】の声が届く。屋敷の裏側に出た俺たちだが、裏から侵入しようにも蛍の言うとおり一階にある窓はどれも位置が高い。こんな隠れ村に住んで柵と堀に守られているくせに、こんなところにまで侵入者を警戒した対策をしている。どうやらここの教祖はよほど他人が信じられない性格らしい。

 蛍たちに続いて屋敷を回りこむと村の中央広場ごしに戦場が見える。奇襲を仕掛けたレイトーク軍が有利であって欲しいが、まだ門を破ったような気配はないので多少手こずっているのかも知れない。もっともあまりにも早々に突破されると俺たちのやるべきことが終わらない可能性があるので、それはそれで困るんだが。


『ソウ様! 聞こえる?』


 屋敷を回り込んで正面玄関前に向かう俺の脳裏に桜からの【共感】。


『桜、大丈夫なのか!』

『うん、大丈夫だよ。ちゃんと転送陣とメリスティアを見つけたよ。転送陣はお約束の地下で、メリスティアは……あっ! やばっ! ととっ! なんでこいつらここに? ごめん、ソウ様。ちょっとまたあとでね』

「ちょっとおい! 桜! どうした!」


 急に途切れた桜の声に、焦って思わず声に出して叫ぶがもちろん桜の返事はない。


「蛍!」

「取り乱すなソウジロウ。桜なら大丈夫だ、私たちはやれることをやればよい」


 屋敷の側面から正面に出る角で立ち止まった蛍が、角の先を覗き込みながら冷静になるようにたしなめてくる。それはわかっているけど、あの様子だときっと敵に見つかったはずで……あの桜が見つかるほどの敵となれば、蛍ほど冷静にはいられない。


「入口にふたりか。ここまできて躊躇する必要もないだろう。一気に奴らを制圧して正面玄関から突入しよう。桜も中で見つかっているようだし、これ以上隠密行動をしても意味がない」

『先陣は私たちがいこう。あとに続いてください我が主』


 一狼が前に出て、思念を飛ばしてくる。同時に四狼と九狼もパートナーと別れて一狼に続く。


「……わかった。よろしく頼む」

『承知、いくぞ四狼、九狼』


「「ウォン」」


 小さな咆哮とともに狼の魔物三体が角から飛び出していく。建物の陰を利用して低い位置を走る狼たちは門を守る信者ふたりに気付かれることなく一気に距離を詰め、信者たちが違和感を感じたときには既に一狼たちは跳びかかっていた。

 同時にその結果を確認することなく俺たちも角を飛び出す。視線の先では一狼がひとりの喉笛を噛みちぎり、四狼と九狼がもうひとりを押し倒していままさに喉笛に噛みつく瞬間だった。


「お見事ご苦労様。一狼、四狼、九狼。……システィナ扉は開く?」


 悲鳴をあげさせることもなく、信者ふたりを排除した狼たちに労いの言葉をかけつつ正面扉を確認しているシスティナに声をかける。


「駄目ですね、どうも内側からしか開かない仕様みたいです」

「となると門番の持ち物を漁っても無駄か……」


 扉は金属製で、さっきの柵のように閃斬で斬り裂くという訳にもいかない。この扉を壊すよりも壁を壊したほうが早いんじゃないか?


「鍵を掛けてあるといっても所詮は(かんぬき)のようなものだろう? どいていろソウジロウ」


 扉を前に悩む俺を押しのけるように前に出た蛍がその手に蛍丸を出すと、扉の正面で大上段に構える。


「蛍? 大丈夫なのか。さすがに名刀蛍丸でも金属は!」

「黙ってみていろ」


 構えた蛍丸が僅かに光を帯びる。あれは……蛍の【光魔法】か?


「……『蛍刀流:草薙』」


 草薙? あれは確か、蛍の対魔法切断用属性刀の技のはず。蛍丸は先ほどよりも光を増し、いまや刀身を数センチ覆う光の刃となっている。


「はっ!」


 蛍の光の刀が一直線に振り下ろされる。それは寸分たがわず両開きの扉の中央の隙間と同一の軌道。蛍丸の刀身はぎりぎり扉に触れていない、草薙の光刀部分だけが隙間を斬り裂く。蛍丸が振りぬかれると、さっきまで動きそうもなかった扉が僅かに内側にずれる。

 

「まさか……光の刀で扉の隙間から閂を斬ったのか?」

「ふん、思ったよりもうまくいったな。いくぞ」


 凄い! さすがは蛍だ、僅かでも間合いを見誤れば蛍丸が扉に触れ折れる危険性もあったのに……。まだまだ俺は師匠には到底及ばない。でも、いつかは並び立てるようになってやる!


「よし、いこう」


 システィナと陽が押し開けてくれた扉に俺たちは飛び込んでいく。

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