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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第1章

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GO TO 塔

「今後は使い方をよく考えるのだぞソウジロウ」

「はい…すいません。迂闊でした」

「私も地震かと思って起きたら…あんな感じだったのでそんなに私じゃ駄目だったのかと思ってちょっと泣きそうになりました」

「ぜっっっったいそんなことありません。またお願いします。というか捨てないでください」


 結局あの後,文字通り精根尽き果てた俺が意識を失うまで蛍さんが相手をしてくれたのだが、目が覚めたあとはずっと2人からちくちくといじめられていた。

 だが迂闊だったのは間違いないので着替えや装備や道具の確認している最中も,宿を出て転送陣に向かう最中も続く2人の口撃を甘んじて受けていた。なんだかんだ言っても昨日はシスティナも蛍さんも最高に気持ちよかったのでそれでも収支はプラスだ。


「蛍さんそろそろ許してあげてはいかがでしょう」

「ふ,システィナよ。ソウジロウは反省はしていても後悔はしてないぞ。許すも何もこうして我らに小言を言われることなどさして堪えておらんよ」


 く!さすがは蛍さん。全てお見通しだ。


「いや!でも,本当に反省はしてるから。今度からはちゃんと状況にあわせて適切に技能を使うことにする」

「まあよかろう。それよりも前回よりも激しかった割に今回はあまり吸精値は上がっていなかったな」


 朝起きて,蛍さんに促されて武具鑑定をしたが蛍さんの吸精値は2→15に上がっただけだった。


「おそらくは1つランクが上がる度に上がりにくくはなるのだろうな」

「蛍さんは既に神器級ですから。これからはそう簡単にはいかないかもしれませんね」

「多分だが私とソウジロウが共に初めてだったことも無関係ではない気がするが…まぁもう検証も出来んし気にすることはなかろう。それでもいずれはまた上がることもあろう」


「そういえば宿の方は大丈夫なの?」

「はい,一応今日は塔に長居するつもりはありませんが、最長3日間の継続契約にしておきました」


 システィナの説明によると、塔に入るような人たちは塔で命を落とすこともあるため宿代等を先払いしないらしい。だが当然生きて戻るつもりなので宿は確保しておきたい。

 そこで考えられたのが日数指定の継続契約である。


 これは部屋に残された荷物を担保として契約した日数までは部屋をキープしておいてくれるという契約である。

 お金は戻ってきた時に不在にしてた分まで一緒に払えば,そこからまた既定日数分契約が延長されるらしい。

 つまりこれから3日間俺たちが宿に帰れないと部屋に置いてある短ラン,ボンタンや各種着替えやタオル。部屋に保証金として置いてきた銀貨数枚を宿は取得することが出来る訳だ。

 俺たちは今日宿に帰った時には1泊分の代金を払えばいい。戻りが明日になってしまった場合は2泊分を払えばその日からまた3日間部屋をキープしておいてもらえる。


「あ,ここが転送陣のようです」


 転送陣は領主の館のすぐ隣の建物の中にあるようだ。やはり貴重な物らしく建物の警備は厳重にされている。当時の領主が街の存亡をかけて設置したものなのだから当然と言えば当然だろう。

 入り口に武装した兵士が2人立っておりその脇には詰所のような小さな小屋がありその中にも2名ほどが詰めているようだ。


「侍祭のシスティナと申します。塔へ行きますので転送陣をお借りしたいのですが」

「話は聞いている。せいぜいこの街のために稼いでくるんだな」


 システィナが入り口の兵士に声をかけると門番の兵士から連絡はいっていたらしく、すんなりと通してくれはしたが兵士の態度が悪い。別に嫌われるようなことはしてないはずだが。


「塔探索者は街にとっては塔でのドロップ品を売ってくれたり,そのお金を街で使ってくれたりするので街にとってはありがたい人達なのですが、なまじ能力があるために乱暴な行動を取る輩も多いのが現実です」

「街を守る兵士としては気持ちは複雑なのか…」


 入り口を入ると小部屋になっており、突き当たりの大きな扉の前にカウンターが設置されている。このカウンター、ちょっと変わった形をしていて扉の正面部分には酒場の入り口のような木戸がついており,その両脇にこちら側と扉側に向いて背中合わせに女性職員が2人ずつ座っていた。見た目のイメージは遊園地なんかの入場口に近い。

 更に室内を見回すと壁際にもう一つカウンターがあり,そちらは中年のおっさんが座っている。カウンターに掛けられた札から見るに魔石の買取所のようだ。

とりあえず今は魔石なんて持っていないので、転送陣があるだろうと思われる大扉の方のカウンターに向かった。


「いらっしゃいませ。こちらの転送陣のご利用は初めてですか?よろしければご説明させていただきます」

「よろしくお願いします」


 ここの建物の受付嬢の制服なのか、カウンター内にいるお姉さん達はみんな同じ服を着ている。誰の趣味なのか受付嬢は例外なく豊満な胸の所持者なうえに胸元を広く開けた制服なので、深淵なる谷間に視線が吸い込まれそうになってしまう。

 その視線に気がついた受付のお姉さんがにっこりと微笑む。くっ,完全にバレテーラ。

 さらにその笑顔でシスティナも俺が何を見ていたのかに気がついたらしく、冷たい視線を向けられてしまった。


「はい。こちらの転送陣は湖上都市レイトークに繋がっています。レイトークへの片道のご利用にはお一人様1000マールを頂きます。

 レイトークの塔への探索に入られてこの街にお戻りになる場合は預かり金としてやはりお一人様1000マールを預からせて頂きこちらの木札をお渡しします。

 こちらは塔探索終了後、こちらにお戻りの際にあちらの買取所で魔石を1つ以上お売り頂ければこの木札も1000マールで買い取らせて頂きます」


 なるほど、塔に行くからと言われてただ通したのでは帰って来なかったときに転送陣の使われ損になってしまうからその辺を考えたルールなのだろう。

 木札の買取ルールも塔から帰ってきた人から魔石を確実に販売してもらえる様にするためには有効な方法だろう。

 ただあんまりにも相場より安く買い叩かれるようだと預かり金を没収されてでも他で魔石を売る人が出る気がするが良いのだろうか。


「相場については数日に一度,ミカレアとレイトーク双方の魔石買取の値段を調査してますので適正な価格で買取させて頂いております」


 やっぱりその辺は考えてたようだ。だからといって高く買ってくれる店が無いわけではないのだろうがいちいち探し回るのも面倒だし,領主の覚えもよくなる可能性もあるのでここで売ってしまえとなる探索者は多いだろう。

 

「わかりました。私たちは塔探索の後この街に戻ってくる予定ですので手続きをお願いいたします」

「承知しました。それでは3名様ですので3000マールをお預かりいたします」


 システィナは受付嬢に大銀貨3枚を支払う。


「はい,確かに。ではこちらの木札を3枚お持ちください。街に戻られたら魔石と共にあちらへ提出をお願いいたします」


 システィナは木札を受け取るとそれを蛍さんのポシェットに入れて貰っていた。俺たちのリュックには水筒やら食料やらが詰め込まれているので破損させたりしないためには荷物の少ない蛍さんに管理を頼むのはありだろう。


「それではご案内いたします。…っと少々お待ちください。あちらからの帰還があるようです」


 こちらをと対応していた受付嬢が背後の受付嬢から何事か囁かれて頭を下げた。

 それと同時に目の前の大扉が開く。


「いやあ今回はやばかったである!」

「なに言ってんのよ。あんたが無理して上層に突っ込むからじゃない。あんたのエゴに私らを巻き込まないで!」

「だな。次は無茶しても助けに行かないぜ。可愛い娘ちゃんなら速攻助けるけどな」

「ん」


 出てきたのは4人組のパーティだ。

 先頭には背中に大剣を背負った大男。明らかに前陣特攻タイプの肉弾ファイターだろう。

 その後ろに2人,長いローブを纏ったなかなかの美人。ただし目元がきつい,一緒にいても癒されなそうだ。長い杖を手に持っているから魔法主体なんだろう。

 その隣には軽薄そうな色男。身軽な装備だから素早さ重視の攪乱系かな。正面からは武器は見えないが、きっと短剣とかを使って背後からサクッといくに違いない。

 その後ろに先頭の大男よりさらに巨漢がいた。フルプレートに身を包み大盾を背にしている。タンクとして優秀そうだ。


 あれ,そう言えば簡易鑑定を人に使うとどうなるんだろう。武器ばっかり鑑定して試してなかった。『簡易鑑定』


『アレクセイ   業 5

 年齢: 32

 職 : 近接格闘師』


 簡易鑑定だとスキル関係は全く見えないようだが、名前や年齢職業は分かるらしい。業も見えるから悪人かどうかもだいたい分かるってことか。

 職は近接格闘師か…多分接近戦ならなんでも出来るんだろうな。あの大剣の攻撃範囲だと近接かどうかは微妙な気はするけど、わざわざ装備してるくらいだから効果範囲なんだろう。


『リーラ・ブロイス  業 12

年齢: 22

 職 : 打撃砲術師』


 うん。意味が分からない。見た目はまんま魔法使いなのに打撃と砲術?一体何をする人なんだ、前衛なのか後衛なのかすらわからん。


『ガルラ・ゴルラ 業 20

年齢: 26

 職 : 軽薄士』


 …この職でどうやって塔で戦ってたんだろう。スキルは必ずしも職に関するものだけが得られる訳ではないみたいだから、きっと戦闘向けのスキルを持っているはず。

 って言うか俺も戦闘向けのスキルは一個もなかったんだっけ。個人の戦闘力は必ずしも職で決まる訳じゃなくて本人の能力による部分も大きいってことか。


『リュミエル 業 -8

年齢: 15  種族:小巨人族 

 職 : 神官見習い』

 

 う~ん,このパーティの突っ込みどころの多さをどうしたらいいのか。あんなでっかいおっさんがまだ15歳だっていうのも驚きだし,あれだけの重装備をしておきながら神官見習いで後衛職とか。 

 それに種族が違うのは良いが小さいのか大きいのかはっきりしてくれと言いたい。


「がはははは!そう言うな。なんだかんだ言っても20層を攻略して全員無事だったではないか!」

「生きてりゃいいってもんじゃ無いのよ馬鹿!私にはこの美貌があるんだから、そこそこ稼いで名を売ったらいい男捕まえて贅沢して暮らしたいのよ。

 死にそうな目にあうような探索はもうごめんよ!」

「同感だな。俺には俺を待ってる女達が星の数程いるんだがらな」

「ん」


 賑やかなパーティだな。あまり関わりにならない方がよさそうだ。


「20階層ってのは凄いの?」

「確かレイトークの塔は『選択型』の塔ですので、20階層を突破出来るならパーティとしては中堅クラスと言ってもいいと思います」


 選択型とかよくわからんが20階を突破出来るというのはかなりの実力者らしい。ならばますます絡まれたくない。


「お!可愛い娘ちゃんに色っぽいお姉さん発見!」


 と思っていたのに軽薄士の野郎がシスティナと蛍さんを見つけてにやけた顔で近づいて来る。


「美しいお嬢さん達。この運命の出会いを祝して食事をご馳走させて頂きたいのですがいかが?」


 なるほど軽薄だ。ただのナンパ野郎とも言う。


「せっかくのお誘いですがお断りします。私たちはこれからレイトークへ赴く予定ですので」


 システィナがニコリともせずきっぱりと断りを入れる。


「おお!そうでしたか。その装備なら目的は塔ですね。塔は危険です。お嬢さん達だけでは何があるかわかりませんので私が護衛について行きましょう」


 いらないし。俺もいるし。こいつ意図的に俺を見えないくんにしてやがる。業が20もある時点で下心ありすぎなのがバレバレだっつぅの。


「いえ,必要ありません。では失礼します。参りましょう『ソウジロウ様』」


 システィナがわざと俺の名前を強調した。俺を無視した態度にかちんときたらしい。愛されてるなぁ。

 おお,ようやく俺に気付いた。ていうか本当に見えてなかったのか。


「ふん,こんなひょろっとした奴は塔ではすぐ死んでしまいますよ。悪いことは言いませんから私と組みましょう」


 ぞくっ 


 やばい。蛍さんから殺気が漏れてきた。大分お怒りだ。ガルラとやら,悪いことは言わないから早く逃げろ。


「ガルラ!いつまでも無駄なナンパしてないで早く来な!あんたの分け前なくしちまうよ!」

「ちっ,落ちる寸前だったのにあのあばずれ」


 え…今の流れのどの辺で2人が落ちると思ったんだこいつ。


「残念ですが私の仲間たちが私を失いたくないと焦ってるようですので今回は諦めます。次回お会いした時には必ずお二人に安全な塔探索をお約束しますよ。では」


 本人的には去り際の微笑みに星を散らしたつもりなんだろうが、俺から見れば道化にすら見えない。ただの勘違い野郎だった。へ!命拾いしたな。


「面倒な相手ですね…二度と会わないように拠点を変えた方がいいかもしれませんね」

「賛成じゃ。今日の探索が終わったらさっそく相談するべきじゃな」


 2人ともよっぽど嫌だったらしい。これは間違いなく拠点を移ることになりそうだ。この世界に来て初めての街だし,2人と初めてした街でもあるのでもう少しいてもいいかと思ってたんだが,初めて会った塔探索者があんなのだったというのはついてないというべきなんだろう。


「じゃあ行こうか」


 2人を促して大扉へと向かう。


「それでは中に入って陣の中央に入ったら陣に魔力を流してください。魔力が扱えない場合は職員が代行いたしますが銀貨1枚頂きます」

「分かりました。魔力に関しては問題ありませんので」

「そうですか。ではご武運をお祈りいたします侍祭様」


 案内された部屋の中は12畳程の正方形の部屋の中,床一面に目一杯複雑な模様で魔法陣が刻まれている。異世界情緒たっぷりである。

 職員が扉の中へ俺たちを残し扉を閉めていく。


「あんたちょっと待ちなさいよ!これだけの魔石がそんな値段な訳ないじゃない。ちゃんと査定したの?」

「がはははははは!」

「ん」

「受付のお姉様。相変わらず素敵な胸ですね。その胸で傷心の私を慰めてくれませんか」


 扉が閉まる直前まであいつらの声が聞こえてきてうんざりとした気分になった。


「さ,ソウジロウ。気を取り直して行くぞ」

「りょ~かい」

「ふふふ,では行きますねソウジロウ様。転移後の混乱を防ぐためレイトーク側も同じような部屋になっています。ただあの扉の上にある紋章だけが変わりますので紋章が変わるまでは陣から出ないようにお願いします」


 システィナが指差した場所には,ミカレアの街を表すのだろう三重丸と森と草原をイメージした紋章があったのでそれをしっかりと覚えて頷く。


「では行きますね」


 システィナの声と共に足元の魔法陣の模様に光が走る。そして全ての模様に光が通ると同時に陣から湧き上がった光に俺たちは包まれるのだった。





 光から解放されて目を慣らしながら周囲を見回すと、さっきとなにも変わってないように見える。

 ただシスティナに言われていた扉の上の紋章だけが湖と塔をイメージしたものに変わっていた。

 確かにいきなり砂漠から草原に飛ぶような転移は脳が混乱しそうだが,見た目同じ場所に飛ばされてから紋章をきっかけにゆっくりと転移したことを実感する方が混乱は少ない気がする。


「お2人共気持ち悪かったりしませんか?転移に慣れてないと気分を悪くされる方もいらっしゃるのですが」


 転移酔いか。車酔い,船酔い,3D酔い等々の酔いには無縁だったから俺は大丈夫そうだな。


「俺は大丈夫」

「私も問題ないな」

「わかりました。じゃあ行きましょう」


 システィナが開けてくれた大扉を通り外に出ると、ミカレアと同じようなカウンターが設置された部屋があったが、ミカレアには塔が無いためこちらには魔石の買取所がない。

 おそらくもっと塔に近い場所とかにあるのだろう。


 ここには特に用事はないためカウンターのお姉さんたちに軽く会釈をして建物を出た。


「ほう…まさしく湖上都市じゃの」


 建物を出ると蛍さんが思わずそうこぼすほどの景色が広がっていた。

 この建物自体が街の外側の高い位置に建っていたのだがそこから見回した景色の第一印象は『青』だった。

 このレイトークの街は言ってみれば湖に浮かぶひょうたん島だった。日本の琵琶湖もびっくりというような大きな湖の中にある瓢箪型の島。

そして,その湖の水は日本のどの湖よりも青く綺麗だった。

瓢箪の小さい方の膨らみ部分に平べったい3階建てくらいの建造物があり,大きい膨らみ部分に街並みが作られている。

 瓢箪の底の部分から湖の外までは僅かな距離しかなくそこは木造の橋で繋がれている。

 俺たちが出てきたのは底の部分にほど近いところの街の外縁部だった。


「あそこに見える平べったい建造物が『塔』です」

「どう見ても3階建て程度だが先ほどの奴らが言っていた20層というのは20階という意味ではないのかえ」

「いえ,間違いありません。ちょっと離れた場所に出ましたので歩きながら『塔』について説明しますね」


 どうもミカレアの転送陣は予算の関係で塔に近い部分には設置出来なかったらしく、かなり不便な位置に設置されているようだ。

 その分転送代等は安めに設定されていたり宿の値段等の滞在費が安く設定されているので、長期的にレイトークで稼ぎたいが手持ちが少ない人のベッドタウンとしての位置付けになっているらしい。


 塔へと向かいながらシスティナは語る。


「『塔』は見た目通りのものではありません」


 システィナが教えてくれた塔についての知識をまとめるとこんな感じだった。


・塔内は一種の異次元空間のようなものであり,外観の広さや高さが内部の構造とは全く一致しない。


・基本的に各階層には主と呼ばれるボスがいて,倒すと次の階層へいけるが階層を上がるとそこからは下には戻れず主はすぐにリポップする。


・脱出は各階層の窓から飛び降りれば外に出られる。何階から跳んでも30センチほどの落下感で下に着く。


・最後の階層には塔主がいる。倒すと塔は崩壊する。


・塔には型があり、それぞれ『選択型』・『変遷型』・『対応型』がある。


・塔は入ると必ず魔物のいない大広間があり、そこから扉を開けて先に進む。


『選択型』

特徴:

 大広間に各階層に繋がる扉がある。1階層は誰でも入れるが2階層より上はパーティのうちの誰かがその階層をクリアしていないとその階層には入れない。誰かが新しいフロアを踏破すると次の階層への扉が大広間に現れる。


討伐条件:

 上層まで1階層ずつ討伐して行って塔主を倒す。


『変遷型』

特徴:

 1日ごとに内部の構造や魔物の種類,配置,数が変わる。その日のボスを倒しても次の階層への階段は現れない。


討伐条件:

 塔主を倒すことだが塔主のいる階層にいつ繋がるのかは不明。有力だと言われているのは毎日構成される階層の主を誰が倒してもいいので最低一回倒し続ける。連続討伐数が増えてくると塔主の階層が出やすくなると言われている。


『対応型』

特徴:

 別名『適塔』(適当に掛けた言葉らしい)。言われているのはパーティの能力を塔がざっくり鑑定してそれに見合ったランクの敵がいる階層へと繋ぐとする説で、パーティごとに送り込まれる階層が違う。その鑑定はかなり大雑把らしく、たまに全然レベルに見合わない恐ろしく強い魔物が配置されることがある。


討伐条件:

 不明。おそらくその日構成されたフロアから一度も外に出ずに相当程度のフロアを制覇していくことで最上階に辿り着くと考えられている。


・過去に討伐された主塔は選択型が2つと変遷型が1つの3つである。残りは選択型4つ、変遷型2つ、対応型1つの塔が残されている。


・レイトークの塔は選択型。


・主塔・副塔について

 魔物を塔内と塔外に生み出し続けているといわれる世界に10本ある主塔とランダムに生まれ塔内にしか魔物を生み出さない副塔がある。

一般的に主塔の力が増してくると副塔が生成されると言われている。副塔をある一定数放置し続けると新たな主塔が生まれるという説があるが,今のところ確認は取れていない。 


 こんな感じだった。


「なんていうか凄いとこだってのはなんとなく分かった」

「とりあえずは戦いに慣れるまでは選択型に入って行く方が良さそうだな。基本的に階層が上がるほど魔物は強くなるのだろう?」

「そうですね。そう言われてます。

 …変遷型と対応型は必ずしもそうとは限らないようですが、選択型に関してはほぼ間違いなさそうです」

「ほぼ?」


 一瞬言い淀むシスティナ。つまり選択型すら例外があるということか。


「過去に数例,低階層に出てくるはずのない魔物が湧いたことがあるそうです。いずれの場合も探索者達に多大な犠牲が出たようです」

「不思議なものが不思議なことするのは仕方ないよ。やれることをやっていこう」


 いきなり実の父親に刺されて死ぬことだってあるんだから,塔で強敵に遭遇して殺されることだってあるだろうさ。

 そんなことは気にしたって仕方ない。今度はへましないようにしっかり殺せばいいだけだ。そのためには強くならなきゃな。


「はい。大丈夫ですよ,ソウジロウ様は私が絶対守りますから」

「うん,俺もシスティナを守れるように頑張るよ」

「その為には特訓あるのみじゃな」

「そこはよろしく」

『……』

「わかってるって。桜ちゃんもよろしく頼むよ」


 システィナの塔の説明が終わるころ,ようやくレイトークの街中を抜けた。瓢箪の首の位置だ。


 首の位置には隔壁が作成されていて高さ3メートルほどの壁がある。その中央に扉があるが、扉自体は開け放たれていて両脇に一応兵士が立ち出入りを管理しているようだ。

 ただ,管理していると言っても関所などのような厳しいものではない。むしろ有事の際に塔から街を守るというのが本来の役目らしくシスティナが塔へ行くと言うとあっさりと通行を許可された。

 塔から帰ってくる探索者も基本ノーチェックらしい。


「いよいよ来たか」


 目の前に見えるのは古びた3階建ての塔だった。一段目は正面が大きくくりぬかれたように大きな入り口があり,無数の探索者が出入りしてる。

 多分あそこがシスティナが言っていた塔に入ると必ずある最初の大広間なんだろう。

 そこには各階層への扉があるだけで魔物は出ないらしいからまだ緊張する必要はないはずなのだが、やはり未知の場所ということで心拍数が上がっている気がする。

 一段目は特に窓などもなく奇妙な模様が刻まれた外壁である。2段目,3段目には窓らしきものが一定間隔であるようだが、不思議なことにどんなに目を凝らしても中を覗くことが出来なかった。


「はい。では行きましょう」


 入り口から中に入る。

 中には想像以上に人がいてざわざわとした雰囲気だ。半分程は武器を持ち防具を身に付けた探索者達で休憩したり,作戦を立てたり,臨時のパーティメンバーを探したりしている。

 残りの半分は商売をする人達のようだ。薬を売る人,回復魔法を有償でかける人,魔石を買取る人,武器や防具を売ろうとする人さえいる。

 ふと,思いついて広間にいる探索者達を『簡易鑑定』してみた。ミカレアで見たあいつらの職がレアなのかどうかが気になった。とりあえず名前はどうでもいいから職関係辺りを片っ端から見てみる。


『職:剣士』『職:神官』『職:狩人』『職:農夫』『職:商人』『職:風魔法師』『職:打撃師』 等々


 なるほど,やっぱり職って言えばこういうのだよね。あいつらはなんだかんだ言っても特殊な部類だったってことか。そういえば流しちゃったけどいくらか亜人もいた。ぱっと見て目についたのは『犬頭族』『狐尾族』『長胴族』辺りか。大体種族名がそのまま種の特徴を表しているらしい。


「レイトークの塔へようこそ。こちらの塔へは初めてでしょうか。もしパーティリングをまだお持ちでないようならここで買われていく予定はありませんか」


 俺たちが中の喧騒に動きを止めていたのを初心者故と見抜いたのか、大広間の壁際から大きなアタッシュケースのような鞄を持った男が近づいてくる。

 仕立ての良さそうな衣服に身を包み、嫌味じゃない口髭を蓄えたなかなかのイケメンおじさんだ。


『ウィルマーク・ベイス 業 7

年齢 34 

 職: 行商』


 業が一桁ならそんなに悪人って訳でもなさそうだしパーティリングというのも気になる単語なので話くらいなら聞いてみてもいいかもしれない。

 システィナを見ると一瞬視線が彷徨ったあと俺を見て頷いて来たので、パーティリングについての知識を確認したのだろう。俺もシスティナに頷き返して話を聞くことを了承しておく。


「確かに私たちはまだパーティリングを持っていませんが,これから塔に入るには必要かもしれませんね。お話をお伺いいたします」

「それはありがとうございます。私は行商人のウィルマーク・ベイスと申します。ウィルとお呼びください。

 それではまずパーティリングの説明をさせていただきます。よくご存知でしたら省略いたしますが?」


 聞いてくるウィルにシスティナは「せっかくですのでお願いします」と説明を求める。ウィルは「承知いたしました」と頭を下げると持っていた鞄を開けた。


「こちらがパーティリングと呼ばれる物です」


 鞄の中に入っていたのは、小さな黒い石がはめ込まれその他の部分にもなかなかの彫金が施された銀色の腕輪だった。鞄の中は何段にも分かれているらしく,リングが最上段には2個,その下の段には3個,その下の段には4個と複数個ずつセットで保管されている。

 

「こちらをご覧ください。いずれもこのリングの黒い石同士が引き合っているのが分かると思います」


 ウィルが指摘する通り確かに2つの腕輪の石と石がくっついている。


「これは1つの重魔石を2つに割って加工したものを腕輪に組み込んでいます。重魔石は割れても元々の石同士で引き合う性質があるのです。この性質をパーティリングは利用しています」

「身に付けておくと何が便利なのですか」

「大きな利点は2つで御座います。

 まず1つはパーティメンバーが全員1つの重魔石から作ったリングを付けていれば塔内などではぐれたとしても大体の居場所が分かります」


 腕輪同士が引き合うから引かれる方にメンバーがいることが分かる訳か。それは確かに便利だな。システィナや蛍さんとはぐれて再会出来なかったら俺は泣く自信がある。


「もう1つは塔の到達層を共有出来るということです」

「どうゆうことですか?」

「例えばこのレイトークの塔は『選択型』です。一度もこの塔に来たことがない方は1階層から順番に攻略していくことになります。

 なぜなら到達したことのない階層には入れないからです」


 大広間の壁には無数の扉がある。一段では足りずに壁際に設置された階段と通路まで利用して二段目にまで扉が並んでいる。

 そしてその扉には1つずつこちらの世界の数字で1から数字が振られている。この数字が各階層を表しているのだろう。


「ところがこのパーティリングを装着したパーティではパーティ内の誰か1人が到達したことがある階層ならパーティ全員がその階層に入ることが出来ます。これは腕輪の重魔石が割れていても1つとして塔に認識されているためだと言われています」


 1階層から一緒に戦っていたパーティなら特に意味はないが,途中からその塔に入ったことがないパーティメンバーが増えても1階層からやり直す必要がないってことか。


「これを利用して高階層に入ったことがある探索者を一時的にパーティメンバーに加えて高階層へ連れて行って貰うことで低階層を回避することも出来ます。選択型の塔ではそれで稼いでいる探索者もいます」


 別に戦わなくても入った経験があればいいんだから高階層に行く探索者に最初だけ同行させてもらってすぐ離脱。後は入り口で低階層をショートカットしたい探索者を募ってお金をもらって行きたい層に連れていく。確かに需要はありそうだ。

 

「システィナ。今後のことを考えたらこれは必要だと思うけどどう?」

「そうですね。必需品だと思います」

「そうだな,周りを見回してみてもそこそこの装備をしている者達は大概装備しているようだ」


 なるほど。俺たちが装備はそこそこ良いのにパーティリングを持っていなかったからこの商人に声をかけられた訳か。 


「小さな利点も2つあります。

1つは重魔石ははめ込んであるだけで魔力を使っている訳ではないので半永久的効果が続くこと。

 もう1つは劣化しないためパーティメンバーが増えてリングを買い替えるときも買値と同程度の値段で売れますから買い替えの負担が少ないことですね」


 俺たちのパーティの場合3つに割った重魔石のリングではパーティメンバーが増えた時に使えなくなってしまうので4つに割った重魔石のリングに変える必要が出る。その時の下取りの価格が購入金額とほぼ変わらないというのは確かに利点だ。


「欠点としては,魔石を使っているためお値段が高いことです。パーティリングとして機能させるためにはある程度のサイズが必要ですので、割る数が増えれば増えるほど必要とされる魔石のサイズが大きくなり値段も跳ね上がっていきます」

「それはそうでしょうね。では3人用だとお幾らになりますか」

「はい,3人用ですと30万マールになります」


 300万円!盗賊の懸賞金のほぼ全額か。今の俺たちの所持金じゃちょっと手が出ないな。


「残念ですが今はちょっと無理ですね。またの機会にいたします。よろしいですかソウジロウ様」

「もちろん。無い袖は振れないってことで」


 お金が貯まったらきっと買おうと心に決め,ウィルに断りを入れると塔の1階層に入れる扉へと向かう。


「…お待ちください」


 そこへウィルから静止の声がかけられる。


「なんでしょうか?」


 立ち止まった俺たちに心持ち近づくとウィルは声を潜めてシスティナへと口を開く。


「不躾な質問をお許し下さい。失礼ですがもしかして侍祭様でいらっしゃいますか?」

「…ソウジロウ様」

 

 システィナの目線での問いかけをうけて俺は頷く。一応周りに聞かれないように配慮をする程度の常識はあるらしいのでばれても言いふらすようなことはないだろう。

 そもそも侍祭の身分は隠した方がいいのかどうかも俺には今一つ分からない。


「はい。私は侍祭のシスティナと申します。こちらが私の主である富士宮総司狼様です」


 ウィルはやはりという顔をするとあまり目立たぬようにシスティナと俺に対して頭を下げてくる。


「やはりそうでしたか。これから皆様は3名で塔に挑戦されるのですか?」

「そうなります」

「では,この3名様用のパーティリングを私の方から贈呈させてください」


 ウィルは自らの鞄から3つのリングを取り出して差し出してくる。


「ちょっと待ってくださいウィル殿。そんな高価なものを頂く訳には参りません」

「わかりました。ではこちらは先行投資ということでいかがでしょうか」

「先行投資…ですか?」

「はい,その代わりと言ってはなんですが今後はほんの少し我がベイス商会を御贔屓にして頂けませんでしょうか」


 ほほう…賄賂というやつですかな?お主も悪よのう越後屋。

 ていうか俺たちにそんな価値はないと思うんだが300万円も先行投資とかやりすぎじゃないだろうか。

 どっちにしろ多額の賄賂は受け取れませんが。個人的に悪人のイメージが強いので忌避感があるっす。


「そんな高い物を投資してもらえるほどの実績も実力も今の私たちにはありませんし,それを盾に私たちの行動に縛りが出来ることも望みませんのでやはりお断りさせて頂きます」


 さすがはシスティナだな。俺の考えをかなりのレベルで把握してるっぽい。従属契約をすると主の考えとかが分かるようになるようなスキルは無かったはずなだけど。


「いえ,賄賂なんてとんでもない。私がお願いしたいのはAとBという隣り合った店があり同じ値段で同じ物が売っていたとしたらAのベイス商会の店で買って下さいませんかという程度のお願いです」


 食い下がるなぁウィルさん。そんなに俺たちと縁を繋ぎたいのか。まあその程度のお願いごとでも良いならむしろ…


「システィナ。彼と契約を」

「え,ソウジロウ様?」

「借用書だよ。彼からツケでそのリングを買う。無利息で返済期限は300日以内。それ以外の条件は何一つ明記しないし約束しない。それでも良ければそのリングを買わせてもらう」


 ぶっちゃけこちらにしか利点のない一方的な契約だが,システィナの『契約』である以上支払いは確約されている。ウィルの利点はそれこそ俺たちとほんの少しの縁が出来るというだけだ。

 だがウィルは迷いなく微笑み頷いた。


「それで結構で御座います」

「分かった。システィナ」

「はいソウジロウ様」

 

 システィナはスキルで契約書を出すと俺に内容を確認させた。もちろんシスティナが俺の意に反するような契約書を作成することなどないので頷いて了承する。


「では署名を」

「はい」


 ウィルが契約書の署名欄に署名をする。


「『侍祭システィナの名の下にこの契約は成立した。契約を破りし時は侍祭システィナが罰を受けることを誓う』」


 やられた!もしお金が準備できなかった場合の契約破棄の際の罰をシスティナが1人で受けることに…でも今は取り乱すのはよくないだろう。既に契約書は光と化して契約は成立してしまっている。


「よい取引をありがとうございました。では改めましてこちらをお納めください」


 パーティリングをシスティナが受け取る。


「ご返済の方は私を見つけましたら私でも構いませんが,私は行商の身ゆえ各街にあるベイス商会の方にも連絡をしておきますので、そちらへご返済なされても構いません。

 それともしザチルの塔のある混迷都市フレスベルクに行かれることがありましたら、ベイス商会本店にも是非お立ち寄り下さい。本店は父が取り仕切っておりますので」

「わかった。覚えておく」


 ウィルは丁寧に頭を下げ商売へと戻って行った。

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