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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第5章

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霞奮闘

「おみごと」

「ふふふ、ちょっとやりすぎてしまいましたわ」

「十分だよ。おつかれ」


 短い攻防だったけど、それなりに充実していたのか機嫌がよさそうな葵を見ると、蛍たちほどではないが戦いが好きなところは、やっぱり葵も刀なんだなと思う。


「さて、あちらさんがこれで納得してくれるといいんだけど」

「近衛の長と、魔法使いの長が敗れたのですからもう終わりではないのですか?」


 俺の隣にいるシスティナの言葉は、普通に考えれば正しい。


「これがフレスベルクの領主相手だったらその通りだと思うんだけど……」


 ある種の予感とともにレイトーク陣営をうかがうと、ちょうどイザクが胴間声をはりあげたところだった。


「ええい! ダイラス老までがなんという体たらく! このままではレイトーク軍の威信はがた落ちではないか! 誰ぞ我こそはと思う者はおらんのか!」


 後ろに控えていた幹部候補生らしき兵士たちに発破をかけるが、近衛隊長と魔術師団長があっさりと敗北したあとではとても『私が!』とは言えないだろう。


「むぅ! やむをえん。ミモザ! やってくれるな」

「言うに事欠いてなんてこと言いやがりますか! ミモザは秘書兼侍女でいたいのです。お断り! です」

「悪いがこれは領主命令だ」

「むぅ……こんなによくやっているミモザにそんなことを言いやがりますか」

「まあ、待て。業務外の命令であることは承知している。試合に出るだけで勝敗問わず金貨1枚、勝てばその十倍を特別手当として支払おう」

「さあ、相手はだれでやがりますか!」


 ……うん、その可能性も想定はしてたんだけどね。でも、それで戦っちゃうんだミモザさん。


「さて、どうしようか。桜が帰ってきてればなんの問題もなかったんだけど……」


 どっから取り出したのかわからないが、二本の短剣を手にして訓練場の中央で待ち構えるミモザをみながらため息をつく。


「私がいるではないかソウジロウ」

「まだ蛍はだめ」

「な! ぐぅ……雪ばかりか葵まで戦っているというのに」


 蛍が頬をふくらませるというのも、なかなか見れない表情なのでこれはこれでいいな。蛍も最近は魔物と戦うか、身内と訓練だけだったから対人戦に飢えている。でも、雪が擬人化していい対戦相手ができたんだから、そこは我慢してほしいところだ。


「あ、あの……」

「え? ああ霞か、どうかした?」

「旦那様、私にやらせてもらえないでしょうか?」

「え! 霞が?」


 確かに霞と陽も斥候職としての訓練は受けているし、うちにきてからも桜がマンツーマンで指導している。指導の期間はまだ短いけど、かなり優秀だって桜からは聞いている。

 一応、試合をするということで全員動ける服装でメイン武器も持ってきてはいる。霞の場合は針術のスキルがあるのでいろんな長さ、太さの針を動きやすいようにシスティナが改良したメイド服っぽい衣装の各所に仕込んでいる。でも針では打ち合えないし、カモフラージュのために短剣も太腿とかに装備してあるはずだ。


「だめでしょうか? あの方も孤尾族ですよね。しかも私と同じようなお仕事をしていますから、いわば先輩です。胸を借りてみたいのですが」


 霞の目がキラキラしている。同じ孤尾族として立派に働いている人がいることが嬉しいのかもしれない。この世界では、あからさまに獣人が虐げられているというようなことはないが、一部に蔑視する輩がいることもまた間違いない。だから各部族では積極的に人と関わらないように生きることも多いらしいが、結局部族だけの狭いコミュニティでは豊かな暮らしができず、霞や陽のように家族のために奴隷商に身売りをするということもままある。

 そんななか、領主の秘書兼侍女兼護衛として働いているミモザを見て霞は嬉しくなってしまったのかもな。


「どう思う? システィナ」

「はい、霞のためにはよいことだと思います。ただ、今回のこの戦いの主旨を考えると……」

「その辺はいいや。一応はもう2連勝してるし、霞のためになるならそっちのが大事だからね」

「はい、それでしたらぜひ私からもお願いします」

「旦那様、システィナ様……」


 微笑んで小さく頭を下げるシスティナと、頷く俺を見て霞がちょっとうるうるしている。俺はいまがチャンスとばかりに霞の頭を撫でつつ念願の耳モフを達成する。どうも耳は敏感らしくて尻尾は触らせてくれるけど耳は触らせてくれてなかったんだよね。


「あんっ、ずるいです旦那様」

「うん、気持ちいい。また触らせてね霞。じゃ、ちょっといってくる」


 顔を赤くする霞を置いて、待ち受けるミモザの方へと歩み寄る。


「意外です。フジノミヤ様がやられるんですか?」

「いやいや、私は今日は戦わないと決めてますので。ちょっとミモザさんにお願いがあって」

「お願い……ですか」


 首をかしげるミモザに俺は頷く。


「出来れば同じようなタイプの対戦相手をこちらも用意したかったのですが、うちの斥候職のトップはまだ隠れ村の偵察から戻っていません。そこでまだうちにきたばかりなんですが、同じ孤尾族の子を対戦相手にしようと思っているんです」

「孤尾族の子を雇われているのですか? フジノミヤ様」

「雇うというのはちょっと違います。彼女は奴隷商から買いましたけど、大事なうちの家族ですので」


 一瞬、虐待でも疑ったのか目元にきついものを浮かべたミモザだが、後ろで俺が触ったことで我慢できなくなった葵たちにも耳モフされて身悶えている霞をみて、自分の思い過ごしだと理解したらしい。


「わかりました。それでお願いというのは?」

「彼女は優秀ですが、まだ訓練中の身です。そして、その訓練も相棒である狼との連携を主にしています。今回の対戦に彼女が狼と一緒に戦うことを許してもらえませんか?」

「……なるほど、わかりました。私も同じ孤尾族の子がどのように戦うのか興味があります。狼と一緒でかまいません」

「ありがとうございます。それでは」


 ミモザにお礼をいうと、霞のところに戻って九狼と一緒で構わない旨を告げる。


「本当ですか! ありがとうございます旦那様。これでちょっとはいいところを見せられるかも知れません」


 足元の九狼を撫でながら無邪気に喜ぶ霞。一瞬前まで耳モフのされすぎでぐったりしていたとは思えない。


「じゃあ、怪我しないように頑張っておいで」

「はい!」

「気負わずにな」

「ぶちかましてやりなさいですわ」

「……ん、頑張れ」

「はい、ありがとうございます!」

「頑張ってね霞ちゃん」

「うん、いってくるね陽」

「霞、最初からですよ」

「わかってます、システィナ様」


 皆に見送られてながら霞は前へと出る。


「よいところにいるようですね」

「はい! 私は幸せ者です」

「勝負は真剣ですよ」

「はい!」


「もうよいな! では始めぇい!」


 じりじりしながら成り行きを見守っていたイザクが右手を上げ三度(みたび)開始の合図をする。

 

 そして、開始の合図とともにミモザの姿がかすむ。やはり速い。


 ガウ!

「く!」


 一瞬虚をつかれ、反応が遅れた霞をフォローするように動いた九狼が、背後を取られそうだった霞を助ける。


「ありがとう、くーちゃん! やっぱりミモザさんは凄い。くーちゃん、最初から全力でいきます!」

 ウォン!


 ミモザの猛攻をかろうじて1人と一頭で防ぎながら、霞は手に持っていた短剣をいきなり投擲。まさか持っていた武器をこんなにすぐに手放すと思っていなかったミモザの反応が一瞬だけ遅れる。


「いきます。【幻狼陣】」

「……これは」


 霞の声が響くと同時に、ミモザから戸惑いの声が漏れる。ミモザは右から跳びかかってくる九狼の牙をかわしつつ、左からくる霞の攻撃を避け、前から斬りかかってくる霞の攻撃を弾きつつ、後方からの九狼の爪を跳んでかわした。

 そう、いまや訓練場には無数の霞と九狼がいてミモザに襲い掛かっていた。


「ほう、凄いではないか」

「霞は幻術スキル持ちだからね……でも、まさか九狼の幻まで生み出すとはね」

「ですが、攻撃にすべて実体があるように見えるのはどうしてですの?」

「……攻撃に合わせてなにかを投げてる」


 針……か、幻影の攻撃に合わせて針を投げて実体を持たせることで本物の霞と九狼を分かりにくくしているのか。


「なかなかやりますね、正直驚きました」


 無数の霞たちに攻められながらも、しっかりと全ての攻撃に対応しているミモザはさすがだ。霞もあれだけの幻を制御して、さらにそれに合わせて攻撃までしているんだから消耗も激しいはず。


「ですが、まだまだです」


 ミモザの速さのギアが一段あがる。あれだけの猛攻にさらされてまだ全力じゃなかったか……


 ギャン!

「くーちゃん!」

「気配が消しきれていないから、せっかくの幻も目くらましにしかなっていません。動きながらでももう少し隠密行動ができるようになってください」


 本体を見破られて下顎に蹴りを受け、弾き飛ばされた九狼に意識を向けたことで集中が途切れ、幻術が解けた霞の背後にミモザが立つ。


「ま、参りました……」


 負けちゃったか……でも、いい勝負だった。霞の成長が見れて俺は満足だ。


「ん~残念。ちゃんと気配を消すように言っておいたんだけどな。また鍛え直さないと、ね、ソウ様」

「いやいや、十分でしょ。ミモザさんが強すぎただけで……って、桜!」


 いつの間にか俺の隣には腕を組んで戦況を見つめていた桜がいた。

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