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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第5章

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葵無双

「ぐ……」


 引き抜かれた雪の刀と同時に崩れ落ちるグレミロ。雪も勝負がついたことはわかっているのか刀の血糊を払うと、白い髪を揺らしながらこちらへと戻ってくる。


「雪姉様さすがです!」


 陽が満面の笑顔で迎えると、雪も小さく微笑む。


「おつかれ、どうだった?」

「……ん、まあまあ。盾と戦うのは初めてだったけど堅かった」


 そっか、日本にはあんまり盾を使う文化はなかったっぽいからな。もしかすると刀娘たちはあんまり経験ないかもな。


「ん? 私はあるぞ。あんまり日本では定着しなかったから多くはないがな」


 俺の考えていたことを共感で察したらしい蛍が教えてくれるが、こっちの世界は盾を使う人もそこそこいるから、今後はなんか対策がいるかもな。


「……くぅ」


 おっと、それどころじゃなかった。聞こえて来たうめき声に我に返った俺は振り返ってシスティナを見る。


「システィナ、お願いできる?」

「はい」


 一応、俺が指示するまで待っていたのか、システィナがグレミロのところへと走っていく。この世界ならあのくらいの傷でも、傷薬があれば問題はないと思うけどね。


「ぐぬぬ……まさかグレミロが」


 治療を受けるグレミロの見ながら歯ぎしりをするイザクの後ろで、若い兵士たちもざわついている。まさか自分たちの隊長が手も足もでないで負けるとは思っていなかったのだろう。


「ほっほ、グレミロは相手がおなごだと侮ったうえに、所詮は冒険者相手の手合わせだと油断もあったようじゃな」

「おお! ダイラス老」


 いかにも魔術師といった格好の白髭の爺さまが、髭を撫でながらイザクに並ぶ。


「最近、やつもイザク様以外に相手がいなくなって増長していましたからな。いい薬じゃろうて」

「むう……だが、グレミロで勝てぬとなれば」

「ふむ……事情は聞いておりますが、あちらの自信と先ほど戦った者の力量を見る限り……この勝負に持ち込まれた時点で勝負は決まっていた気がしますな」

「な! そ、そんなことは……」


 ダイラスの冷静な指摘に、言葉を詰まらせるイザク。


「この馬鹿が勝手に決めやがりやがったのです。止める間もなかったのです」

「ほっほっほ、そう言ってやるなミモザ。良くも悪くもそれが、イザク様じゃて……さて、この様子では勝ち目は薄そうじゃが、儂も団長としての役目を果たしましょうかな」

「おお、いってくれるかダイラス老。なに、あなたがいってくれるくれるなら安心だ」

「さてさて、そうじゃといいんじゃが……」


 そういうとダイラスはすたすたと前へと歩いてくると、大人しくシスティナの治療を受けていたグレミロの頭を短杖でこんこんと叩く。


「グレミロ、さっさと後ろへ下がれ。お嬢さん、もう治療は十分じゃ、丁寧にやってくださってありがとうのう。見たところもうほとんど傷も塞がっておる。あとはうちの治療師にやらせますからな」

「あ、はい。傷のほうはもう大丈夫だと思いますけど、しばらくは違和感が残るかも知れませんので、動かすときは状態を確認しながらにしてください」


 システィナが軽く頭を下げてから戻ってくる。その間にグレミロもダイラスに軽く蹴飛ばされるように後ろに下がっていく。


「ご苦労様、システィナ」

「はい」

「では、次はわたくしですわね」


 システィナと入れ替わりで葵が一歩前にでる。相手が魔術師だというならたしかに葵が適任だろう。


「葵、相手は魔法が得意だから使わせずに勝っちゃうと面倒臭いことになると思うんだ」

「わかっていますわ、主殿。相手に存分に魔法を使わせたあとに、ことごとくそれを潰して勝てばよいのですわね」

 

 いや、確かにそうなんだけどそれをあっさりと言えるって凄いな。このくらいの距離だと、相手の魔法発動前に普通に決着がついちゃう可能性があるから頼んだんだけど、普通なら魔法は撃たせないのが戦いの基本だから、かなり無茶な注文をしたのに。でもまあ、今日の葵はつやつやバージョンで気合十分だから大丈夫か。


「うん、任せた。怪我はしないようにね。怪我しちゃうくらいならあっさり勝負を決めてもいいから」

「承知いたしましたわ」


 微笑んだ葵は刀を手に前へと出る。


「お手柔らかに頼みますぞ」

「こちらこそよろしくお願いしますわ」

「では、イザク様。開始の合図を」


 ダイラスに促されたイザクが頷き、再び右手を上げる


「うむ……では始め!」


 開始の合図とともにダイラスが短杖を構えて詠唱に入る。ぶっちゃけ、この時点で葵が術を発動させれば勝負ありなんだけど……


『我が魔力を糧に、疾く出でよ氷の矢』


 あ、でも詠唱が短い。これだと発動前に潰すのはそもそも無理だったかも。

ダイラスの目の前に生み出された5本の氷の矢が葵に向かっていく。いやらしいのはよく制御されていてどひとつとして同じ速度、同じ角度から飛んでくるものがない。


「さすがに年の功ですわ『風術:天蓋風』」


 葵が術を発動、葵を覆う風の流れが氷の矢の向きを変えていく。さらに驚いたことに葵は、風を操作して流れに矢を乗せ、その矢をダイラスへと打ち返した。葵の魔力操作による『術』とは違い、この世界の魔法は基本的には現象を起こして発動させたら術者の制御を離れる。だからこそできたことだろう。


「ほ、とんでもないことをするお嬢さんじゃな」


 氷の矢を送り返されるという異常事態にも関わらず、ダイラスは大きな動揺を見せることなく落ち着いて詠唱を始める。


『我が魔力を糧に、疾く出でよ裂空の刃』


 生み出されたものは視認できないが、ダイラスのローブが後ろから前に靡いているから、生み出されたのは風の刃だろう。その刃が向かってくる氷の矢を粉砕。さらにそこで威力を減じることなく、粉砕した氷の破片すら巻き込んだまま葵へと向かう。

 咄嗟の魔法の選択もいいし、発動速度も速い。これなら魔術師団長だというのも納得だ。


「これは、困りましたわ。うかつに受けるとお肌に傷が付きそうですが……主殿のための肌を傷つける訳にはいきませんわ。しっかり受けてくださいね『炎術:炎渦槍』」

「なんと!」


 葵が使った術は炎の渦。ダイラスの放った魔法も氷の礫も全てを包み込んで収束した炎の渦が槍と化してダイラスへと向かっていく。ダイラスの風をも巻き込んだせいで結構な威力になっている。


「皆のもの! 伏せるのじゃ! 『我が魔力を糧に、疾く出でよ大地の楔』」


 慌てた口調で後方の味方に叫んだダイラスが、さらに高速で詠唱した呪文に反応して現れたのは土の壁。ただ、さすがだったのはただの壁ではなく、その壁に傾斜がついていて攻撃を上空に反らすように工夫がされていたことだ。

 葵の放った炎は、その壁に衝突し激しい熱風を周囲へとばら撒きながら、方向を変えられ炎の柱となって上空へと消えていった。


 葵の放つ術は常に葵の制御下にある。本来ならあの壁を回り込む軌道に変えることも可能だったはず。だけど、それをやってしまったら当然マズいことになるので、葵はちゃんと上空に逸れていくように調整はしていたようだ。


「……いやはや、これは」


 冷や汗を拭いながら、葵の炎に熱せられて結晶化しつつある土壁をながめていたダイラスはゆっくりと葵を見ると両手をあげた。


「やはり、かなわんかったな。降参じゃ、手加減されてこの有様ではのう」

「あなたもお強いですわ。本当はもう少し本格的な魔法勝負を楽しみたかったのですけど……」


 そういえば、魔法を一方的に打ち込まれることはあったけど、本格的に魔法を打ち合う戦いは初めてだったか。葵は少し残念そうだったけど、とにかくこれで2連勝だ。


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