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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第5章

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甘えん坊

「ごめん、結局あんな形になっちゃった」


 レイトークの領主館を辞し、屋敷へ帰る道すがら。最終的に刀娘たちに頼る形になってしまった交渉の結果を謝罪する。


「いや、上々の結果だ。よくやったぞソウジロウ」

「まったく……あなたはただ戦いたいだけでしょうに」


 俺の隣を歩きながら、どこか機嫌がいい蛍にため息をつきながら葵が呟く。


「山猿の意見は置いておいても、結論としては悪くありませんでしたわ、主殿」

「そうかな? 最終的に皆にはそれぞれ圧勝してもらいたいんだけど、大丈夫そう?」


 約束を守らせるだけなら、どんな形であれ勝てばいいと思う。だが、イザクを心の底から納得させて遺恨を残さないためには、圧倒的に勝利することが必要なのではないかと俺は考えていた。最後はもう、笑っちゃうくらいにこてんぱんにされれば、俺たちのことを認めざるを得ないはずだ。

 ただ、そうすることで俺たち自身は目をつけられてしまうだろう。だけど、この世界にきたばかりの俺たちとは違い、今の俺たちなら自分たちのことを守れるだけの力はあると思う。


「あの領主が自信を持って送り出してくるのですから、きっとお強い方が出てこられると思います。ですが手加減をしなくていいというのなら、問題はありませんわ」


 葵が自信たっぷりに微笑みながら、手のひらに炎の球を生み出して握りつぶす。


「一度この世界の騎士とは、真剣勝負をしてみたかったのだ。相手が領主近衛の隊長というなら、相手に不足はなかろう」

「あ、でも蛍とその近衛隊長とは戦わないかも」

「なに? それはないだろう、ソウジロウ。近衛隊長相手に圧勝したいなら私が出るのが確実だろう」


 機嫌よく歩いていた蛍が、自分が戦えないかもと聞いて不満を訴えてくる。


「まあまあ。多分、近衛隊長が出てきたら雪に頼むことになると思う。でも……」


 俺が思っているとおりの展開になるなら、蛍の心配は無用になるはずだ。あとは、フルメンバーで臨むなら桜が帰ってこられるかどうか。桜なら村まで移動は半日だろう、調査に丸一日かけてうまく結果がでれば……ぎりぎり帰ってこられるかどうか。


「きっと、蛍も満足できる結果になるんじゃないかな?」


◇ ◇ ◇


 屋敷に戻ると、買い物組だったシスティナ、雪、霞、陽、それと四狼と九狼も帰ってきていた。屋敷の中でガタゴトしているので探してみると、ちょうどシスティナのアイテムボックスに入れてきた、雪の私物を空き部屋に配置しているところだった。 


 雪の私室は1階の空き部屋だ。システィナや他の刀娘たちは、寝室と俺の私室がある2階を希望してくれたんだけど、雪は1階でいいらしい。ここのところかなりモテモテのリア充状態だったから、ちょっとへこむ。だけど、よく考えれば日本にいたころは全然もてなかったんだから、それに比べれば天と地ほどの差があるんだけどね。


 ちなみに雪の私室は、ベッドを入れずに布団を床敷きして寝るらしい。うちの屋敷では屋敷の玄関で靴を脱がせる方針だから問題はないけど、昨日システィナのベッドで寝てみたら、どうも落ち着かなかったらしく布団だけを買ってきたようだ。

 あとは部屋用の魔石灯、足の短い机、座布団代わりのクッションなどを買ってきたらしい。机を買って、なにに使うのかと一応聞いてみたら「……様式美」とのことで、どうも幕末あたりの部屋のイメージを追い求めているようだった。畳はないのかと聞かれて困ってしまいましたとシスティナが苦笑していた。


 だが、買い物自体はとても楽しかったようで、一緒にいった霞や陽とも随分と打ち解けていた。ここのところ忙しかった霞と陽もいろいろと買い物できてリフレッシュしてきたらしい。


 ある程度多めにお金は預けてあったし、各自でアイテムボックスを持ってるので、予算や購入後の荷物の心配をせずに買い物をするという初めての体験にずいぶんとご満悦だった。なにを買ったのかを聞いたんだけど、それは乙女の秘密だそうで教えてもらえなかった。残念。



「というわけで、明日は全員でレイトークの領主館へいくことになったから」


 雪の部屋の整理が終わったあと、桜はまだ戻っていなかったが、残りのみんなをリビングに集めて今日の交渉の結果を報告した。


『我が主、全員ということならば私も同行してよろしいでしょうか?』

「ごめん、一狼。桜がまだ帰ってきてないんだ。明日の出発までに戻ってこなかったら、一狼には屋敷で待機していてほしい。それで桜がもし屋敷に戻ってくるようなら、桜と一緒にレイトークまで追いかけてきてくれるか?」

『そういうことであれば、仰せのままに我が主』


 物わかりのいい白い狼を、優しく撫でてやる。あいかわらず気持ちいい。


「ごめんな、助かるよ」


 くぅ……ん、と気持ちよさそうな声を漏らしながら尻尾を振る一狼。どうやらそれほど不満だという訳でもなさそうだ。


「あの……蛍さんたちが負けるとは思いませんけど、もしものときはどうされるのですかご主人様」

「うん、そのときは割り切って勝手に動く。あとで揉めるかもしれないけど、そのときはそのとき。あ、そうだ!システィナの交渉術でなんとかしてもらおうかな」

「ご主人様……ありがとうございます。そのときは是非まかせてください」


 小さく頭を下げるシスティナ。俺にとっては、レイトークひとつを敵に回すよりシスティナのほうが大事だから当然のことだ。まあ、そもそもうちの刀娘たちが、いくらレイトークの精鋭が相手だったとしても、交渉にならないほどに負けるなんてことはあり得ないだろうけど。


「よし、話は終わりだな。雪、少し外へ行こうか」

 

 話が終わったのを見計らって、蛍が席を立つ。


「……今度は負けない」


 蛍の誘いに応じて雪も立ち上がる。


「そうだ、一狼。お前もくるか? 雪に人以外のものとの戦いも体験しておいてもらいたいからな」

『よろしいのですか? それならば御一緒させていただきます。構いませんか、我が主』


 尻尾を振っている一狼は明らかにそわそわしている。ここにもバトル好きな女がいる……。


「いいよ、いっておいで。いい訓練になるだろうし、他の狼たちも参加するなら許可するから、お互いに怪我はさせないように気をつけること」

『承知しました、ありがとうございます。我が主』


 一狼は小さく頭を下げるとリビングから出て行く蛍たちの後を追う。


「あの! 僕も見学してもいいですか、兄様?」

「陽も? 別にいいけど、気を付けてね」

「やった! 昨日僕だけ寝ちゃってて、雪姉様の戦いを見られなかったから気になってたんだ」


 ああ、そういうことか。確かに陽は爆睡してて起きてこなかったっけ。


「今日の食事は、私ひとりでも大丈夫ですから霞も行きますか?」

「いえ、私は昨晩いましたから。システィナ様のお手伝いをします。しーちゃんは行く?」


 足元の相棒狼に、霞が問いかけるが四狼は霞の近くを離れるつもりはないらしい。霞がそんな四狼を優しく撫でてあげると四狼も嬉しそうに目を細める。スキップしそうな勢いでリビングを出る陽の後ろを、尻尾をぶん振りしながら付いていく九狼といい関係は良好のようだ。


 そんなこんなでリビングに取り残されたのは……


「結局残ったのは……」

「わたくしたちだけですわね」


 どこか嬉しそうにしなだれかかってくる葵。昨日今日あたり、葵の甘えっぷりが凄い。まあ、甘えられるのは全然嬉しいので構わないんだけど、ひとりで属性付与をし続ける日々が想像以上にきつかったんだろう。


「どうしますか? 訓練に混ざりますか? システィナさんたちを手伝いますか? それとも……」


 潤んだ眼で俺を見つめながら、人差し指でぐりぐりと俺の胸を押してくる葵。


「じゃあ、俺たちは部屋で軽く汗を流す?」

「はいですわ!」


 俺たちは腕を組みながら、そそくさとリビングを出た。


◇ ◇ ◇


 食事のときに戻ってきたとき、どこかつやつやした葵の甘えん坊モードは終わっていた。

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