表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

125/203

領主ふたたび

 翌日俺達は、昨日と同じメンバー構成で活動を再開した。ただし、違うのは俺のパーティの行き先がザチルの塔では無いということだった。



「おお!久しぶりだな!フジノミヤ殿?だったか!」


 訪れた領主館で通された応接室の扉を力一杯開けながら大声でどかどかと入って来たのは、四十絡みの髭面で筋肉質なおっさん。レイトーク領主イザクだ。 


「旦那様。扉は静かにお開け頂かないとお客様に失礼にあたりますと何度言わせるのですか」


「おお!そうであったな!確かに言われていた。覚えておるぞ!」


「覚えていても実行出来なければ全く意味がありません。このくそ馬鹿。あと、声も抑えろ。慣れない方には恫喝と変わらないと言ったはずでございます」


「がははは!そうであった、そうであった!これで注意されるのは何度目だ?10度目くらいか?」


「なに言ってやがりますか。扉については1301回目。声については2524回目になりやがりますです」


「うむ。さすがにそろそろ覚えぬとまずい回数だな。がはははは!」


「はあ……そうおっしゃったのは823回目になります」


 ああ……相変わらずなんだなこの人達は。僅かな間にかなり回数増えてるっぽいし……


 髭男の後ろに控えていたメイド服に身を包んだ……確かミモザだったかな。彼女も前回は無表情かつ冷酷に髭男に突っ込んでいたが流石にちょっと苛つきが見えるような気がする。なにより、そこまで言っても髭男には欠片も伝わっている様子がないのが悲しいところだ。

 

「よし!覚えた。任せておけ。さて、我が街の恩人達は今日は何の用事かな。ここのところちょっとごたごたしておってな、この後も人と会う約束がびっしりだ。恩人故に時間を取ったが長くは付き合えん。悪いな」


 まあ、領主ともなればいろいろ忙しいだろうし、人と会うのも仕事のうちだろう。毎日それだけ人に会っているならミモザの注意回数が劇的に増えていくのも不思議じゃないか。


 いや、むしろそれだけ頻繁に注意されているのに全く改善が見られないイザクの方が不思議か……


「いえ、こちらもこの後用事がありますし長居するつもりはありません。今日は僭越ながらご忠告と、状況によってはレイトーク軍にご助力する気持ちがあることをお伝えに参りました」


「……どういうことだ?」


 俺たちを歓迎するムードだったイザクの表情が一瞬にして厳しいものに変わった。もしかすると何か思い当たる節があるのかもしれない。


「最近、レイトークの周辺で不可解な事故や急な病で政務から外れなくてはならなくなった人などがいませんか?」


「……この街にいなかったお前達が、なぜそれを知っている?知っていることを全て話せ。事と次第によっては……」


 イザクの劇的ともいえるその変化は、漫画なら背後にぶわっという文字が表示され、放たれる威圧感に風を感じる描写をされるのだろうと思わせるものだった。


 スパンッ!


「おうっ!」


「何をしてやがりますか!お客様に対して失礼でありましょう。威圧をするのならまずは下手に出て情報を全部吐き出させた後に、更に絞り出す為に使うのが正しい使い方です」


 おい、そのスリッパはどこから出して、しかもどこに消えた。それと言っていることはイザクより酷いこと言ってるからな。


「おお!そうであったな。取り乱してすまぬなフジノミヤ殿。さあ、遠慮なく話してくれ」


「…………」


 そんな赤裸々な内情を堂々と目の前で話しておいて、それで相手から情報を引き出せると思っているのだろうか。バカっぽくて憎めないからそんなに腹は立たないんだけど……


 まあ、今回はこっちにもレイトーク軍の力を借りたいという下心もあるから結局、話さざる得ないんだけどさ。こいつらの相手はなんだか疲れるよ。


「はあ……システィナ。頼んでいい?」


「ふふふ……分かりました。ソウジロウ様」


 結局、聖塔教関係の説明はシスティナに丸投げした。システィナなら侍祭関係で隠しておきたい部分とかもうまくぼかしながら説明してくれるだろう。



― ― ― ― ― ― ― ― ― ―



「なるほどな……狂信者共が作る狂信者達の街をここに作ろうという訳か……」


 口調だけは静かなイザクが怒気を身体から漂わせながら剣呑な声を漏らす。


「おそらく……この街は湖上にある風光明媚な街ですが、言い換えれば守るに易く、攻めるに難い街です。初手でうまく街の支配権を手中にすれば、その後の防衛に割かれる労力は比較的少なくて済みます」


「ふん、確かに軍勢をもって攻めるにはこの街ほど攻め難い街はなかろう。船を外から持ち運んでくる訳にはいかぬからな。橋を落としてしまえば大軍で攻め寄せることは出来ん」


「はい。そして兵糧攻めも転送陣がある以上はミカレアやフレスベルクから買い付けることが出来ます」


 イザクとシスティナの話を聞いていると確かにレイトークを外から攻め落とすのは難しそうだ。だからこそ聖塔教はこの街を選び、内から攻めるために暗殺部隊に力を入れて来たという訳か……


 イザクは自らの両膝の上に肘を着き、固く組み合わせた両手で口元を隠しながら鋭い眼光をテーブルへと落しながら小さく肩を震わせている。


「く……くくっ……よくぞ、よくぞ知らせてくれた。ということはうちの守備隊長が原因不明の病で起き上がれないのも、幹部候補だった期待の新人が夜の路地裏で殺されていたのも、財務の重鎮だったムルト老が急死したのも、水軍統括のアドーヴァー夫人が深夜に襲われかけたのも全てその狂信者共の仕業だという訳か」


「まだ証拠はありません。たまたまその暗殺部隊を逃げ出してきた娘達を私達が保護したことから可能性として浮かび上がって来ただけです。今現在も私達の仲間が裏を取るために動いています」


「おお!……確かにそうだな。証拠はない」


「調査はあと数日かかる予定ですが、もしこの街が狙われているとしたらその数日の間にも何かがあるかも知れません。あまり大げさに動かれても困るのですが、それとなく要人の警護や不測の事態に備えて頂いた方がよいかと思いましたので今回はお伺い致しました」


 システィナは結局、侍祭関係の話はまるっと省いて霞と陽から得た情報から発覚したことにしていた。聖塔教と戦いになる時にはその辺の情報も開示しなくちゃいけないかもしれないが、今の状況ではそこまで必要じゃないという判断だろう。


「旦那様、この後の面会の時間が迫っています」


「そうか……いや、もう少し待たせておけ。どうせ今日の面会予定のほとんどがここ最近続いていた要人への不幸に対する対応協議だからな」


 イザクの背後から囁くように告げられた言葉にイザクは首を振るとミモザを部屋の外へと送り出す。面会を待つ人たちに事情を説明に行かせたのだろう。


「すまんな。奴らの思惑通り、現在我が街は相次ぐ要人の離脱で混乱していてな。対応に追われている状況だ」


 この状況だけで狙われているのはやっぱりレイトークで間違いなさそうだな。後は桜達がどこまで聖塔教の仕業だと裏が取れるかだけど……どう潰すかも問題なんだよな。ちょっと聞いてみるか……


「もし、一連の事件の犯人が分かったらどうしますか?」


「我が街の問題だ。もちろんけじめはつけさせてもらおう」


 俺の問いかけにはっきりと答えるイザクの笑みはこの上もなく物騒なものだ。これはかなり腹に据えかねてるな……


「敵は宗教団体です。一部の幹部と特殊な組織、そして有象無象の信者たちで構成された敵をどうやって潰しますか?」


「そうだな、その問題はあるか…………まずは拠点のようなものがあれば潰す。幹部も潰す。暗部組織も潰す。信者共も抵抗するなら潰す」


 さすがは領主。街を預かる者としてその辺の判断は苛烈だ。そして、幸いにして俺達の方針ともほぼ一致する。この辺りの判断力というか決断力はフレスベルクの領主であるセイラにはまだない部分だな。あの女性領主からはまだ甘さを感じる気がする。


「その際には私達もお力を貸せると思います」


「ほう……確かお前たちは目立ちたくないからと言っていた気がするが?」


「はい。もちろん今も方針は変わってませんよ。理由はイザク様と同じです」


「…………確かその組織から逃げ出してきた者を保護したのだったな」


「ええ……保護した時は酷い状態でした」


 イザクはしばし俺と目を合わせていたが、やがて破顔すると膝を叩いた。


「あい分かった!ではよろしく頼むとしよう」


「ありがとうございます。こちらの調査の結果はまたご連絡します。領主軍の方でも調査を始めるようならうちの斥候と現場で殺し合いにならないようにご配慮をおねがいします」


 レイトークの調査中にイザクの斥候と桜が潰しあうとかになったら目もあてられない。


 ……ま、こんなことにまで気が回る俺な訳もなくて、レイトークで情報提供するって決まった時に桜から『絶対に話を通しておいてね、ソウ様』ってお願いされてたことなんだけどね。


「おお!確かにそれはそうだな。……む、ミモザ、戻ったか。此度の件、このフジノミヤ殿のパーティと共闘することにした。互いの斥候同士が現場で揉めぬように対応を頼む」


「承知いたしました旦那様」


 応接室に戻って来たミモザに早速支持を飛ばすイザクに、本来メイドであるはずのミモザは素直に頷く。


「ははは、こう見えてもうちのミモザは私の身辺警護も兼ねている。そのためわが軍の斥候隊とも連携しているのでな。ミモザを通した方が話が早い」


 一瞬、俺の顔に疑問符が浮かんだのを目敏く見つけたイザクが説明をしてくれた。確かこのミモザも霞と同じ種族で狐尾族だった。狐尾族はそういう関係の仕事に向いているのかもしれないな。


「そうでしたか。では、後程話を詰めさせてもらいます。今日はお時間を頂きありがとうございました」


「いや、こちらこそ貴重な情報提供感謝する。相手の目的が分かれば次に狙われそうな者もある程度推測できる。これ以上の被害は抑えられるだろう。街への見回りも目立たぬように強化しておく、注意すべきことを分かった状態で見回るだけで新たに見えてくるものもあるだろう」


 俺とイザクは立ち上がって固く握手をする。領主とは思えない程のごつごつとした手の平にイザクも戦える人間だということが確認できた。


 さて、取りあえず領主館での用事は後はミモザとの打ち合わせで終わりだ。終わったら今日はせっかくだからレイトークの塔を昇ることにしよう。




 その後、ミモザと符牒の取り決めをして俺たちはすぐに領主館を後にした。そのまま真っ直ぐ足をレイトークの塔へ向け、そのまま塔に入った。


 今回は階層表示などの確認のためにあえて1階層からのアタックである。別に確認だけして外に出てまたロビーから入り直しても良かったんだけど、魔物と戦う回数を増やすことは経験を積むという意味では雑魚相手でも無駄にはならないので寄り道はしないけど中から上がっていくことにする。


 いつ戦っても懐かしい気持ちにさせるタワーウルフやストーンパペットをさくさくと倒しながら1階層の主タワーファングという、タワーウルフよりも二回りほど大きな狼を一狼が1体1で圧倒して倒し2階層へ。


 『2』の数字を写し、ちょっとランクが上がったタワーウルフやタワーバット、稀に蟻人などを倒しつつ2階層の主、石で出来た人型魔物のストーンマンパペットと対峙。


 石を相手に武器を痛めないように閃斬と雪を鞘に納めて、太ももに装着してあったアイテムボックス機能を利用した特製の鞘から巨神の大剣を抜いて文字通り打ち砕く。頑丈さにおいて巨神の大剣はずば抜けた性能を誇るので人型サイズの石を打ち砕いても傷1つつかない。


 ディランさんにアイテムボックス機能を利用した鞘を作って貰えたことで現在俺は3本の武器を携帯していることになる。斬特化の閃斬、突特化の雪、破壊力特化の巨神の大剣だ。基本は閃斬と雪の二刀流だけど、今回のように相手によっては大剣が有効な場面もあるので汎用性があって結構いい感じだと思う。ただ雪が人化したらまた装備が変わっちゃうんだけどね。


 それに使う武器が増えればその分訓練の時間や密度が増えるので俺はとってもしんどくなる……今だって蛍、桜、葵、雪、閃斬、巨神の大剣と6本の武器をなるべく毎日振るようにしている。まあ、人化組は都合が付かない時もあるから毎日6本って訳じゃないけど結構な重労働だ。


 大剣を四苦八苦しながら鞘にしまうと、そのまま3階層へ向かって文字を写す。そして3階層で蟻人、タワーミドルスライム、タワーウルフなどを倒しつつ3階層の主タワービッグスライムという人の背丈ほどもある大きな青色のスライムを蛍の魔法とシスティナの魔断(槌)で倒す。


 4階層に上がったところでさすがにちょっとおかしいと思って待機部屋で全員を呼び止めた。


「どうした?ソウジロウ。まだ疲れるほどの戦いはしてないぞ」


 蛍さんが見事な双丘をぷるんと振るわせながら腕を組んで俺を見下ろしている。


「いや、体力的には俺だって問題ないよ。ただ、ちょっとおかしいと思わなかった?」


 鑑定が出来るのは俺だけだから気が付いていないかも知れないけど、このメンバーはレイトークの低階層は何度か来ているメンバーだからちょっとした違和感を感じていてもおかしくないと思うんだけど……


「もしかしてなのですが……魔物の構成、ですか?」


 うん、さすがはシスティナだ。


「そうなんだ。2階層、3階層と今までその階層では出てこなかった魔物がちらほらと混ざっているんだ。蟻人は本来4階層からの魔物だし、タワーミドルスライムに至っては5階層からのはずなんだ」


『言われてみれば、いつもと臭いの構成が違いました。確かに今までにはなかった組み合わせでした。我が主』


「では、なにか? 再びこの塔で階落ちが始まっているというのか? イザクの話では塔にはしばらくそんな体力は無いという話だったはずだが?」


 蛍の言うとおりレイトーク領主イザクは確かにそう言っていた。だけど不思議物体な塔の全てを領主であるイザクも知っている訳ではないだろう。実際に塔内に特殊な数字が表示されていることにすら気が付いていなかったんだから。


「多分、領主が言っていたことも正しいんだと思う。だけど階落ちが起こる条件が塔の余力だけとは限らないと思うんだ……もしかしたら他にも何か条件があるのかもしれない」


「条件……ですか?」


「……うん。それが何かは全く想像はつかないんだけどね。今現在の塔の状況だってあり得ないレベルって訳じゃないしね」


 ランク的には平均ランクの上下数ランクぐらいの敵は出る可能性があるというのはシスティナから聞いているから今回の魔物もランク的にはその範囲に収まるから許容範囲と言えば許容範囲だ。


「分からぬことを考えていても仕方なかろう。我らに出来ることは情報を集めて管理側に可能性として伝えておくことくらいではないのか」


「ん、確かにね。塔内の魔物の分布が変わることは無いって証明されている訳でもないだろうしね」


「それではなるべく私達が頑張って情報を集めてギルドに知らせてあげましょう。そこで注意喚起をしてもらえば何かあっても被害は少なくなるはずですから」


「そのための冒険者ギルドだしね。よし!じゃあ無理はしない程度に頑張ってなるべく上の階層まで情報を集めよう」


『承知致しました、我が主。ではこちらから行きましょう』


 一狼が話の最中にも臭いによる索敵をしていてくれたらしい。賢い上に頼れる最高の従魔だ。



― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―



 結局、その日は頑張って10階層まで上ったが全体的に+2階層くらい上の魔物がちらほらと現れるという感触だった。

 うちのパーティ的にはザチルより階層ごとの難度が高いレイトークでも戦いは安定していたし、たまに現れる上層の魔物も俺達にとってはいい魔石を入手出来る良いお客様だった。そう言えるくらいには俺達のパーティは強くなっている。


 ただ、冒険者に成りたてのパーティにはいきなり2階層も上のランクの魔物が突然現れるのは結構厳しいと思う。


 俺達は塔から出ると領主から派遣されている管理員と冒険者ギルドのレイトーク支店に情報を伝えておいた。ギルドとしてはその情報を冒険者達にしっかりと伝えて貰えれば最低限の義務は果たせる。その情報を聞いた冒険者達が何の対策も取らずに無謀なアタックをして怪我をしてもそこまでギルドが責任を負う必要はないしそこまで面倒はみきれない。仮に何かあってもギルドの評価が下がることはないはずだ。



 それにしても……なんだかここ最近、塔に対してどんどん謎が増えていく気がする。今回の聖塔教の件が片付いたらちょっと本格的に塔のことを調べてみるのもいいかもしれない。


 とにかく今日もよく頑張った。早く屋敷に戻ってゆっくりとしたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ 小説1巻~3巻 モーニングスターブックスより発売中 コミックガンマ+ にてコミカライズ版も公開中
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ