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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第5章

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オンオフ

 冒険者ギルドには特に用事があった訳じゃない。しばらく顔を出してなかったからちょっと様子を見に来ただけだったんだけど、良い方向に変化がある分には問題ない。


 せっかく来たので一応、最初のころより大分増えた依頼票を一通り確認して……と思ったら読解のスキルが発動していて依頼が読みづらい。さすがに不便だなこれ……オンオフを切り替えられないもんだろうか。


「どうかされましたか?ソウジロウ様」


「うん、ちょっと依頼票がね……」


 依頼票を前にまごつく俺をみて声を掛けてきたシスティナがそこで頷く。


「あのスキルですね。私が読み上げましょうか?」


「ま、必ずしも自分で読まなくてもいいからシスティナに見てもらって気になるものがなければそれでいいんだけど……その前に一個だけ試してみようかな、と思ってさ」


 今から試そうとすることのイメージがしやすいように俺は目を閉じる。


 この世界の魔法は魔力とイメージ次第だ。そしてその魔法もスキルの1つ。それなら俺の読解スキルもイメージ次第でオンオフが出来てもおかしくない。


 目を閉じると同時に俺が常時発動している読解スキルのイメージを想像してみる……イメージしやすいのは目からライトを照射してるシーンかな。そのライトの発光部分に光だけを遮断するフィルターを被せるイメージ。


 ゆっくり、しっかり、頭の中でイメージを固めてから少しずつ目を開ける。サングラスをかけるようなイメージだから地球育ちの俺にはイメージしやすい。


「…………うん、普通に読める。スキルのオンオフは可能だ」


 俺の視界には今まで、依頼書に書かれた文字を書いた人物の真意のようなものが、依頼票の上に表示されていた。


 それは……なんていうか器と中身が合っていないような気持悪い状況で1枚2枚ならまだしもこれだけの数が密集してあるとなんとも気持ち悪い景色だった。


 それが、今は普通に書かれている内容が読める。非常に気分がいい。これならこの世界の本も読めそうだ。


 試しにもう一度目を閉じてスキルをオン……うん、出来る。その状態でざっと依頼書に目を通して読解をオフ。この際に読解自体を全オフしちゃうと文字も読めなくなってしまうのであくまで、フィルターだけを掛けるイメージでオフするのがコツだ。


 普通の状態で再度依頼書を見直して、気になった依頼書を2枚ほど剥がす。


「ソウジロウ様、依頼を受けるのですか?」


「いや、受けないよ。今日は塔をひたすら上がる予定だしね」


 俺は2枚の依頼票を持ってカウンターに行くと笑う受付嬢に渡す。


「依頼の受注ですね。依頼票を確認させていただきます……商隊の護衛依頼と物資の輸送業務ですね。……えっと、こちらの依頼、それぞれの行き先が逆方向なんですが、本当にお受けに……」


 俺はてきぱきとお仕事をしてくれる受付嬢の言葉を軽く手を上げて遮る。


「すいません、依頼の受注じゃないんです。この2つの依頼はどうもおかしいのでもう一度依頼人に内容を再確認して貰った方がいいと思いまして……」


「どういうことでしょうか?」


 お……いつも笑顔を崩さない受付嬢さんの顔がほんの少しだけ緊張したように見える。


「はい、ちょっと小耳に挟んだんですが……こちらの護衛依頼は護衛対象が若い女性だということにして、若い女性の冒険者を指定していますが、どうやら依頼を利用してその護衛の女冒険者に良からぬことを企んでいるようです。それにこちらの運搬の依頼もどうやら運ぶ物資の中にヤバい物を混ぜて冒険者を運び屋として使おうとしいてるみたいなんです」


「え?……」


 受付嬢にしてみれば一体何を言っているんだろうこの人は、という感じだろう。だが、こんな事件が起きて公になればせっかく浸透してきたギルドのへの信頼に傷がつく。まだまだギルドの評価は危うい状態だからね。


「護衛依頼の方は一度、本当に若い女性の護衛対象者がいるのかどうかなどを確認したりして依頼者を締め上げた方がいいと思います。運搬の方は依頼を受けるフリをして荷物を差し押さえた上で依頼者を捕まえれば言い逃れも出来ないかと思います。ウィルさんにフジノミヤがそう言っていたと伝えておいてください」


 俺は戸惑う受付嬢さんにそれだけ伝えると、受付を離れる。




「さっきのは、おまえの読解スキルでに引っかかたのか?私達で解決すればまたランクが上がるかもしれんぞ」


 連れだってギルドを出て塔へと向かう途中に蛍が僅かに口角を上げながら聞いてくる。


「読解スキルの調整が出来るようになったから、自分で文字と真意の違いがわかるようになったんだ。依頼文はギルド職員のものだけど、依頼人の署名部分は自署らしいからそこに変な真意が見えてた依頼書だけを抜いて渡してきた。用事が無ければ解決に協力してあげても良かったんだけど……」


「最近はギルドの方でも、信頼できる腕利きの方を何人か専属の冒険者として雇い入れたりしているようですね」


「お!さすがはシスティナ。よく知っているね」

 

 俺は桜から定期的にいろんなことの報告を受けているから知っていたけど、システィナはその場にはいつもいないから別途桜から聞いたのでない限りは自分で得た情報のはず。何気に侍祭の情報収集力も馬鹿に出来ない。


 実はその腕利きの冒険者の中に『剣聖の弟子』の面々も専属ではないが契約社員のような感じで名前を連ねているらしい。まあ、今のギルドで最高ランクに位置しているし名前だけでも役には立つし、今の彼らの力なら多少の揉め事も問題なく処理できるだろう。


「なるほどな。そいつらに実績と経験を……か」


「まあね。格好良く言えばそういうことだけど、実際は面倒だったから……かな」


 今日は塔に行くと決めてたし、皆やる気なのに他のことはやりたくない。今のところ悪事が起きたわけじゃないしね。それくらいならウィルさん率いるギルドに任せても問題ないでしょ。


「ふふ、いいぞ、ソウジロウ。やる気だな……今日だけでどこまで上がれるか楽しみだ」


「ははは、お手柔らかに頼むよ蛍」


「となると、今日は6層くらいから始められますか?」


 システィナの問いにちょっと考える。前に弟子たちと一応8階層の入口までは行っているので8階層から始めることも可能だけど……まだ進化後の一狼は低階層でしか戦ったことがないんだよな。まあ、俺達がいれば問題ないかな。


「一狼、8階層からでも大丈夫そうかな?」


『私なら問題ありません。我が主。進化してからはまだ全力で戦う程の敵には遭遇してませんので』


 壁材集めに低階層には何度か連れて行ったけど確かに余裕はあったか……


「じゃあ、思い切って8層から行こうか。蛍、俺達の中で1人でもこの階層はちょっと危ないと思うことがあったらすぐ教えてくれる?」


「いいだろう。せっかくソウジロウがやる気を出しているんだからな。私もしっかり充分なマージンを取った上で判断するとしよう」


 

 っとそんなこと言っている間にザチルの塔に着いたか。よし、じゃあいっちょ行きますか。こんなに気合を入れて塔に向かうのも雪のためなんだけど……腰の刀からは全く気持ちが伝わって来ない。うぅん、無口なのか嫌われてるのか、面倒くさいのか……これだけ読めない子は初めてだ。


 でも話が出来るようになればいろいろ分かるようになるはず。それに、沖田総司の佩刀だった雪になら最近興味を持ち始めた幕末の新撰組の話とかも生の声で教えて貰えるかもしれない。


 でも、それって凄いことだよな。今となっては文献なんかじゃないと分からない歴史の真実を当時の人……っていうか刀だけど当時を生きた人に聞けるんだから。まあ、聞いたところでこの世界じゃ俺一人がそうだったのかぁと思うだけで結局世に出ない真実なんだけどさ。


「では、8階層からいくぞ」


 蛍さんがロビーの中にある8階層の扉の前で俺達に振り返る。


「はい」


 魔断を手に持ったシスティナが頷く。


『いつでも大丈夫です。蛍殿』


 一狼がゆらりと尻尾を揺らしながら答える。


 頼もしいメンバーの姿に思わず身震いしそうだ。俺も両腰に差した閃斬と雪に手を当てしっかりと頷いた。


「よし。しまっていこう」




 3人と1頭でさっそく8階層へ入る。


 方針としては主部屋を目指しながら進み、進路を塞ぐ魔物だけをひとまず相手にしていく。その際に魔石の質を確認しつつ、今の俺たちの実力と釣り合う階層を探してそこで狩りをするのが目的だ。


 待機部屋に出るとまずは、蛍の気配察知と一狼の嗅覚を併用して魔物の配置をざっと確認する。


 蛍の気配察知はある程度の距離なら壁の向こうまで分かる優れた能力だが、道は分からないため真っ直ぐ魔物に向かっても壁にぶつかって進めないということがある。


 だけど、ここに一狼の嗅覚をプラスすると、臭いを辿れる場所にいる最も近い魔物が分かる。つまり、最短で辿りつける魔物の位置を特定できる。


 主部屋まで行くのが優先ならあまり役に立たないけど、戦闘を目的にするには移動のロスが少なくなって効率的だ。


『こちらが近いです。我が主』


「なるほど、逆にこっちはルート的には遠くなるということだな」


 蛍と一狼の索敵の結果が出たらしい。塔の中も意外と広いので、魔物を探してうろついていると時間をかなり無駄にしてしまう冒険者達も多いようだが俺達には無用の心配だ。


「よし、こっちだな。じゃあ魔物を狩りつつ主部屋を目指そう」


 俺の言葉に頷いたメンバーが待機部屋を出て行く。最後に俺も部屋を出ようとしてふと違和感を覚えた。


「あれ?システィナ。ここ、8階層だよね」


「はい、確かにロビーの扉には『8』と札が掛かっていました」


 うん、そうだ。ロビーに存在する無数の扉は最高到達階層と同じだけある。そしてその扉は見た目が同じで、区別がつかないから後付で階層の数字の札を扉に掛けている。言われてみれば確かに『8』だったか……


「何をしているソウジロウ。行くぞ」


 ま、いいか。取りあえず集中しないと。


「分かった。今行く」




― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


「一狼!背後に回り込め!」


『分かりました我が主』


 さくさくと8階層の魔物を倒しつつ到着した主の間にいた、8階層の主は典型的なオークだった。まあ、身長は2メートル越えだったから俺が地球に居た時にイメージしていたものより大分大きいけど。


 このサイズが標準なのか、それとも主なのかは分からないが豚頭の二足歩行の魔物というのは実際に目にするとなかなか気味が悪い。ここの主は簡易鑑定上は『オーク班長(キャップ)』だから普通のオークよりは上位なんだろう。


 大きな棍棒を振り回す腹が出た小太りの魔物は正面でタゲを取るシスティナへ力任せの攻撃を続けているが、魔断を構えたシスティナは冷静に攻撃を捌いていく。その隙に俺の指示であっという間に後方へと回り込んだ一狼がオーク班長のふくらはぎを削ぐ。


 ブブブヒィ!!


 足を削られたことと、その痛みで思わず仰け反ったオーク班長の横っ面をシスティナの魔断の槌部分がしこたま強打する。


 グヴャ!


「ソウジロウ様!」


「了解!」


 完全にラリッたオーク班長が俺の方へと倒れ込んでくる。1剣1刀を構えた俺は倒れ込んでくるオーク班長の邪魔な右腕を左手の閃斬で斬り落とし、それとほぼ同時に右手の雪でオーク班長の喉を貫いた。


 オーク班長は一瞬だけびくんっ!と身体を震わせ絶命したようなので倒れてくるオーク班長に巻き込まれないようにすぐさま雪を引き抜きバックステップ。そして目の前に倒れていくオーク班長。


「よし、まあいいだろう。8階層は問題ないな、上に行くぞ」


 俺達の戦いを眺めていた蛍が満足気に頷いている。俺達の戦いは充分に及第点だったらしい。


『我が主』


 そうこうしている内に、オーク班長の死体は塔に吸収されたらしく一狼が残されてた魔石を回収してきてくれた。


『魔石 ランク:G+』


 8階層だと主でもまだGか……他の魔物の魔石もHとGだった。ザチルは高層だから1階層上がるごとの難易度上昇率がどうも低い。レイトークの方が多分、同じ階層でも敵は強い。


「ありがとう一狼。よし上にいこう」

 

 一狼から貰った魔石をアイテムボックスに放り込み、ドロップ品扱いなのかまだ残っていたオークの棍棒も一応回収していく。アイテムボックスが無かった時はこんなものとてもじゃないけど持って行けなかった。


 ちなみにこの棍棒にそんなに価値は無いだろう。それなのにわざわざ持って行くのは、せっかく作って貰ったアイテムボックスを俺がどんどん使いたいだけだったりする。


 回収を終えた俺達は主の間の中央に現れた階段を昇って9階層へと上がる。ここを上がれば初の9階層っと……


「あれ?」


「どうかされましたか?」


 階段を昇って9階層の待機部屋に入ると8階層で感じた違和感の正体に気付く。


「あのさ、階層上がったこの正面の壁にいつも階層の番号が書いてあったよね?」


 そう、いつも階層を上がった時には正面の壁に3階層なら『3』と大きく表示がしてあった。地球じゃ階が変わると表示があるのが当たり前で特に気にしてなかったけど、今まであった物がなくなると流石に違和感がある。


「いえ……私は見たことはありませんが……」


 小首をかしげるシスティナが嘘を言う理由はもちろん無い。


「え、見たことないの?」


「はい」


「蛍は?」


「そんなものは見たことはないな」


 蛍はあんまり重要視してないのか、気配察知をしながらなせいか返事は適当だ。まあ、確かに階層表示なんてあってもなくても構わないと言えば構わないんだけど……


 階層表示があった辺りの壁を近づいてよく見てみるが他の壁と変わらずレンガのような木目のような不思議な感じの壁面があるだけだ。


 壁を撫でながら首を捻っていると俺の背後にシスティナが近づいて来て、あの……と呼びかけられる。


「もしかして読解スキルを切っているせいということはありませんか?」


 あ!……そうか、確かに今はギルドで読解をオフにしたままだ。そして、今までとの違いはそれ(・・)しかない。


「それだ!ありがとうシスティナ」


 早速目を閉じて読解をオンにしてから……目を開く。うん、見える。しっかりと『9』の文字が。


「どうですか?ご主人様」


「うん、見える……っていうか正確には読める。……ていうことなんだろうな」


「どういうことでしょうか?」


「おそらく、この壁の模様の中でごく一部だけは意味のある文字なんじゃないかな?システィナ、なにか書く物とか持ってる?」


「あ、はい。どこかで使いそうなものは一通りアイテムボックスに入れておくようにしてますから」


 そう言うとシスティナは腰のポーチの中に手を入れて、和紙のようなこの世界の紙束と地球でいうコンテ、ああコンテっていうのは美術の授業とかで俺が使ってた……確か粉々にした炭とか蝋を粘土とかで混ぜて固めて圧縮したクレヨンみたいなやつ?なんだけどそれっぽいものを出してくれた。


 この世界だとちゃんとした手紙はインクみたいな物を使って書くんだけどメモとかを取る時はこのコンテみたいなのを使うらしい。


「さすがシスティナ、ちょっと貸して。……スキルを一度オフして…………もう一度オン……オフ……オン……」


 何度かスキルをオン、オフしながら9の文字を表す模様の範囲を特定してその形を書き写す。


「これが9を表す形じゃないかな?」


 紙とコンテを返しながら書き写した形を見せる。システィナは書き写した紙以外をアイテムボックスにしまうと俺の書いた紙をまじまじと眺めてから口を開く。


「……もしこれが数字だとするのなら、文字を表すものもあるのでしょうか?」


「あんまり気にしてなかったけど、もしかしたら塔の中のどっかに文字が書かれているかも……今度から塔内はスキルを使ってちょっと気にしてみるよ」


「はい……でも、もし文字まであるとなると、今度はまたいろいろな疑問が出て来てしまいますけど」


 システィナが考えていることは俺にもわかる。塔は傷を付けても自動で修復されてしまう。ならばこの数字や文字を壁に表示しているのは塔自身……もしくは塔を管理しているモノだけ。


 そして何故塔、もしくはそれを管理するモノはそんな文字の様なものを残すのか……


「ソウジロウ、ルートが決まったから行くぞ」


「……うん、了解」


 いずれにしてもすぐに結論が出るような話でもないし、今後はその辺りも注意して塔の探索を進める。それだけは決めておこう。

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