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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第5章

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メリスティア

 システィナに指導を受けた霞と陽は「お茶を淹れる」という初めての作業も瞬く間にマスターしてくれたので、最近は2人に淹れてもらうことが多い。正直言えばまだシスティナが淹れてくれた方がおいしいけどそれは秘密だ。


 ちなみに蛍だけは自分のアイテムボックスから徳利(とっくり)を出して酒をあおっている。そういうものを入れるためにアイテムボックスを作ってもらった訳じゃないんだけどな。いずれ蛍のアイテムボックスが酒蔵になりそうでちょっと怖い。


「霞と陽は、桜の話を聞いてどう?」


 お茶を啜りながら席に戻ってきた2人にちょっと聞いてみる。いずれ2人にも桜と同じようなことをお願いするかも知れない。


「はい、やっぱり桜様1人では負担が大きいと思いました」


「うん、私達じゃ桜姉様ほど突っ込んだ偵察は出来ないけど手伝ってあげられることもあるかなって」


「ありがとね。霞!陽!もう少し鍛えたら、ばしばし手伝ってもらうからよろしくね」


「「はい!がんばります」」


 自分のしていることを手伝ってあげたいと言ってくれる2人が嬉しかったのだろう。いつも開けっぴろげで羞恥心とかどこいった的な桜が珍しくちょっと照れている。この調子なら桜も2人が危険になるような役割をうっかりお願いするようなこともないだろう。


「うん、潜入とか危ないことは桜に任せればいいからね。街の噂や出来事を調べてくれるだけでも助かるんだから」


「2人には屋敷の仕事もお願いしてますから、頑張ってくれるのは嬉しいですが無理をしては駄目ですよ」


「はい旦那様、システィナ様」「はい、兄様、シス姉様」


 うん、2人の笑顔を見ると2人を身内に出来て良かったと心底思う。エリオさんじゃないけど、2人の下に導いてくれた性戦士には俺も感謝しなきゃいけないな。


「よし、じゃあ続きを頼む」


「うん、転送陣を起動して出た先は小さな部屋だったんだけど、さっきも言ったとおり転送先は全然警戒されていなかったから外の様子を見るために気配を消して部屋の外に出たんだよね……」



 部屋の外に出た桜はそこがどうも大きな建造物の中だということに気が付いた。建造物というあいまいな表現にしたその根拠としては建物の造りが石造りで全体的に天井が高く通路も広く作ってあったことと、建物内に人の気配が希薄で住んでいる人がいるように感じなかったかららしい。桜が感じた印象としてはまるで神殿のようだったとのこと。


 警戒しながら建物内をしばらく探っていた桜だったが、人の気配があまりになかったため、その建物の探索を一度中断すると近くの窓から外に出て建物の屋根へと上った。取りあえず現在地の目安になるようなものがないか確認するためと、ここへ転送されてきているはずの教団の幹部達がどこにいるかを確認するためだ。


 その結果、現在地を知るための目印は夜だったため確認出来なかったが、桜がいる神殿のような建物の周りに少なくない数の家屋があることが漏れてくる灯りから分かった。規模としては小さな村くらいはあったようだ。


 このことからどうやら教団幹部達はルミナルタのあの家を中継点にして、この村を生活の根拠にしていたようだった。桜はそれを確認してから再び建物の中に戻り、建物内の残りの部分を調査していった。すると桜の気配察知のスキルに1つだけ反応があったらしい。


 ところが、見つからないようにその反応の動きに注意しつつ調査を続けていても全くその反応が動かない。あまりにも動きが見えなかったことに逆に好奇心がくすぐられた桜はその反応を確認するべく移動。


 時間帯から考えれば、寝ているだけというオチも充分あり得たのだが、桜が行き着いた先は大きなホール。神殿でいえば大聖堂と呼ばれてもおかしくない場所だったようで、ただそこが神殿とは決定的に違ったのは崇めるべき神の依り代となるような物が何一つなかったことだった。


 ホール内は天井にはめ込まれていた小さな窓から差し込む月光だけが僅かにホール内を照らし、薄暗い空間になんとなく荘厳なイメージを与えていた。


 その光の中に跪いて両手を固く組んだまま、一心不乱に何かを祈っている人物がいた。どうやらこの人が自分の気配察知に捉えた反応だと判断した桜は隠形スキルを駆使して大胆にホール内を移動してその人物を確認したらしい。


「そうしたら、運の良いことにまさにその人がシスが調べて欲しいって言っていた塔の女神様だったんだよね」


 桜の言葉でシスティナに一気に緊張が走ったのが分かったので、軽く抱き寄せてとんとんと身体を叩いてあげた。こういう時にとんとんされると落ち着くんだよね。


 どうやらとんとん攻撃はシスティナにも効果があったようで、システィナの身体から力が抜けるのを感じたところで桜に目で続きを促す。


「周囲に人はいなかったし、どことなくシスに似ている感じがしたから思い切って、接触してみたんだけど……そうしたら、シスが何を憂いていたのかがようやく桜にも分かったよ」


「どういうことですの桜さん」


「うん、その人の名前はメリスティア。この人回復、護衛持ちの高侍祭だったんだ」


「……やはりそうでしたか。どうして、メリスティアが……それにその場所、もしかして」


 桜の告げた名前に衝撃を受けたシスティアが身体を強張らせつつ紡いだ言葉に桜は申し訳なさそうに頷く。


「ああ……やっぱりそうでしたか。一体なにが……どうして……」


 顔を蒼ざめさせたシスティナをさっきよりも強めに抱きしめつつ、桜に視線を向ける。桜は頷いて、1つ深呼吸をするとゆっくりと口を開いた。





「桜が転送陣で移動した先は侍祭達の聖地、【御山】だったんだ」



 突然暗闇から現れた桜に、そのメリスティアは桜が拍子抜けするほど動揺しなかったらしい。いきなり現れた黒い装束を纏った相手に対して危険を感じないほどの天然なのか、それとも危険を感じつつも自分の力で自分を守れるだけの力を持っているのか……


 そう考えて慎重に近づいていった桜だったが、掛けられた言葉は意外なものだった。


「試験のために連れてこられて、迷いこんだのですか?どこの山から来たか分かりますか?」


 桜はその言葉に虚を突かれた。この女性は自分のような闇に潜む存在が身近にいることに慣れている。そして、試験という言葉……さらに山。それらの符号がつい最近、桜たちを激怒させた話と一致したのである


 それに気付いた桜は霞と陽を苦しめたかもしれない組織を思い出し、つい殺気を抑え損ねてしまったらしい。


 雪のスキルとして確立された殺気放出程の威力も指向性もないが、もともと刀であり戦闘経験も積んできた桜の放つ殺気は全力でまともにぶつけられれば常人なら思わず一瞬固まるくらいの剣呑なもの。


 抑え損ねた僅かな殺気だとはいっても恐怖を感じてもおかしくない。ところが、メリスティアは悲しみに顔を歪ませると突然桜を抱きしめてきたらしい。


 いつもの桜なら、どこの誰だか分からないような人間に自分を触らせなどしない。だが、メリスティアの動きはあまりにも自然で、あまりにも唐突で、あまりにも予想外で、桜がかわせなかったというのだから驚きだ。


「……なんて痛ましい。あなたのような女の子にそのような……どうか許して下さい。私にはあなたを逃がしてあげることは許されていないのです」


 そう言って謝罪するメリスティアは泣いていたらしい。さすがにこれは違うと桜も思った。だが、霞達の件と全く無関係とも思えない。しかし、この女性が重要人物であることは間違いない。詳しく話を聞きたいがいずれここにも他の誰かが来ることも充分あり得るだろうから時間はあまりかけられない。


 だから桜は思い切って自分たちの情報を1つだけ明かすことにした。


「システィナを知ってる?」

 

 メリスティアの反応は劇的と言ってもいいくらいだったという。今までどこか無気力な悲しみに暮れていた顔に精気が戻った。ただし、その分悲愴感が増すというマイナスからマイナスに向かう変化だったらしい。


「……システィナ様を知っているのですか」


 まさかと、もしかしてが混ざった心の乱れを表すような一言だった。桜はメリスティアの細かな反応も見逃さないように注視しながら小さく頷いた。


「そう……ですか。神殿を出られたという話は聞いていたのですが……きっと今も侍祭として誰に恥ずことも無い道を歩まれているのでしょうね」


 僅かな安堵……そして、自嘲。


「それに比べて私は……システィナ様との約束も守れず、こんなことを……」


 諦め、後悔……そして、怒り。


「……望まぬ契約をしている?しかも従属契約?」


 桜の言葉にはっと我に返ったメリスティアは、感情を乱した己を恥じるかのように自らの胸に手を当てると表情を消した。


「これ以上は私からは何も言えませんし、聞きません。今の私には教団の不利になることは言えませんし、聞いてしまった秘密を守ることも出来ませんから」


 これは桜の推測を認めたということになる。契約者の不利になるようなことは出来ず、もし何かを聞かれた場合は全て正直に話さなくてはならない状態、つまり侍祭契約を結んでいるということ。

 しかも態度の頑なさから考えれば従属契約で間違いない。桜はそう判断した。


 となればこれ以上詳しい話を聞くことは出来ない。そこで桜は単なる思い付きではあるが一計を案じた。帰るふりをして出口に向かいながらメリスティアに聞こえるように呟いたのだ。


「私にいろいろ教えられる人がどこかにいないかなぁ」


 そこでちらりと後ろを振り返った桜の目には、一瞬だけ驚いた顔をした後にくすくすと笑いを漏らしたメリスティアがやはり後ろを振り返って伸びをする姿だった。


「ん……ん、村の一番西の家に軟禁されている子たちは元気にしているかしら」


 これは桜が考えた、契約の穴を突くもっとも簡単な方法。その名もズバリ!『独り言作戦』だった。桜命名のあまりにもそのまんまなネーミングについては敢えて突っ込むまい。


 実際にこの方法が有効かどうかは分からない。


 だが少なくとも「誰かに俺達に不利なことを教えたりしてないか」というような質問に対しては、教団に関する情報は何一つ話してないし、独り言だから「誰か」に教えてもいない。


 そういうこじつけみたいな強引な論理で契約を誤魔化せるかどうかは賭けみたいなものだが、この様子なら契約者にピンポイントな質問をされない限りは今日のことをばらされる心配ないと判断した。


 すぐに西の家に向かおうとする桜に、さらに『独り言』が聞こえて来た。


「今晩は祈りの日だから、朝まで人払いされていて静かでいいですね」


 つまり今日この日に、こんなに人気(ひとけ)がなく、警戒が緩かったのはそういうことらしい。つまり撤退するにしても陽が昇るまでが都合がいいということだった。




 桜からここまでの話を聞いたシスティナはようやく衝撃から立ち直りつつあった。名残惜しそうに俺の腕の中から抜けだし居住まいを正した。


「ありがとうございましたご主人様。もう大丈夫です。御山やメリスティアに何かがあったことは間違いはなさそうですが……桜さんのおかげでメリスティアが心変わりをしたのでも、御山の人間が全員死んでしまったりしてしまったのでもないということがわかりましたから」


「うん、その顔だよ、シス。なんとか御山に何があったかまでは調べられたからそれをちゃんと聞いて貰わないとね」


「はい、ありがとうございます桜さん」


 よし、まだちょっと強張っているけど良い笑顔だ。


「うん。じゃあ、西の家に軟禁されていた人達から聞き出せた話をささっと報告するね」



 その西の家は意外とすぐに見つかった。1つだけ大きめな2階建ての家に見張りが2人付いていて、しかも気配察知で中を探るとかなり人口密度が高かったらしい。


 ただ見張りの練度は低く、ろくに警戒もしてなかったようで普通に2階の窓から侵入出来た。


 侵入した部屋の中には薄い毛布にくるまった状態で、足の踏み場もないくらいの人が寝ていた。桜はその内の一人に目星をつけると、こっそりと起こしてこの時点ではメリスティアの名前は知らなかったので、神殿にいる侍祭にここで話を聞くように言われてきたと伝えて一番話の分かる人の所まで案内して貰った。


 そこに出て来たのが、契約者との契約を全うして侍祭を引退し、指導育成のために御山に戻っていた老侍祭の内の1人だった。その老侍祭は名前をイルマーナと名乗った。


 そこで桜はイルマーナと2人きりの対談を望み、再びシスティナの関係者であることを告げた。


 そして、ここでもシスティナの名前の効果は絶大で、桜を疑っていて警戒心を顕わにしていたイルマーナはどこか安堵した表情を浮かべたそうだ。……ていうかシスティナってもしかしなくても凄い人だったんだな。


 ここからは要点のみ。


・神殿にいる高侍祭はメリスティアである。

・御山を占拠している奴らは『聖塔教』幹部である。

・メリスティアはそこの真の教祖である、バーサという中年の女と従属契約を結んでいる。


 なぜメリスティアがバーサと従属契約を結ぶことになったのかというと……


・御山の近くに遭難者が現れそれを助けた。しかし、秘密を守らせるための契約をする前に消えた。

・それからしばらくして、御山が襲撃を受ける。

・契約者のいない侍祭や、侍祭補では防衛が出来ずに前面的に降伏をするしかなかった。

・最も優秀な者が形式上指導者となる御山のしきたりで、当時トップにいたメリスティアは他の侍祭や侍祭補達には危害を加えないという『契約』をさせる代わりに襲撃者たちのボスであるバーサと従属契約を結んだ。


 バーサは宗教で人を集め、信者から戦闘組織を作り上げ、その力で主塔を所持し自分たちだけの街を作り上げるつもりらしい。この世界ではまだ国という言葉がないだけで、やろうとしていることは主塔を所持する街=国を乗っ取る、もしくは攻め落とそうとする行為。国盗りならぬ街盗りだ。


 そしてバーサが作り上げた戦闘部隊が


 妄信的信者による有象無象の信者兵団。


 自爆も辞さない特殊暗殺部隊の滅私(めっし)兵団。


 人工的に魔法が使えるように改造された部隊の魔法兵団。


 の3部隊だった。信者兵団を事実上バーサが率い、バーサの情夫でもある福教祖の長耳族の双子がそれぞれ滅私兵団と魔法兵団を率いているらしい。



「なんとまあ……よくもまあ集約したものよ」


 桜の話を聞いた蛍が呆れたように呟き徳利をあおる。


「そうですわね。話を聞く限りでは霞たちのいた組織もどうやらここの滅私兵団というものの育成所のようですわ」


 冷静にお茶を啜っているように見せながらも葵の手は怒りからか白くなっている。力を入れ過ぎて湯呑が割れないか心配だ。


「そして、シシオウの部隊にいた人工的に魔法を使えるように改造された実験兵も……ここで産まれた可能性があるか」


「はい、そして御山です」


『戦闘になるのでしょうか、我が主。そうであるならば私もお連れ下さい』


 一狼ですら戦いの気配を感じているか……


「私達がいた所がそんなところだったなんて……」


「あそこであのお屋敷のおばあちゃんを殺してたら私達も……」


 霞と陽が蒼い顔で震えている。有り得た未来を想像してしまったのだろう。それを見た蛍と葵が2人をそれぞれ抱き寄せて頭を撫でてあげている。本当に2人に甘いな蛍と葵は。


 とにかく、ここまで調べてくれた桜の為にも、御山を占拠されて悲しんでいるシスティナの為、辛い修行と酷い仕打ちをうけた霞と陽の為に出来るだけのことはしよう。



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