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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第5章

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調査完了

「えっと……故郷にあったものなんでどこで手に入れたとかはわからないんですが。何か?」


 ディランさんが短ランの生地やボタンなどを無遠慮に撫で回していく。漢に撫で回される趣味はないので、いくら気心しれているディランさん相手でもちょっと鳥肌が立ちそうになってしまう。


「ふん、なるほどな。こいつがあったからこそ魔材を糸状になんて発想をしたのか?」


 ディランさんが1人納得して頷いているが、神様が着せてくれた短ランとボンタンに特殊な効果は全く無かったはず。


 魔材を糸状にして軽量化しつつ付与効果を乗せるという考えも俺じゃなく桜が自分のスタイルにあった装備を求める上で出た発想だし。


「おい……ちょっと魔力を通してみてくれ」


「いや、すいません。私はちょっと特異体質らしくて魔力操作が壊滅的に苦手で全く外に出せないんです」


 素直にそう伝えるとディランさんが驚いたように眼を見開く。


「……全くか?」


「はい、全く」


「……驚いたな。葵嬢ちゃんの話じゃそこそこ強いって聞いてたが?」


「そうですわ!主殿は先日処刑された聖戦士を実質1対1で退け、その悪行を暴いたのですわ!」


 そう、結局性戦士シャフナーは過去の悪行を冒険者ギルドの取り調べで完全に暴かれ、侍祭であることを隠されたステイシアと共にギルド主導の下で処断された。


 シャフナーのが行ったことへの賠償額は厳密に計算すると結構な額になったらしいが、被害者の冒険者達には既に賠償のしようもないし、騙された貴族達も後ろ暗いことがあったのか詳しい調査を拒んだためシャフナーの私財を売り払った額の中から幾ばくかを支払っただけだった。


 エリオさんに関しては賠償は完全に拒否した。もともと霞と陽を助けたかっただけで娼婦たちへの依頼料はかかっているが、結果としてシスティナと出会わせてくれたことでむしろ感謝したいくらいらしい。なんとも欲のないことだ。

 

 仮に賠償額が大きければ犯罪奴隷に落として少しでも金を稼がせるという案もあったらしいが、逆に賠償額が少なすぎた為に死罪にするしかなかったとはなんとも皮肉なもので性戦士らしい最後だったともいえる。


 ステイシアについてはちょっと可哀想かなと思わなくもないが、それが侍祭としての最後の矜持なので好きにさせてあげて下さいとシスティナに言われてしまってはどうしようもなかった。


「ああ、聞いてる。そいつも余所の街で随分好き勝手やれるくらい強かったみたいだな。ようはそんなやつを魔力を全く外に出せないような奴が普通に倒せるってのはなかなかあることじゃない」


 ディランさんの言葉をリュスティラさんが引き継ぐ。


「魔力っていうのは誰にでもあるってのは知ってるだろ。うまく使うにゃそれなりのコツみたいのがあるんだが、普通は魔力ってのは知らないうちに肉体を補強しているもんなのさ。まあ全員がそうだからあんまり意識している奴はいないけどね」


 なるほど……魔力を身体に纏っている人が基礎のステータス+5されてると仮定しても、他の全員も皆等しく+5されているならそれは無いのと同じこと。それなら誰も気にする人がいないのもわかる。


 だけど、俺に関しては魔力が全く外に出せない。つまりその+5がないというハンデを常に背負っていることになる。


 そして、話の流れから行くとその体外を流れる魔力さえあればこの無意味と思われていた短ラン、ボンタンも……


「葵、頼む」


「はいですわ」


 葵が俺の肩に触れて短ランに魔力を流してくれる。


「いくぞ」


 え?……と思う間もなくディランさんのごつごつした拳が俺のボディに叩き込まれた。ぐふ…………あれ?ぐふってならない。


「え?……衝撃はあったけど、ほとんどダメージがない。ディランさん手加減しました?」


「いや、そこそこ力一杯だな」


「ちょっとお待ちよ。うちの人のほぼ本気の拳を受けてそんなもんなのかい?」


 リュスティラさんが呆れた声を出す。確かにディランさんは魔石と細工と付与がメインの魔道具技師だけど、槌も振るうしそのぶっとい腕に違わぬ力を持っている。そのディランさんが放った不意打ちのほぼ全力パンチがあの程度の衝撃?


 神装備すげぇ……もし俺に魔力を扱う力があれば俺の短ラン、ボンタンは最強防具に成りえてたかもしれないのか。まあ、神様もまさか魔力を全く外に出せない人間がいるとは思わなかったんだろうけど……


「おい、それをしばらく俺に貸してくれ。調べさせてほしい。その代わり、その装備に外部供給で魔力を通せるようにしてやる」


「本当ですか!そうして貰えると助かります!」


 これは願っても無い申し出だ。あのレベルの防御力を得られるなら防御面はかなり強化される。別にここで脱いでいってもアイテムボックスに着替えも入ってるから問題ないしね。


「それじゃあ、お願いします」





 思いがけない事実が発覚した1日だったが、狼達と葵の新装備に、大剣の鞘、狼を除くメンバーたち全員分のアイテムボックスが貰えたという充実した1日だった。


 結局、学生服は短ランだけを預けて来た。ディランさんなら再現は出来ないまでもなんかしら今後の役に立つような新しい発見をしてくれるかもしれない。ちょっと結果が楽しみだ。


 そんな感じで、装備を渡した狼達が狂喜乱舞してた話をしたり、アイテムボックスの性能に霞や陽が目を白黒させたりとかしながら楽しい夕食を摂っていた俺達のところに、今日も調査に出ていた桜がちょっとふらつきながら帰って来た。


「桜!どうした!大丈夫か」


 ふらつく桜なんて今まで見たことがない。俺は慌てて桜に駆け寄ると抱きかかえてリビングへと運び、ぬるくなりかけた緑茶を飲ませる。


「んく、んく…………ふぅ。ありがと、ソウ様。別に怪我したとかじゃないから安心して。ちょっと張り切り過ぎて疲れちゃっただけだから」


「そうなのか?無理はするなって言ってあっただろう。あんまり心配させるな。で、何があったんだ?」


「うん、シスに頼まれていた件、ようやく調べがついたよ」


 桜の言葉を聞いたシスティナの表情が強張った気がした。


 疲れた桜にそのまま報告をさせるのも酷なので、ひとまず皆で露天風呂へと入ることにした。


 霞と陽にも一緒に入るか一応聞いてみたが、顔を赤くして、まだ恥ずかしいのでごめんなさいと謝られてしまった。い、いや、別に強制するつもりもないし、今日は霞達がいてもいなくてもそのまま露天でなんて……考えてないから!

 

 という訳で、2人には着替えと蛍さんのいつもの晩酌セットをお願いして俺と、システィナ、蛍、桜、葵、で入浴する。


 後は未だにあんまり感情を伝えてきてくれないけど一応護身も兼ねて雪も近くにおいてある。雪も葵が魔石への属性付与を覚えてからはこまめに添加錬成をしている。属性魔石はランクが低い魔石でも錬成値の伸びがいいから、もうそろそろランクも上がると思う。


 その時にまずは意思疎通を覚えてくれたら、いろいろ話が出来てもっと仲良くなれると思っている。


 それに雪はどうも戦闘が好きみたいな感じがあって、俺が戦っている時やいい戦いをした時なんかにちょっと機嫌がいいなと思えることがあって、その辺から仲良くなれるきっかけが掴めればいいかとも思っている。まあ、戦闘好きは刀娘達全体にあるていどいえることなんだけどね。


「ふぃ~いい気持ち。温泉とソウ様のダブル癒しは効果抜群だね」


 俺の胸元にすりすりしながら蕩けた顔をする桜の頭を労りの気持ちを込めて撫でる。ここのところ桜は本当に根を詰めて頑張ってたからこんなことで癒されるならいくらでも協力したい。


「報告は後で霞達と一狼も交えて聞くから今はゆっくりするといいよ」


「は~い」


「それにしても桜さんにしてはやけに手こずりましたわね」


 まとめていた黒髪を解いてお湯に遊ばせながらしなを作る葵は妙に色っぽい。


「う~ん、ちょっとね。ルミナルタでの拠点はすぐに突き止めたんだけど、そっからがいろいろ厄介だったんだよね」


「葵、その辺も後でまとめて聞こう。システィナ」


「はい、私は先に上がって準備しておきますね」


「うん、いつもありがとうシスティナ。助かるよ」


「いえ、霞と陽もよく働いてくれてますし、全然たいしたことありません」


 可愛く微笑んで去っていく白いお尻をまじまじと見送ってから湯船の縁に腰掛けて、おちょこをくいくいしている蛍へと声を掛ける。


「蛍もそろそろいいか?」


「うむ、ちょうど一本空いたところだ。霞達も大分私のことを理解してきたな」


 今日の酒を用意したのは、順番から行くと陽だったかな?


 最近の2人は蛍の飲むペースと入浴時間とかを計算して中身の量などを調整してくるほどに侍女スキルを上げている。正直そんなスキルは全く必要ないんだけどなぁ……2人とも蛍にぴったりな酒食を提供することを、ちょっと楽しんでいるらしい。


 それどころか2人の間では勝負として成り立っているみたいで蛍の入浴後に一喜一憂している場面を見かける。まあ、それだけ我が家に馴染んできたということか。


「よし、じゃあ上がってリビングに集合。桜は疲れているだろうけどもうひと頑張り頼むね」


「ソウ様成分補充したから全然大丈夫だよ。むしろ、シスのためを思えばその後の方が大変になると思うし」


 むん!と胸を張ってぷるんとさせた後に、桜はちょっとだけ表情を曇らせた。


「そっか……システィナの懸念が悪い方に当たったか……うん!いずれにしても話を聞いてからだ。行こうみんな」


「うむ」「は~い」「はいですわ」


 湯船を出た俺は3人の頼もしい返事を背中で聞きながら雪を掴んで脱衣所へ向かった。



◇ ◇ ◇



「まずは結論から言うと聖塔教はかなり黒いと思う」


 ソファーの上に強引に寝そべらせた一狼をもふもふしながらの桜の言葉は軽く聞こえるが、内容は重い。


「ふむ、黒いとはどの程度だ?」


「う~ん、なんて言うか真っ黒?漆黒?闇の中?くらいかな」


「これ、桜。真面目な話だぞ」


「わかってるってば蛍ねぇ。本当にそのくらい黒そうなんだよ」


 う~ん、桜がそこまで言うんなら最低でも人の命を軽視するような団体なんだろうな。地球にいる時から宗教団体には良いイメージは持ってなかったけど、こっちにきてもっと酷くなるとは思わなかった。もちろん良い宗教団体だってあるっていうのは頭ではわかっているんだけど。


「順を追って説明するね。今回、シスに頼まれたのはルミナルタの塔で演説をしていた聖塔教の『塔の巫女』『塔の御使い』『女神の化身』とかって呼ばれている人を調べることだったんだけど、これが結構面倒だったんだよ」



 桜の話を俺なりに順を追ってまとめてみる。


 まず、桜は聖塔教の本部がある建物を探すために聞き込みをしたらしい。だが、ルミナルタには宗教団体が数多くあるため偶然聖塔教信者に聞くとかしないとどこが、どこの建物なのかは住民でも分からなかった。


 仕方なく桜は聖塔教が次の演説を行うのを待った。幸い演説自体は頻繁に行っているらしく長く待つことはなく、次の演説終了後に幹部と思われる人達を尾行することに成功した。


「だけど、その本部がちょっとおかしかったんだよね」


 疲れた様子でそう呟いた桜はどこがおかしかったのかを説明してくれた。


 本部はどこにでもあるような、小さな商店ほどの建物だったらしい。調べたところによれば地上2階建て、それと地下にもスペースがあるらしいという所までは簡単に調べがついた。


 地球の建物のイメージでいくと地上部分は3LDKぐらいの広さだったらしい。日本と違って土地に困ってないこの世界ではそのくらいの広さは小さい部類だ。昼に夜に直近まで近づいて調査を繰り返したが建物としては何一つ不自然なところはなかったようだ。


「問題は人の流れ?……う~ん違うな、建物の大きさ?がおかしかった」


 どうも、演説を終えた幹部と思われる連中がその建物に、多少間を空けてはいるもののどんどん入っていったらしい。


 途中から桜もさすがにおかしいと思って入っていく人数を数え始めたが、1人も出て行った気配がないのに入った人数が確定している数だけで34人。その前に入っていった人数を概算で加えると合計で7、80人近い人間がその3LDKに入ったらしい。ただ入るだけなら無理な人数ではないだろうが明らかに多すぎだった。


 もちろん桜には気配察知の能力がある。だからなるべく建物に近いところまで接近して気配察知で中の人の様子を探ってみたのだが、分かったのはほとんどの人間が地下室に入ったところで気配が消えてしまうということだった。


 別に桜の気配察知能力なら、ちゃんと意識を向けてさえいれば民家の地下室くらいなら充分察知できるはずなのにもかかわらずである。


 そこで桜は地下室に何かスキルを阻害するような仕掛けがしてあって、中にはものすごい広い空間があるか、別の場所につながっている隠し通路があるのではないかと考えた。


 肝心の『塔の巫女』も建物内に入って地下に降りると次の演説の時まで上がってこない。これでは仮に建物の中に忍び込んでも地下に行けない限り、巫女に接触することは不可能。信者を捕まえて問い詰めることも考えたが探っている者がいることを今の段階で知られるのは得策じゃない。


 そこからは桜の意地と根気の調査だった。近くに潜みひたすら気配察知を働かせ、地下に忍び込む機会を待ち続けることを選択したのである。


 気配察知を常に働かせ、建物内の人の動きを観察し続けることで内部の間取りを完全に把握し、地下への入口も分かった。その後は地下の入口に近い辺りに潜伏場所を変えて、夜間は隠形+と闇隠れの首飾りを常時発動して闇に潜んで建物の壁に張り付いて中の様子を探った。


 その苦労の甲斐あって、地下室へと降りるための階段を隠している仕掛けの解き方も把握することが出来た。


「なんだかベタに本棚の裏に扉があっただけなんだけどね」


 そう呟く桜はちょっと残念そうだった。忍者屋敷的な絡繰りが大好きな桜にしてみればあまりにもつまらない仕掛けだったんだろう。


 ここまでくれば、後はもう地下へと行ってみるしかない。そう考えた桜は忍び込む機会を待ち続けた。正直そんなところまで1人でやらないでこの段階で一度相談して欲しかった気もするが……今更言っても仕方がない。


 そして、やっと機会が訪れる。地下に入って行く数人のうち1人が直前で他の幹部に呼び止められ、入口を開いたまま部屋を出たらしい。すぐに戻るつもりだったのだろうが、期せずして入口が空いたままその部屋が無人という状況が出来た。しかも時は夜。桜の、(しのび)の時間帯だった。


 桜はすぐさま窓の鍵(この世界では簡単な掛け金であることがほとんど)を針金で解除し、一気に地下へと潜入した。もちろん隠形+と首飾りの効果を使って。


「そうしたら、地下には転送陣があったんだ」


「そんな……転送陣の作成は一宗教団体などでは到底不可能です。転送陣の技術はほぼ失伝しており、その情報を一手に握っているのはとある組織です。その組織をもってしても長い時間をかけて今ある転送陣を模倣するだけ。しかもそれがうまく作動するかどうかも完成後に使ってみなければ分からないんです」


 驚いたシスティナがそんなことを教えてくれた。つまり、転送陣の作り方は失われ未だに解明されていないということだ。


 その組織は残存する資料と現物を見て、見様見真似で作成できるがきちんと動作する転送陣を造れるかどうかは分からない。完成して設置して使ってみて初めて成功したかどうかが分かるらしい。


 おそらく作成段階において解明されていない条件があって、それをたまたま満たした時にだけきちんと作動する転送陣が完成するんだろう。


 そして、転送陣の所在については厳しく管理されているそうだ。新たな転送陣が完成して売却される時は大体的に公表し、設置場所を登録しなければならない。


 これは領主連合によって定められていて破ると死罪すらあり得るらしい。個人で所有するなどもってのほかということらしい。確かにそんなものを勝手に使われたら危なっかしくて仕方ない。


 まあ、一応の対処として一度設置した転送陣は片方、もしくは両方が一度目の使用時にその場に固定されるという処理がされているので持っていてもそうそう悪事に使えることはないらしいが。


 とにかく、地下への潜入に成功した桜は思い切って転送陣を作動させたらしい。向こう側に誰がいるとも限らないのに無謀な奴だ。後でしっかりとお仕置きしてやらなければなるまい。


 幸い、転送先ではあまり警戒もされていた訳では無く無事に転送を終えたらしい。ここまででようやく桜の報告も約半分というところのようだ。


 長くなってきたので一度、話を区切って、霞と陽にお茶を淹れて貰うことにしよう。


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