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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第5章

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新家族

「ソウ様!桜、この()達2人が欲しい!」


「桜?!」


 2人がそういう暗殺者の組織があるということを知らせるために一生懸命話してくれた内容をそれぞれが様々な想いで反芻していた重い空気を桜が場違いな程に明るい声で吹き飛ばした。


「だって、お屋敷のお仕事も出来るし、桜が必要とする能力も持ってるんでしょ。こんなピッタリな人材いないよソウ様」


「それは……そうだけど」


 確かに桜の言うとおりだが、2人はその組織から逃げ出したくて死にそうな目に遭った。それなのにまた似たようなことをさせるのはどうなんだろうか。


「あの……どういうことでしょうか?」


 桜の言葉にエリオさんが不安気な視線を向けてくる。


「いえ……今日ここに来たもう一つの目的です」


「はい、奴隷の購入の件ですね」


「はい。それの条件が、1つは私の屋敷で家事の手伝いをしてもらうことで、もう1つがこの桜の下で斥侯職のような技能を磨いてもらって情報収集などを手伝ってもらえる人だったんです」


「そ、それは!……いや、しかし……」


 俺が述べた条件に俺と同じ結論に達したのだろう。俺達への恩があるから出来るだけ希望を叶えてあげたいのにそれだけは出来ないというジレンマに目線が泳ぎまくっている。


「いえ、分かってます。同じような仕事をする場所から命からがら逃げてきた2人に、また同じようなことをしろとは言えません」


「え~!」


「え~じゃないから!ちょっとは空気読んで」


「ぶ~!ソウ様ひどい!桜は空気読んでるよ」

 

 頬を膨らませる桜は可愛いが、とても空気を読んでいるとは思えない。


「だって、この娘達があの傷から回復して生きてるってばれたらこの娘達また狙われるよ」


「「あ!」」


 俺とエリオさんの声がハモる。


 ……確かにその通りだ。でも、あれだけの傷を与えて、塔に放置したんだからもう死んだと思ってるんじゃないのかな?それならそこまで気にする必要も……


「あなた達、自分が使っていた武器がどうなっているかわかりますか?」


 そんなことを考えていた俺の考えが分かったのかシスティナが2人にそんな質問を投げかけている。でも、その質問にどんな意味が……あ、そうか!


「捕まった時に取り上げられたままです」「私もです」


 2人の回答を聞いて思わず俺は舌打ちをしたくなる。空気を読めていないのは俺の方だった。


「装備していた武器があれば、装備者が死亡しているかどうかがわかる……」


「はい」


「いつまで経っても武器の所有者欄が『死亡』に変わらなければ……」


「間違いなく追手が来ると思います」


 システィナも俺と同じ結論にいきついたらしい。


「エリオさん、彼女たちがここに連れ込まれてからどのくらい経ちますか」


「今日で二十数日目でしょうか……ちゃんと調べればわかりますが」


 エリオさんにそこまですることはないと伝えて考えてみる。あそこまで念入りに処分をお膳立てして二十日以上も死亡が確認できない。既に、2人の行方を探し始めていてもおかしくない……その手の専門家達にここが漏れるのは時間の問題。むしろもう特定されている可能性すらある。


 ここの警備体制と戦力はよく分からないけど、暗殺者相手の警備という形になれば充分とは言えないだろう。これはもう完全に桜の言う通りだ。そして多分今の俺達なら2人を守ることが出来る。


「桜、ゴメン。桜の言う通りだ。空気読めてないのは俺の方だった」


 素直に非を認めて桜に頭を下げる。


「えへへ、いいよ別に」


 桜は笑って俺の腕にしがみついてくる。どうやら怒ってはいないみたいだ。


「エリオさん。そんな訳で2人を私達に売って貰えませんでしょうか。2人が嫌がることはさせないとお約束します」


「…………」


 エリオさんは即答しなかった。ただ、その視線をベッドの中の2人に向けただけだ。


「私は……助けて頂いた侍祭様の所になら」


「うん……私も恩返ししたい」


「いいんだね。2人共」


 しっかりと頷く2人を確認したエリオさんはゆっくりと俺達に向き直って、深々と頭を下げた。


「フジノミヤ様、システィナ様。2人をお願いします」


「分かりました。うちに来て貰う以上2人は家族も同然です。うちもいろいろ事情があるので危ないことが無いとは言えませんが出来る限り2人は守りますから」


 俺の言葉にエリオさんは頷くと、売却手続きの準備をしてきますと言って部屋を出ていった。もちろんラナルさんも一緒だ。部屋に残された俺達は緊張した面持ちの2人に近づく。


「という訳で、うちの屋敷で働いて貰うことになったからよろしく頼むね。一応安全のためにすぐに屋敷に連れて行くつもりだけど、しばらくは身体を休めることに集中して貰っていいから。別にうちは貴族とかって訳でもないし、堅苦しいこともないから気楽にね」


「「はい」」


 そう言えば、まだ2人の名前すら聞いてなかった。それにスキルとかも分かれば知っておいた方がいいよな。


「もし、よければ2人の窓を確認させて貰っていいかな?」


「あ、はい。大丈夫です。『顕出』」「私も大丈夫です『顕出』」


 狐尾族の子が率先して窓を出すと、爪虎族の子も続けて窓を出してこちらへと窓を向けてくれる。内容を確認すると2人共、【家事】【料理】スキルを持っている上に【隠形】【夜目】スキルもある。更に孤尾族の子は【幻術】と【針術】なんてのもあってトリッキーな戦闘もこなせそうだ。爪虎族の子も【短剣術】に【敏捷補正】なんかもあった。

 

 これを見てしまうと本当に桜の言う通りで、こんなに今のうちにピッタリな人材はすぐには見つからないだろうというレベルで有能だった。


 まあ、桜の仕事を手伝わせるかどうかは2人がうちの生活に慣れた頃に2人に決めて貰うようにしよう。その辺はひとまず置いておいて、今窓を見ていてちょっと気が付いた。


「システィナ。装備した武器の所有者情報って、装備者の名前が変わったらどうなるのかな?シシオウの時には確認しなかったんだけど知ってる?」


「いえ……あの、そんなことが出来るのはご主人様だけなので私の叡智の書庫でも分かりません」


「そりゃそうか。試してみようか……ねえ君たち、この窓の名前を一度変えてみていいかな?」


「え?……それはどういう意味でしょうか」


 孤尾族の子が首をかしげてしまう。うん、意味わからないよね。


「桜、クナイを一本貸して」


「うん、いいよ」


 桜にクナイを借りると孤尾族の子に渡す。


「これを装備してみてくれるかな?」


「あ、はい。『装備』」


 『武具鑑定』……うん、ちゃんと装備されてるし所有者も表示されている。


「もう君たちは俺達の家族みたいなものだから言うけど秘密にしておいてね。実は俺のスキルの1つに窓の情報を書き換えるというものがあるんだ。それを使って名前を変えたら、このクナイの所有者情報がどうなるかを確認したい。協力してくれないかな」


 孤尾族の子は窓を書き換えられるという俺の非常識な能力に驚いていたが、俺の申し出が自分たちの為のものだということに気が付いたのだろう。にっこりと微笑むと了承してくれた。


「そういうことであればお願いします。それに……あの組織を抜ける時に私は一度死んだようなものです。システィナ様のおかげで新しく生まれ変わった私に新しい名前を付けて頂けるなら、私はその方が嬉しいです。結果はどうあれ、新しい主人であるフジノミヤ様が付けて下さる名前を今後は名乗りたいです。素敵な名前をお願いします」


 うお!やばい。改名をあっさり受け入れてくれるとは思わなかった。適当な名前にして実験結果を見たら戻すつもりだったのにこれじゃあ適当な名前という訳にはいかない。


「わ、わかった……」


 孤尾族で幻術持ち……か。なんかふわっとしてもわっとした感じ?だったら……俺は窓の名前の欄に手を伸ばすと思いついた名前に書き換える。


「君は今日から【(かすみ)】……ってことにしようかと思うんだけどどうかな?」


「カスミ?……霞ですね。はい!綺麗な名前をありがとうございます!フジノミヤ様」


 新しい名前を何度も呟いて気に入ってくれたらしい霞が笑顔を見せてくれる。気に入って貰えて良かった。そして持っていたクナイの所有者登録は死亡扱いになっている。よし!うまく行けばこれで誤魔化せるかもしれない。


「うん、名前を変えたら前の名前の所有者登録が死亡扱いになったよ。これで少しは安心できる。あと、フジノミヤ様はやめて欲しいかな、霞」


「あ、はい。……じゃあ旦那様では?」


 う~ん、正直微妙だけど屋敷の使用人と主的な関係であることは間違いないし、最初はそれでもいいか。


「じゃあ、ひとまずそれで」


「はい、旦那様」



「あの……ということは私もですよね。新しい名前、お願いします」


「あ、うん。ちょっと待って、考えるから」


 爪虎族の子がなんだかワクワクした眼を向けている。この世界ってあんあまり親から貰った名前に対する執着とかないんだろうか?まあ、抵抗がないならこっちも書き換えやすくはあるんだけど。

 

 爪虎族か……本当に爪が鋭いんだよね。人間の爪みたいに先端が丸くならなくて尖って伸びるみたいで、いざという時には武器のように使うこともできるらしい。つっても爪に関連した名前を付ける訳にもいかないしな。


 でも、この子きちんと身体が治ったら明るい髪色とちょっと日焼けっぽい感じの肌色と合わせて物凄く元気なイメージがある。もしかしたら素のこの子は元気娘なのかも……それなら。


「うん、じゃあ君は今日から【(ひなた)】にしよう。どう?」


「ひなたってひなたぼっこのひなたですか?」


 ん?漢字を当てはめると微妙に違うかもしれないけど本質的なイメージは同じだし問題ないか。頷いてあげると陽はぱぁっと明るい笑顔に変わる。


「はい!気に入りました。私お日様大好きです!ありがとうございます、旦那様」


「あぁ……えっと別に旦那様じゃなくてもいいよ。あんまり堅苦しくない呼び方で」


「……そうですか?じゃあ……あの、私一番上で姉とか兄とかいなくてちょっと憧れてて……いきなりで図々しいとは思うんですけど、家族みたいなものだって仰って下さいましたし……思い切って、兄様(にいさま)とかだめでしょうか?」


 ぐは!そんな恥ずかしそうな上目遣いとか反則的じゃなかろうか、これは断れません。


「う、うん。それで構わないよ。家族みたいなものって言ったのは嘘じゃない。これからよろしく頼む、霞、陽」


「はい、旦那様」

「はい!兄様」

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