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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第5章

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奴隷商

 結局、差し当たってシスティナがしたのは神殿に手紙を出すことだった。神殿のいくつかには御山に繋がる転送陣が秘匿されているようで、神殿に状況確認のための手紙を出せば現在の御山の状況は教えて貰えるようだ。


 どの街の神殿に転送陣があるかは最重要機密らしいので、さすがにシスティナも教えてくれなかった。だがどの街の神殿に依頼しても取り次いで貰えるらしいので、ダパニーメに来る前にフレスベルクの神殿に寄って手紙の配送を依頼してきた。


 配達の依頼はきちんと『契約』で依頼し、手紙の本文は侍祭文字を使って一般の人には読めないようにしていたので仮に配達員に何かあっても詳細が漏れることはないだろう。


 返事が来るまではしばらくかかるだろうとのことで、その間に気になっていた聖塔教を調べたいらしい。今回は桜の意見を優先して先にダパニーメ来たがその辺の下調べの為に日を改めてルミナルタへ行くことも決定している。


せっかく皆で来たんだからカジノ的なところにも行ってみたかったんだけど、時間的にも雰囲気的にもちょっと無理そうだ。


「あ!ソウ様!ここじゃない?奴隷商!」


 うん、あんまり大きな声で奴隷商とか言わないように。日本人的俺の感覚からするとクリーンなイメージがあんまりないので、目立つと『ちょっと聞いた奥様、あの人あんなに綺麗な女性たちを侍らせているのに、それだけじゃ飽き足らずに奴隷まで買うつもりらしいわよ!』『いやねぇ!怖いわぁ!うちの子を目に付かないところに隠しておかなきゃ!』という会話をこそこそされてそうで怖い。


「ほう、綺麗な店だな」


「そうですわね。清潔感があって、奴隷という言葉のイメージとは随分と違いますわ」


「ソウジロウ様達の地球で言われている奴隷とはちょっと趣が違うかもしれませんね。こちらの奴隷商を地球の言葉で無理矢理表すとすれば…………そうですね。刑務所と孤児院と職業訓練所が一緒になった場所、でしょうか」


 システィナが叡智の書庫の能力を使って俺達に分かりやすいように説明してくれた内容によれば、一言で奴隷商と言ってもその内部は3つに分かれるらしい。


1つ目は犯罪奴隷。

 犯罪を侵した者がなる。日本でいう懲役のようなものらしい。侍祭の契約とは違う『呪縛』というスキルによって行動を制限されている。奴隷側から条件を付けることは出来ない。ここに落とされるのは基本的に死罪相当の者が多く、鉱山での肉体労働や補充の効く兵士として死ぬまで使い潰されることが多い。軽微な罪の場合は借金奴隷として金銭的な負担を負わせて、完済後に解放されることもある。


2つ目は借金奴隷。

 お金に困った者が借金を返せなかったり、生活の為に身内に売られたり、罪の賠償として借金を負わされて落ちる奴隷。買われた先で借金額分を稼いで完済すれば解放される。買われる際に条件を付けることが出来る。買主の希望に沿わない条件を付ければその分だけ買取金額が下がる。金額が下がれば奴隷解放が遅れるためどこまで条件を付けるかはかなり重要らしい。

 例えば見目麗しい美女が性交渉を許容する条件を付ければ、それを望む買主の買取価格は跳ね上がる。最初に大きく買って貰えばその分借金の返済が早くなり、自由になれる時期も早くなる。


3つ目は職業奴隷

 これは、親に捨てられたり、孤児になったような子供たちに様々な職業訓練を行ってその能力を求める買主の下に働きに出す。日本で言う派遣社員みたいな感じか。そこで稼いだお金で奴隷商にいた期間に対応する経費と職業訓練に掛かった経費。さらに奴隷商の利益分、大体総経費の倍額ほどを支払えば自由になれる。

 職業奴隷はしっかりとした訓練をしているので出先で重宝されることも多く、雇先が身請けをして全額を立て替えてくれることも多いらしい。


「へぇ……確かにそれなら意外とクリーンかもしれないね。無理矢理絶対服従で虐げられるようなことはないってことか。まあ、犯罪者は自業自得として」


「だが、それでは奴隷商というのは大変な職なのではないか?3つの部門の長であり、呪縛の術者であり、奴隷の売買の責任者でもあるのだろう?」


「はい、まず『呪縛』の技能を持っている方が少ないんです。奴隷商に弟子入りをして一緒に働いていると稀に修得することもあるみたいですが、絶対数が足りない上に人格者で清廉でないと務まらないので奴隷商も少ないんです。それに、『呪縛』スキルは『契約』に近い力ですので悪用した方が儲かります。だから闇の奴隷商というのも存在します。そこで売られる奴隷は買主に絶対服従、まさにソウジロウ様がおっしゃるような奴隷です」


 なるほど……そういう奴らもいる訳か。そしてまたそういうところから買う奴も……この手の案件もギルドで情報を手に入れたら優先的にあいつ(・・・)に潰してもらえるようにウィルさんからまた全ギルドに通達しておいてもらおう。





 店に入ると小じんまりとした綺麗なロビーだった。ロビーには待合用のソファーがいくつか置かれ、正面にカウンター。その上には大中小のハンドベルが置かれ、その向こうには白い髪と長いケモミミのとっても綺麗なお姉さんがにっこりと微笑んでいる。


 扉はケモミミお姉さんの背後に1つ、ロビーの右側に1つ、左側に1つあるようだ。奥の扉はきっと従業員用の扉だろう。そうすると両脇の扉は奴隷たちのいる部屋に繋がっているのだろうか。まあ、その辺はいずれわかると思うから後でもいい。まずは受付のケモミミお姉さんを簡易鑑定しておこう。


『ラナル 業 -3

年齢: 19

 種族: 兎耳族

 職 : 奴隷商』


 おお!職が奴隷商だ。あれ?ということは、この美人のお姉さんがこの店のオーナー?ちょっと若すぎないだろうか。


「いらっしゃいませ。本日はどういったご用向きでしょうか。販売でしたらわたくしラナルが、ご購入でしたら当店の店主であるエリオが承ります」


 あ、なるほど。店主は別にいて、彼女はエリオという奴隷商の弟子でまだ見習いということか。それでも既に職が奴隷商になっているってことは必須スキルの『呪縛』を既に覚えている可能性が高いはずだから、きっと優秀なんだろう。


「今日は奴隷の購入を考えています。それと、奴隷の件とは別に少し店主にお話があるので部屋を用意して貰えると助かるのですが」


 システィナが前に出て今日の目的を告げる。基本的に交渉が絡む時はシスティナにお任せである。


「……奴隷の購入に関してはエリオが承りますので、その際にお話し頂ける機会はあると思いますが?」


 受付カウンターの向こうにいるラナルさんの表情が警戒のためか僅かに強張る。

 おそらくシスティナは性戦士事件の真実はなるべく外部に漏れない方が良いと考えたのだろう。だから確実に人払いが出来るような形での面会を望んだのだが、事情を知らない側にしてみれば初対面の一団がいきなり店主と密談をしたいと申し出たら不審に思っても仕方ないとは思うが……ちょっと警戒心が強すぎる気もする。


「すいません、説明が足りませんでしたね。聖戦士の件でご報告があると伝えて頂ければ分かると思います」


「!!……わかりました。部屋はこちらで用意させて頂きます。しばらくお待ちください」


 ラナルさんは受付に大・中・小と三種類置いてあったベルの内、一番小さい物を手に取るとちりんちりんと鳴らす。するとすぐにぱたぱたぱたという足音と共に受付の後ろの扉が開いた。


 入ってきたのは可愛らしい赤、青、黄色の三色のハンチング帽のようなものを被った小柄な女の子。ちょっと幼い感じはあるが、くりっとした目とえくぼが似合っていてこの子もとても可愛い。それと、短く切りそろえられた髪が凛々しい感じの将来イケメンになりそうな、先に入ってきた女の子よりは若干年上だろうと思われる男の子だった。


「アイナ、私はちょっと外すから受付をお願い。ミナトはエリオ様を1番の部屋に呼んできて貰えるかしら。私も部屋に入りますから何かあったらそっちへ伝えて」


「畏まりました」

「わかった」


 アイナと呼ばれた女の子がにこりと笑いつつ丁寧にお辞儀をするが、ミナトという少年はあまり慣れていないのかちょっとぶっきらぼうな感じで返事をして小さく頭を下げる。


「あらアイナ、今日の帽子、青色(・・)がとても綺麗ね」


「……はい。私もお気に入りなんです」


「とても似合ってるわよ。じゃあ、受付の方よろしく頼んだわね」


 ラナルは受付の席に座るアイナと店主を呼びに行くため扉に戻るミナトを見送ってから、受付カウンターの端部分の机の天板を持ち上げてロビーに出てきた。


「それではご案内致します。どうぞ」


 ラナルに案内されたのはロビーの右側の扉だった。扉を開けると小さな通路があり両脇と正面に扉がある。左側の扉に1、右側の扉に2と書かれているプレートが掛かっているため恐らく左側の扉が1番の部屋なのだろう。


「こちらでお待ちください。すぐにエリオが参りますので」


 予想通り左側の部屋に案内されるとそこには応接セットがある。卓を挟んで2人掛けのソファーが向かい合わせに置いてあるので、一応リーダーの俺と交渉役のシスティナが椅子に座り、刀娘達は俺達の背後に立って待つ。


 武器の方は持ち込み禁止らしいので、本来であれば受付カウンターに預けるところだが俺とシスティナの武器はアイテムボックスに収納してある。刀を2本も腰に差しているとソファーには座りにくいのでしまっておいて正解だった。


『ソウジロウ、気を抜くなよ』


『ん?何かあった?』


『反対側の扉の方に人が集まって来てるんだよね。今の所は桜達をどうこうしようって訳じゃないみたいだけど』


 え?なんか俺達警戒されるようなことしたっけ?反対側の扉の脇に控えてこちらを見ているラナルさんも俺達を警戒している素振りをしたのは最初の時だけで今はにこやかに微笑んでいるのに、その裏で兵隊を集めているとかちょっと悲しい。


『戦いになるようでしたら、アイテムボックスから武器を出すよりもわたくし達を使った方が早いと思いますので、その時にはわたくしをお呼びくださいませ』


『そうだね、蛍と桜には能動的に動いて貰った方が良さそうだね。そんなこと考えたくないけど、もし戦闘になったらよろしく頼むね葵』


『お任せくださいですわ!主殿』


 一応、システィナにも伝えておこうと耳を貸して貰おうと思ったら、扉がノックされた。仕方がない、何かあった時は俺達でシスティナを守ればいいか。


「お待たせしました」


 そう言ってラナルさんが扉を開けるとそこには奴隷商人エリオが立っていた。

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