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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第1章

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11/203

ランクアップ


 暖かい陽ざしを頬に感じてゆっくりと目を開ける。見慣れない木の天井に一瞬頭が混乱仕掛けるが、すぐにここは地球じゃないことを思い出す。そしてそれと同時にこっちの世界に来てからのことが一気に脳内にリフレインされる。

 草原,盗賊との戦闘,システィナとの出会い,初めての食事,契約,街での出来事,沐浴場,そして…蛍さん。

 

 あぁ俺はこの世界で生きていく。生きていてもいいんだ…蛍さんやシスティナ達と死ぬまで生きていく。

 

「起きたかソウジロウ」

「うん,おはよう蛍さん」


 裸の蛍さんが俺の胸に顔をうずめる様に寄り添いながら声をかけてくる。

 妙に頭がすっきりしている。胸の奥にずっとわだかまっていたものが解消されたような気がする。気持ちが軽い。まるで憑き物が落ちたようだ。脱童貞というのはそれほどまでの偉業なのだろう。俺は大きな金字塔を打ち建てたのだ。


「おはようございますご主人様」

「うん,おはようシスティナ」


 システィナは肌着を着ているが蛍さんと同じように俺の右胸に顔をうずめる様に寄り添っている。

 両脇に感じるこの温もりと柔らかさが俺に全能感を与えてくれる。

 だがこれだけは言っておかねばなるまい。


「蛍さん,ごめん!」 


 きょとんとした顔で俺を見た蛍さんがくすくすと笑いを漏らす。


「何をいまさら、お互い承知の上であったろうに」

「そうだけど,でも本当はもっとこう甘い感じの初体験を…」

「いや,私はあれで良かったぞ。本当のソウジロウを感じることが出来たからな。そういう感じのやつは今晩にでもシスティナにしてやれ」


 はっとしてシスティナに視線を向けると顔を赤くして小さく頷いている。

 くっ…いっそ今晩と言わず今からでもいい。俺の佩刀は今も抜身のままだ。


「さて…余韻に浸るのはこの辺にしておくぞソウジロウ。明日の塔探索に備えて準備をするのだろう」

「はい」

 

 俺のリビドーの高まりを察知したのか、絶妙のタイミングで間を外した蛍さんがすっと立ち上がって鞘を着物に変化させる。早着替えの専門家もびっくりだ。


「ご主人様があまりにも気持ちよさそうにお休みだったので…」

「大分日が高くなって来ておる。早く動かねばな」


 そんなに寝てたのか。確かに窓から差し込む陽射しもやや強めだ。

 

「ご主人様,着替えはこちらに」


 いつの間にか衣服を着こんだシスティナが綺麗に畳まれた俺の服を差し出してくる。


「ありがとう」


 流石にここまで外堀を埋められたら逃げられない。諦めて動くことにする。

 大人になった息子をこっちの世界の下着(ゴムの代わりに腰紐を結ぶトランクス型)を履き,上衣とズボンを身に付け桜ちゃんを佩刀する。

 もちろんシスティナ手製の腰の重りとパワーアンクルを装備するのも忘れない。


「お待たせ。じゃあ行こう」


 二人を連れて宿を出ると、システィナが最初に行きたいところがあるというのでついていくことにする。


「この街の神殿に寄って、昨日の馬車の売却代金を送って貰います」

「そっか。結構な金額だと思うけど大丈夫なの?」


 大金を預けた相手がそれを持ち逃げするなんていうのはよくある話である。ましてこの世界には都市間をまたぐ警察組織も科学捜査もない。賞金を懸けて犯人を捕縛,もしくは殺害できても預けたお金は戻ってこないだろう。


「ふふふ,こんな時にこそ侍祭の『契約』の見せどころです」




「それではよろしいですね」

「はい,侍祭様。私が責任をもって契約を果たします」

「では契約書に署名を」

「はい」

「結構です。では…『侍祭システィナの名の下にこの契約は成立した。契約を遂行する限り恩恵を与え,契約を破りし時は罰を与える』」

「ではお願いいたします」


 神殿に着いたシスティナは、その神殿を統括する司祭長に自分が元々所属していた神殿名を伝え侍祭契約をしたことを報告し,輸送業務をお願いしたい旨を伝えた。

 司祭長はそれを受け,訓練中の神官兵や出入りの業者に声をかけ希望者を募った。その結果神官兵2名と商人が1名名乗りを上げたが、システィナは面談の結果神官兵の1人を選んだ。

 神殿の神官兵は神官の修行をする傍ら戦うための訓練をしている者達である。そして修行の一環として外部からの依頼を受けることがある。


 今回のような輸送業務等は都市間を移動するため,道中の危険に対応することや外を旅すること自体のいい訓練になるので人気のある依頼らしい。

 この街の神殿はさほど大きい訳ではないため希望者は2名だったが、大きな神殿では訓練中の神官兵全てが名乗りを上げてもおかしくないとのこと。しかも今回は侍祭からの依頼であり『契約』付きである。

 これは、侍祭の『契約』のスキルで依頼内容を契約することで依頼の遂行業務中契約者に継続的な支援効果バフを与え、依頼の成功率を高める。その反面、契約に違反した時はペナルティが与えられる。


 契約を交わした以上はこの罰は避けることができないらしく、どこにいて何をしようとも罰が下されるのであえて破ろうとする者はまずいないとのこと。

 ペナルティの内容は依頼の内容と違反の程度によって変わるようだが、最も重いペナルティではそれこそ死んでしまう可能性もあるらしい。

 

 今回の目的地は俺が見た立て看板の反対側、ザチルの塔方面に向かい、最初に着いた街からちょっと逸れた所にある、貴族の領地であり片道10日程の道のり。

 日当として1500マール×12日分×往復。成功報酬として2万マールを先払いで支払った。日当分は余裕を持たせて支払う。


 うまく旅をして短縮した日程でこなしたとしても返金は不要,但し何らかの事情で日数が多くかかっても追加の支払いはなし。もともと500マールもあればそこそこ良い宿に泊まれるのだから、日当としては十分な額を支払っており、上手くやりくりすれば報酬額の一部とすることも出来るだろう。


 報酬は馬車の売却代金ではなく,俺たちの財布から出した。システィナが「それはいけません!」と抵抗していたが俺も蛍さんも譲らなかった。

 俺たちが悪い訳ではないが、結果としてシスティナを横取りしたような形になったことのけじめをつけたかったのである。ただの自己満足だけど「それでいい」と蛍さんは笑ってくれたので間違ってはいないはずだ。


「ありがとうございました。ソウジロウ様。これで事の顛末を書いた手紙とお金を旦那様と奥方様のご子息に届けることが出来ます」

 

 システィナはどこか安堵したような吐息を漏らし頭を下げた。

両親が死んだという知らせを受けたその子はきっと傷つき悲しい思いをするだろう。

 送られてきたお金も素直に受け取らないかもしれない。それどころか1人生き残ったシスティナを逆恨みするかもしれない。だがおそらくシスティナはそんなことはわかっているような気がする。

 それでも残された家族がこれから迎えるであろう、気持ちだけでは乗り越えられない問題を解決するために絶対に必要になるお金を、少しでも多く届けてあげたかったのだろう。

 出来れば遺族がシスティナの気持ちを汲んでくれれば良いと願わずにはいられない。


「よし!じゃあ最初はどこから行こうか。武器屋?防具屋?道具屋?」

「ではまずは武器屋から行きましょう。いくら防御を固めても魔物を屠れなければ意味がありません。それに少々の怪我なら私が治してあげられます」

 

 システィナが不敵な笑みを浮かべる。どうやらシスティナは防御より攻撃を重んじるタイプのようだ。侍祭のスキル的には防御重視な気がするのだが,自分の思い通りに力を行使できなかった頃の反動だろうか。

 ただ行き先についてはどうこう言うつもりはない。システィナの案内に従って武器屋へと向かう。


「そういえばシスティナは回復術を使えるんだよね。それって魔法なの?」

「そうですね『魔法でも』あります。回復術というのは治療技術と回復魔法が使えないと覚えられませんから」


 なるほど。つまり地球で言う医者的な知識と技術を持った上で更に回復魔法が使える人の上位スキルが回復術になるということか。多分だけど普通の回復魔法だけよりも効果が高いんだろう。

 この世界の医学知識がどの程度のものなのかはわからないが、ある程度人体の仕組みを理解している人が使う回復魔法の方が確かに効きがよさそうだ。


「魔法か…俺にも使えるようになるかな?」

 

 せっかく魔法の概念がある世界に来たのだからやっぱり魔法は使ってみたい。火をだしたり雷を出したりして魔物を倒すとか燃える。地球では厨二病だと馬鹿にされるだろうが現実に魔法がある世界ならそんなことにはならない。


「どうでしょう。魔力は大小はありますが誰にでもあります。自身の魔力をちゃんと感じることが出来るようになれば訓練次第で何かしらの魔法が使えるようになる可能性はあると思います」 

「マジで!是非教えて!」

「いいですよ。今晩からちょっと練習してみましょうか」


 くぅ~オラわくわくしてきたぞ!

 かめ〇め波を素で打てる日がくるかもしれない。あれは魔法じゃなく気か。

 そんなことを言ってる間に武器屋に着き、入り口をくぐる。


「おおぉ!これは凄い」


 店内は正面にカウンターを構え店内の壁にはずらりと多種多様な武器が飾られている。地球の知識に近い形の武器も多く,剣だけでもエストック,バスターソード,クレイモア,ブロードソード,レイピア,タルワール等々。

 その他にも短剣類,弓類,槌などの打撃武器,槍などの長柄武器も一通り揃っている。

 この世界では誰もが武器を所持しているため武器の需要が高い。そのため武器に関してはかなり技術が進んでいるようだ。だが…


「刀がないね…」

「そうだな。いわゆる日本の刀工と呼ばれるような者はいないのだろうな」


 日本刀を打つには繊細な作業工程を20近くこなす必要があり、その工程の一つ一つに精錬された技術がなければ名刀は産まれない。

 日本刀という技術体系が確立した日本はそれだけで奇跡なのかもしれない。


「システィナは武器は何を使う予定?」

「そうですね…実はソウジロウ様と従属契約をしたおかげでかなりの恩恵を受けていますので、多少重い武器でも扱えそうです。バトルアックス辺りを使ってみようかと」


 システィナはにこりと微笑むと迷わず壁に掛けられていたバトルアックスを手に取った。

 バトルアックスは柄の長さが120㎝,刃が30㎝程の合計150㎝程もある大型の武器だ。システィナの身長から考えても明らかにオーバーサイズでずっしりと重そうだがシスティナはそれを苦にしている感じはない。

 刃はよく研ぎ澄まされていて斬れ味は良さそうである。更にこのアックスはメインとなる刃の反対側にある鉤の部分が本来のバトルアックスは小さな刃になっているのにハンマーのように打撃が出来るようになっている。斬ってよし叩いてよしの武器なのだろう。

 『武具鑑定』


『アックスハンマー  

 ランク: F  錬成値 11  

 技能 : 力補正(微) 』 


 おっと,バトルアックスじゃなくてまんまアックスハンマーだったか。

それにしても刀じゃなくても技能付きの武器ってあるのか…盗賊達が持ってた武器が最高でもGランクだったことを考えればスキル付きでFランクは悪くないかもしれない。


「結構いい武器みたいだ。Fランクで力補正の技能が付いてる」

「あ,武具鑑定ですね。では私はこれを使わせてもらっていいでしょうか」

「システィナがいいならもちろんいいよ」

「はい。ありがとうございます。すいませんソウジロウ様より先に私が選んでしまって」

「素材とかは気にしなくて良いの?」


 意外と即決傾向が強いシスティナに一応聞いてみる。この世界には地球には無かったレアな鉱物とかがある可能性もある。

 システィナは俺の質問にやや声を落とす。


「この位の街では特殊な金属で作成された武器を扱うことはあまりありません」


 陳列されている武器を検分しながらシスティナが武器の素材について教えてくれた。

 基本的に出回っている武器のほとんどは地球で使われているような青銅や鉄,鋼を用いて作成される。高い硬度と魔力適正のある鉱物もあるらしく、それらは『魔材』と呼ばれる。   

その中で細かく分けていくと魔銅,魔鉄,魔鋼,魔銀,魔金などがあり,どれも凄く高いらしい。     

 仮に刀身全部に魔材を使うような武器を買うとすると、一番安い魔銅製のものでも50万から100万マールはするとのこと。日本円だと500万円以上である。

それよりは普通の武器に魔石を組み込んだ武器の方が安いらしい。


 何が違うのかというと魔材はそれ自体がまずかなりの硬度がある上に、魔力を込めることが出来るため様々な効果を持たせた武器が作成出来る。

 魔石の場合は魔石自体の力を武器に組み込むだけなので、魔石自体が持つ能力に固定されその大小や属性に縛られた能力しか発揮できない。

 しかも力を使い切れば魔石を交換しなくてはならないらしい。


 魔材を扱うのは『魔工技師』,魔石を武器と融合するのは『魔道具技師』という職で、どちらも複数の職の経験を積まないとなれない職で数が絶対的に少ない。そのためどこでも引っ張りだこになり大概はもっとも需要が多い塔が所在する街に店舗を構える。

 だからいくら塔への転送陣があるとはいえ、この街では置いてない可能性が高いとのこと。

 一応システィナのアックスハンマーは一般の鍛冶素材の中では最も高価な鋼製のもので、作成した人の技量も悪くないらしい。

 お値段もそれなりにして値札には6万2千マールと記載されている。


「なるほどねぇ。どっちにしろ今の俺たちじゃ手が出ない代物みたいだし,分不相応ってやつだね。いつかはそんなのも持てたらいいねってことにしとこう」

「ふふふ,そうですね」

「あ!」


 無骨なアックスハンマーを持ちながら可愛らしく笑うシスティナの向こうに目にとまったものに思わず声が漏れる。

 片っ端から『武具鑑定』をかけまくっていた俺の脳裏に『E』の文字がよぎった。えっとどれだっけ…あった。


『バスターソード  

 ランク: E  錬成値 27  

 技能 : 重力操作(微) 斬補正(微)』 


 目に入ったのは壁掛けの見栄えの良い武器ではなく売り場スペースの片隅に置かれた壺の中に適当に放り込まれていた何本もの剣の内の一本だった。 

 この店に飾られている武器は、どんなに見栄えが良くて値段が高いものでもほとんどGランク以下だったことを考えればEランク武器は店売りの中ではかなりのレアだと思う。

 なんでこんな壺の中で1本1万マールの大安売りされているのだろう。

 壺の中から手に取って抜いてみる。

 長さは刃体の長さが110㎝くらいで、幅広で厚めの刀身の両脇に刃がついている。

 

「ソウジロウ様,何かありましたか?」

  

 システィナが俺が何かを見つけたことを察してか小声で聞いてくる。


「これEランクで技能が2つ付いてるのに1万マールなんだ。なんでだろう」

「多分普通の方は『鑑定』や『武具鑑定』が使えないからだと思います。ソウジロウ様のような技能がない人は今までの経験と知識だけで判断するしかありませんから」


 確かにそう言われて改めてバスターソードを見ると微妙に刀身に傷がついていたり,刃がちょっと欠けている部分もあった。

 中古品ということなのだろう。技能も(微)というくらいだから前所有者も効果に気が付かなくても仕方がない。だが俺の魔剣師の職ならこの剣を育てることでこの効果も大きくすることが出来るかもしれない。


「よし。俺はこれにする。蛍さんよりはちょっと長くて重いし,重心のバランスも違うけど低重力対策にも良さそうだ」

「よかろう」


 蛍さんの了解も得たので、システィナのアックスハンマーと俺のバスターソード、合わせて7万マールを支払い店を出る。2千マールはシスティナが交渉して値引きしてもらった。交渉術スキルは使っていない。

 俺の剣の鞘はサービスでつけて貰ったので左腰に剣を右腰に桜ちゃんを佩刀する。

 これから二刀流を目指すので、こうしておけば2本の武器を一度に引き抜けると思ったからだ。

 システィナは持ち歩きについて店主と相談し,幅広の革紐を貰っていた。その紐の両端を柄に取り付けることでその部分を肩にかけて持ち歩くことにしたようだ。塔に入る際は革紐を外して持ち歩く予定らしい。


「ソウジロウ様、お買いになった武器は装備しておいてください」

「え?装備したけど?」


 ちゃんと腰に下げたので装備は出来ているはずなのだが,何かおかしいのだろうか。


「きちんと所有者登録をしないと武器は本来の性能を発揮できません」


 そういうとシスティナは肩に掛けたアックスハンマーを手にした。


「武器を手に取り自分の武器だという認識を持って宣言してください。『装備』」


 一瞬アックスハンマーが淡い光を放つ。


「これだけですが装備をしておけば武器は手に馴染むようになりますし、扱いやすさが全然違います。性能もわずかながら増すということも確認されています。

 どうなっているのかは私にも分かりませんが試しに鑑定してみてください」


 なるほど,確かに盗賊たちの武器には所有者の名前が表示されていた。武器の持ち主の登録というのはこの世界では常識なのだろう。

『武具鑑定』


『アックスハンマー  

 ランク: F  錬成値 11  

 技能 : 力補正(弱)

 所有者: システィナ 』


「あ,技能の効果が少し良くなってる。もしかして装備したら斧が少し軽く感じるようになったりした?」

「はい」

「へぇ,面白いね。武器との絆が強いんだねこの世界は」

「だからこそ私や桜もこのような能力を得られるのやもしれんな」

「あ,そうだ。蛍さんの能力で思い出したんだけど蛍さんの技能に『武具修復』ってあったよね」

「あったな」

「それこの剣に使ってあげてくれるかな。このままじゃこの子も可哀想だから」


 腰に差したバスターソードを抜いて蛍さんに渡す。


「ふむ…確かに手入れも杜撰で大分傷んでいるな。まあ,任せておけ『武具修復』」


 蛍さんがバスターソードに手をかざしてスキルを使う。

 蛍丸の名前の由来にはある一つの伝説がある。

 

 南北朝時代の武将阿蘇惟澄が実戦で使用した際,激しい戦いの中で刀が刃こぼれしてしまった。しかしその夜,刀に蛍が群がって刀を直すという夢を見る。

 そして,翌朝目が覚めて見てみると本当に刀が直っていたという伝説である。蛍さんの名前の由来はそこから来ている。

 蛍さんの『武具修復』のスキルもその辺から来ているのかもしれない。


 蛍さんの手の平辺りから小さな光の玉が無数に出現するとふわふわと漂いながらバスターソードの刀身を覆っていく。

 その光景はまさに伝説の通り。蛍さんはやっぱり凄い。

 時間にすれば僅か10秒程だったが光の消えた後には細かい傷はそのままだが刃こぼれが消え、剣としての機能を十全に取り戻したバスターソードがあった。


「うむ,悪くない剣だ。しっかりソウジロウを助けてやってくれ」


 蛍さんはバスターソードにそう声をかけると俺に剣を返してくる。


「ありがとう蛍さん。これからよろしく頼むな相棒『装備』」


 手に持った剣一瞬光に包まれるとグリップがひゅっと手に吸い付くように変化した気がする。

 あぁ,分かる。これが装備するってっことか…装備しないと性能を発揮出来ないというシスティナの言葉がやってみるとよく理解できる。

『武具鑑定』


『バスターソード  

 ランク: E  錬成値 27  

 技能 : 重力操作(微) 斬補正(弱)

 所有者: 富士宮総司狼』


「うん,ちょっと技能が上がってる」

「すまぬがソウジロウ。ちょっと私の鑑定もしてみて貰えぬか?」

「え!…それはもちろん構わないけど,どうしたの蛍さん。なんか調子悪いとか」


 もしかしてやっぱり昨日激しすぎてなんかあったんじゃないかと不安になってしまう。そんなことになったらきっと俺は不能になる自信がある。


「ふ,心配するなソウジロウ。その逆だ。今朝から妙に身体が軽い。些か調子が良すぎる気がしてな」

「よかったぁ,びっくりさせないでよ。じゃあ鑑定するよ『武具鑑定』」


 昨日の件が原因による不調ではないらしいので安心してスキルを使った俺の表情が一瞬で固まる。ちょっと待って…何でいきなりこんなことに?


「どうしたソウジロウ」

「…うん,何でかは分からないんだけど蛍さんのランクが上がって全体的に凄い強化されてる」


 蛍さんの鑑定結果が俺の脳裏に浮かんでいる。


『蛍丸  

 ランク: S++  錬成値(最大) 吸精値 2

 技能 : 共感  意思疎通  擬人化  気配察知+  殺気感知+

      刀術  身体強化(人化時)+ 攻撃補正+  武具修復 光魔法』


 ランクが上がってS++になって技能のパッシブ系のスキルが軒並み+になっている。

 この辺は今回の蛍さんの謎強化をふまえての俺の予想では「なし→(微)→(弱)→(強)→『+』」という感じで上がっていくのではないかと思っている。


 そして吸精値が2…どういうことだろう?

 詳しいデータを蛍さんとシスティナに伝え、意見を求めてみる。


「なるほどのう。そういうことか…」

「吸精値というのはそういうことだったのですね,でもそれはなんというか…凄い能力ですね」


 2人は瞬く間に答えに行きついたようだがシスティナの顔が赤いのは何故だろう。


「え,どういうこと?」

 

 俺の問いかけに何故わからないのかと蛍さんが苦笑する。


「そんなもの誰でも分かるであろ。昨日までなんともなかった私が今朝になってランクアップしていた理由など1つしかないではないか」

「今になって思えば吸『精』値という名前からも想定出来て然るべきでしたね」

「あ」


 2人の言葉にさすがの俺でも分かった。


「つまり俺のあれが蛍さんのあれにあれしたから?」


 蛍さんが笑いながら頷く。


「それしかなかろうな。現在の吸精値とやらが2なのはおそらく一周したからではないか」

「き,昨日は激しかったですからね」


 つまり昨日のあれで蛍さんの吸精値が100まで上がってランクアップ。そして余りが2になった。そういうことか…

 ということは俺の魔剣師としての育成能力の1つは、人化した魔剣たちとヤればヤるほど吸精値が上がってランクアップが出来るってことか。おお!なんて素敵な能力だ。

 これからも強化の名目で何度でも蛍さんと出来るってことじゃん。

そうするともう1つの錬成値の方は戦って経験値を稼ぐか,素材を使って鍛えるかそんな感じか。


「あれ?でもそうしたらなんで桜ちゃんの吸精値がこんなに高いんだ?」

『…』


 桜ちゃんの気持ちが伝わってくる。なんだか物凄い後悔でこっちも悲しくなる。


 あ,そうか…桜ちゃんは俺の身体に刺さって致死量の血を浴びてたんだ。だからか。

 と言ってもそのやり方はここではやりたくない。輸血も出来ないだろうし傷口からの病気も怖い。決してあれをしたいからではない。

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