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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第4.5章

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記念SS 尽くすべき我が主

 私は魔物だった。


 元々は塔から排出された魔物の1頭だったと思う。塔から排出された私は体内の魔石の力を使って近くにあった山の中に適応する魔物へと身体を変化させた……ような気がする。


 正直その辺りの記憶は曖昧で確たることは言えない。なんとなくそう思うだけだ。ただ、身体の内から湧き上がってくる攻撃衝動だけは今とは比べものにならないほどに高かったことを覚えている。


 同じ魔物同士なら、かろうじて抑えることも出来たが人間や野生の獣などが視界に入るだけでもう抑えることは無理だった。別に空腹を感じている訳でもないのにどうしてもその衝動に(あらが)えずに襲い掛かってしまう。そして、その衝動は相手が動かなくなるまで続いてしまうのだ。


 そんな私があのクズの従魔に落ちぶれてしまったのは何もあのクズの力やスキルに屈した訳ではない。あの盗賊団の首領だった大剣の男……山中であの男に出会い、攻撃衝動のまま飛び掛かったら一瞬で殴り倒された。そして、意識が朦朧としている内にあのクズのスキルが私を捕らえてしまったのだ。


 あんなやつの言いなりにならなくてはならないことは私にとってとても屈辱的なことだった。


 ただ、あのクズにも1つだけ感謝しなければいけない……いや2つか。


 1つは従魔となったことで、塔の魔物として立場が解除されたかのように常に湧き上がっていた攻撃衝動が無くなったこと。これにより私は物事を考えられる程度の知性を持つことが出来た。


 だが、あのクズの指示に従い続けるのは苦痛でしかなかった。私欲の為に人でありながら人を襲う。その尖兵として私は使われた。元は魔物だ、人を襲うことに忌避感は無かったが……何故か腹立たしい気持ちをいつも抱えていた。


 そしてもう1つは……あの方に引き合わせてくれたことだ。



 あの方はたったの3人で100を越える人間と我ら狼、数十頭。それに熊の魔物2頭を相手に互角以上の戦いを繰り広げた。


 正直に言えばたかだか3人の人間など、我らが取り囲んで戦えばすぐに喰い殺せると確信していた。


 それなのに私の指揮下にあった狼達が次々に屠られていった。その大半は私がクズに命じられるままに力で従わせていた攻撃衝動のままに動く狼達だった。


 そのため、彼らが私の指示に従わずただ無謀に襲いかかり、返り討ちにあっても特に思うところはない。


 しかし、私の周囲には私と同じように魔物としての攻撃衝動から目が覚めて知性を発現させた狼達がいた。こちらは私の強さだけに従っていた訳ではない、いつかあのクズの支配から抜け出して好きなように生きるという目標に共感してくれた同胞達だった。


 この仲間達を無駄死にさせたくはない。私は仲間達に近づきすぎずに戦うふりをするように指示し、状況を変えられる何かを待っていた。


 だが、あのクズとその仲間はいつまでも倒せぬ敵に業を煮やし、私達ごと巨大な火の玉で焼き尽くそうとしたのだ。


 そのあまりに凶悪な魔力と、視界を覆った絶望的な光景に、なまじ知性が出てきたばかりの同胞達は恐怖と絶望で足が竦んでしまっていた。


 唯一の救いはあのクズが私達を見捨てたことで私を従魔としていたスキルの効果も消え、私経由であいつに従っていた同胞たちにも枷がなくなっていたことだ。


 私は急いで同胞達の下に駆け寄り、一頭ずつ尻を蹴飛ばしここから離れる様に促して回った。それでも広範囲に散っていた同胞達全ては無理だ。何頭かは諦めるしかない……と思っていたら何故か人間が残りの狼を守ろうとしてくれていた。


 おかげで私はその他の狼全てを追い払うことが出来た。しかし、それと同時に私自身が逃げ出す機を失ってしまっていたのだが……

それでも同胞達を救えたのなら構わない。群れを統率していた私の責任は果たした。


 ……そして、私は最後に私の手の及ばなかった狼達を守ってくれようとしてくれている人間たちを見た。今にして思えばその時の私の気持ちは私が生まれて初めて感じたもの『感謝』だった。


 その時だった。あの方と目があったのは。……優しい目だった。あのクズや盗賊達から向けられていた敵意と(あざけ)りの目ではなかった。私の勘違いでなければあの方は魔物である私に敬意と慈しみのこもった目を向けていたのだ。


 そのことに気が付いた瞬間、私の中になんとも言えない暖かな衝撃が走り抜けた。



「お前も来い!!」


 だから、私は手を伸ばして私を呼ぶあの方から目を離せなくなっていた。


「お前はこんな形で死んでいい狼じゃない! 死ぬならここを凌いだ後で俺と戦え! それなら容赦なく殺してやる!」


 敵だと分かっているのに私を惜しみ、裏切られる可能性すら包み込んで私を救おうとする器の大きさに気が付けば私はあの方の胸に飛び込んでいた。


 直後に訪れた轟音、そして灼熱……だが、あの方に力強く抱きしめられていた私には何の不安も無かった。初めて抱きしめられたその人肌の暖かさ……この安らぎと安心感の中ならば、この方と一緒ならばこのまま燃え尽きても構わないと本気でそう思ったのだ。


 

 結局、私は助けられた。このまま他の狼達とあの方たちを助けよう。そう思ったが、さっきまで敵だった私達が近くにいればきっと逆に戦い難いだろうと考えた。

 それに、クズに使われていたスキルがこの後また私達に影響を及ばさないという確証もなかった。

 

 あの方たちの窮地はこの後も続く……共に戦いたいという気持ちを押し殺し今は近くにいないことがあの方たちの役に立つ。そう言い聞かせて助けられた他の同胞達と一旦この場を離れた。


 それにこの時、私の鼻が遠くから流れてくる沢山の人間と鋼の臭いを捉えていた。おそらくはそれなりの規模の人間の部隊。その部隊をうまくここまで誘導出来ればあの方たちを救ってくれる可能性があると思った私はそちらへ向かうことにした。


 結局その部隊はもともとあの方達を救うための部隊だったのだが……



 全ての戦いが終わり、私は何頭かの狼とあの方達が帰ろうとする後ろをついていった。


 私を一蹴したシャアズを1対1で倒したその実力、私を認めてくれたあの目……私の心をも鷲掴みにしてしまったあの力強い腕……そして、なによりもあの安らぎ。クズから解放され自由に生きることを目標としていたはずの私の中にはもうその考えはなくなっていた。


 私を認めてくれたあの方と共にいたい。共に戦いたい。今はまだあの方に相応しくないが、私はもっともっと強くなって今度は私があの方とあの方の大事なものを守ってあげられるようになって恩を返したい。


 そうなった時こそ私は私が認めたあの方を敬意を込めてこう呼ぼうと思っている。




 私が尽くすべき『我が主』と。



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