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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第4.5章

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記念SS わたくしにおまかせですわ

「葵、ごめん。廊下にもう一個明かりが欲しいんだ。魔石灯の台は壁設置型のを買ってきて取り付けたんだけど光魔石は買ってこなかったんだよね。一個お願いしてもいい?」


「もちろんですわ、主殿。魔石はお持ちですの?」


「うん、これにお願いできる?」


「お安い御用ですわ」


 わたくしは主殿が差し出してきた、多分Hランクと思われる魔石を受け取ると光属性の魔力を操作、増幅、圧縮、注入して無属性魔石に属性を付与していきます。


 付与術師ではないわたくしの属性付与は、魔力操作と魔力の量による力技なので結構大変なのですがこの(・・)わたくしにしか出来ないことですし、主殿のためなら否やはありませんわ。


「できましたわ。主殿」


 ちょっと気合いを入れすぎて軽く目眩がしますが、会心の出来ですわ。そんじょそこらの付与術師には真似出来ない程の品質になったと断言してもいいですわ。


「ありがとう、葵。……ちょっとごめんね」


「え、あ! ぬ……主殿?」


「いいからいいから、ちょっとふらついてるよ。部屋まで運んで上げるからちょっと横になって休んで」


 はうぅぅ! ほんの僅かなわたくしの不調に気が付いてさりげなくお姫様抱っこで部屋まで運んでくださるなんて! さ、さすがですわ主殿。わたくしの心をいとも容易く鷲掴みですわ!


 まぁ、もっともわたくしの心などとっくの昔に主殿のものですけど。


 まだはいはいしかできなかった主殿があの蔵に入ってきてその姿を一目見た時から、わたくしの心の中にはその子が住み始めたのです。


 その子は蔵に来る度に凛々しく成長していきましたわ。いつしかわたくしはその姿を見ることを待ち詫びるようになり……年甲斐もなく胸を高鳴らせるようになっていったのです。


 ……もちろん刀なので高鳴るような胸は当時はなかったのですけど。


 わたくしは刀としての生は長いですが、飾られていた期間が長かったので、人間たちのことには詳しくなりましたが戦闘については隣にいた山猿ほどには経験を積むことが出来ませんでした。


 ですが、逆にそうであったからこそ山猿のように使用者に対する不満を抱えて鬱屈することもありませんでしたし、戦いの本能に引き摺られるような無様な姿を見せることもありませんでした。ですからわたくしは山猿の様に深い絶望を味わうことなど一度も無い刀生を歩んできたと言えるでしょう。


 そんなわたくしが……この世の終わりとも言える程の絶望を最近になって味わうことになるとは夢にも思いませんでした。……しかも2度。


 一度目は約3年前。


 蔵の中へ祖父と共に訪れた主殿が、数多ある刀達の中から私ではなく山猿を選んだこと。わたくしは思わず目の前が真っ暗になりました。


 だって、そうじゃありませんか? 刀としての美しさは間違いなくわたくしの方が上。刀として使うことを考えたって、無駄に長いあの山猿よりも一般的な長さのわたくしの方が取り回しやすいのは一目瞭然なのですから。


 おそらく主殿は刀を見ることは好きでも、知識の方はあまり詳しくなかったのでしょう。そうでなければわたくしを選ばない理由はないのですから。


 それからの3年間は地獄のような日々でした。毎朝行われる主殿と山猿の逢瀬は見えなくても『共感』で伝わって来てましたから。


 『わたくしも手に取って欲しい』と、どんなに望んでも伝える術がない。ことここに至りわたくしはもう、いつか主殿が蔵の刀を全部相続して自由にわたくしたちを愛でることが出来る様になるまで待ち続けるしかないと覚悟を決めていました。


 まさか、そんなわたくしに、本当の地獄が訪れることになるとは思いませんでした。それこそ2度目の絶対的な絶望……それは主殿の死、でした。


 強盗に入った男に盗み出された桜さんが主殿を刺し致命傷を与えてしまったのですわ……


 主殿が亡くなったことは、後に駆けつけてきた警察と消防が死亡確認をしていました。開け放たれたままだった扉の向こうでピクリとも動かなくなってしまった主殿が運ばれていく姿をわたくしはただ、呆然と見送りました。もし、涙というものが流せるのならば間違いなく流していたと思いますわ……


 しかも証拠品として押収されてしまったのか、あの口やかましい山猿やいつも明るい思考で皆を楽しませてくれていた桜さんが蔵に戻ってくることもなかったのです。



― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―



 それからの日々は……思い出したくもない程に無味乾燥な毎日でした。あれだけ毎日賑やかだった蔵の中もまるで灯が消えたようでした。


 そんな日が幾日か過ぎた日……奇跡がおきたのですわ!


 わたくしは突然光に包まれたのです。それは今にして思えば濃密な魔力の塊だったような気がします。


 そして、光から解放された時わたくしは……あれほど望んでも望んでも叶うことがなかった主殿の手の中にいました。


 あの時の感動……今思い出しても身体が芯から火照ってしまいますわ。感動に打ち震えてしばし呆然としている間に山猿に好き放題言われてしまったのが不覚と言えば不覚ですが……


 この世界は本当に私達にとって素晴らしい世界です。


 こうして女の身を得て主殿と触れ合うことが出来る。


 刀として思う存分に戦うことが出来る。


 そして主殿の為に自分から行動することが出来るのですから。


 わたくしはなんだかとても嬉しくなってしまって、わたくしを運んでくれている主殿をぎゅぅっと抱きしめてしまいましたわ。


「ちょ、ちょっと葵。前が見えないから危ないよ」


「主殿……これからもわたくしとずぅっと一緒にいてくださいませね」


「うん? そんなの当たり前でしょ。離れたいとか言われたら俺、泣くよ」


「ふふふ、そんなことはあり得ませんわ。わたくし達の邪魔をするものは全部わたくしが排除しますもの……わたくしにおまかせ、ですわ」


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