65•レイニーフィールド邸
「子供の頃を思い出すなあ!」
嬉しそうなスーザンを見て、フィリップ班長は心配そうに朝焼け色の眉を寄せる。
「スー」
フィリップが見たことのない、どこか獰猛で野生的な顔つきだった。
2人が出会ったのはスーザン12歳、フィリップ14歳の時である。スーザンは既に魔法の修行を経て落ち着きを見せ始めていた。それ以前の野生児スーザンという姿は、知らなかったのである。
「殿下、集中して下さい」
リチャードに叱られて、フィリップはしょんぼりと前に向き直る。
「殿下は領主館へ一緒に。スーザンはエシーを待って後から来たまえ!」
「うす!おじさん!」
「スー、無茶しないでよ」
「エシーがいるから大丈夫っす!」
フィリップ班長は絶句する。
「殿下、ゲートを開きますよ!」
リチャードの前に扉のようなものが出現する。移動の魔法を大人数で使う準備だ。
「鍵はストロングロッド騎士とフィリップ殿下に設定」
フィリップは悲しそうにスーザンを見た。
「フィル班長、気をつけて!」
「うん……」
元気がないまま、フィリップはリチャードについてゆく。扉の向こうはゴルドフォークの領主館前だ。いきなり内部に入って即死の罠があったらたまらない。先ずは付近にゲートを開く。
「おじさん、飛竜が通れない」
フィリップ班長について行こうとした飛竜がゲートに阻まれていた。
「向こうの様子が分ったら解禁する」
飛竜は野生動物である。懐いていても急に敵対するかもしれない。それでなくともラスカルジャークを肥料にして新種の魔法毒を開発するような領主だ。用心に越したことはない。
「それじゃ後で」
「1時間後にな」
「気をつけるんだよ」
「フィル班長も!」
ゲートを抜けたリチャードとフィリップはゴルドフォーク領主レイニーフィールド邸を見上げる。
「ナイトラン大臣」
「とりあえずあれ壊すか」
館の屋根の上には、物見の塔のような物が設置されている。そしてそこから、奇妙な模様が刻まれた煙突に似た筒が何本も突き出す。
「魔法文字以前の儀式文様だな」
「大臣、なんの模様かわかります?」
「生き物を呼び寄せる音が出る」
「大規模なワイバンコールですか?」
「ラスカルジャークを表す模様があるぞ」
「館にラスカルジャークを呼ぶんですか?」
フィリップ班長は驚いてリチャードを見る。
「いや、畑を表す模様や丘を表す模様もある」
「場所指定まで出来てる!」
「恐らく本来は畑の害虫を追払い、益獣を呼び込む仕掛けなのだろう」
リチャードは苦い顔である。
「あんな大規模な仕掛けを作られてるのに、全く知らなかった」
「はい、ゴルドフォークはラスカルジャークの大発生も記録されてません」
「ああ、それで討伐担当の調査官は現地に来なかったんだな」
「そうですね」
「現地で対応できる設備がある農業地帯に、我々討伐担当者は出向かないから」
「一般調査官が、見落としたり幻惑や記憶操作にやすやすと掛かったりするのは仕方ないです」
「よし、壊そう」
リチャードは筒を睨んできっぱりと言った。
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