25•光る竜の爪
一口に竜といっても色々いる。大地の竜やら火炎の竜やら。水の竜というのもいる。スーザンはもっぱら空の竜こと飛竜を投げて暮らしているため、他の竜のことはあまり知らない。
竜寄せの笛は飛竜を呼ぶための笛である。その材料となる竜の爪は、しかし飛竜のものでなくとも良い。多くは飛竜から作られるが、銘入りと呼ばれる名笛は、必ずしもそうではない。
どんな竜の爪からも極上の竜寄せの笛を作り出すことができる。ようは細工師の腕次第なのだ。
恐ろしく硬い上に傷が入れば脆いというこの難しい素材を扱うためには、経験と魔法が必要だ。単純な力加減の他に、割れてしまうことを防ぐ魔法が重要な役割を果たす。
「そこの箱の爪は全部使っていいよ」
リチャードに言われた箱には、さまざまな種類の竜の爪が乱雑に放り込んであった。
「ほんとに?えー、すごい、宝の山だね」
「一晩で作るならあんまり難しい素材は無理だろ」
「うん」
その箱の素材は、乱雑に入っていることからもわかるように低級品だ。依頼は朝まで。繊細な技術を問われる高級素材は無理だ。
「でもこんなにたくさんの種類を見たのは初めてだよ」
スーザンは子供のように喜んでいる。もうフィリップ班長に送るという目的を忘れてしまっているようだ。そして、街に自ら調査に出るという目標もどこかへ吹き飛んだ。
一つ一つ手に取ってはためつすがめつしている。横に控えたリチャードも、竜寄せの笛の材料を何故見に来たのかは既に意識の外だ。
嬉々として箱の中身を掘り返していると、青白く発光する爪があった。
「お、それは珍しい素材だぞ」
「そうなの?」
「大地の竜の爪が渓流に落ちて水の竜の魔力を帯びたものだ」
「綺麗だね」
大地の竜の爪は初心者用の素材である。扱いやすさはピカイチだ。水の竜の爪はその奔流のような魔力をうまく手懐けないとすぐに割れてしまう。難しい素材だが、遠くまでよく響く魔法の笛が出来るのだ。
その両方の特性を兼ね備え、更に見た目もたいへんに美しい。竜寄せの笛の材料としては、願ってもないものだった。
「これ使っていい?」
「勿論だとも」
スーザンは、ひと抱え程もある茶色の爪を箱から出した。青白く揺れる燐光は月の光に似て美しい。
「ありがとう」
嬉しそうな養女に、リチャードは相貌を崩す。
「夜更かしはするなよ」
「気を付ける」
「お休み、スーザン」
「お休み、まだ寝ないけどね!」
スーザンは素材を胸にしっかり抱いて自分の部屋へと戻って行った。




