18•騎士学校
騎士学校の全体入学式は、よく晴れた春の日であった。暖かな陽射しを浴びて、12歳の元気な子供たちが王宮内の騎士団式典会場に集まった。
「よっ、スーザン」
「エシー、おはよ」
「こっちの家には慣れたか?」
「うん。エシーは寮に住むの」
「うん」
スーザンは、リチャードの養子になった10歳から2年間ストロングロッド地方の領主館で過ごした後、首都に引っ越してきた。ちょうど騎士学校入学のタイミングだったのには理由がある。
養父は数年前から首席大臣であったが、住まいは田舎のままにしていた。養父リチャード・ナイトラン大魔法卿は、移動の魔法で自在に移動ができる。普通の人が数ヶ月かかる外国にすら、日帰りで事足りるのだ。
スーザンにはまだ、魔法での移動は難しい。だが寮生活ではナイトランの後継ぎとしての修行が間に合わなくなる。そこで、スーザンのために首都に住む場所を用意したのである。
試験結果で適性が判断され、指定されたコースごとに整列する。入学式はつつがなく進み、校長先生の挨拶が始まる。
「諸君、騎士学校入学おめでとう。これから3年間、共に学び、共に励み、大いに楽しみ、王宮騎士としての教養を身につけてくれたまえ。」
スーザンは急に大人になった気がした。王宮騎士としての教養とは、一体どんなものなのだろう。
王宮騎士は王宮騎士団に所属している。騎士団本部は王宮にある。だが、全員が王宮を警護しているわけではない。技術部隊である魔法技兵部隊と情報通信部隊、事務方全般の本部職員、そして王宮守護部隊だけが概ね王宮勤務である。
「諸君は害悪魔法生物ラスカルジャークと戦い、人界を守る戦士となる。わがレジェンダリー王国は人界防衛の最前線に常にいる」
班長クラス以上は事務室に席があるが、毎日内勤の部隊は少ない。中でもスーザンが配属された飛竜投擲部隊は、訓練中山に篭り、正規入団後もほとんど山岳地帯への出張勤務だということで有名だ。
王宮騎士のほとんどは、ラスカルジャークとの戦いに明け暮れる毎日なのだ。教養を身につける暇はあまりない。
「皆も誇りを持って、また油断せず、日々精進を怠らぬように。以上!頑張りたまえ!」
新入生の拍手に送られ校長が演壇を降りる。続いて教員と指導員が紹介された。1人、かなり若そうな少年がいた。体格の良い赤毛の少年である。白地に金のブレードが眩い騎士団の礼服をかっこよく着込み、姿勢正しく立っている。
榛色の瞳には真面目さと厳しさと優しさが現れて、スーザンはあんな騎士になりたいと思った。
「同じく飛竜投擲部隊班長、フィリップ殿下」
赤毛の騎士は紹介されて、踵の拍車をカチャリと鳴らす。
騎士学校の全体入学式が終わると、新入生たちは指定された場所へと移動する。それぞれのコースに分かれて説明を聞くのだ。
「次、フィリップ班、班長フィリップ。班員スーザン・ナイトラン」
「はい!」
フィリップ班長率いる班員達と共に、スーザンの擲竜生活が始まった。
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