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第29話 救援

「私は食堂の方で局員と交代で食堂の乗員と娼婦達の監視につきます。あなた方にはここで艦長と頭領の見張りをお願いしても?」

「へいへい……。元気だな……」

「元気ってワケじゃないですが……警務局の人間は、夜通し起きてなきゃいけないこともありますからね」

「はぁーん……なるほどねぇー……」

「さっきの鍵を貸してください。両方の部屋を閉めておきます」

「はいはい……」


 ブレアに言われるがままに鍵を差し出し、彼は鍵を閉め終えると、それを俺に返して寄越す。


「もし医務室に変事があれば、食堂の方まで来てください。必要であれば船医を連れてきます。頭領の方は……大丈夫でしょう」

「わかったわかった……」


 それだけ言い終えると、彼は上の階へと向かって行った。


 うぅ……寒い……。


 近くの部屋から毛布でも持ってこよう。

 そう思って、足を引きずるように向こう側の部屋から毛布を持ち出して戻ってくると、ピオテラが床に座り込み、寝息を立てていた。


 こいつの分を忘れていた、と思いつつも、また取りに行くのは億劫に感じて、彼女と一緒に毛布に包まる。

 最初は冷たく感じた彼女の肌だったが、やがてぬくもりを取り戻してくる。

 あー……あったけぇー……。


 そう思ってから間もなく、意識が底に落ちていくのを感じた。



 *



 かすかな光がまぶたをつつく。


 ゆっくりと目を開くと、空が白んできたのか、目前の壁の木目がはっきりと分かるほどの明るさが船内に差し込んでいた。


 よかった。

 どうにか無事に朝を迎えられた。


 いまだに眠気を払いきれていないながらも、それぞれの無事を確認しようと起き上がろうとすると、何かに押しとどめられた。

 何かと思い、視線を下に向けると、左にいたピオテラが俺に抱きついて、回している腕だった。

 何事かと思い顔を見ると、自分で自分の髪を咀嚼そしゃくしていた。

 その姿はなんとも可笑しかったが、払いのけてやる。

 起こすのも何だか悪い気がして、そっと腕を離させ、そしてもう一度立ち上がろうとすると腹部に何かが当たる。


 なんだ?


 感触を覚えた部分を見下ろすと、10cmもない短い刃渡りのナイフが突きつけられていた。

 ラフナに渡したものだ。

 しかも血まみれ。

 一気に目が覚める。


 敵かと思ったが、そのナイフの先を辿っていくと、右側にラフナが毛布に包まり、目を閉じているのが見えた。

 眠っている。


 えぇー……? なに……? 俺が寝ている間に何しようとしたの……?


 ナイフの切っ先が俺を狙っている形になっている。

 怖い。怖すぎる。

 ピオテラの腕よりも、より慎重にラフナの腕を離していく。

 そして明らかに、多少刺しただけでは付くはずのない血のりの量から、どこか深く傷つけられてないか確認するが、特にそのような場所はなさそうだった。


 ふと昨夜のことを思い出す。

 そういえば、船医に付いていくように指示したな……。

 あ、もしかしたら手伝うことになったのかもしれない。

 ラフナの情操教育上、より悪いところへ誘導してしまったか。

 失敗した。


 後悔しつつも、ようやく起き上がれるようになったので身体を起こす。

 ラフナは別のところから毛布を持って来たらしく、ほぼほぼしっかりと包まっている。

 ピオテラの方は俺のせいで開いてしまった毛布の隙間を閉ざす。


 傍に立てかけてあった小銃を持ち、後部の階段から上がり、娼婦達の部屋を覗き込むが、ベッドで静かに眠っている。

 それらを確認し終えると食堂の方へと向かう。

 そこまで辿り着くまでも無く、食堂の前にブレアが立っているのが見えた。


「やぁ、おはようございます」


 すぐに俺の姿に気付くと、ブレアが声をかけてきた。


「ああ、おはよう。異常は?」

「ありませんでしたね。幸いなことに」

「そうか。何よりだ」


 そう言って視線を移すと、二人の局員が毛布をかぶったまま、こちらに向けて目を見開いている。


「うおっ!?」


 ビックリした。


「職業病ですよ。ちょっとした物音で目が覚めてしまうんです」

「ああ……俺も軍にいた時はそうだったかも……」

「お互い大変ですね」

「今はもう違うから……。少しは眠れたか?」

「ええ、おかげさまで。そちらは?」

「そりゃもう、ぐっすりだ。たぶん、別の空賊から襲撃を受けても起きなかっただろうな」

「ははは。そうならなくて良かったですよ」

「まったくだ」

「さて、あとは迎えが来るかどうかですね」


 あの指示書通りに動いてくれるのなら、もうしばらくしたら来てくれるだろう。

 オルのことだ。

 しっかりやってくれるに違いない……よな?

 し、信じてるぞ。

 頼むぞ、ホントに。


「念のため、この船を動かせるかどうか見てくるよ」

「ええ、お願いします」


 ひとまず、直せるかどうかだけでも確認するため、機関室へと向かう。



 *



 右舷側はまったく問題がなかった。

 左舷側はまったくダメだった。


 レビトンの容器自体に傷は無いので、今後も問題なく浮いてはいられるが、ただそれだけだ。

 機関に繋がっていた配管が大きく損傷しているし、そのせいで何かしら機関内部に問題が発生している可能性もある。

 右舷側だけ動かしても犬が自分の尻尾を追いかけるように動くことしかできない。


 補助翼で調整できないことはないが、ノウハウを持ち、かつ信頼に足る人間がいない。

 補修資材を探したが見当たらないし、仮に見つかったとしても直せるかどうか微妙なところだ。

 機関内に損傷があるとすれば、その修理には俺の技術が足りない。

 クソッタレ。


 機関室から出て、ピオテラとラフナを起こさないようにゆっくりと左舷側の覗き穴から外を伺うと、昨夜見た時と同様の傾斜をしたまま浮いている空賊船が目に入る。

 ……次は優しくしてあげよう。

 あの場ではしょうがない。

 しょうがなかったんだよ、ホント。

 あと、次なんてなくていいから。


 ちょっとした申し訳なさを感じて目を逸らしたのち、ピオテラとラフナが眠っている方へと戻る。

 2人とも寝入ってしまってる以上、少なくともどちらかが起きるまでは俺が警戒した方がいいだろう。

 とは言え、朝を迎えたがまだまだ寒い。

 いや、朝の方が寒いんだっけ?

 まぁ、それはともかく、隙間の出来ていたピオテラの横に座り、毛布に包まる。


 ぐぇ。


 すぐにピオテラの腕が絡みついてくる。

 まぁ、結局、なんだかんだと彼女に助けられた。

 砲身に抱きつかせてしまった時に垂れてた文句を思い出し、その望みどおりに、かつ詫びとして甘受しておく。

 そして右の方からも腕が回されて……再びナイフがわき腹のところに来る。

 思わずラフナの方を見ると、彼女は安らかな寝息を立てている。


 眠ってる? ホントに?

 なんかまぶたがかすかに動いてますけど……。

 ひっ、ひいぃぃ……。

 なんか怖いぃ……。


 そう思いながらも、二つの部屋の扉を凝視することに、室内の音に耳をそばだてることに、そしてナイフの動向に集中する。



 *



 しばらくして、外から航空艦のプロペラ音が聞こえてくる。


 ……ああ! よかった! 来てくれた!


「んぁ……」


 音に反応して俺が身じろぎしたのに起こされたのか、変な声を出しながらピオテラが目を覚ます。


「よう、おはよう」

「おー……おはよー……うわっ! ごめん!」


 自分が俺に抱きついていることに気付くと、顔を赤くして離れる彼女。

 純情なのか、そうじゃないのか、はっきりして欲しい。


「あの……なんで一緒に……?」

「あー……毛布をかぶって見張りをしようとしたんだが、お前の分を忘れててな。寝ぼけた頭で考えたらこうなった」

「あっ、そうなんだ。ふぅん……」

「すまん、気を悪くしたか?」

「あ、う、ううん、全然。大丈夫。気にしてないよ」

「そうか、それなら良かった」

「うん……ありがと」

「おう。こっちもあったかかったから、お互い様だ」

「そか。んひひ」


 その笑顔に釣られてつい、口の端が上がるのを感じた。


「ん……おはようございます……」


 俺たちの会話に起こされたのか、ラフナからも声が聞こえる。


「あ、ラフナ。おはよー」

「おはよう……その……ナイフ、どけてもらえる……?」

「え? あっ、すみません」


 俺の視線の先を追って自身の状態に気付いた彼女にそう言い、わき腹に刃先を定めていたナイフを離させる。


「すごく役立ちましたよ、このナイフ。傷口を切り開く時に」


 うっとりとナイフを見つめながら、彼女はそう呟く。

 そういう目的で渡したんじゃないんだけどなぁ……。


「私、感動しました。船医を目指そうかと思います」

「いや、今まで通り、俺の補佐だけをしてくれればいい」

「船医も兼任できるようになると良いと思いません?」

「思うけど、せめてちゃんと専門的に学んで、色々と身に付けてからじゃないと……」


 その、モラルとか、そこらへん。


「実践の場はもう経験しましたから、今日からでも平気だと思います!」

「いや、下手したら傷が増えるだけになるから……」


 特に心の。

 それは下手をすれば患者自身だけでは済まない。


「そう……ですか……」


 心底残念そうにするラフナだが、どうか理解して欲しい。

 もうこれ以上、犠牲者を増やさないためにも。


「まぁ、とにかく、助けが来たぞ。出迎えに行こう」

「うん!」

「はい」



 *



 甲板に出ると、帝国ベオウン市警務局の標章旗を掲げた艦3隻と、帝国軍の小型艦2隻、そして最愛の我が艦の勇姿が目に映る。


 ああ! ありがとう、オル!

 一片の疑いも無く、君を信じていたよ!


 警務局の艦は、2隻で空賊の船を取り囲み、1隻はこちらに接舷し、局員が次々と乗り込んでくる。

 軍の2隻は周囲を警戒するように飛び回っている。

 そして我が愛艦は、昨夜と同じように、後部甲板へハッチで接舷する。


「ディム! 無事か!」


 ハッチから出てきたオルは開口一番、俺の無事を確かめてくる。


「ああ! 助かった! 心から礼を言うよ!」


 そう言いながら、俺は彼と抱き合う。


 ふと、オルの肩越しに貨物室の中が目に入る。

 そして棺が10基以上あるのも目に入る。


「……礼を……言えばいいのか」

「良いってことよ!」


 よくねぇよ。

 なんで死んでること前提で来てんだ。


「お前ならやり遂げると信じてたぜ」

「信じてたなら、あの箱はなんなんだ?」

「…………」


 て、テメェ……。


 まぁ、いい。

 やれることはやり切ったし、その上で最大限の成功を収められたと思う。

 それで十分だ。

 これ以上、何かを思い煩うことはやめよう。



 *



 空賊の船は警務局の船2隻、タソルの船は俺たちと警務局のもう1隻がベオウンまで曳航えいこうしていった。

 ベオウンに入港すると、双方の船はブレアが作成した書類を元に令状を取り、ベオウン・カルノ両警務局の立ち入り検査を受けることになった。

 なぜか俺たちの船も検査を受ける事になったが、ブレアが指揮を執ったことからか、速やかに終えられた。


 代わりと言ってはなんだが、空賊や少女ら、そして艦長の供述書と共にいくつかの警務局宛ての書類を受け取り、直ちにカルノ警務局へ届けるよう依頼された。

 手間賃を出せ、と言いたくなったが、オルに止められた。

 これ以上、余計な金銭のやり取りは差し控えたいらしい。

 そういうものか? まぁ、そういうものなんだろう。文句は言うまい。

 もっとでかい利益が転がり込むと考えれば、オルにとっては些細ささいな事か。


 正午をそれなりに過ぎたあたりでカルノへと入港する。

 降りてすぐ立っていた整備班長の第一声は――


「お前ら、ハッチに何か恨みでもあるのか。それとも俺らの仕事が気に食わないっていう当て付けか」


 ――という言葉だった。


「いやぁ、ははは、すいません。今度はしっかりと、心行くまでお願いします」


 そう言って大砲の撤去を含めた諸々の補修を申請し、そそくさと警務局へ向かう。



 *



 警務局に着くと、俺とオルだけで入る。

 ラフナとピオテラには支店に帰着の報告に行かせた。

 窓口に最低限の事情を話し、ブレアから預かっていた書類を渡す。


 しばらく待つように言われたので、その通りにしていると、奥から如何いかにも偉そうな男性が出てきて応接室へと案内される。

 その警務局のお偉いさんが口を開き、オルがそれに応じていく。


「ブレア少尉からの書簡でおおむねの事情は把握しました。

 大いに助けられました。

 まだこれからの事なのではっきりしたことは言えませんが、既に裁判所にタソルに関わる個人宅も含めた関係各所への捜索令状を取りに行かせてます。

 仮に何も出なくても、犯罪に着手した事実も、その大勢の当事者も、サイン入りの供述書もあるので、間違いなく法廷に引きずり出せます。

 法廷で当事者の証言が出れば、今後はどこかしらからも横槍を入れることは難しくなるでしょう。

 できれば、横槍を入れてきた連中も分かればいいのですが……。

 いや、それは貴方達には関係ありませんね。失礼。

 いずれにせよ空賊はもちろんのこと、タソルにも何らかの処罰が下ると思います。

 諸々が確定した暁には是非、大々的に表彰申し上げ、報奨金なり感謝状なりを出すのが筋なのですが……ブレア少尉の手紙と貴商会との契約書によれば、それは望まれない、と」

「ええ、望みません。むしろ徹底的に我々の関与は伏せてください。うちらがタソルを罠に嵌めた、なんて話は勘弁願いたいので」

「今回の件で、あなた方は当事者にほかなりません。本来ならば法廷に立って証言して貰いたいくらいですし、そういう話が出回るのは仕方ないことと思いますが」

「商人同士の噂話と、公的な機関が出す正式な発表では重みが違います。しばらくの間は仕方ないにしても、今後ずっと商売相手に、何かにつけ探りを入れられないかと警戒されては、まとまるものもまとまらなくなりますからね」

「なるほど、商売人とは難儀なものですね。しかし、よくこんなことを実行しようと決断できましたね。その決断に至った経緯も是非伺いたいものですが……」

「ブレア少尉の綿密な調査を下地に、我々が少し助力した結果です。いずれタソルの悪事がおおやけになった時に、同盟から進出している商会全てに疑いの眼差しを向けられては困りますから」

「ふむ……それが貴方達の得る利益という訳ですか」

「ええ、そうです」

「命を賭した割には、ひどく小さな利益に思えますが」

「あなた方にはそう見えるかもしれませんが、我々商業関係者にとっては死活問題なんです」

「……そうですね。私がどうこう言える立場ではありませんでした。失礼をば」

「いえ。ああ、それと契約書に書かれている支払いはお忘れなきようお願いしますよ」

「ええ、もちろんです。現金で、ですね。物の割には高額なような気がしないでもないですが、この額ですと銀貨ではかさばるでしょうから、金貨で、でもよろしいですか?」

「まったく問題ありません。小口での取り引きですからね。多少高くなるのはご容赦ください。まぁ、それが報奨金代わりということで。契約書を持って商会の窓口に届けてください。くれぐれも警務局の制服で訪ねて来ないでくださいよ。それを受け取った後、形式的に物をお引き渡しします。今後は情報収集などは請け負いませんが、何かあれば是非、我が商会に優先的にお申し付けを。うちで扱いかねる品物は他の商会を頼っていただくほかありませんが」

「ははは、なるほど。そういう利益もありましたか。委細承知しました。何かあればお願いしましょう」

「ありがとうございます。では」


 あれこれ探りを入れられそうになったが、言いよどむことなくサラリサラリと受け流すオルには感心しきりだ。

 クールに振る舞っていた彼だったが、警務局を出て支店に向かう道すがら、ずっと鼻歌を歌っていた。

 金が絡むと、素直な彼であった。

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