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番外編:銀の髪と天使

お立ち寄り下さりありがとうございます。番外編を投稿しました。リズが6歳のころの話です。少し兄が壊れています(しかし、いつも通りかもしれません)。兄の完全な1人称です。苦手な方は読み飛ばしてください。お好みでない方もいらっしゃると思いますので、この番外編の部分は2週間で削除する予定です。よろしくお願いいたします。

12/11追記: 削除する予定でしたが、このお話の部分に紐づけて感想を頂きました。頂いた感想は石里には身に余る大切なもので、削除をしないことにさせていただきました。

削除をお待ちになっていた方、方針を変えまして誠に申し訳ございません。お詫び申し上げます。

入浴から得られる幸福感を味わいながら寝室に戻れば、僕のこの世に一人だけの愛らしい天使が椅子から立ち上がって僕を出迎えてくれた。

僕を見た瞬間、頬をほんのりと染める様は、その愛らしさを一層深めている。

僕は目元を緩めながら、この奇跡に心から神に感謝を捧げる。


気が付けばそっと白金の髪を撫でていた。リズも湯あみの後なのだろう。髪が微かに湿っている。

早くに部屋に戻さなければ風邪をひいてしまうと考えながら、ここまでして僕の天使がここに来た理由を尋ねた。


「どうしたんだい?もう寝ている時間だろう?」


こくりと小さく頷き、その可愛らしさで僕を悶えさせながら、僕の天使は小さく僕の問いに返事をした。


「お兄様にお願いがあって」


僕は自分の目が見開いたのを感じた。

リズにとっては遅い時間にわざわざ頼むようなこととは一体何だろう。

緊張を隠しながら、膝をついて彼女の紫水晶の高さに視線を合わせる。

澄んだ眼差しに、微かな恥じらいが含まれている。

どうやら深刻なお願いではないようだ。

僕は緊張を解きながら微笑んで、リズに続きを促した。


僕の天使は視線をあちらこちらに彷徨わせた後、一度息を吸い込むと、聞くだけで顔が綻んでしまう愛らしい声で、小さく呟いた。


「お兄様の髪を梳きたいの」

「――え?」


思いもかけないお願いに、僕は一瞬理解が追いつかなかった。

僕の反応が良くないと思ったのだろうか、リズは頬を染め上げ、目を潤ませながら、必死と言った風情で言い募る。


「お兄様のその素敵な銀の髪を、一度でいいから梳いてみたいの。一度でいいから」

僕は、僕の一人だけの妹の髪をもう一度撫でた。

こんな愛らしいお願いをされたら、僕の返事は一つだけだ。

「リズさえよければ、いつでも梳いてほしいよ」


澄んだ紫の瞳が紛れもない喜びを見せて輝くのをみて、僕は自然と頬が緩んだ。

この笑顔を目にすることが出来る生を与えてくれた全ての存在に、再び感謝を捧げた。


そして、リズに僕のガウンを羽織らせてから僕は椅子に座り、小さな天使が持つブラシで髪を梳かれ始めた。

優しく心地よくブラシが流れる感触に、思わず目を閉じてしまう。


「本当になんて艶やかな髪なのでしょう。ほつれ毛の一つもないなんて。流れる滝のようです」


僕の天使は、ほぅっ、と溜息まで零す。そこまでこの髪を気に入ってくれたのかと、少し面映ゆい心地がする。


「そうかな、ありがとう。僕はリズの柔らかな手触りの髪が好きだよ。触れるだけで幸せになれる」


例え手触りが良くなくとも幸せになるはずだけど、リズの髪はふわりとした心地よい手触りなのだ。頬を埋めてしまいたくなるほどだ。

僕はこの幸運にも感謝しなくてはいけないだろう。

けれど、僕の幸せな気持ちはあまり共有してもらえなかったようだ。

僕の天使は、愛らしい声で力説を続ける。


「私は、お兄様の髪が憧れなのです。羨ましいぐらいです。これに長さが加われば、お兄様のこの見事な髪でしたら、もう殿方から文が―― 」


妹が言葉を切るのと、僕が息を呑んだのは同時だった。

一瞬の沈黙の後、僕のただ一人の妹は愛らしい声で沈黙を振り払った。

「ともかく、お兄様のこの髪に触れられて、私、幸せです」


僕は振り向いて澄んだ紫の瞳を見つめながら、心からの思いを告げた。

「僕も幸せだよ。これからもずっと、一生、僕の髪を梳いておくれ」


僕の天使はふわりと顔を綻ばせた。

「ありがとう、お兄様。では、()()()()()()()髪を梳かせて下さい」


……。

少し期間に違いがあった気がする。

僕が哀しみを紫の瞳に向けると、天使は愛らしい笑顔で僕の哀しみを跳ね返した。

僕の天使は少し厳しいところがあるようだ。


僕は溜息を吐いた。

どんなに早くともリズが成人するまでの10年は、僕の天使との時間がある。

僕は一先ず引き下がって、柔らかな髪に口づけた。


「僕の天使にたくさんの幸せがありますように」


そう、君が幸せならそれでいい。

君を幸せにすると僕に思わせる相手が現れれば、僕はこの幸せな一時を手離すだろう。

ああ、今から泣けてきそうだ。

僕は瞳を潤ませながら、遠い将来に向けて心の準備を一歩進めていた。


――まぁ、10年やそこらで僕から天使を奪うことを納得させられる相手が見つかるとは思えないけれどね。




お読み下さりありがとうございました。

たくさんの方にお立ち寄りいただき、ブックマークや評価をつけていただき、

そして誤字報告までしていただき(お手数をおかけしました)、

有難く思っております。

本当にありがとうございました。


思い立って番外編を投稿しました。お楽しみいただければと願っております。


ただいま第2部を書き溜めております。

第1部の雰囲気がお好みだった方の目に触れないように、ひっそりこっそり投稿する予定です。


それでは、お立ち寄り下さった全ての皆様のご多幸をお祈りしつつ、失礼いたします。




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