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第二十五話 大魔法使いの片鱗

ギルドへの依頼を受けてゴブリンに悩まされている村へやってきたパールたち一行は、村人に案内されて村長のもとへ向かうのであった。

パールたちがやってきた村は規模こそそれほど大きくないものの、建物は整然と建ち並び道も歩きやすく整備されていた。


暮らしている人の数もそれなりに多そうだ。ただ、依頼にあったようにここ最近は頻繁にゴブリンの襲撃を受けているらしく、人々の顔にはやや疲れた表情が浮かんでいる。


「ようこそおいでくださいました」


村人に案内された村長宅で、パールたちは依頼主である村長と向き合っていた。


キラやケトナーがSランク冒険者だと伝えると、まさかギルドの最高戦力が来てくれると思ってもいなかった村長は涙を浮かべて喜んだ。


最初、村長はどう見てもただの小さな子どもにしか見えないパールを訝しんでいたが、キラが凄腕の魔法使いであると説明して納得したようだ。


パール自身は凄腕と紹介されてちょっと自慢げな顔をしている。


「村長、詳しい話を聞かせてもらえるだろうか」


ケトナーが話を切り出すと、村長はここ最近の出来事を詳しく説明してくれた。


ゴブリンが出没し始めたのは一ヶ月ほど前らしい。


最初は一、二匹がときどきやってくる程度だったので、村人が協力して倒していたようだが、次第に襲撃の頻度と数が増えてきたとのことだ。


ゴブリンとの戦闘で重傷を負う者が増え始め、不安を覚える村人も増えてきたため冒険者ギルドへ依頼したとのこと。


「話を聞く限りでは、村の近くにゴブリンの巣がありそうだな」


「そうね。巣を叩いて殲滅しないことには状況は変わらないでしょうね」


ゴブリンって巣を作るんだ。鳥さんみたい、などと考えつつ出されたお茶を飲むパール。


「村長、ゴブリンがやってくる方角は分かるだろうか?あと巣の場所に心当たりがある村人がいれば紹介してほしい」


「それでしたら、木こりのハンスに協力させましょう」


村長の話では、最初にゴブリンを発見したのもハンスという村人らしい。


森のなかで仕事中、数匹のゴブリンが徘徊しているのを見かけ、その数日後から村が襲撃されるようになったのだとか。


そのハンスさんは、先日ゴブリンとの戦闘でケガを負い、今は自宅で療養中とのことだ。


村長の案内で住まいを訪ねると、手や足に包帯を巻いた痛々しい姿の青年が出迎えてくれた。


「私たちは村長の依頼でゴブリン退治に来た冒険者だ。君は森でゴブリンを見たそうだが、巣の在処に心当たりはないか?」


ハンスは少し考え込むようにしたあと口を開いた。


「巣があるのかどうかは分かりませんが、私が見たときあいつらは野うさぎや鳥を手にして森の奥へ戻っていきました。食料を持って戻ったと考えると、森の奥に巣があるのかもしれません」


ケトナーとフェンダーが顔を見合わせて頷く。


「その可能性は高いだろう。もし君に問題なければ、ゴブリンを見たところまで案内してくれないか?」


喜んで協力させてもらうといい返事をもらったので、パールたちはさっそく森へ向かうことにした。



「君もゴブリンと戦うのかい?」


森へ向かう道中、かわいい少女にしか見えないパールにハンスがおずおずと質問する。


「もちろんです!」


弾けるような笑顔で返事をしたパールに、ハンスは心配そうな顔を向けた。


「やつらはそこまで強くないけど、数が多いと厄介だよ。君のような可憐な女の子は真っ先にさらおうとするかもしれない……」


やだこわい。


どうやらハンスは本気で心配してくれているようだ。


元Aランク冒険者を歯牙にもかけず、条件次第ではSランクとも互角に戦える真祖の娘で聖女なBランク冒険者なんですが。


「ふふ、その子はそう見えても魔法使いでBランクの冒険者でもあるのよ」


キラの言葉に、ハンスはまさかと大きく目を見開く。


こんな小さな女の子がBランクの冒険者?冗談じゃなくて?とでも言いたそうな顔だ。


「まあ、そんな感じなので大丈夫です!」


パールの自信ありげな言葉を聞いてもまだ半信半疑なハンスであったが、それが事実であったことを彼はこのあと嫌というほど思い知ることになる。



森に入りしばらく進むと、耳につく不快な声が聞こえてきた。多分ゴブリンだ。


ハンスを先頭に歩いていた四人は警戒しつつ木のそばに身を隠す。


そっと覗いたところ、棒切れを手にした二匹のゴブリンが目に入った。


ゴブリンたちは不快な声で会話しながら森の奥へ進んでいく。


「……このまま見つからないように尾行しよう」


小さな声でそう伝えてくるケトナーに対し、全員が静かに頷く。


一定の距離をあけつつ尾行を続けると、少し開けた場所の先にある洞窟が見えてきた。


きっとあれが巣だ。



「やつらの巣は見つけたが、なかにどれくらいいるかが分からないな」


巣から少し離れたところまで戻った四人は作戦会議を始める。


「まあ殲滅するだけなら簡単なんだけどね」


キラが含みのある言い方をする。


「俺たちが手を出しすぎては意味がない」


「うむ。そもそもこの依頼を受けたのはパール嬢に経験を積ませるためだからな!」


だからこそ、キラたち三人は判断に迷った。


何せ相手の数が分からないのだ。明らかに少数であればパールに任せて問題ないのだが、予想外に多いと彼女を危険に晒すかもしれない。


「じゃあこうしましょ。まず私が巣のなかに威力を抑えた魔法を撃ち込む。洞窟からやつらが飛び出してきたら、待ち構えていたパールちゃんが魔法で殲滅する。私たちは少し離れて待機するから、数が多すぎるときは救援に入る。これでどう?」


おお。まさかのソロ討伐。でも魔の森でオークも相手してたしゴブリンなんて目じゃないよね!


「私はそれで大丈夫だよ!」


「よし、その作戦でいこう」


小さな女の子一人にゴブリンを殲滅させる作戦を立て、本人を含め全員がそれに納得している様子にハンスは唖然としてしまう。


「いやいや、こんな小さな女の子に一人で戦わせるんですか?いくらなんでも……」


正しい大人の反応である。


「まあまあ、心配せずおとなしく見てろって兄ちゃん。ぶったまげるからよ」


フェンダーはハンスにニカッと笑顔を向ける。


ハンスもそれ以上は何も言わず、作戦を見守ることにした。



「さて、パールちゃん準備はいい?私は魔法を放ったら一度後ろに下がるからね」


「うん!いつでもどうぞ!」


パールは洞窟から15mほど離れた位置に立ち魔力を練り始める。


キラはパールより少し前に出て、威力を抑えた爆破系の魔法を洞窟のなかに向けて放った。


威力を抑えたとはいえSランク冒険者の魔法である。あたりに大きな爆音が轟き、洞窟のなかからモクモクと粉塵が流れ出てくる。


と、洞窟からパニック状態に陥ったゴブリンがわらわらと出てきた。


おそらく二十匹前後だ。


洞窟から出てきたゴブリンたちは、魔力を練っていたパールを見つけると不快な声で叫びながら襲いかかった。


パールが巣を攻撃したと勘違いしたのだろう。


怒り心頭で突進してくるゴブリンたちに対し、パールは笑顔で魔法を放つ。


「いっくよー--!『炎矢(ファイアアロー)×10』!」


いくつもの炎の矢が次々とゴブリンを貫いていく。


「えいっ『風刃(ウインドブレード)×10』!」


ただでさえパニックになっているゴブリンがさらに恐慌状態に陥った。人間の子どもが放った魔法に、仲間たちがなすすべなく殺されていくのだから当然だ。


「まだまだいっくよー--!『展開(デプロイ)!』」


『……魔導砲(キャノン)!!!!!』


一瞬で展開した五つの魔法陣から凄まじい速さで光弾が撃ち出され、縦横無尽にゴブリンたちを蹂躙した。


光弾は一体のゴブリンを貫いても勢いを落とすことなく、次々と逃げ惑うゴブリンに襲いかかる。


またたく間に現場は血の海に変わった。


結局、三分も経たないうちに二十匹以上いたゴブリンは殲滅されたのである。



「す、す、凄い……」


パールがゴブリンを蹂躙する様子を、ハンスは離れた場所から呆然と眺めていた。


ケガをしている身ではあるが、危なくなったらすぐにでも飛び込んで助けようと考えていたのだが、その必要はまったくなかった。


Bランク冒険者で魔法使いとは聞いていたものの、まさかこれほどまでとは思っていなかったハンスは心から驚き、そして尊敬の念を抱いたのである。


「やったねパールちゃん!」


キラがパールに駆け寄り抱き上げる。


「えへへー。うまく退治できてよかったよ」


「ほんと凄いよパールちゃん!あんなに魔力たくさん使っても平気なんだね!さすがお師匠様の娘!」


何せ炎矢や風刃を一度に10も放つというのは、相当な魔力がないと無理なのだ。しかも数だけでなく威力も伴っている。


キラはパールに頬ずりしつつ彼女の圧倒的な勝利を祝った。


「いや、ほんと俺たちまったく出る幕なかったな」


「ああ!さすが嬢ちゃんだ」


ケトナーとフェンダーも、先ほどのパールの戦いぶりに舌を巻いていた。


「これは本当に、将来は大魔法使いになるのかもしれないな……」


相手がゴブリンとはいえ、パールの見事な戦いぶりと圧倒的な戦闘力は冒険者たちにそう思わせるのに十分だった。


「あ。念のために巣も潰しておこうか」


キラが洞窟に向けて魔法を放つと内部から音を立てて洞窟が崩れ、入り口も塞がれた。これで再び巣として使われることはないだろう。


無事にゴブリンの殲滅と巣の排除が終わったので、村長へ報告するため五人は村へ戻ることにしたのだった。



「フフ……。見事な戦いぶりだったわよ、パール」


戦いの様子を上空から眺めていたアンジェリカは、愛娘の成長と戦いぶりを素直な気持ちで褒めると姿を消した。


何だか師匠っぽいことを言っているが、ただ心配で見にきただけである。


まだまだ子離れはできそうにないアンジェリカであった。


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[一言] 上空師匠面…!
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