第二十四話 入門レベルの初依頼
無事に冒険者として登録できたパールは、そのまま続けてパーティ申請の手続きに移った。
と言っても、ほとんどキラやケトナーがやってくれたのだが。
「はい、これで手続きは終わりです。お疲れ様でした」
「ありがとうございました!」
あー、無事終わってよかったあ。
あ、それはそうとあの副ギルドマスターさん大丈夫かな?『力』を使ったからケガは全部治ってると思うけど……。
気になったパールは受付嬢に聞いてみた。
「あの、さっきの副ギルドマスターさんは大丈夫でしょうか?」
「ええ、大丈夫ですよ。あれでも元Aランクの冒険者ですからね。本人はまさかああも見事に負けるとは思ってなかったでしょうけどね」
受付嬢のお姉さんはなぜかうれしそうだ。
大丈夫そうならよかったよ。
「パールちゃん、とりあえず今日の目的は達成したけどどうする?実戦試験もあったし、依頼は明日から受けようか?」
うーん。そう言えばママにも今日は手続きに行くとしか言ってなかったような。
今から依頼受けて帰りが遅くなったら怒られるよね。
ん?それはそうと私どうやって帰るんだ?
「パールちゃん?」
「あ、キラちゃんごめんなさい!そうだね、でもどんな依頼あるのか見てみたいかな」
「じゃあ向こうに行ってみよう。あそこに依頼が貼り出されるんだよ」
ふむふむ。
後ろをついていき、壁のボードに貼り出された依頼書に目を通す。
この街だけでなく、いろいろな村や都市からの依頼があるみたいだ。
村に出るゴブリンの退治、希少な薬草の採取、盗賊の討伐……。
「いろんな依頼があるんだね」
感心したようにパールが呟く。
「そうだね。ここのギルドは国で一番大きいしね。依頼の種類も量も多いと思うよ」
なるほど。
んー、何か面白そうな依頼はないかな……。
ん?ワイバーンの群れの退治?ワイバーンってあれだよね、ドラゴンのちっちゃいやつだよね。
「ねえキラちゃん、このワイバーン退治……」
「ダメよそんな危険な依頼」
急に聞き慣れた声でピシャリと却下されたので驚き振り返ると──
「ママ!?」
「お師匠様!?」
なんとママだった。なぜだ。
「な、何でここにいるの??」
「あなた帰りどうするつもりだったのよ。キラは魔法で空飛べるけど、さすがにパールを連れて飛ぶのは難しいでしょ」
「う……」
たしかにさっきまで帰りどうしようって考えてたけど。さすがママ。
ん?何となく視線がママに集まってるような。
「お、おい、あれってもしかして……」
「バカ!目合わすんじゃねぇっ!」
「あれが国陥としの吸血姫……」
……ママめっちゃ怖がられてるし。前にギルドで何したの?
「それはそうと、冒険者登録はできたの?」
「うん!実戦試験にも合格して、いきなりBランクで登録してもらったんだよ!」
「そうなの。凄いじゃない」
アンジェリカに頭をなでられて、うれしそうに目を細めるパール。
「しかもお師匠様。パールちゃんの相手副ギルドマスターだったんですよ。元Aランク冒険者ですよ」
「それは見てみたかったわ。でもさすが私の娘ね」
ママがうれしそうにしてくれて私もうれしかった。
どうやって戦ったのか詳しく話していると、ケトナーさんとフェンダーさん、ギルドマスターさんがやってきた。
「ア、アンジェリカ様!今日はいったいどのようなご用で……?」
ギルドマスターさんめっちゃ緊張してる。
「ごきげんよう。娘のお迎えに来ただけだからすぐに帰るわ」
「そうなのですね。パール様から試験のことはお聞きしましたか?」
「ええ。頑張ったみたいで母として鼻が高いわ」
えへへ。ママに褒められた。
「とりあえず今日は疲れてるだろうし連れて帰るわ。明日からよろしくね。ケトナーとフェンダーも今日はありがとう」
明日の約束をしたあと、キラちゃんも一緒にママの転移で帰宅した。
-翌日-
アンジェリカの転移でリンドルまで送ってもらったパールとキラは、そのまま冒険者ギルドに向かった。
まだ時間が早いこともあり冒険者の数は少ない。
「おはようございまーす!」
元気よく挨拶するパールに、強面の冒険者たちも思わず頬が緩んだ。無垢でかわいい少女最強である。
「おはよう嬢ちゃん。早いな」
「よう嬢ちゃん」
「お、おはようございますお嬢!」
「お嬢、ちーーっす!」
思った以上にパールは冒険者たちに受け入れられているようだ。もちろんアンジェリカの威光もあるのだが。
パールはニコニコ顔で冒険者たちに会釈しつつ、依頼書が貼り出された一角に向かう。
二人で気になる依頼書を選んでいると、ケトナーとフェンダーもやってきた。
「おはようパールちゃん」
「いよいよ冒険者デビューだな嬢ちゃん!」
フェンダーがガハハと豪快に笑いながらパールの頭をポンポンする。
「はい!頑張ります!」
「ねえみんな、この依頼はどう?」
キラがめぼしい依頼を見つけたようだった。
依頼書の内容にみんなで目を通す。
リンドルから10kmほど離れたところにある小さな村の村長からの依頼だ。
毎日のように村へやってくるゴブリンを何とかしてほしいとのこと。何でも、村の者が倒しても倒しても連日やってくるとのことだ。
おそらく近くの森に巣があるのだろう。難易度も低いし入門向けだ。
個体単位では脆弱なゴブリンだが、それなりの数がいるとなると面倒ではある。
「うん、パールちゃんのデビュー戦にちょうどよさそうだな」
「ああ。経験を積むにはいい案件だ」
ケトナーとフェンダーも同意する。
「……ならそれでお願いします!」
というわけで、パールのデビュー戦はゴブリンの討伐になった。
乗り合い馬車に揺られること約30分。問題の村に着いた。
……が。何やら騒がしい。
耳障りな奇声と悲鳴のような叫び声が聞こえる。どうやら、今まさにゴブリンの襲撃を受けているようだった。
「行くよ!パールちゃん!」
「うん!」
パールを先頭に村のなかへ突入する。ケトナーとフェンダーはすでに愛用の武器を手に携えている。さすがSランク冒険者、気持ちの切り替えと対応が早い。
村は複数のゴブリンに襲われており、武器を手にした村人たちと戦闘を繰り広げていた。
すでに何人かは倒れて血を流している。
「パールちゃん!魔法で蹴散らして!」
「分かった!」
パールの指示に従い魔法を放つ準備をする。
『炎矢×5!』
風を巻きながら炎の矢がゴブリンたちに襲いかかる。
ゴブリンは突然魔法で攻撃されたことに戸惑っているように見えた。
その隙を逃さず、パールとフェンダーがゴブリンたちのなかへ斬り込み一気にかたをつけた。
ゴブリンがSランク冒険者の相手になるはずもなく、あっさりと斬り伏せられていく。
6匹いたゴブリンをすべて倒したあと、パールは倒れていた村人に駆け寄り聖女の力を使った。
「う……」
傷を負った村人たちが目を覚ます。
幸い全員傷は深くなかった。これなら大丈夫だろう。
「あ、あの、あなたたちは……?」
恐る恐る尋ねる村人に対し、ギルドへの依頼でやってきたことをキラが伝える。
そしてパールたちは依頼主である村長のもとへ案内してもらうことになった。
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