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第二百七話 夢か悪夢か

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。昨年は私生活でバタバタが続き、当作を含めなかなか更新できませんでしたが、今年はコンスタントに更新しまっす。完全に更新がストップしてる作品も頑張って更新するぞー。そして新作もどんどん書くぞー。おー。というわけでよろしくお願いします⭐️

どうして、いったいどうしてこんなことに──


自身が陥っている絶望的な状況を、ハクエイは心の底から呪った。


真祖、メグ・ブラド・クインシー。その名を知らぬ上位悪魔はいない。かつて、退屈しのぎと言わんばかりに世界の覇権を握ろうとした狂王、サイファ・ブラド・クインシーの妻であり、奴を御すことのできる唯一の存在だと聞く。


呼吸困難に陥りながらも、ハクエイは必死に頭を回転させた。もちろん、この場から生きて離脱するためにだ。


目の前にいる女が真祖であることは疑いの余地もない。ならば、戦闘に及ぶなど愚の骨頂だ。そもそも、まともな戦闘になどなり得ないのだから。甚大なダメージを負った今の状態ならなおさらだ。


何か……何かめくらましになるような魔法を放って、その隙に離脱するか……? これも危険な賭けであることには違いないが、このままむざむざと殺されるよりはマシだ。よし──


考えを悟られないよう、細心の注意を払いながら魔法を発動させようとした、そのとき──


「ぎゃあっ!!」


風を巻きながら凄まじい速さで飛来した黒い槍が、ハクエイの右肩を勢いよく貫いた。魔法発動の際に生じる微かな初動を、魔槍スピアンヌは見逃さなかった。


『下郎。何をするつもりか』


「ぐ……ぐぐっ……!!」


黒い穂先に浮かびあがる不気味な目が、ギョロリとハクエイを睨みつける。


「スピアンヌ」


『は』


ハクエイを睨みつけていたスピアンヌが再びメグの手へと戻る。


「はぁ……悪魔族を見つけたはいいけど、またこんな雑魚じゃあね……」


メグがやれやれと首を振る。


『では、始末いたしますか?』


「そうね……ん?」


遠くから接近してくる気配を感じ取り、メグが背後を振り返る。視界の先には、こちらへ向かって手を振りながら飛翔してくるダークエルフの姿が。ウィズである。


「あー、やっと追いついた……! メグ姐様、速すぎますよぅ」


「ごめんごめん。普通に飛んでたつもりだけどね」


「あれで普通って……。ん? てか、メグ姐様そいつは?」


激痛に顔を歪ませたまま呼吸を荒くしているハクエイを見て、ウィズが怪訝な表情を浮かべる。


「ああ。さっき見つけた悪魔族よ」


「へえ……もう死にそうですけど、とどめさしときます?」


言うなり、ウィズが背中から剣を抜いた。刃の先端部分には、ギョロギョロと動く大きな目。魔剣のケンだ。


「そうねぇ……スピアンヌの一撃喰らってるし、放っておいても勝手に死ぬだろうけど」


その言葉に、ウィズの手に収まっていたケンの不気味な目が一際大きくギョロリと動いた。


『けっ……一撃喰らわせといて殺せてねぇのかよ。魔槍も大したことねぇな』


吐き捨てるようにケンが言う。一方、それを聞いたスピアンヌがケンへ刺すような視線を向けた。


『……下品な言葉遣い。お里が知れるとはまさにこのこと』


『な、何だとてめぇっ!』


『人間の世界には『弱い犬ほどよく吠える』という言葉があるのだとか。あなたはまさにそれですね』


『て、て、てめぇ……! 言わせておけば……!』


魔剣のケンと魔槍スピアンヌ。何故か以前よりすこぶる仲が悪い。というより、毎回一方的に絡むのはケンのほうなのだが。


「お、おい……、やめろってケン!」


強引に手から離れようとするケンを、ウィズが力づくで押さえ込む。


「スピアンヌ、あなたもね。少々口がすぎるわよ」


『は。申し訳ありません』


スピアンヌを肩に担ぎ直したメグは、再びハクエイへと目を向けた。無感情かつ冷酷な紅い瞳。ハクエイは己の身に確実な死が迫っているのを悟った。


「有益な情報は持ってないだろうし、こんなとこで時間を無駄にするわけにもいかないしね……」


「ま、ま、待ってくれ……っ!」


「待てば私たちに何かいいことでもあるのかしら?」


「ぐ……! っ、そ、そうだ。情報! 役にたつ情報がある!」


ハクエイの口をついて出た言葉に、メグが怪訝そうな表情を浮かべる。


「役にたつ情報? あなたみたいな雑魚悪魔が、そんな有益な情報を持っているとは思えないんだけど?」


「お、俺は……これでも上位悪魔族だ。それに、七禍の一柱であるマモン様の側近だったこともある……!」


「ふーん……。それで?」


「お、恐らくだが、あんたらが知りたいのは天命の聖女に関すること、じゃないか……?」


メグの目が大きく見開かれる。


「……あなた、何を知っているの?」


メグの全身から黒々とした魔力が立ち昇る。あまりの禍々しさにハクエイは気を失いそうになった。


「う……あ……! お、俺は……かつて七禍の一柱であった、マモン様の側近として……天命の聖女の生成にも、関わっていた……!」


「……!」


「た、頼む……! い、命だけは助けてくれっ! 命の保証をしてくれるのなら、俺よりもっと詳しい情報を持ってる奴の居場所も教える……!」


「……もっと詳しい情報を持ってる奴?」


「あ、ああ。そいつは……ホムンクルス生成の中心的な役割を担っていた。それに、そいつは今でも失敗作のホムンクルスと一緒にいるんだ……あいつを締めあげれば、きっとあんたらが知りたいことも分かるはずだ」



──戦場のなかに設けられた軍の拠点。その一室に案内されたリズは、簡素な椅子に腰をおろしカグラと向かい合っていた。


「そう……お父様が、あなたを……」


「はい。親父さ……デルヒ様には、本当によくしていただきました」


目を伏せるカグラを、リズは正面からまっすぐ見やった。そして、一つため息をつくとおもむろに天井を見上げた。


「ふふ……お父様には、私なんかよりずっと信頼できる娘ができていたようですわね」


「そ、それは違います! たしかに、私はデルヒ様から格別の扱いを受けてきましたし、私自身もデルヒ様を父のように慕っています。でも、デルヒ様にとって、愛する娘はリズ様だけなんです!」


「どうして、そんなことがお分かりになるんですの?」


今度はカグラが自嘲気味に笑みをこぼす。


「分かりますよ……敬愛する師として、育ての父として、それなりに長く時間をともにしているんですから……」


カグラがリズの目をまっすぐ見やる。


「デルヒ様は……少し不器用なだけなんです。だから、先ほどのような言い方をしてしまう。きっと内心では、リズ様のお帰りを喜んでいるはずなんです」


「そう……でしょうか?」


「そうに決まっています!」


思わず大きな声を出してしまい、カグラは慌てて口もとを手で覆った。その様子を見て、リズの頬が自然と綻ぶ。


「あなたは……とても優しい方なのですわね」


「い、いえ、そんなことは……! 口が悪くて気性も荒くて、部下たちからはめちゃくちゃ怖がられてます」


「ふふ、ランシドから少し聞きましたわ。何でも、西方方面軍で随一の猛将なんだとか。そんな可愛らしい見た目なのに、人は見かけによりませんわね」


「や、そんな……! 可愛らしいだなんて……!」


赤面しながら顔の前でブンブンと手を振るカグラを見て、再びリズの口もとが緩んだ。


「あなたのような優しくて強い女性がお父様のそばにいてくれるのなら、私としても安心ですわ。カグラさん、これからもお父様のこと、よろしくお願いいたしますわね」


「は、はい……! や、てか、カグラさんはよしてください。呼び捨てで結構です」


「そう? では、カグラ。あなたの心優しい気遣いを無下にするのも申し訳ないですから、明日もう一度、お父様とはしっかり話し合ってみますわ」


「それがいいと思います!」


「ふふ。本当に感謝しますわカグラ。さて、戦いで疲れている将校の部屋にいつまでも居座るのは申し訳ないので、私はそろそろ戻らせていただきますわ」


リズが椅子から立ち上がると、カグラも慌てた様子で腰を上げた。


「では、おやすみなさいカグラ。明日以降どうなるかは未定ですが、できればまたゆっくりお話したいですわ」


「わ、私もです!」


「ふふ。ではごきげんよう」


部屋の外まで見送りに出ようとするカグラを「ここで大丈夫」と制止し、リズは用意された部屋へと足を向けた。道中、カグラから聞かされた話を頭のなかで反芻する。


それにしても……まさかお父様が戦災孤児の少女を引き取って育てていたとは、いささか驚きましたわ。


このこと、当然叔父上様や奥方様、お兄様方はご存じのはずですわよね? どうして私に言ってくれなかったのでしょうか。


もしかして、私が知ったら嫉妬に駆られる、とでも思ったんですの? まあたしかに、どのような娘なのかも分からずに、その話だけを聞かされていれば、複雑な感情を抱いたかもしれませんわね。


くすりと笑みをこぼしたリズは、先ほどまで向き合っていたカグラの姿を思い浮かべた。


燃え盛る炎のように紅く美しい髪、猛将と呼ばれる将軍とは思えないほど幼く可愛らしい顔立ち。どことなく、申し訳なさそうに言葉を紡ぐ姿も印象的だった。


恐らくだが、普段はもっと言葉遣いも荒々しいのだろう。言葉の端々が怪しかった。無理して礼儀正しい言葉遣いをしようとしている様子が見てとれて、思わず愛らしく感じてしまった。


ふふ……。妹がいたら、こんな感じなのでしょうか。まあ、実際お父様が娘のように育てた子ですから、私の妹と言っても差し支えないですわよね。


そんなことを考えている自分自身が何となくおかしくて、クスクスと笑みを漏らしつつ軽い足取りのまま部屋へと向かうリズであった。



──眠りを邪魔されるのは気分のいいものではない。これが私でなくお姉様だったら、眠りを妨げた不届者は間違いなく消し炭にされてしまうだろう。


そんなことをぼんやりと考えつつ、リズは顔をしかめながらベッド上で半身を起こした。先ほどから、誰かが激しく部屋の扉を叩き続けている。扉の向こうには何名かいるらしく、「リズ様」と呼ぶ声も聞こえる。


どうやら、夢ではないようですわね。


下着姿のままベッドから降り、素早くワンピースドレスに手足を通した。


「リズ様! リズ様! 早朝に申し訳ありません! リズ様!」


兵士であろう男たちの、切羽詰まったような声。リズはかすかに嫌な予感を覚えながら扉を開けた。


「いったい何事ですの?」


部屋の外にいたのは、五名ほどの兵士。そのなかには、昨日久方ぶりの再会を果たしたランシドの姿もあった。


「あ! リズ様!」


「ランシド、どうしましたのこんな時間に。何かありましたの?」


ランシドをはじめとした兵士たちの顔色は一様に悪い。胸の鼓動が少しずつ速くなるのをリズは感じた。


「デ、デルヒ様が……!」


「お、お父様が、いったいどうしましたの……?」


「襲撃を受けたと見られ……重体です……!」


「何ですって!?」


リズの顔から血の気が引いていく。


「悪魔族が攻めてきましたの!?」


「いえ……違います」


「ではいったい誰がお父様を!?」


パニック状態で叫ぶリズの前で、ランシドは唇を強く噛み締めながら顔を伏せた。


「ランシド!!」


リズに詰め寄られ、ランシドは苦渋の表情を浮かべたまま絞り出すように言葉を紡いだ。


「デルヒ様を襲撃したのは……カグラ将軍とのことです……!」

今さらですが、最近ウマ娘にハマりました。もともと競馬は好きだったので激ハマりしています。オグリきゃわたんすぎんか⭐︎

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