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ガーデンテラスに、一連の事件から生き残った五人全員が集まった。
長い話になりそうだと感じたのか、安来がテーブルから椅子を降ろそうとしたのを見て佐村が止める。
「また不調になりたいのか?」
安来は意味が分からないと言ったように首を傾げたものの、佐村の注意に従って降ろし掛けた椅子を元の位置に戻した。
「犯人が分かったというのは本当なのかね」
「ああ」
佐村は全員の視線を集めながら、自信あり気に頷いた。
「最初に言っておくが、神無木夫妻、及びその後犠牲になった四名を殺害した犯人は同一人物だ。最初は複数犯を疑ったが、この館にはちゃんと証拠が残されてたよ」
「もったいぶらずに教えてください。こんな酷いことをした人は誰なんですか?」
安来の懇願を横目に流し、佐村は「事件の頭から話そうか」と全員の顔を見渡した。
「犯人は七月二十三日に神無木夫妻を殺害した後、神無木円の依頼を受ける振りをしてメンバーの中に紛れ込んだ。無論、神無木円宛てに送られた手紙は犯人が書いたものだ。犯人は訳あってブローチ型の長期遅延型遠隔起爆装置を自作し、数秒の遅れを生み出して吊り橋を爆破した。爆発音が響いた時には、犯人はすでに起爆装置を手放した後だったから、いくら身体検査なんかしたって証拠は見付からない」
「でも佐村さん。その起爆装置は司堂さんの部屋から見つかったんですよ。被害者でるある司堂さんが犯人な訳ありませんし、どういうことなんですか?」
「なぜブローチ型の起爆装置が司堂の部屋にあったのか……それは司堂が〈赤い宝石〉を見付けるために硝子の館へやって来たからだよ。時価数億円と言われる宝石さえ手に入れば、司堂は神無木円の両親の安否なんてどうでもよかった。ただ硝子の館へ行くための口実と、館中を自由に探し回れる肩書きがほしかっただけだ。多分、犯人が事前に宝の情報が司堂の耳に入るように準備してあったんだろう。この事件の犯人はかなり前から周到な計画を張り巡らせていたようだからな。ここへ到着した当日、部屋へ荷物を置きに行った時、司堂は部屋の窓から光る何かを見付けたはずだ。宝石だと思ったんだろう。犯人がまだ外部犯の可能性がある危険な外へと単身、煙草を吸ってくると言って出て行ったよな。あれは"カラスが巣に持ち帰った、ブローチ型の起爆装置を宝と勘違いして取りに行っていた"んだよ。ここのカラスは光り物と見ると持ち去る習性があるんだったな? 外から帰って来た司堂のシャツの袖が少し切れていたのは、木に登る際に枝にでも引っ掛けたんだろう。司堂は一応〈赤い宝石〉に分類されるブローチを、宝の一部である可能性があるとして手元に残しておいた。それが司堂の部屋に起爆装置があったカラクリだ。犯人がなぜこんなものを作ったんだと思う?」
「カラスに持ち去らせるため?」
「いや、"もしカラスが持ち去らず、部屋に置き去りにされていたとしても怪しまれない物"を装うためさ。たとえば一の間にブローチが落ちていたとしたらどうだ。神無木薫子の私物だと誰もが思うだろ」
なるほど、と円は納得した。
「続く百瀬殺しは、水にも水差しにもグラスにも、毒なんて入れられていなかった」
「でも、あの時確かに私達は不調を訴えました。あれは演技なんかじゃありません」
「当たり前だ、俺だって本気で具合が悪かった」
どういうことなのだろう。
「百瀬は禁煙をしていたよな」
「そういえば、司堂さんが最初にそんなことをおっしゃっていましたね。でも、どうして禁煙している人がいるってわかったんでしょうか?」
安来の質問に佐村は手首を示した。
「ニコチンシールってものがある。神無木に聞いたら、皮膚からニコチンを吸収することで煙草を吸わなくても苛々しない、そういう代物らしい。通常仕様で危険があるものではないんだが……扱い方を間違えると死に至る危険もあるものらしいな」
「それで、どうして百瀬さんだけが死んでしまったんですか?」
佐村はテーブルに裏返しに引っ掛けられた椅子を指差した。
「あの椅子のクッション部分がすべてニコチンシールと同じ構成――高濃度のニコチンを有していたとしたら?」
なんてとんでもない発想をする人だと思った。まさか、とは思ったが、しかし考えてみれば椅子に座る時間の短かった安来と三原は症状が軽度だった。
「証明してやる」
佐村はポケットから取り出した万能ツールの中からナイフを立て、椅子のひとつを降ろしクッションを引き裂いた。中からは幾重にも折り重なったガーゼ質の布が出て来て、途端に辺り独特な臭いが立ち込めた。
「ニコチンシールを張って、ニコチンを常から吸収していた百瀬は、さらなるニコチンの過剰摂取で他の人間よりも重度の中毒症状を起こしたというわけだ。百瀬は年長者にこき使われて疲れていせいで、他のメンバーよりも深く椅子に座り込み、また、座っている時間も長かった。それすらも犯人の仕向けた犯行計画だったとしたら、どうだ?」
恐ろしい。それ以外の言葉が見付からない。
前に佐村が、犯人はこちらのことを熟知しており、行動を呼んでくる可能性を示唆していたが、今の話だと犯人の台本通りに踊らされていたことになるじゃないか。




