第四章 断罪者
「まず、この事件を最初から辿り、問題点をすべてあげて行く。メモを忘れるなよ。俺は探偵だが、殺人事件なんてものに遭遇するのは人生でこれが初めてだ。今後二度とないと願いたいが、とにかく、やれるだけはやってやるつもりでいる。お前は一応助手なんだからな、ヘマはするな、いいな」
「はい!」
返事をして円は一旦六の間へ戻り、ノートとシャープペンを手にガーデンテラスの入り口に立っていた佐村のもとへと戻った。
佐村の助手として選ばれたのだ。少しでも役に立てるように頑張らなければ。
「島津がマイクロバスに乗せたとかいう神無木操の客人を名乗る人物は、なぜ神無木操直筆の書状を持っていたのか……。状況的に考えてそいつの犯人説が有力だが判断材料が少な過ぎて断定は出来ない」
これについてはもう少し詳しく島津に聞いておくべきだったが、喋らず、顔も見えず男女の区別も付かなかったというから、あれ以上追及していたところでどうしようもなかっただろう。
「まずは神無木夫妻を殺害した犯人の目星だが、内部犯の犯行と仮定して、一番怪しいのは司堂だと思っている。あいつは最初から何かと隠しごとが多くて怪しいところだらけだったからな」
「でも司堂さんは殺されてしまいましたよ。真実を聞き出そうにも、どうにもならないです」
「それこそ、司堂が生きている時には問いただせなかった嘘の吐けない証人に聞くさ」
「誰ですか、それ」
司堂が犯人である可能性を調べると言って佐村はガーデンテラスへと向かった。佐村の言葉の意味が分からないまま円も後に付いて行く。
両親を殺したのは司堂なのだろうか。だとしたら考えられる動機は金しかない。もしそんな理由で両親の命が奪われたのだとしたら、円は一生どこにもやり場のない怒りを抱えて生きて行かなければならないが。
司堂の遺体の傍らにしゃがみ込んだ佐村は、何を思ったのか司堂のズボンのポケットを漁り出した。硝子の向こう側にいる和泉も、佐村の行動を不思議そうに見ている。
「死んだ人の体を漁るなんて、罰当たりですよ」
「その死人の無実の証明、及び無念を晴らすためにやっていることだ」
道理に背く行為をしているというのに佐村は堂々としたものだ。ものは言いようだなと思った。
佐村が司堂のポケットから取り出したのはスマホで、何をするのかと思ったら通話履歴を確認し出した。四日前まで遡り、佐村は目を細める。
「無理だな、こいつと門野には一応、神無木夫妻殺害のアリバイがある」
言いながら画面を見せて来た。四日前の七月二十三日、丁度円が操との電話を切り上げた時間に司堂のスマホには門野との通話記録が残っていた。十分以上の通話が、その日三回掛けられている。どちらか、もしくは両名が硝子の館に来ていたのなら、電話は掛けることも、出ることも出来なかったはずだ。
「ただし複数台のスマホで偽装していたのかもしれないし、神無木夫妻殺しと他の人間を殺した犯人が別人である可能性も現時点は否定出来ない。これは大した収穫じゃないな」
ようするに、まだ生き残った門野の犯人説は消えてはいないということだ。この件はとりあえず保留で、次の事件の調査に移ることにする。
「次は、えっと、私の両親の死体を見た後、吊り橋が爆破されたんでしたよね」
「そうだ。犯人がどうやってタイミングを見計らって吊り橋を爆破したのかが問題だな。それについては気になる点がある」
歩き出した佐村の後に付いて行くと、到着したのは二の間の前だった。
「また司堂さんの遺品を漁るんですか……」
「司堂は重要なものほど隠したがる男だ。多分、手掛かりの宝庫だぜ、ここは」
中は整然としており、ベッドのシーツにも乱れひとつなく、部屋がとても綺麗に使われていたことが窺い知れる。司堂は重度の潔癖症だったから汚れているものが許せなかったに違いない。




