九二話 平穏
ヒロムが決意を新たにしてから一週間。
「姫神」の管轄下にある病院。
「くっくっくっ……ついに来たぜ」
病院の入口で人を待つヒロムとシオンのもとへ、病院からその待ち人がやってくる。
「待ちに待ったオレの復帰。
期待に応えるぜ?」
妙にテンションが高い。
「まあ、腹に穴開けられて倒れて治療受けてたから今はまだ暴れられないけど、後方支援ならお任せあれ!!
そう、この「影」の力ならお易い御用!!」
そのテンションの高さに対してヒロムもシオンも反応しない。
「……」
「……」
「あれ?
調子悪いか?」
別に、とヒロムは彼、黒川イクトに言うとため息をついた。
イクトはふと何か探してるのか周囲をキョロキョロ見始めた。
「……どうした?」
「いや、大将……二人だけなの?
オレの出迎えは……」
「オレらだけだが?」
マジか、とイクトは残念そうに言うと少し落ち込んだような顔を見せる。
が、なぜなのかヒロムもシオンもわかっていない。
というか、わかる術を持ってるとしてもわかりたいとは思っていない。
「何が不満なんだ?」
「何が不満って大将……男二人だけだぞ!?
もっと華やかに姫さんたちが「心配したんだからね?」とか言ってくれるの期待してたのに!!」
「よくわからん」
「わかるっしょ!?
これだからハーレム大将と彼女持ちは……」
誰がだ、とヒロムとシオンは息ピッタリの同じタイミングでイクトの足を蹴る。
足を蹴られたイクトはわざとらしく痛がるが、すぐにそれをやめるとヒロムに言った。
「姫さんたちはいいとしてだ。
ガイもソラも挙句の果てには真助も来てないってなんでなのさ?」
イクトは説明を求めるも、何も知らないであろうシオンは首を横に振り、ヒロムが説明した。
「ソラは未だ連絡ないが、ガイは特訓らしい。
真助は屋敷でユリナたちのお守りだ」
「え……アイツそんなこと任されるほど信用されてるの!?」
真助の現状を知ったイクトは驚いているが、ヒロムはそこまで驚くほどのことなのか不思議で仕方なかった。
いや、たしかにヒロムも真助の馴染み方には少しばかり驚きはしたが、戦闘時には見せない人の良さを目の当たりにしてしまえば納得できるので何も不思議に思わなくなっているのだ。
「つうか、ソラは大将のとこにも来てないの?」
「ああ、連絡しても不在になる。
シンクもだが、どこで何をしてるのやら……」
そういえば、とシオンは何か思い出したのかイクトに質問した。
「あの女はどうした?」
「あの女……ってなんだ?
イクトに彼女でもできたのか?」
「えっと……夕弦のことだろ、シオン」
イクトの確認の言葉にシオンは頷くだけで、それ以上は言おうとしない。
イクトは咳払いをすると、少し間を置いてから語る。
「……一応自分のせいでオレがこんな怪我したってことで毎日見舞いに来てくれてたんだ。
まあ、オレは……」
「長くなりそうだな……」
「どうでもいい……」
行こうぜ、とシオンはヒロムとともにイクトを置いて帰ろうとする。
「……ってまだ話してますよ!?」
***
とあるホテルの一室。
ソラは窓から外の景色を眺めており、シンクはソラが連れてきた新たな仲間である岩城ギンジとノートパソコンでソラが手に入れた情報を整理していた。
「ギンジ、ここについてだが……」
「それはオレの知らない内容だな。
こっちはわかるな」
「いや……これはオレが別の資料で得てるから問題は無い」
「……なぁ」
外を眺めるソラはシンクに向けて話しかける。
「本当にそれでわかるのか?
アイツの……ヒロムのこれからのためにどうすべきなのか」
「……ああ、わかる。
ソラも不思議に思っているんだろ?
これまでのことを」
シンクに言われて何か思い当たることがあるらしく、ソラは何かを言うわけでもなく頷く。
何のことかわかっていないギンジは二人の話についていけないでいるが、ソラもシンクもそんなギンジを無視して話を進める。
「その答えがそこにあるのか?」
「そうだ。
バッツの足取りもこの情報でハッキリとした」
「それが本当なら、な」
ソラはため息をつくとシンクのもとへと近づき、情報の表示されるノートパソコンを見ながら告げる。
「これも敵の罠なら踊らされることになる。
それでも信用するのか?」
「警戒するのはわかるが……これまでの経緯と情報の合致率から考えても罠の可能性は少ない」
「だったら……」
だからだ、とソラに向けてシンクはある事を伝えた。
「だからオレたちはこれを整理して、その罠にかかるフリをして敵を欺く。
そのために……オマエとギンジに頼みがある」
「例のアレか?」
ようやく自分の入れる話題になったのか、ギンジはやる気満々で話に割って入ってくる。
「やるんだな?」
「ああ、ここからは敵を徹底的に潰すために動いてもらう」
「……コイツと目的を果たした後は好きにさせてもらうぞ?」
「ああ、その先はソラに任せる。
オレは……「天獄」完成のために動く」
シンクの言葉にソラとギンジは頷くが、それに続くようにシンクは一つ忠告した。
「オレたちが動くってことは敵も同じように動く可能性がある。
その場合は……わかってるな?」
***
ヒロムの屋敷。
屋敷に招かれたイクトはリビングの光景に驚かされていた。
「お……お……おおおお!!」
驚くイクトの声をかき消すように鳴るクラッカーの音。
「「退院おめでと〜!!」」
ユリナたちの言葉にイクトは涙目になりながら嬉しそうに笑う。
飾りつけのされたリビング、そして壁には「祝・イクト退院!!」と書かれた紙が貼られていた。
そしてリビングにはユリナたちが作ったであろう料理が並ぶテーブル。
イクトは嬉しそうにヒロムに話す。
「サプライズってことか!?」
「いや……オレも今初めて知った……」
イクトが嬉しそうにする一方で目の前の光景に驚くヒロムは恐る恐る真助に確認を取る。
「聞いてないぞ?」
「聞かなかったオマエが悪い」
「オレここの家主なんだが?」
「そうか……だがお嬢様方がやりたいって言ったんだぞ?」
「けど……」
「細かいこと言わないでよ、姫神くん」
真助と話すヒロムのもとへとハルカがやってくるなり事情を説明した。
「せっかくの退院だからお祝いしたいってユリナが言い出したの。
たまにはいいでしょ?」
「ああ?
つかなんでオマエがいるんだよ、おい」
「呼ばれたからよ……ってなんでそんな言い方するのかな!!」
うるせぇ、とヒロムはハルカに言い放つと互いに睨み合う。
それを見て懐かしいと思うイクト。
犬猿の仲ともいえるこの二人の仲の悪さ。
見慣れたはずのこの関係も、初めて見る真助は面白いと思うしかなかった。
「ハッハッハ、愉快だな」
「笑ってる場合か……」
楽しそうな真助の横でため息をつくシオン。
するとこの二人のやり取りを知らぬエレナが二人を止めようと間に入る。
「ヒロムさんも雨木さんも落ち着いてください……」
「オレは冷静だ」
「どこがよ!!」
「あ、あの……」
ダメよ、とリサがヒロムを背後から抱きしめるとエレナに伝える。
「これくらいしないとその人との喧嘩は止まらないんだから」
「え、え……えっと……」
リサの大胆な行動にエレナは顔を赤くして恥ずかしそうにヒロムを見つめるが、ヒロムはリサを離れさせると咳払いをして訂正するように告げる。
「コイツがいなきゃこんなことにはならん」
「ちょっと!?」
「あ、その……」
仲良くして、とユリナがヒロムに歩み寄るなりじっと見つめる。
「仲良く、ね?」
「……ムリムリ」
「そんなこと言ってると〜……」
ユリナと話すヒロムの背後から抱きつこうと迫るリサだが、それを阻止するようにアキナが間に割って入る。
「あんまり私の前でヒロムに抱きつかないでくれないかしら?」
「あら、付き合ってるの?」
アキナがリサに気を取られてる隙をつくようにエリカがヒロムに抱きつくが、すぐにアキナはエリカを引き剥がす。
「やめなさいって」
「あら、ダメ?」
何をどう信じればいいのかわからず戸惑うエレナと隙あらば抱こうと考えるリサ、それを阻止しようとするアキナとその隙を突いて抱きつこうとするエリカ、そしてヒロムを見つめるユリナ。
「楽しそうですね、皆さん」
ヒロムとユリナたちの光景を微笑みながら見つめるチカ。
この光景……
今のヒロムとユリナたちの状況を見たイクトは思いっきり息を吸うと一気に声を出した。
「リア充爆発しろ!!」
見せつけられてるかのような状況にイクトは声を大にして叫ぶ。
うるさいと言いたげな顔でイクトを睨むシオンとそんなイクトすらも面白そうに見る真助。
ヒロムはため息をつくと、呟くように言った。
「賑やかすぎて面倒くさい……」




